GUNDAM WAR –Last Destiny-
PHASE-01「暁の虚空」
C.E.(コズミック・イラ)71。
ナチュラルと新人類「コーディネーター」。地球連合、プラント、中立国「オーブ」の対立と抗争は、世界と人々に悲劇をもたらしていた。
その戦火と悲劇に巻き込まれた少年がいた。
シン・アスカ。コーディネーターであるが、家族とともにオーブで平穏な日々を送っていた。だが戦火に巻き込まれたオーブの中で彼は家族を失い、攻撃の発端である地球連合と、家族を守ってくれなかったオーブに激しい憎悪を抱く。
同時に自分の無力さを呪ったシンは、プラントに渡りザフトに入隊。訓練で優秀な成績を収めた彼は、士官学校の上位成績卒業者の証である赤服に袖を通すこととなった。
C.E.(コズミック・イラ)73。
シンはザフトの最新鋭のMS「インパルス」の正式なパイロットとなる。訓練によって高められた操縦技術は、地球連合をことごとく撃退していった。
その戦いの最中の束の間の休息にて、シンは1人の少女と出会う。ステラ・ルーシェ。生まれたての子供のように純粋さと、怖いものに対する恐怖と狂気を兼ね備えた彼女は、シンと心を通わせることとなった・
しかしステラは地球連合の強化人間「エクステンデッド」の1人だった。命じられるまま、恐怖への脱却という気持ちのままに戦う彼女は、シンと戦場で対立することになる。
ステラと心を通わせていたシンは、彼女を助けようとする。だがこの戦闘に介入してきたMS「フリーダム」によって、ステラの乗っていた機体は大破。シンの腕の中で彼女は命を閉じた。
彼女を守れなかった悲しみを、彼女を殺した敵への憎悪を膨らませて、シンはフリーダムの撃破を心に誓った。
数々の激戦を潜り抜け、シンが見た限りでも優位を崩さなかったフリーダム。だが中距離戦闘を想定したシルエットシステムのひとつ「フォースシルエット」を装備した「フォースインパルス」を駆るシンは、フリーダムと一進一退の攻防を演じていた。
インパルスには3種のシルエットシステムが存在する。フォースシルエットの他、近距離用の「ソードシルエット」、遠距離用の「ブラストシルエット」がある。
機動性、射撃、砲撃に特化しているフリーダム。だがフリーダムの放つビームライフルの射撃、ビームサーベルの一閃を、インパルスは紙一重でことごとくかわしていく。その回避に対して不敵な笑みを見せるシンの脳裏に、彼の仲間、レイ・ザ・バレルの言葉が蘇る。
“フリーダムは確かに動きが速い。射撃も正確だ。だがあの機体は、絶対にコックピットを狙わない。狙うのは、決まって武装かメインカメラだ。そこにインパルスの勝機がある・・・!”
レイのこの言葉は、フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトの理念につながっていた。戦艦「アークエンジェル」と行動をともにし、戦闘停止のみを目的に戦闘に介入していたキラは、撃墜を行うことなく、機体や戦艦の攻撃力と行動力を奪うに留めている。それを逆手にとっての戦法だった。
キラの中で何かが弾けた。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。この現象で彼とフリーダムはさらなる力を発揮するはずだった。
しかしシミュレーションを重ねてきたシンのインパルスに攻撃をよけられ、さらにアークエンジェルを守りながらの戦闘を強いられていたキラは、悪戦苦闘を余儀なくされていた。
「いつもそうやって、やれると思うな!」
悲しみと怒りを膨らませて叫ぶシンも、キラと同様の覚醒を果たす。動きが機敏になったインパルスに、キラのフリーダムはさらに追い込まれる。
「アンタがステラを殺した!止めようとしたのに!」
ステラを殺されたシンの怒りを込めたインパルスの攻撃が、フリーダムをさらに追い込む。
「メイリン!ソードシルエット!」
「はいっ!」
シンが戦艦「ミネルバ」に向けて呼びかけ、管制官「メイリン・ホーク」が答える。ミネルバからソードシルエットが発進される。
インパルスがソードシルエットからフラッシュエッジビームブーメランを手にして投げつける。ビームシールドで防ぐも、フリーダムは体勢を崩される。
さらにインパルスはソードシルエットからレーザー対艦刀「エクスカリバー」を手にする。刀身にエネルギーを発したエクスカリバーを構えて、インパルスがフリーダムに突っ込む。
シンの怒りと激情のままに特攻したインパルスが突き出したエクスカリバーが、ビームシールドごとフリーダムの胴体を貫いた。
シンとキラの絶叫とともに閃光と爆発が巻き起こる。白んだ光が戦場と2機を飲み込んだ。
舞い上がる煙の中、佇んでいたのは破損していたインパルスだけだった。
「やった・・ステラ・・・これで・・やっとこれで・・・」
フリーダムを討ち取ったシンが笑みを浮かべる。その微笑は喜びとも悲しみともつかないものになっていた。
同じ頃、人気のない草原の真ん中に点在する小さな家。そこには2人の男女が住んでいた。
アルバ・メモリア。本名、ディアス・フリークス。かつて存在していた資産家、フリークス家の一員だったコーディネーターだが、戦闘中に生死不明になって記憶喪失に陥っていた。
リリィ・クラウディ。本名、ナオミ・カツラギ。地球連合に所属していたが、連合の見解に不満を抱き、追撃をかいくぐって独自の行動を行ってきた。
アルバとリリィは自分たちが乗っていた母艦を破壊され、そこの仲間たちを全員失くしている。2人は身を隠して回復を待ち、出撃の機会を伺っていた。
アルバが窓越しに外を見つめていた。彼は世界でまた何かが起こっていると感じていた。
「どうしたの、アルバ?・・またどこかで戦闘が・・・?」
「おそらくな・・・まさかヤツが・・・!?」
リリィが訊ねると、アルバが一抹の不安を覚える。
「まさか・・あの機体がまた地球に来たという情報はないわよ・・別の機体か戦艦じゃないかな・・・?」
「そうか・・そうだといいんだが・・・」
リリィの言葉を聞いて、アルバが深刻な面持ちを浮かべる。
「そろそろオレたちも、覚悟を決めて出て行かないといかないかもしれないな・・」
「でもそうする前に情報を手に入れないと・・闇雲に出て行ったって、いくらアルバでも・・・」
リリィの呼びかけにアルバは頷く。2人にも力はあった。その力を振るう時を、2人はじっと見守っていた。
フリーダムの撃破に成功したシンのインパルス。ミネルバに帰艦した彼をクルーたちが迎えた。
「シン、すごいじゃない!あのフリーダムを落とすなんて!」
ミネルバのMSパイロットにして、メイリンの姉、ルナマリア・ホークがシンに賛美の言葉をかける。
「いやぁ、そんなことないって。レイがうまく助言してくれなかったら、どうなってたか・・」
「いや、それを可能としたのはお前だ。お前の力が、敵の撃破を実現したんだ・・」
弁解するシンに、レイも賞賛する。シンの勝利をクルーたちがあたたかく賛美していた。
だがその中で1人、シンの勝利を快く思わない人物がいた。
アスラン・ザラ。特務隊「フェイス」に所属するMSパイロットで、2年前の連合、ザフト間の戦争終結に貢献した人物の1人である。アスランとキラは幼い頃からの親友であり、キラが搭乗しているフリーダムが攻撃対象にされたことに不満を感じていた。
不快を隠せずにいるアスランに、シンが歩み寄る。憤りの眼差しを向けるアスランに対し、シンが不敵な笑みを見せる。
「仇はとりましたよ・・・あなたのもね・・」
「シン!」
シンが口にした挑発にアスランが激昂する。彼に殴打されて、シンがふらつく。
「何するんですか!?」
アスランの態度にシンも憤慨する。しかしアスランも怒りを治めていない。
「アイツを撃てたのがそんなに嬉しいか!?得意か!?・・アイツは・・キラはお前を殺そうとしていなかった!それなのにお前は・・!」
怒鳴りかけるアスランだが、逆にシンに殴り返される。対立する2人をルナマリアたちが慌てて押さえつける。
「シン、やめて!アスランも!」
「何をワケの分からないことを言ってるんだ!?」
呼び止めるルナマリアたちの前で、シンがアスランに怒鳴る。
「嬉しかったら悪いんですか!?強敵をやっと倒せて、喜んじゃいけないんですか!?」
「違う!それは・・!」
「じゃあ、どうしろっていうんです!?泣いて悲しめってんですか!?祈れってんですか!?それとも、オレが撃たれればよかったのか、アンタは!?」
「お前!」
「何をやっている、お前たち!?」
激昂するシンとアスランに向けて、銀髪、長身の男が声をかけてきた。ドーマ・フリークス。アスランと同じフェイス所属である。
ドーマは元々はミネルバの乗員ではない。彼はフリーダム及びアークエンジェルの討伐の指揮と戦況把握のために赴いたのである。
「どうした?ザフトの英雄とその上官がケンカとは、何があったというのだ?」
「フ、フリークス殿!」
問いかけるドーマにクルーたちが敬礼を送る。だがシンもアスランも怒りが治まらず、互いをにらみ合っていた。
ドーマはこの状況をルナマリアから聞いた。するとドーマが呆れて肩を落とす。
「なるほど・・状況は分かった・・・」
呟きかけるドーマが、シンとアスランに呼びかける。
「シン・アスカといったな?このような理不尽を受けて不満なのは分かる。しかしアスランは仮にも君たちの上官だ。軽率な態度は慎むように。」
「くっ・・・!」
ドーマの注意を受けて、シンが不満を浮かべる。
「そしてアスラン、君の親友が討たれて、シンに憤るのもムリはない。だがいかに君がフェイスであっても、これは越権行為だろう?」
「しかし・・・!」
「フリーダムとアークエンジェルの討伐は、本国からの命令だ。シンはこの任務を果たし、成功を収めた。そんな彼にこのような態度はいただけない・・」
「違う!キラもアークエンジェルも、敵じゃないんだ!」
ドーマの言葉にアスランが反発する。だがその言葉にシンが噛み付く。
「何言ってんだ!?あれは・・!」
「敵だ。本国が定めた敵だよ・・」
シンの言葉に続けたのはドーマだった。
「我々は軍人。プラントや世界に平和をもたらすために行動するザフト軍だ。たとえ腑に落ちなくても、プラントの命令に従わなければならない。自分の手は汚したくない。嫌な作戦には従わない。それで済まないことが分からないほど、君は軍人になって浅くはないだろう・・」
「くっ・・・!」
「今のあなたの態度は、個人的な考えの押し付けでしかない・・このような集団での場では謹んでもらおう・・」
目つきを鋭くして言いかけるドーマ。彼の言葉に反論できず、アスランはこの場を立ち去っていった。
インパルスの特攻を受けて爆発に飲み込まれたフリーダム。大破してしまったものの、コックピットは無事で、キラも意識を失うに留まっていた。
海中に沈んだ胴体を、アークエンジェルから出動した機体「ストライクルージュ」が回収した。難を逃れたキラは、アークエンジェルの医務室にて意識を取り戻した。
「キラ・・気がついたか・・・」
ベットに横たわっていたキラの目覚めに、1人の少女が安堵の笑みをこぼした。
カガリ・ユラ・アスハ。オーブ代表であり、アスハ家当主である。搭乗機であるストライクルージュでキラを救出したのも彼女である。
「カガリ・・僕は・・・うっ・・!」
起き上がろうとしたところで体の痛みを覚えるキラ。ふらついた彼をカガリが支える。
「大丈夫かよ、おい・・・」
「うん・・ゴメン・・・」
心配の声を上げるカガリに、キラが微笑みながら謝る。その様子を見てカガリが安堵する。
「でもよかった・・傷もそうひどくないって・・・」
「でも、フリーダムが・・・あれを落とされちゃったら、僕は・・・」
キラのこの言葉を耳にして、カガリが深刻さを覚える。キラの意思を貫くための剣、フリーダムはシンの駆るインパルスによって打ち砕かれてしまった。
「今は休め・・全てはその後だ・・・」
カガリに言いかけられて、キラは再びベットに横たわった。アークエンジェルは海中を潜行しつつ、オーブに向けて進行していた。
アークエンジェルとフリーダムとの戦いを終えたミネルバは、ジブラルタルへの入港を終えた。そこではプラントの筆頭としての信頼を勝ち得ている人物がいた。
ギルバート・デュランダル。プラント最高評議会現議長。戦争で混迷するプラントをまとめ上げ、市民から高い支持を得ている。
ドーマはデュランダルの直属の部下である。デュランダルの命令を受けて、ドーマはミネルバに赴いていたのである。
「失礼します。」
デュランダルの待つ部屋に、ドーマがシンとアスランを連れて入ってきた。
「アスラン・ザラ、シン・アスカを連れてまいりました。」
「お久しぶりです、議長・・」
ドーマの言葉の後、アスランがシンとともに敬礼を送る。
「君たちの活躍は聞いている。いろいろあったが、よく頑張ってくれた・・」
「ありがとうございます・・」
微笑んで言葉をかけるデュランダルに、アスランが感謝の言葉をかける。だがアスランの表情は平穏ではなかった。
「いろいろ話したいこともあるが、君たちに是非見せたいものがあるんだ・・ついてきてくれるかな?」
デュランダルの呼びかけに応じて、シン、アスラン、ドーマが部屋を出る。デュランダルの案内で、彼らはある格納庫に赴いた。
そこに待機していた2機の機体を目の当たりにして、シンは戸惑いを覚え、アスランは驚愕する。
「議長、この機体・・・」
「デスティニーとレジェンド。従来のものを遙かに上回る性能を持った最新鋭の2機・・君たちの、新しい機体だよ・・」
デュランダルたちがシンたちに向けて語りかける。
「特にデスティニーは、シン、君を想定した調整を加えてある・・」
「えっ!?オレを、ですか・・・!?」
デュランダルに呼びかけられて、シンが驚きの声を上げる。
「デスティニーはインパルスの全てのシルエットシステムを持ち合わせ、火力、防御力、機動力、信頼性、全ての点で上回る最強のMSだ・・そしてレジェンドは、量子インターフェイスの改良により、誰でも操作できるようになった新世代のドラグーンシステムを搭載している・・」
2機、デスティニーとレジェンドについて語っていくデュランダル。
「だからデスティニーには、シンが乗ることになる・・インパルスでは機体の限界や手間を感じることも多かったと思うが、これならそんなことはない。私が保証するよ・・」
「はい!ありがとうございます!」
信頼を寄せるデュランダルにシンが感謝の言葉を返す。そしてデュランダルは、深刻な面持ちを浮かべているアスランに視線を移す。
「君の機体はこのレジェンドということになるが・・どうかなアスラン、ドラグーンシステムは・・?」
「えっ・・・?」
デュランダルに声をかけられて、深刻さを募らせていたアスランが我に返る。その様子にデュランダルが眉をひそめる。
「どうしたのかね、アスラン・・?」
「あれで、敵と定めたものを撃てと仰るのですか?・・アークエンジェルとフリーダムのように・・」
「アンタ、また・・!」
デュランダルに向けて切り出した言葉に、シンが憤慨を覚える。
「あの艦は確かに、不用意に戦局を混乱させたかもしれません・・でもその意志は私たちと同じです。戦争を終わらせたい、こんなことはもう嫌だと・・なのになぜ!?話し合う機会すらないままあんな命令を!?」
自分の心境を切実に打ち明けるアスラン。しかしデュランダルは悠然さを変えない。
「ならばなぜ、私の声に答えなかったのかな?」
デュランダルのこの問いかけに、アスランが困惑する。
「思いが同じなら答えたはずだ。私の声は届いていただろう?なのになぜ、彼らは何も答えずに戦った?」
「それは・・・!」
言葉を詰まらせるアスランに、デュランダルがさらに言葉を続ける。
「友を思う君の気持ちは分かる・・なぜこんなことに、なぜ世界は願ったように動かないのか、と・・だが言ってみれば、それが今のこの世界、ということだ・・」
「えっ・・?」
デュランダルのこの言葉に、アスランだけでなくシンも疑問符を浮かべる。
「今のこの世界では、我らは誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時々に翻弄されて生きている・・彼、キラ・ヤマトくんでさえ・・あれだけの力と資質、戦士の才能だ。MSで戦わせたら、彼に敵う者はないだろう・・それに早く気付けたなら、彼自身も悩み苦しむこともなく、その力は称えられて幸福に生きられただろうに・・」
デュランダルのこの考えを引き金にして、アスランは思い知らされた。自分の思い描いている世界の平和が、デュランダルの理想郷とは全くかみ合わないことを。
シンたちと別れて先に格納庫を後にしたドーマは、ある人物の捜索任務を請け負っていた。その人物は彼の弟、アルバだった。
ドーマはアルバと邂逅し、味方になるように呼びかけたが、アルバはこれを拒否。滞在していた母艦を落とされても戦い続けている彼とリリィの討伐を、ドーマは画策していた。
(どこにいるというのだ、ディアス・・なぜそこまで私の、議長の意向を受け入れようとしない・・・!?)
アルバたちの意思と行動に、ドーマは不満を募らせていく。
(アークエンジェルとフリーダムは粉砕された・・残る脅威はディアスとリリィ・クラウディ・・・いや、もう1人・・・)
野心を思い浮かべるドーマの脳裏に、アルバだけでなく、デュランダルの意向に消極的、反感的になっているアスランの姿も浮かび上がっていた。
ジブラルタル内のホテルの一室にアスランはいた。彼はデュランダルとキラ、2人のそれぞれの考えを思い返していた。
“あれだけの力と資質、戦士の才能だ。MSで戦わせたら、彼に敵う者はないだろう・・それに早く気付けたなら、彼自身も悩み苦しむこともなく、その力は称えられて幸福に生きられただろうに・・”
デュランダルの言葉を思い出して、アスランは歯がゆさを覚える。彼はデュランダルの思惑を悟ったのである。
(オレもキラも戦士でしかない・・それが議長の考えなんだ・・彼はオレも戦士として扱おうとしている・・それが本当の平和であるとは、オレには・・・)
アスランがデュランダルへの疑念を深めていたときだった。
「ミネルバ所属特務隊アスラン・ザラ。保安部の者です。ちょっとお話をお聞きしたいことがあるのですが・・」
突然ドアがノックされ、声がかけられた。自分を訪ねてきた保安部が、デュランダルの差し金であると、アスランは直感した。
(さすが議長・・オレのこともよく分かってる・・・)
「開けてください!アスラン・ザラ!」
アスランが毒づく中、ドアがノックされる音が強くなっていく。
(確かにオレは、彼の戦う人形になんかはなれない・・いくら彼の言うことが正しく聞こえても!)
思い立ったアスランは窓を破って部屋から外に飛び出した。保安部がドアを突き破ったときには、部屋にはアスランの姿はなかった。
ミネルバでの情報整理を終えて1人ホテルに戻っていたメイリン。部屋に行く途中の廊下で、慌しい様子の兵士数人とすれ違い、彼女はきょとんとなる。
「何か、あったのかな・・・?」
疑問符を浮かべつつ、メイリンは自分の部屋に向かおうとした。
そのとき、メイリンは誰かにぶつかり、ふらついてしまう。
「す、すみません!・・・アスランさん!?」
謝った直後に驚きの声を上げた途端、メイリンは突然現れたアスランに口を押さえられる。2人は近くの曲がり角の陰に隠れて、兵士たちをやり過ごす。
「何とかやり過ごせたか・・・すまない、荒っぽいことをして・・・」
「いえ、私は大丈夫です・・それより、何が・・・?」
「それはレイにでも聞いてくれ・・はっきりしているのは、もうオレはここにはいられないということだ・・」
アスランが告げた答えに、メイリンが息を呑む。
「ここにいればオレは反逆者として殺される・・だがオレは、こんなところで死ぬわけには・・」
アスランが言いかけて駆け出そうとした。だが彼は突如、メイリンに腕をつかまれて止められる。
「ち・・ちょっと待ってください・・・!」
メイリンの呼びかけにアスランが当惑を覚えた。
アスランを追ってホテル内と周辺を駆け回っていた兵士たち。彼らはアスランを見つけられず、苛立ちを募らせていた。
「くそっ!いったいどこに・・!?」
兵士の1人が毒づいたところだった。突如港のほうで警報が鳴り響いてきた。
「港に!?いつの間に!」
その警報に反応して、兵士たちが急行していった。だがそれは注意を港に引きつけるためのメイリンの工作だった。
兵士たちが離れたのを見計らって、メイリンはアスランを連れて車を走らせていた。
「どうして・・・!?」
「殺されるくらいなら、行ったほうがいいですよ!」
疑問を投げかけるアスランに答えつつ、メイリンは格納庫に行き着いた。そこには量産型MS「グフ・イグナイテッド」が整備されていた。
「君はもうここから離れろ・・オレに脅されていたと・・!」
アスランがメイリンに向けて言いかけたときだった。突如発せられた銃声とともに、アスランはメイリンを抱えて回避を取る。
「勘が鋭いですね、アスラン・ザラ・・これも指揮官の経験の賜物か?」
アスランに向けて声をかけてきたのはドーマだった。2人に向けて発砲したのは彼だった。
「我々の命令に従え、アスラン。そうすれば弁解ぐらいは聞いてやるぞ。」
「残念だがあなたの、いや、議長の言葉に耳を貸すことはできない・・・!」
呼びかけるドーマだが、アスランはこれを拒む。
「そうか・・ならば粛清しかないな!」
ドーマが再びアスランに銃口を向ける。ドーマの敵意はアスランだけでなく、メイリンにも向けられていた。
「やめろ!メイリンは関係ない!彼女は・・!」
「メイリン・ホークももはや同罪だ。彼女は今も逃げるように呼びかけていた・・あの警報が彼女の仕業であることも、時期に明らかになるだろう・・」
呼びかけるアスランだが、ドーマは冷淡に告げるだけだった。その言葉にメイリンが驚愕する。
毒づいたアスランが、手にしていた銃の引き金を撃つ。その銃撃がドーマの構えていた銃を弾き飛ばす。
アスランはメイリンを連れて、グフの1機に乗り込み、起動させる。
「すまない・・でもこのままじゃ君が・・!」
メイリンに言いかけるアスランが、グフを発進させる。苛立ちを浮かべるドーマが、ドックにいるシンに向けて連絡を取る。
「ドックにいるか、シン・アスカ!?すぐにデスティニーで出撃だ!」
“えっ!?”
ドーマの呼びかけを受けて、シンが驚きの声を上げる。
「アスランがグフに乗って逃亡した!追跡し、連行するんだ!」
“アスランが!?・・何で・・・!?”
「保安部を打ち倒して逃走した!レイたちにも連絡を入れる!お前は先に行け!」
困惑するシンに呼びかけると、ドーマは通信を終えて、レイたちへの連絡を行った。
雨が降りしきる海上を飛行するグフ。アスランはメイリンとともに逃走を続ける。
「どこに行くんですか・・・?」
「アークエンジェルだ・・きっと生きている・・あの艦も、キラも・・・!」
メイリンの問いかけにアスランが答えたときだった。グフのレーダーが、シンが搭乗したデスティニーの接近を捉えた。
「デスティニー・・シンか!」
「何でこんなことになるんだよ・・何でアンタは!」
毒づくアスランにシンが怒鳴りかける。シンはまだアスランの逃走の事実を受け入れられないでいた。
「逃げるな!降伏しろ!」
シンが呼びかけ、デスティニーがビームライフルを発砲する。放たれたビームはグフの横を飛んで海にぶつかる。
「裏切るな!基地に戻れ!」
「やめろ、シン!お前たちは踊らされている!」
さらに呼びかけるシンに、アスランが逆に呼びかける。
「確かに議長は、表向きには世界の平和をもたらすという意思を示している・・だが彼の言葉は、やがて世界の全てを殺す!」
「何・・・!?」
アスランの言葉にシンが声を荒げる。
「議長の思い描く世界は、平和という幻想に彩られた言いなりの世界だ!それが平和な世界であるはずが・・!」
「違う!これはオレ自身で決めたことだ!平和な世界を目指す議長の考えている理想が、オレの求める平和だ!」
アスランの言葉をさえぎって、シンが怒鳴りかける。
「オレたちは戦いのない世の中を目指して、戦ってきたんじゃないのか!?アンタの理想は、オレたちと違うっていうのかよ!?」
「シン!」
「あと少しでその世界にたどり着けるっていうのに・・・アンタが、アンタが裏切るから!」
怒りをむき出しにしたシンが覚醒を果たす。視界がクリアになり、五感が研ぎ澄まされる。
動きが機敏になったデスティニーが、右背部に収納されている大剣「アロンダイトビームソード」を手にする。デスティニーの全長を上回る長さの刀身を持ち、斬撃、接近戦において絶大な威力を誇る。
グフがビームガンでけん制するが、デスティニーは素早くかわしてグフに迫る。その速さは翼から放出されているコロイドと相まって、残像を残すほどとなっている。
デスティニーの繰り出す一閃は大振りであったが、グフは紙一重でかわすのが精一杯だった。グフが反撃に転じて、ビームウィップを振りかざす。
デスティニーは速い動きでビームウィップを回避していく。そしてデスティニーがかざした左手から衝撃波が放たれ、ビームウィップを破壊する。
デスティニーの両手には、「パルマフィオキーナ掌部ビーム砲」が搭載されている。相手をつかんでそのビーム攻撃で破壊する戦法も行える。
「くっ!」
アスランが毒づき、グフがビームソードを手にする。だが振りかざしたグフの剣も、デスティニーもビームソードにたやすく叩き折られてしまう。
「もう失いたくない・・もうオレは、戦いのために誰かが死ぬのを、見たくない!」
激情に駆られるシンの脳裏に、命を落とした家族やステラの姿が蘇る。戦争のために無慈悲に命が奪われてはならない。そのためにこれまで戦ってきた。
「もうあんなこと、絶対に・・絶対に!」
いきり立ったシンが駆るデスティニーが飛び込む。デスティニーが突き出したビームソードが、グフの胴体を貫いた。
雨の降る夜の海に雷鳴が煌いた。貫通されたグフが海に落ち、姿が見えなくなっていった。
「アスラン・・メイリン・・・オレは・・・!」
裏切りと逃走を図った相手に、シンは歯がゆさを募らせていく。そこへ遅れて、レイの搭乗したレジェンドが駆けつけてきた。
「やったか、シン・・・」
レイが呼びかけるが、シンは困惑したまま応答しない。
「お前は裏切り者を撃ったに過ぎない・・お前が気に病む必要はない・・」
「レイ・・・」
「戻るぞ・・議長が待っている・・・」
レイはシンに呼びかけると、ジブラルタルへと戻っていく。アスランとメイリンを撃墜したことへの後ろめたさを抱えたまま、シンも撤退していった。