GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
FINAL PHASE「果てしなき信念」
オーディンは全て撃破され、地球とプラネットGの危機は免れた。
クレストをはじめとしたリード、フューチャーとソリッド、フェイスとブレイズの攻防で、ヴァルカスをはじめとしたヴァルキリーのMSや戦艦は全て撃退された。
実質、ヴァルキリーは壊滅に陥った。
そしてその戦いを終えて、ジンはフェイスのコックピットで意識を失った。
深い眠りについていたジンが目を覚ました。視界に入れた天井に、彼は見覚えがあった。
「ここは・・・あの隠れ家の・・・」
「ジン・・・!」
体を起こそうとしたジンに喜びの声をかけていたのは、そばについていたカナだった。
「ジン・・よかった、目が覚めて・・このまま起きないのかなって思うようになっちゃったよ・・・」
「カナ・・・オレはどうなったんだ?・・なぜオレがここに・・?」
「あの戦いから1週間だったんだよ・・診察してからここに戻ってきたの・・」
「1週間・・スバルは・・!?」
「ジンが、あのMSを倒した途端に気絶したみたい・・私が来たときには、ジンは意識がなかった・・きっと、フェイスのエネルギーの影響を受けすぎたんだと思う・・」
カナの説明を聞いて、ジンが記憶を巡らせる。彼はうっすらだが、自分がスバルを手にかけたことを思い出していた。
「やっと・・スバルを倒したのか、オレは・・・」
「ジン・・スバルさんは、もう“スバルさんには”戻れなかったのかな・・?」
「関係ない・・アイツはもう、オレの敵になった・・オレはアイツを許すつもりはない・・・」
「ジンの敵になった人は、どこまで行っても敵なんだね・・・」
憮然とした態度で言いかけるジンに、カナが物悲しい笑みを浮かべる。
「それで、他の連中はどうなった・・・?」
「地球連合はヴァルキリーにやられてからまだ復旧が進んでない。リードは非常線を張りながら、ヴァルキリーの残党を追ってる・・」
「アルバたちは?・・ここに戻ってきているのか・・?」
ジンがさらにカナに問いかけてきたところで、アルバとリリィが部屋に入ってきた。
「気が付いたか。フェイスの使い過ぎで命を落としてしまったのかと思ってしまったぞ・・」
「オレは死なない・・オレを陥れたヤツらと心中するつもりはない・・」
声をかけるアルバに、ジンが自分の意思を口にする。
「それならいいが、今は体を休めておいたほうがいい。フェイスを長く動かしていたことで、体力も精神もかなり消耗したからな。」
「お前の指図は受けない・・オレはオレの考えで・・ぐっ・・!」
呼びかけるアルバに言い返すジンだが、体に痛みを感じて動けなくなってしまう。
「ジン、まだ動ける体じゃ・・!」
カナが心配の声をかけるが、ジンはベッドから起き上がろうと必死になっていた。
「今、世界は戦争の鎮静化に向けて動いているわ。これからは旧人類もオメガも、世界全体の敵に立ち向かうために協力していく姿勢を取っていくことになりそう・・」
リリィも世界の動きを説明していく。平和に向けて動きを見せつつある世界だが、ジンは納得していなかった。
「それでも・・まだ世界を狂わせている敵がいる・・・」
「ジン・・それって、あのとき、ジンが攻撃したような・・・」
ジンの考えを悟って、カナが困惑を覚える。
自己満足、身勝手、エゴイスト、そういった様々な行為や人間をジンは強く憎んできた。敵と認識している人物が、自分の人生だけでなく、世界そのものをも狂わせていると、彼は考えていた。
「もしかしてあなた、世界そのものを敵に回すつもりじゃ・・!?」
リリィがジンの考えを察して緊張を覚える。
「敵に回しているのはヤツらのほうだ。自分たちのやっていることが世界を狂わせていることに、ヤツらは気づこうともしていない・・野放しにしてやるつもりはない・・!」
「ジン・・・」
世界の敵に憎悪を抱いているジンに、カナは戸惑いを感じていた。
「これから何をしようと、今は休め。お前はフェイスで戦うたびに死にかけてきたんだからな・・」
アルバはジンに呼びかけてから、部屋を出ようとする。だが出入り口に差し掛かったところで、1度足を止めた。
「どんな理由であろうと、オレたちの命を脅かしてくるなら、オレたちはお前とも戦うことになるだろう。それは覚悟しておけ・・」
ジンに忠告を送ってから、アルバは改めて部屋を後にした。
「私たちは外にいるから・・カナさん、ジンくんをよろしくね・・」
「はい、分かりました・・ありがとうございました、リリィさん・・」
言いかけて部屋を出るリリィに、カナが感謝を言った。
「行動を起こすにしても、もう少し休んでからのほうがいいよ・・休むことも戦うことだよ・・」
「仕方がない・・今はどこも大きな動きをしていない・・動き出すのは、敵の居場所を見つけてからだ・・」
囁きかけるカナに答えて、ジンはおとなしくベッドに横になった。休息を取る彼に、カナは安堵の笑みを浮かべていた。
ジンたちのことをリンたちに話してから、リリィはソワレとマリアに連絡を取っていた。
“ジン・シマバラが意識を取り戻したのね・・”
“ジンはヴァルキリーとは別の、世界を震撼させる存在だ。喜んでいいことじゃないんだけど・・”
リリィの報告を聞いてマリアが頷いて、ソワレが腑に落ちない面持ちを浮かべていた。
「それで、ソワレさんとマリアさんはこれからどうするの・・?」
“どうもしない。僕たちはリードのパイロット。次の任務があればそれを遂行するだけだ。”
リリィの問いかけにアルバが真剣な表情を見せて答える。
“リリィさん、あの2人を見張って、外に出さないでもらいたいの。外に出したら何をするか分からないからね・・”
マリアがリリィに向けて忠告を送る。
「私もそうしたいと思っているけど・・言うことを聞く考え方をしていないし・・」
ソワレ、マリアと一緒にリリィがジンの言動に不安を感じていた。
“期待しないで任せることになりそうね・・お互い、覚悟しておきましょう・・”
「はい・・それではもう少ししてからまた連絡します・・ではまた・・」
“えぇ・・それでは・・”
リリィはマリアとソワレとの連絡を終えて、通信を切った。彼女が振り返ると、リンが深刻な面持ちを見せてきた。
「ジンくんの話をしてたんだね・・」
「ジンくんがこのままフェイスに乗り続けたら、どうなるんですか・・・?」
言いかけたリンに、リリィが深刻な面持ちを見せて問いかける。
「今まで乗ってきて命があるだけでも奇跡だったからね。ちゃんとした結論を出すことはできないね・・」
気さくに答えていって、リンも表情を曇らせていく。
「乗り続けても大丈夫とは言えないね。フェイスは精神的負荷が大きい。何の後遺症も出ないほうが不思議に思える・・」
「リンさん・・・」
「遅かれ早かれ、命を落とすか、植物人間になるかするだろうね・・」
リンが口にした言葉を聞いて、リリィが緊張を膨らませる。
フェイスからの死の宣告を突きつけられても、ジンは敵と倒す戦いをやめようとせず、死に直面しても生き残ろうとする強い意思と願いを持っていた。
「もう自業自得にさせるしかないかも・・」
「とにかく、これからはきちんと様子を見ておく必要があるかもしれないです・・」
確固たる対策を練ることができないまま、リリィたちはジンとカナに細心の注意を払うことになった。
それからまた1週間がたったときだった。アルバとリリィが目を向けていたにもかかわらず、ジンとカナがフェイスとブレイズに乗って出ていってしまった。
「やられたわね・・分かりきってたことなのに、フェイスを持ってかれた・・」
リンがジンたちの出発に滅入っていた。レーダーで探りを入れたが、フェイスもブレイズも捉えることができなかった。
「追ったほうがいいかな?・・このままじゃ何をするか分からないわ・・」
「いや、今追ったところで追いつくまで何もしない保障はないだろう・・」
リリィが言いかけると、やってきたアルバが呼び止めてきた。
「オレたちや他の誰もが捜索をしたところで、見つけたときには後の祭りになるだけだ・・」
「悔しいけど、2人が何かやらかさないと居場所を突き止められないんだよね・・」
アルバが呟き、リンが肩を落とす。彼らがジンとカナのことで悩まされていたときだった。
「リンさん、大変です!ジンくんとカナちゃんが・・!」
そこへミルが慌てて駆け込んできて、足をつまずいて転びそうになる。
「落ち着いて、ミル・・まさか・・・!?」
注意を投げかけるリリィが、恐れていた事態を痛感して緊張を膨らませた。
ヴァルキリーの壊滅で混迷していた世界は徐々に平穏を取り戻しつつあった。ヴァルキリーの考えに共感している人がいる中、世界の上層部はその考えを封じ込めようとする考えを強めていた。
「ヴァルキリーのために、世界は大きな混乱に襲われた。世界には、まだヴァルキリーのやり方に賛成している声もある・・」
「バカげたことを。あのような連中が正しいはずがないというのに・・」
「他の連中が何を言おうと何をしようと、我々の示す考えは何の変わりもない。」
頑なな意思を示そうとする上層部。彼らは自分たちに反する異端分子を一掃することも視野に入れていた。
「早速そのように手配を。我々に不利になるような火種は全て取り払う。」
上層部が考えをまとめて、会議室を後にしようとした。
「こちらにMSが2機接近しています!」
「MSだと!?」
飛び込んできた兵士からの報告を聞いて、上層部の議員たちが声を荒げた。次の瞬間、彼らのいた会議室の天井と壁の半分が破壊され、議員たち数人が吹き飛ばされて負傷した。
「何事だ!?そのMSの仕業か!?」
声を荒げる議員たち。崩壊した会議室の外にいたのは、ジンの乗っているフェイスだった。
「あれは、ヴァルキリーを討ったMSの1機・・!」
「なぜ、その機体が我々の前に・・!?」
驚愕を見せる議員たちに、フェイスがストライカーの1機を向ける。
「お前たち全員、この手で叩き潰す・・・!」
フェイスにいるジンが議員たちに向けて呼びかけてきた。
「何のマネだ!?ヴァルキリーを打ち倒したフェイスが、我々に牙を向くのか!?」
「そんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
ジンの行為に議員たちが憤慨して怒鳴ってくる。
「我々に何かあれば、世界はまた混乱に陥る!貴様はそれを望むというのか!?」
「世界を混乱させているのはお前たちだろうが!」
議員たちに激高して怒鳴り返すジン。フェイスがストライカーからビームを発射する。
「うわあっ!」
ビームに巻き込まれて議員たちが消滅した。残った議員たちが緊迫と苛立ちを募らせていく。
「ふざけるな!我々は常に世界を正しく導こうとしている!その我々に牙を向くことは、お前は世界を敵に回すことになるのだぞ!」
追い込まれているにもかかわらず、議員たちは悪ぶれた様子も見せない。
「我々でしか世界を平和という形でまとめることができん!貴様がしているのは、その唯一無二の希望を奪う悪行・・!」
議員たちの言葉にジンの怒りが頂点に達した。フェイスが2本のストライカーを組み合わせて、ストライクセイバーを振り下ろした。
議員たちのいたビルが彼らごとフェイスに一閃された。
「もう聞き飽きているんだよ・・お前たちの思い上がった戯言は・・・!」
炎上するビルを見つめて、ジンが憤りを噛みしめる。煙が立ち上る空にいるフェイスに、カナの乗るブレイズが駆け寄ってきた。
「ジン、大丈夫・・・?」
「まだだ・・まだ世界には、世界をかき乱す敵がいる・・・」
声をかけるカナを気に留めず、ジンはフェイスを駆って移動した。カナもブレイズを動かして彼を追う形で動き出した。
それからジンとカナはフェイスとブレイズを駆使して各国の首脳陣に次々に攻撃を加えた。ジンは彼らが世界を狂わせている敵だと認識して、頑なな意思を示す彼らを手にかけていった。
彼らの行動を世界を脅かす暴挙であると、リード上層部は判断した。
ジンのフェイス、カナのブレイズの追跡、迎撃に向けて、リードは動き出すことになった。
攻撃に出てきたジンとカナを追って、リードの1部隊が駆けつけてきた。
「お前たち、止まれ!これ以上の攻撃は許さんぞ!」
部隊の隊長が呼びかけると、ジンのフェイスが振り返ってきた。
「勝手な連中の味方をするつもりか・・!?」
ジンが声を振り絞り、フェイスがストライカーを手にして、ビームの刃を発する。
「敵の味方をするなら、お前たちもオレの敵だ!」
ジンが言い放ち、フェイスが部隊のザク、グフに向かっていく。ビームライフル、ビームウィップで応戦するが、ザクもグフもフェイスの高い機動力とストライカーによって撃墜されていく。
「速い!」
フェイスの戦闘力に部隊のパイロットたちが驚愕する。ゆっくりと振り返ってくるフェイスに、彼らは緊迫を募らせていく。
「悪魔だ・・こんなの、ザクでは明らかに力不足だ・・・!」
「それでも止めなければ・・野放しにすれば、また世界が・・!」
部隊は引き下がろうとせず、フェイスを止めようと全てを賭けて向かっていく。
「そうまでして・・そうまでして世界をムチャクチャにしたいのか!?」
激高したジンが殺気をむき出しにする。フェイスがザク、グフたちに向かって飛びかかり、ストライカーを振りかざす。
さらにフェイスがストライカーを組み合わせて、ストライクセイバーにして振り下ろす。巨大な光の刃になぎ払われて、部隊が一掃された。
「敵の味方をするな・・自分たちのやっていることが、世界をムチャクチャにしていることにつながっていると、なぜ分からない・・・!」
フェイスのコックピットで、ジンが憤りを拭えないまま息を荒くする。
「ジン・・・」
追いついてきたブレイズの中で、カナがジンに対して戸惑いを感じていた。
「行くぞ、カナ・・・」
「ジン・・・うん。」
ジンに声をかけられて、カナは落ち着きを取り戻して頷く。灰色の煙が立ち上る海上から、フェイスとブレイズは移動を再開した。
それからジンとカナは、フェイスとブレイズを駆って、世界の上層部を次々に攻撃した。迎撃に出てきた軍の部隊も、フェイスとブレイズの力に返り討ちにされた。
ソワレのゼロ、マリアのルナと交戦することがないまま、ジンの世界への攻撃を始めてから1ヶ月がたった。
ジンたちの世界への攻撃が突然途絶えた。地球連合、リードは緊張を拭わずにジンとカナの捜索を行ったが、2人を見つけられていない。
アルバ、リリィたちもジンたちの行方を追っていたが、発見に至らず連絡も取れなかった。
世界の上層部の多くを攻撃してきたジンとカナ。2人は静寂な草原にある小屋にいた。
ジンはベッドで横たわり、カナは彼のそばについていた。カナは眠り続けているジンの介抱をしていた。
フェイスに乗り続けて精神力を消耗したのか、休みなく戦ったことで体力を消耗しただけなのか、カナには判断できなかった。
「ジン・・今はゆっくり休んでて・・起きたら、また戦いに行くんだからね、ジンは・・・」
カナが囁くようにジンに呼びかける。
「ジンはホントに、幸せな時間、幸せな世界がほしかっただけだったんだよね・・誰かのエゴで誰かが苦しむなんて、あっちゃいけないって思ってるんだよね・・・」
ジンの考えを口にしていくカナ。2人のいる部屋に涼しい風が入り込んでくる。
「ジン・・ジンは今、幸せの中にいるのかな・・・?」
問いを投げかけるカナだが、ジンは眠ったままである。
「ジンが心から納得できたときが、ジンの幸せのときなんだね・・・」
微笑みかけるカナが、ジンに優しく寄り添った。
「今は休んで、ジン・・ジンが目を覚まして、また戦いに出ることになったら、私も一緒に行くから・・・」
ジンへの思いを募らせて、カナも目を閉じた。次の戦いのときまで、2人は束の間の休息を過ごすのだった。
平和、平穏な時間を過ごすため、青年は体も心も傷つく戦いに身を投じた。
何にも屈することなく、自分の信念を貫き、自分の追い求めた平和な世界を目指してきた。
1人の青年の悲惨な願いが、世界を大きく揺るがした。