GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-49「世界の果てで」
ジンの殺意に呼応したかのように、紅い光を放出していくフェイス。ヴァルカスがフェイスに向かって飛びかかっていく。
ヴァルカスがフェイスにビームソードを振りかざす。だがフェイスのストライクセイバーに軽々と防がれた。
(どういうことだ!?・・ヴァルカスの攻撃が一瞬鈍った・・!?)
攻撃の異変に目を疑ったバーン。ヴァルカスがフェイスに弾かれて後ろに押される。
「どこまでも理解できない機体だ、アイツは・・・!」
バーンが毒づきながら、紅い光を弱めていくフェイスを見据える。
「それでも、私はお前を倒す・・ヴァルキリーの理想郷のために・・・!」
バーンはまた意思を強めて、ジンのフェイスに向かっていった。
1度クレストに戻ったアルバ。彼は整備を終えたフューチャーで、リリィ、マリアと一緒に再び出撃しようとしていた。
「ソワレくんは今も衛星兵器の破壊を続けているわ。でもソワレくんの負担が増してきているのも確か・・」
「死なせるわけにはいかない。たとえオレを倒すべき敵だと認識しているソワレでも・・」
マリアとアルバが言いかけて、リリィも頷く。
「展開されていた衛星も残り2機。アルバは1機をお願い。私とマリアさんでもう1機を。」
「分かった、リリィ。こっちは任せろ。」
「了解。2人とも気を付けて。」
リリィの呼びかけにアルバとマリアが答える。フューチャー、ソリッド、ルナがクレストから発進していった。
地球とプラネットGを狙うオーディンは、残り2機に追い込まれていた。2機を守ろうと、スナイパーが防衛線を張っていく。
だがソワレの駆るゼロの繰り出すトラスカリバーで、スナイパーが次々に撃退されていく。
「お前たち、それは平和を導くものではなく、世界を破壊するものでしかない!」
ソワレが呼びかけるが、スナイパーは引き下がろうとしない。
「お前たちは、そうまでして世界の破壊者になりたいのか!?」
ソワレが言い放ち、ゼロが右足を振りかざしてビームブレイドでスナイパーをなぎ払っていく。
「やはりゼロ・・手ごわい・・だが・・!」
「ここで引き下がるわけにはいかない・・オーディンは、ヴァルキリーの希望だ・・!」
スナイパーのパイロットたちは、ソワレのゼロから引き下がろうとしない。スナイパーたちがゼロに向かって特攻を仕掛ける。
その先頭のスナイパー2機が、突然横からのビームに貫かれて爆発した。
「これはルナの・・マリアさん!」
ソワレが視線を移すと、マリアのルナがリリィのソリッドと一緒に駆けつけてきた。
「ソワレさんは下がって!私とマリアさんが攻めるから!」
「リリィさん・・だけどあなたたちだけじゃ・・!」
呼びかけるリリィにソワレが言葉を返す。
「性能ではゼロには敵わないけど、戦力にならないわけじゃないわ。ここは私とリリィさんに任せて。」
「マリアさん・・1度クレストを護衛しつつ後退します。2人も危険と判断したら、深追いせずに下がるように。」
「分かったわ、ソワレくん。お互い、気を付けましょう・・」
マリアとソワレが言葉を交わして、それぞれ行動を起こす。
「ここからは私たちがその衛星を壊させてもらうわ!」
リリィが言い放ち、ソリッドとルナがオーディンに向かってスピードを上げる。スナイパーたちが2機を食い止めるため迎撃に出る。
だがソリッドが振りかざすビームサーベルとルナの放つレールガンで、スナイパーが次々に撃退されていく。
「そこをどきなさい!地球にもプラネットGにも、あんなものを撃たせるわけにはいかないのよ!」
リリィが言い放ち、ソリッドがさらに切り込んでいく。そしてソリッドとルナのメインカメラが、オーディンの姿を捉えた。
「リリィさん、離れて!」
マリアが呼びかけて、リリィが反応してソリッドが横に離れる。ルナがレールガンを発射して、スナイパー数機ごとオーディンを撃ち抜いた。
オーディンがビームを次に発射できないまま、爆発を起こした。
「そんな・・オーディンが・・・!」
オーディンが残り1機となって、スナイパーのパイロットたちの中に絶望を覚える人たちが出てきた。
「おのれ、リード・・お前たちがいなければ!」
パイロットたちが激高して、スナイパーたちがソリッドとルナに向かって特攻を仕掛けてきた。
「ホントにしつこいんだから!」
リリィが不満の声を上げて、ソリッドがビームサーベルを振りかざし、さらに左手でビームライフルを手にして発砲していった。
紅い光を宿したフェイスに、ヴァルカスが対峙する。ヴァルカスがビームソードを構えて徐々に距離を詰め、バーンが攻撃に対応できるようにしていた。
「スバル、今度こそ・・今度こそお前を!」
ジンが戦意と殺気を研ぎ澄ませて、フェイスがヴァルカスに向けてストライクセイバーを振りかざす。ヴァルカスが素早く横に動いて、ストライクセイバーの一閃をかわす。
「よけるな!」
ジンが怒号を放ち、フェイスが振り下ろしたストライクセイバーを強引に横に振り抜く。バーンが反応し、ヴァルカスが振り向きざまにビームソードを振りかざしてぶつけ合う。
「防ぐな!」
「お前の言葉は聞き入れないぞ、ジン・シマバラ!」
ジンとバーンが叫び、フェイスとヴァルカスが右足を振りかざす。ヴァルカスの右足からはビームブレイドが発せられており、フェイスの右足を切り裂けるとバーンは判断した。
しかしフェイスの右足には、胴体から放出されていた紅い光をまとっていた。右足の紅い光は刃となってヴァルカスのビームブレイドを相殺した。
「ぐっ!」
フェイスとヴァルカスが突き飛ばされて、ジンとバーンが衝撃に襲われてうめく。2機が踏みとどまって体勢を整える。
「ありえない・・胴体から出た光で攻撃を跳ね返しただと・・・!?」
フェイスの発揮した力への疑念を募らせていくバーン。フェイスの力が機械や兵器の機能の領域をはるかに超えていた。
「どのような小細工をしてこようと、私はお前を必ず葬る!その不可思議な力ごとねじ伏せるまで!」
バーンが意思を強めて、ヴァルカスが一気にスピードを上げて動き出した。だがジンはヴァルカスの動きを感じ取っていた。
「逃がさない・・お前は絶対に逃がさない!」
ジンが叫び、フェイスが紅い光を放ちながらヴァルカスを追っていく。
「逃げるなと言っているのが分からないのか!?」
ジンがバーンに向けてさらに殺気をむき出しにする。彼が伸ばしているかのような勢いで、フェイスがヴァルカスに向けて右手を伸ばしていく。
「ジンのプレッシャーだというのか、この感覚・・・!?」
迫るジンのフェイスに気圧されそうになり、バーンが緊迫に襲われていく。
「それで私を退けることはできない!世界に平和をもたらすこともできない!」
「お前たちのようなのがいるから、平和が来ないんだろうが!」
言い放つバーンにジンが怒鳴り返す。フェイスとヴァルカスがストライクセイバーとビームソードをぶつけ合っていく。
「オレは・・世界を狂わせていく敵を倒す・・どんなことになろうと!」
ジンの強い意思に呼応するように、フェイスから紅い光が強く解き放たれた。その瞬間、ジンが再び精神世界に入り込んでいった。
(またこの世界・・この感じ・・今度は何がオレを・・・!?)
疑問と警戒を強めていくジン。彼の精神の前に現れたのはミナとミリィだった。
「ミナ・・ミリィ・・・!」
「ジン・・私はいつまでも、ジンのことを見守っているから・・信じているから・・・」
戸惑いを覚えるジンに、ミナが呼びかけてくる。
「ジンが、みんなのことを思って行動する性格をしているのは、私もよく知っているよ・・」
「だから、ジンが後悔しないようにして・・後悔したら、ジンはジンでなくなってしまう・・・」
ミナに続いてミリィもジンに声をかけてきた。
「もうジンは弱くない・・守ることも自分のしたいこともできる力を持っていて、自分でその力の使い方を決めている・・」
「ジンはジンの道を進んで・・私たちはもう世界にはいないけど、ジンが、ジンの願っていた平和を作ってくれるなら・・・」
「ミナ・・ミリィ・・・」
ミナとミリィが投げかけてきた言葉に、ジンは心を揺るがしていく。
「オレはもう止まらない・・オレはオレが願った平和をつかむために戦う・・・」
「ジン・・・それでこそ、ジンだよ・・・」
決意を口にしたジンに笑顔を見せるミリィ。するとミナとミリィが淡くなってジンから遠ざかっていく。
「ミナ・・ミリィ・・・オレは・・・」
「ジンの目指す平和な世界に、私も行きたかった・・・」
消えていったミリィとミナを、ジンは見守り続けた。彼は無意識に目から涙を流していた。
精神世界から現実へと意識を戻したジンが、バーンの乗るヴァルカスに視線を戻す。
「平和な時間を過ごしたかったミナとミリィ・・その悲しみを、オレはアイツに、スバルにぶつける!」
ジンが言い放ち、フェイスが紅い光をあふれさせながらヴァルカスに向かっていく。
「ジン・シマバラ、私はお前を葬って、理想郷にたどり着く!」
バーンも言い返して、ヴァルカスもスピードを上げる。ストライクセイバーとビームソードがぶつかり合って火花を散らしていく。
(力はお前が上のようだが、速さはヴァルカスが上・・当たらなければ、高い力も無意味でしかない・・・!)
バーンが思考を巡らせて、徐々に勝利を確信に近づけていく。
(そしてビームサーベルを合わせたこのビームソードには力もある。お前のその胴体を確実に貫くことは十分可能・・たとえその不可思議な力を使ってこようと・・・!)
バーンが感覚を研ぎ澄ませて、フェイスの動きを追っていく。彼の視線がフェイスの機影を捉えた。
「これで終わりだ、ジン・シマバラ!」
バーンが言い放ち、ヴァルカスがフェイス目がけてビームソードを突き出した。バーンはフェイスを確実に攻撃を当てられると確信した。
だがビームソードに貫かれたフェイスが、その瞬間に紅い光になって散った。
「何っ!?」
フェイスが消えたことにバーンが目を疑う。彼は自分の目、さらにヴァルカスのレーダーでフェイスの行方を追う。
「バカな・・ジンを見失った・・・!?」
目でもレーダーでもジンのフェイスを捉えることができないバーンとヴァルカス。
「近くにいるはずだ・・ヤツが腰抜けするようなヤツでないことを、私は痛感させられている・・・!」
さらに集中してジンを探し、バーンが上空を見上げた。その先に紅い光を放っているフェイスがいた。
「姿かたちがある・・レーダーもあの機体の熱源を捉えている・・確実にそこにいる!」
フェイスの居場所を確信して、バーンがヴァルカスを動かしてフェイスに向かっていく。
「もう逃がしはしない!回避も防御もさせない!確実に・・!」
バーンが感覚を研ぎ澄ませ、ヴァルカスがバーンに向かっていく。
「確実に倒す!」
バーンが叫び、ヴァルカスがビームソードをフェイスに突き出した。
だがビームソードを当てられた瞬間、またフェイスの姿が紅い光になって消えていった。
「バカな!?ジンはそこにいたはず!残像が熱量を持つはずがない!」
驚愕を募らせるバーン。フェイスの力はジンの感情に強く呼応して、常軌を逸したものとなっていた。
「ありえない・・こんなMS、認められるはずがない・・・!」
“体を通して出る力なんだって・・”
愕然となっているバーンの脳裏に声が響いてきた。
(何だ、この声!?・・私がこのようなものに惑わされるとは・・・!)
響いてきた声に冷静さを揺さぶられていくバーン。フェイスの不可思議な力を前にして、彼は今まで封じ込めてきた動揺を覚えるようになっていた。
“あの光、ジンの心が出しているものだよ・・ジンはジンなりに平和を求めてるみたい・・”
「世迷言を・・私を惑わせようとして・・・!」
伝わってくる声を振り払おうとするバーン。彼の視界にフェイスの姿が入ってきた。
「小賢しいまやかしで私から逃れようとしてもムダだ・・私はここで貴様を倒す!」
「倒されるのはお前のほうだ、スバル!」
声を振り絞るバーンに、ジンが言い返す。フェイスとヴァルカスがエクスカリバーとビームソードを構えて、最高速で飛びかかる。
2機の持つ光の刃。その先端がぶつかり合って、まばゆい閃光をきらめかせた。
ヴァルカスがフェイスよりパワーを上回っていると、バーンは今も確信していた。
“もういいよ、スバル・・”
そこへまた声がバーンの脳裏に響いた。バーンは声に揺さぶられないように、感覚を研ぎ澄ませていた。
“スバルが誰かを傷つけるのを、あたし、もう見たくない・・”
バーンを1人の幻影が優しく抱きしめてきた。それはバーンに殺されたフィーアだった。
「放せ!私の邪魔をするな!」
「するよ!・・だってこんなの、スバルが望んでたスバルじゃないもん・・・!」
「私はバーン・アレス!ヴァルキリーのためだけに存在している・・!」
「何度でも言うよ!アンタはスバル!あたしのボーイフレンドのスバル・アカボシ!」
振り払おうとするバーンと、彼にすがりつくフィーア。
「私は理想郷を築く!レイア様が目指している平和な世界を!」
「やめてったら、スバル!」
前に手を伸ばすバーンを、フィーアが強く抱きしめる。
「スバル!」
ジンが叫び、バーンのヴァルカスに向かってフェイスが飛び込んで、ストライクセイバーを突き出してきた。
「オレはお前を倒し、世界を狂わせる敵を倒す!オレは敵を、絶対に許しはしない!」
ジンが言い放ち、フェイスのストライクセイバーがヴァルカスの胴体を貫いた。フェイスはそのままヴァルカスを押し込んで、その先の隕石に叩きつけた。
「バカな・・まだ、理想郷を実現させていないのに・・ジンを倒せていないのに・・・!」
バーンが使命を果たそうとして、さらに前に手を伸ばす。その先にいるジンに対して、バーンは目を見開いた。
ジンのそばにはミナ、ミリィ、カナの幻影があった。
「これは・・・!?」
目を見開くバーン。彼が身に着けていた仮面が壊れて、素顔が現れる。
(ジン・・僕は、お前を・・・)
バーンが不意に心の声を上げる。彼の中に、スバルの自我が戻ってきていた。
(僕は・・君を怒らせてしまったのか・・・最悪だ・・・)
本当の自分を取り戻したスバルは、バーンとして行った自分の行為に自責を感じていく。
(僕は知っている・・ジンも平和を求めていたことを・・そのために戦っていたことも・・戦いを嫌っていた僕の代わりをしようという意味もあったのかもしれない・・・)
ジンの心と怒りを感じ取っていくスバル。押し寄せてくる光の中で、彼はバーンとしての戦意を消していく。
(ジン・・ゴメン・・僕は、君を・・・)
「もういいよ、スバル・・あたしは、スバルを許すよ・・・」
自分を責めるスバルに、フィーアが囁きかけてきた。
「これからは、スバルとずっと一緒だからね・・もう離れないからね・・」
「フィー・・ゴメン・・ありがとうね・・・」
笑顔を見せてきたフィーアに、スバルが優しく寄り添った。
「ジン・・君は行くんだよね・・君が願ってきた、平和な世界へ・・・」
ジンへの思いを秘めて、スバルがフィーアの面影と一緒に光の中に消えていった。
フェイスのストライクセイバーに貫かれて、ヴァルカスは爆発を起こした。呼吸を乱していたジンは、スバルがバーンとしての人格を払拭したことに気付いていなかった。
「ミリィ・・これで、お前は安心できる・・・」
ミリィが安息できると思って、ジンは笑みを浮かべていた。
「これで・・やっとひと息つける・・オレは体を休められる・・・」
心の底から安堵を感じていくジン。次の瞬間、彼は意識を失った。
紅い光を消して、フェイスが宇宙の中を流れ出した。ジンが気絶したことで、フェイスは戦闘行動を停止していた。
「ジン!」
そこへやってきたのは、カナの乗ったブレイズだった。グレイヴから受けた損傷が修繕されていなかったブレイズだが、カナはムチャを承知でジンの救出のために発進したのである。
ブレイズが流れていたフェイスを受け止めて支えた。
「ジン、大丈夫!?返事して、ジン!」
ジンに呼びかけるカナ。フェイスはブレイズに連れられて、1度クレストに戻っていった。
次回予告
戦争は終わったのか?
ジンの戦いは、本当の終わりを迎えてはいなかった。
世界を狂わせている大敵の数々。
ジンの平和への戦いは、まだ終わらない。