GUNDAM WAR Last Destiny-

PHASE-03「正義の一閃」

 

 

もしもお前が力を欲する日来たれば、その希求に応えて、私はこれを贈ろう。

教えられなかったことは多くある。

が、お前が学ぼうとさえすれば、それは必ずやお前を愛し支えてくれる人々から受け取ることができるだろう。

故に私はただひとつ、これのみを贈る。

力はただ力。

多く望むのも愚かなれど、無闇に嫌うのもまた愚か。

守るための剣、今必要ならばこれを取れ。

道のまま、お前が定めた成すべき事を成すためならば。

が、真に願うのは、お前がこれを聞く日の来ぬことだ。

今この扉を開けしお前には届かぬ願いかもしれないが。

どうか幸せに生きよ、カガリ。

 

 

 オーブ襲撃の知らせを聞いたカガリは、黄金に輝く機体の前にいた。

 「アカツキ」。カガリの父であるウズミ・ナラ・アスハが彼女に遺した機体で、驚異的な防御力を備えている。

「お父様・・・行こう・・どうかみんな、私に力を・・・」

 ウズミの言葉と意志を思い返し、カガリが呼びかける。彼女はアカツキに乗り込み、ハッチが開かされた先の空を見据える。

「カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ、行くぞ!」

 カガリの掛け声とともに、アカツキがオーブの空に飛翔した。アカツキはオーブ軍のMS「ムラサメ」とともに、オーブ領への進撃を行っているザフト軍のMSに向かう。

「一個小隊、私と来い!残りは防衛線を立て直せ!」

 カガリがムラサメ隊に呼びかける。オーブに接近する「ザクウォーリア」や「グフイグナイテッド」を、アカツキが迎え撃つ。

 双刀型ビームサーベルを振りかざして、アカツキが相手のMSの武装を切り裂いていく。とっさにビーム攻撃を仕掛けるザクとグフだが、アカツキに命中したはずのビームが跳ね返して、逆に直撃されて負傷する。

 これがアカツキの驚異的な防御力の証だった。黄金のボディは鏡面装甲となっており、ビームをそのまま跳ね返すことができるのである。

「ビームを跳ね返すMSだと!?

 アカツキの性能に毒づくザフトのMSパイロットたち。アカツキの参入により、オーブの防衛線は立て直されつつあった。

 

 同じ頃、ミネルバもアルバ、リリィの拘束の命令を受けて、オーブに接近していた。ザフトの攻撃をオーブが食い止めているという情報は、ブリッジにいるシンたちの耳にも入ってきていた。

「オーブ・・どうして抵抗を・・・!?

「大人しくこっちの要求を受け入れて、協力して2人を捜索すればよかったのに・・・」

 シンとルナマリアが不満を口にする。

「中立国としての理念と信念なのだろう・・いずれにしろ、なかなか頑固に抵抗されているようだ・・・」

 その中でレイは冷静に戦況を見据えていた。

「そろそろ私たちも出ましょう。これでは埒が明かないわ・・」

「いや。初手から3機出ることもない。まずはオレが出る。」

 出撃を提案するルナマリアに、レイが言いかける。

「お前たちは状況を見てから出撃しろ。おそらくその必要はないと思うが・・」

「いや、オレが行く・・・」

 先陣を切ろうとしたレイに、シンが声をかける。

「いいの?オーブなんでしょ・・・!?

「大丈夫だ・・・オーブを討つなら、オレが討つ・・・!」

 ルナマリアが心配の声をかけるが、シンは意思を変えることなく、レイに代わって出撃に乗り出した。

 

 オーブへの進行を行っていたミネルバ。そのドックにてデスティニーに乗り込んだシンは、ブリッジに呼びかけた。

「艦長、これより出撃します。」

“シン・・・!?”

「フェイスとしての権限を行使します。オーブに向けて先陣を切り、突破口を開きます・・」

 驚きの声を返してくるタリアに、シンがさらに呼びかける。

“分かったわ・・でもムチャはしないこと。危険と判断したらすぐに帰艦すること・・”

「分かっています・・・」

 タリアの注意にシンが答える。デスティニーの眼前のハッチが開かれる。

(やってやる・・オーブの間違いを、この手で終わらせてやる・・・!)

「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」

 意を決したシンがデスティニーを駆る。ミネルバから出撃したデスティニーが、紅い光の翼を広げて飛び立っていった。

 

 オーブに侵攻するザフトを食い止めるカガリたち。だが彼女たちの駆るアカツキとムラサメのレーダーが、MSの熱源を捉えた。

「カガリ様、お気をつけください!ザフトの新手が!」

 ムラサメのパイロットが呼びかけ、カガリが反応のあるほうに目を向ける。アカツキに向かってデスティニーが迫ってきていた。

「あれは・・・シンか・・・!」

 カガリがデスティニーを鋭く見据える。彼女は事前にアスランから、デスティニーのパイロットがシンであると聞かされていた。

「あの機体の相手は私がする!お前たちは引き続き、ザフト軍の侵攻阻止を!」

 ムラサメ隊に呼びかけてから、カガリがデスティニーに交信を試みる。

「やめろ、シン!オーブへの攻撃をやめるんだ!」

「アンタ・・・!?

 呼びかけてきたカガリに、シンが目を見開く。今まで敵視してきたオーブの若き長を前にして、シンが憤りを膨らませる。

「アンタが隊長機か・・ここまで来て、またきれいごとをいうつもりなのか、アンタは!?

 シンがいきり立ち、デスティニーがビームソードを手にする。振り下ろされた一閃を、カガリの駆るアカツキがビームサーベルで受け止める。

 だが総合的な戦闘力の劣るアカツキが、デスティニーのパワーに押されていく。

「大した腕もないくせに、いつもいつも偉そうに!」

「すごい力・・これではたとえこのアカツキでも・・・!」

 怒鳴りかけるシンと、デスティニーの力に毒づくカガリ。つばぜり合いから距離を取ったところで、デスティニーが高エネルギー長射程ビーム砲を発射するが、アカツキの鏡面装甲に跳ね返されてしまう。

「ビームを弾く!?

 砲撃を跳ね返されたことに毒づくシン。だが彼はすぐに気持ちを切り替え、ビームソードによる接近戦に持ち込んだ。

 遠距離、中距離による射撃、砲撃に対しては絶対的な防御を誇るアカツキだが、近距離での物理攻撃に打たれ強いわけではなかった。盾を駆使しての防御と反撃を試みるカガリだが、デスティニーのビームソードは盾を切り裂き、さらに盾を装備していた左腕をなぎ払った。

「まずい!」

 危機感を募らせるカガリ。怯むアカツキに、シンが追い討ちを狙う。

(アンタを落とせば全て終わる・・オレの悲しみとマユの苦しみを、終わらせることができる・・・!)

 無力な自分の悲劇と戦争を終わらせようとする決意を募らせるシン。デスティニーがビームソードを構えて、体勢を崩しているアカツキに向けて飛びかかる。

“オーブ進行中の部隊に告ぐ!”

 そのとき、シンやザフトに向けてドーマからの通信が入ってきた。

“フリーダムがそちらに降下してきている!”

 その言葉にシンが目を見開く。その直後、彼はデスティニーのレーダーがキャッチした、接近する熱源に気づいて特攻を留まった。

 動きを止めたデスティニーの前に、一条の光が飛び込んできた。アカツキへの突撃を続けていれば、デスティニーは射撃を受けていた。

 上空から降下してきた機影に、シンは目を疑った。デスティニーの前に現れたのは、彼が撃墜したはずのフリーダムだった。

「フリーダム!?・・そんな・・!?

 なぜフリーダムが現れたのか、シンは理解できなかった。アカツキの危機に、キラの駆るストライクフリーダムが地球に降り立った。

 

 ドーマたちを退けたキラのフリーダムは、エターナルに着艦した。ラクスを無事を確かめて安堵を覚えるキラだが、戦闘で負傷したソワレを目の当たりにして表情を曇らせる。

「大丈夫ですか・・・?」

「僕のことは大丈夫です・・ただ、ゼロが・・・」

 心配の声をかけるキラに、ソワレが言いかける。ソワレにさほど害はなかったが、ゼロはタイタンのトライデストロイヤーの余波で負傷していた。

「すぐに修理と整備を行います・・ソワレさん、あなたは休養を取りつつ、マリアさんと一緒にエターナルの護衛をお願いします・・」

「しょうがないですね・・私たちも身動きが取れませんし、護衛を表向きにして、今は休むしかないですね・・」

 ラクスの呼びかけに、マリアが肩をすくめながら答える。

「で、もうひとつの問題はアレね・・・」

 マリアは話を切り出して、キラたちとともに視線を移す。その先にはフリーダムと並んで、1機の紅い機体が立っていた。

 「(インフィニット)ジャスティス」。かつてアスランが搭乗していたMS「ジャスティス」の発展型MSである。

 ラクスはこの機体をアスランに届けようと考えていた。効果ポッドで機体を投下しようとしていたのが、彼女たちの最初の案だった。

「ラクス、ジャスティスに乗って、僕と一緒に降りよう・・」

「私を、これで・・・?」

 そこで提案してきたキラに、ラクスが戸惑いを見せる。

「誤魔化せるし、一石二鳥じゃないかな・・・?」

「でも、今のアスランは・・・?」

 キラの言葉にラクスが当惑する。アスランが戦いへの迷いを抱いていることを、彼女は気付いていた。

「僕もそう思う・・でも何かしたいと思った時、何もできなかったら、それがきっと一番辛くない・・?」

「そうですね・・怖いのは、閉ざされてしまうこと・・こうなのだ、ここまでだと終えてしまうことです・・」

 キラが投げかけた言葉にラクスが同意する。ザフトのオーブ進撃の知らせがエターナルに届いたのは、この決断の少し後だった。

 

 キラのフリーダムと、ラクスを乗せたジャスティスがエターナルが発進した。大気圏を突き抜けてきた2機は、ザフトとオーブ軍の交戦の真っ只中に飛び込んだ。

 ラクスと別れたキラは、デスティニーに追い込まれるカガリのアカツキを救った。インパルスが撃破したはずのフリーダムが、再びシンの前に立ちはだかった。

「マリューさん、ラクスを頼みます!カガリ、ここは僕が引き受ける!」

 戦闘に介入してきたアークエンジェルとカガリに向けて、キラが呼びかける。ラクスの乗るジャスティスが、アークエンジェルに着艦した。

 ドックに収容されたジャスティスから降りたラクスの前に、メイリンに支えられてやってきたアスランがいた。このときのラクスはパイロットスーツに身を包んでいた。

「ラクス・・・まさか君が、MSに乗ってやってくるなんて・・・」

「心配はいりません・・本当にただ乗っていただけですから・・・」

 戸惑いを見せるアスランに、ラクスが微笑んで答える。プラントの歌姫が目の前にいることに、メイリンも驚きを隠せなくなっていた。

「ジャスティスか・・・」

 アスランはドックに収容されているジャスティスを目にして、深刻さを募らせる。

「君も、オレはただ戦士でしかないというのか?・・正義という名の力を使って、戦い続けるしかないというのか・・・?」

 思いつめるアスラン。ザフト、地球軍、オーブ、どこに身を置き、何と戦わなければならないのか。キラやカガリと対立し、デュランダルの指揮下から逸脱した自分はどうすればいいのか。彼は戦う理由、平和を求める自分のあり方を見失っていた。

「それを決めるのはアスラン、あなたですわ・・」

 そんなアスランに、ラクスが微笑んだまま言葉を投げかける。その言葉にアスランが戸惑いを覚える。

「力はただ力です。そしてあなたは、確かに戦士なのかもしれませんが、アスランでしょう?あなたがどうしたいのか、何と戦わなくてはならないのか、あなた自身が決めることです・・」

 ラクスのこの言葉が、アスランが抱えていた迷いを払拭した。

「オレ自身で決める、か・・確かにオレの中には、どうしてもやらなければならないことがある・・・」

 呟きかけるアスランが、ドック内にあるモニターに目を向けた。シンとデスティニーとキラのフリーダムの攻防が映し出されていた。

「オレは行く・・まだ答えが出たとはいえないが、今やらなければならないことはある・・・」

 アスランが意を決してジャスティスに乗り込もうとする。だが彼の身を案じたメイリンに止められる。

「ダメですよ、アスランさん!まだ傷が治っていないのに戦闘に出たら、死んでしまいます!」

「分かっている・・だが今行かなければ、アイツは・・・!」

 メイリンの制止を振り切って、アスランは出撃に備えた。彼の信念と正義は今、キラと対峙するシンに向けられていた。

 

 デスティニーとフリーダムの攻防を、ルナマリアとレイもモニターで見ていた。戦況不利のシンを見かねて、ルナマリアが意を決す。

「私、もう見てられない・・私も出るわ!」

「ダメだ・・ルナマリアは残れ。シンの援護はオレがやる・・」

 飛び出そうとするルナマリアを、レイが冷徹な面持ちで呼び止める。

「気を散らせばシンが負ける。今のアイツに、お前は邪魔だ。」

「邪魔って何よ・・私も“赤”なのよ。それに今はフェイスなの。うまく敵の注意を乱すことができても、足手まといにはならないわ。」

 冷淡に呼びかけるレイに、ルナマリアが強気に言葉を返す。

「絶対に行くわ・・シンを見殺しにできない・・・!」

「・・・いや、シンの援護にはオレが行く。ルナマリア、お前には他にやってもらうことがある・・」

 改めて飛び出そうとするルナマリアに、レイが呼びかける。その言葉にルナマリアが眉をひそめる。

「オーブ防衛に現れた金の機体。その追撃をしてもらう。オレたちの目的を果たすためには、フリーダム共々アレも障害になる・・」

「それを私が追撃しろってことね・・・ホントにシンのこと頼んだからね・・」

「心配するな。オレとシンでかかれば、フリーダムであろうと撃破できる・・」

 レイの申し出を渋々受け入れるルナマリア。2人は改めて出撃に臨むのだった。

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」

 ルナマリアの乗るコアスプレンダーがミネルバから発進し、続けて「チェストフライヤー」、「レッグフライヤー」、フォースシルエットが発進する。インパルスは上半身のチェストフライヤー、下半身のレッグフライヤー、コックピットのコアスプレンダーとシルエットシステムで構成され、合体することでMSとして機能する。

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」

 レイの搭乗したレジェンドも発進し、インパルスとともに戦場を飛翔していった。

 

 パイロットスーツに身を包んだアスランが、ジャスティスに乗り込んだ。満身創痍の体に鞭を入れて、彼は再び戦いに身を投じようとしていた。

(本当は何とどう戦わなければならないのか、まだオレには分からない・・今オレにできるのは、アイツを止めること・・・!)

「アスラン・ザラ、ジャスティス、出る!」

 アスランの駆るジャスティスが、アークエンジェルから出撃した。

 

 突然のフリーダムの介入に、シンのデスティニーは攻めきれなくなっていた。シンに植えつけられた心の揺らぎが、攻防を拮抗させていた。

「くそっ!何でこんな!」

 焦りのあまりに声を荒げるシン。フリーダムの腹部にある「カリドゥス複相ビーム砲」とデスティニーの高エネルギー長射程ビーム砲から同時に砲撃が放たれ、ぶつかり合ったビームが激しく火花を散らす。

 その砲撃の後、フリーダムがビームサーベルを手にして飛びかかってきた。シンはシュミレーションを思い返して、紙一重でフリーダムの攻撃を回避しようとした。

 だがフリーダムの攻撃が的確にデスティニーを捉えていたことを直感し、シンがたまらず防御を取る。デスティニーが左腕に装備されているビームシールドで、フリーダムのビームサーベルを防ぐ。

「ぐっ!」

 その衝撃にシンが煽られ、デスティニーが押される。だがすぐに体勢を立て直し、デスティニーがフリーダムと向き合う。

「くそっ!よけるのを先読みしてきたのか!?

「シン!」

 追い込まれるシンのデスティニーに向けて、レイの駆るレジェンドが駆けつけてきた。

「あれは・・・!?

 レジェンドの姿にキラが一瞬目を疑う。彼がかつて交戦したMS「プロヴィデンス」と酷似していたからだった。

 

 キラの援護で窮地を脱したカガリのアカツキ。オーブ軍本部に向かっていたアカツキだが、追撃に出たインパルスに行く手を阻まれる。

「新手か!」

 毒づくカガリがインパルスを迎え撃つ。ルナマリアの駆るインパルスがビームライフルで射撃するが、ビームはアカツキの装甲に反射される。

「やっぱりビームを跳ね返すのね・・・!」

 あらかじめアカツキの情報を聞いていたルナマリアは、わざとビームを放って反射されるのを確かめた。

「ミネルバ、ソードシルエット!」

 ルナマリアの呼びかけを受けて、ミネルバからソードシルエットが発進する。インパルスがソードシルエットからエクスカリバーを手にする。

「シンだってやれたんだ・・私だって!」

 ルナマリアが思い立ち、インパルスがアカツキに向けてエクスカリバーを振りかざす。アカツキもビームサーベルで応戦する。

 ところがルナマリアのインパルスはエクスカリバーの重さのために大振りになってしまう。アカツキの損傷があり、回避と防御で手一杯になる。

 互いに攻め切れなくなり、ルナマリアとカガリは焦りを募らせるばかりだった。

 

 レジェンドの加勢により、キラのフリーダムは窮地に追い込まれていく。2対1の戦況の中、フリーダムは回避で手一杯になっていた。

「オレがけん制する。シンは隙を狙え。」

 レイの呼びかけにシンが頷く。レジェンドが搭載されているドラグーンを連結可動式砲台として射撃させる。

 断続的に放たれるビームをかわして、フリーダムがレジェンドの背後を取る。だがドラグーンが方向を変えて、背後への射撃を行った。

 とっさにビームシールドで射撃を防ぐも、フリーダムが体勢を崩される。その隙を狙って、デスティニーがビーム砲を構える。

(今度こそ終わらせてやる・・アイツとオーブを討てば、やっと平和を取り戻すことができるんだ・・・!)

 フリーダムを狙うシンが、自分に言い聞かせる。

「今度こそ・・今度こそフリーダムを!」

「やめろ!」

 フリーダムを狙い撃とうとしたとき、シンは聞き覚えのある声に呼び止められる。耳を疑って攻撃を躊躇した彼のいるコックピットが、衝撃に襲われる。

 何かがデスティニーを突き飛ばした。砲撃を妨害され、体勢を崩すデスティニー。

 デスティニーに突進してきたのはジャスティス。シンに呼びかけてきたのはアスランだった。

「アスラン!」

「アスラン・・何で・・・!?

「ジャスティス・・アスラン・・・!?

 キラが声をあげ、シンとルナマリアが驚愕する。自分が撃墜したはずのアスランが目の前にいることに、シンは驚きを隠せなくなっていた。

「ホントにどういうつもりなんだよ、アンタ!?・・オレに落とされたはずのアンタが、そんなものに乗って・・・!?

「やめるんだ、シン・・自分が今、何を討とうとしているのか、お前本当に分かってるのか・・・!?

 困惑するシンに向けて、アスランが声を振り絞って呼びかける。

「戦争を失くす・・そのためにオーブを討つことが、お前が本当に望んだことなのか!?

「死に損ないの裏切り者が、何をのこのこと!」

 シンに声をかけるアスランに、レイが苛立ちを覚える。

「お前は何がしたいんだ!?シン、お前は本当は、何がほしかったんだ!?

「アンタこそ、いったい何がしたいんだ!?

 シンがアスランの言葉に反発する。

「いきなりオレたちの上官として現れたと思ったら、裏切って、今度はオレたちの敵になって、ザフトとオーブを行ったり来たり・・アンタこそどうしたいんだよ!?

 シンがいきり立ち、デスティニーがビームソードを手にして飛びかかる。アスランのジャスティスが2本の「シュペールラケルタビームサーベル」を掲げて、デスティニーの一閃を受け止める。

「戦いのない世の中、揺らぐことのない平和・・それがオレの望んだことだ!そのために戦うことの、何がいけないんだ!?

「議長の目指している世界が、本当の平和だと思っているのか!?

 つばぜり合いの反動で、デスティニーとジャスティスが距離を取る。

「戦争のない以上に、平和な世界なんてない!アンタがしていることの先に、そんな世界があるっていうのか!?

 アスランに言い放つシンが覚醒を果たす。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。

「そんなに自分を貫きたいなら、そんなに自分が正しいっていうなら、オレに勝ってみせろ!」

「シン!」

 シンのデスティニーが飛びかかると同時に、言い放つアスランも覚醒を果たす。デスティニーとジャスティス、さらにレジェンドとフリーダム、インパルスとアカツキの攻防は過激化の一途を辿っていた。

 

 戦渦に巻き込まれたオーブ市街地を、アルバとリリィは駆け抜けていた。2人は隠れ蓑にしていた別荘に戻ってきていた。

「できればこれ以上は戦いたくない・・それはオレたちだけじゃなく、みんなも同じ気持ちなんだろうか・・・」

「同じはずなんだけどね・・でも誰もそれを知らない・・忘れているのかもしれない・・・私も、少し前までは忘れていたけど・・・」

 別荘の地下に降りていくアルバとリリィ。地下には小さな格納ドックとなっており、そこにた2体の機体が立ち並んでいた。

 「フューチャー」。ザフトが開発していたMSだったが、アルバが記憶を取り戻した際に乗り込み、ザフトの包囲網を脱した。今では彼の未来を切り開くための剣となっている。

 「ソリッド」。元々はアルバが搭乗していた標準的な性能と装備の機体だったが、アルバがフューチャーに搭乗したこととリリィが搭乗していた機体が破損したこともあって、現在は彼女が乗っている。

「生きるために他の命を奪うのは、矛盾していることなのだろう・・それでも、オレたちは生きたい・・・」

「みんなの気持ちも背負ってるからね・・みんなの気持ちは裏切りたくないから・・・」

「オレたちは生きる・・オレたちを狙ってくる敵がいるなら、オレは戦うことをためらわない・・・」

「まずはあのオーブの上空にいるMSたちを何とかするのが先決ね・・何機か見覚えのある強力な機体がいるみたい・・」

 決意を口にするアルバに、リリィが苦笑いを浮かべる。

「まずはあの機体を止めよう・・狙いをオレたちに絞り込ませ、戦いを止めることができれば・・・」

 アルバの言葉にリリィが頷く。決意を胸に秘めた2人は、それぞれの機体に乗り込んだ。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 混沌に満ちた戦場に向けて、フューチャーとソリッドが発進していった。

 

 シンのデスティニーとアスランのジャスティスの攻防は、拮抗状態が続いていた。動揺にさいなまれたシンは攻め切ることができず、アスランも傷の痛みのために防戦を余儀なくされていた。

(意識がもうろうとしてきた・・だがまだ、ここで引くわけにはいかない・・・!)

(あんな中途半端なのに、オレが攻め切れないなんて・・・!)

 互いに心の声を上げるアスランとシン。

「こんなことで・・こんなことでオレは!」

 さらに激昂していくシン。デスティニーがビームソードを構えて、ジャスティスに飛びかかった。

 そのとき、高速で接近してくる熱源の反応に、シンとアスランが気付く。その瞬間、一条の旋風が下から上り、ジャスティスに迫っていたデスティニーの両腕が突如切断されて爆発を引き起こした。

「何っ!?

 デスティニーが破損したことに、シンが驚愕する。攻撃してきたのはジャスティスではなかった。

 オーブの空に姿を現したフューチャー。その大型ビームソード「エクスカリバー」が、デスティニーの腕を切り裂いたのである。

「あれは・・・!?

「フューチャーか・・・!」

 交戦していたキラとレイも、フューチャーの登場に声を荒げていた。

 続けてソリッドも姿を現し、インパルスとアカツキの間に割って入ってきていた。

「ザフト軍、お前たちの狙いはオレたちのはずだ!関係のないオーブを攻撃することはないだろう!」

「何を・・!」

 呼びかけてくるアルバに、シンが声を荒げる。

「双方同士の戦闘を中止しろ!相手がしたいなら直接来い!」

「わざわざ向こうから姿を見せてくるとは・・どういうつもりだ・・・!?

 声を張り上げるアルバに、レイが苛立ちを覚える。フリーダムとの交戦を中断し、レジェンドがフューチャーに迫る。

 ドラグーンから放たれる集中射撃を、フューチャーが高速で動いてかわす。

「その気になってきたか・・だがオレは、お前たちに殺されるわけにもいかないんだ・・・!」

 アルバが言い放ち、フューチャーが距離を詰めてエクスカリバーを振りかざす。レジェンドが後退してフューチャーとの距離を取る。

「どういうつもりだ・・オレたちの戦いに割り込む気か・・・!?

 抗議の声を上げるアスランだが、彼の視界が徐々にぼやけていく。やがて彼は意識を失い、ジャスティスが制御が利かずに落下を始める。

「アスラン!」

 キラが声を荒げ、フリーダムが戦闘を中断してジャスティスに向かう。だがジャスティスの腕をつかんで受けとけたのは、アルバの駆るフューチャーだった。

 フューチャーはジャスティスを連れて、接近していたアークエンジェルに向かう。

「アークエンジェル、ジャスティスのパイロットを救助しろ!様子がおかしいぞ!」

 アルバがアークエンジェルに向けて呼びかける。アークエンジェルにフューチャーが着艦し、フリーダムが駆けつけると、入れ替わりに離れていく。

「リリィ、ここは離れるぞ!これではオーブが危険だ!」

「仕方がないけど、そうするしかないみたいね・・・!」

 アルバの呼びかけにリリィが渋々答える。フューチャーがスピードを上げて戦場を飛び出し、インパルスと交戦していたソリッドも、戦闘を中断して移動する。

「このまま逃がすものか・・・!」

「ミネルバ、一時帰艦します!デスティニーの修復を!」

 レイが毒づき、シンがミネルバに呼びかける。だがタリアの判断は、

“いいえ。ここは全軍撤退よ。あなたたちも戻りなさい。”

「艦長・・それじゃ、フューチャーとソリッドが・・!」

“修復を終えてから追跡するのは不可能よ。戦況もこちらが不利・・これでは戦闘の継続は無意味だわ・・”

 タリアの呼びかけに反論できなくなり、シンは撤退を渋々受け入れるしかなかった。

「信号弾撃て!オーブ領域外へ一時撤退する!」

 タリアの命令により、ミネルバから信号弾が放たれる。アルバたちもオーブを討つことができないまま、シンたちはミネルバに帰艦した。

 キラにジャスティスから連れ出されたアスラン。

「アスラン!」

「アスランさん!」

 キラとメイリンがアスランに呼びかける。意識を失ったアスランは、頭から出血していた。

 

 

PHASE-04

 

作品集

 

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