GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-47「ユウ」
カナのブレイズとユウのリヴァイバー。2機のMSがスピードのある銃撃戦を繰り広げていた。
(そんな・・ブレイズがこんなに速く動けるはずがない・・・!)
ライフルのビームをブレイズに当てられないことに、ユウが焦りを覚える。
(僕はリヴァイバーのパイロットになる前は、ブレイズやスナイパーの整備を続けていた・・ブレイズのことは、ジンやカナに負けないくらいに分かっているつもりだ・・!)
思考を巡らせながら、ユウはさらにカナのブレイズを射撃していく。しかしビームをブレイズに当てることができない。
(もしかして、焦ってる!?・・カナのことを気にして、迷ってるのか・・・!?)
ユウが動揺を募らせて目を見開く。
(迷うな!・・迷ったらいけない・・ここで迷ったら、もう2度と、カナを連れ戻せなくなる・・・!)
自分に言い聞かせて、ユウが戦いに集中しようとする。リヴァイバーがもう1つのビームライフルを手にして、ブレイズに向けて連射する。
射撃速度が倍加して、ブレイズは回避が間に合わなくなり、ビームサーベルとシールドで防ぐようになっていく。
「ビームライフル2つによる攻撃じゃ、かわしきれなくなってきた・・ジンやアルバさんだったら、簡単にかわせていたし、強引にビームを弾くこともできた・・」
ユウのリヴァイバーに追い込まれて、カナも焦りを募らせていく。
「私もやらないと・・ジンについていく生き方を選んだんだから・・たとえ傷つくことになっても・・・!」
カナが覚悟を決めて、ブレイズが戦闘機型に変形して、リヴァイバーに向かってスピードを上げてきた。
「それじゃハチの巣にされるだけじゃないか!」
ユウが声を上げて、リヴァイバーがビームライフルを発砲する。だがブレイズは素早く横に動いてビームをかわし、さらにビームを放ってリヴァイバーを狙う。
「くっ!」
ユウが毒づき、リヴァイバーが射撃を中断して飛翔して、ブレイズの突撃をかわす。直後にリヴァイバーも戦闘機型に変形して、ブレイズを追撃する。
「スピード戦でもブレイズよりリヴァイバーのほうが上だ!」
ユウが言い放ち、ブレイズの動きを見計らう。ブレイズとリヴァイバーがスピードを駆使してビームを放っていくが、互いにスピードでビームをかわしていく。
(僕は平和の世界のために頑張ってきた・・整備士として働く一方でMSの操縦も訓練して、やっとパイロットになって、今こうしてリヴァイバーを動かしているんだ・・・!)
ユウは心の中に、ヴァルキリーの一員になるときを思い返していた。
最初、これが夢だと思い込もうとしていた。
僕が戻ってきたとき、家は跡形もなくなっていて、灰と煙ばかりが残っていた。
この日は父さんも母さんも休みで、ずっと家にいた。この悲劇に巻き込まれて命を落としたと思うしかなかった。
全部戦争が起こしたことだった。戦争がなかったら、父さんも母さんも死ななくて済んだ。
自分の手で戦争を終わらせられないことが悔しかった。たとえ直接でなくても、平和への貢献がしたかった。
旧人類もオメガも関係ない。地球連合にもリードにも加わりたくなかった。この戦争を引き起こした張本人だったから。
途方に暮れていた僕に声を開けてくれたのが、ヴァルキリーの人たちだった。
連合にもリードにも属さず、平和のために戦おうとしているヴァルキリーに、僕は共感した。
僕は機械の扱いは手馴れていた。MSといった武器や兵器を扱ったことはなかったけど、ヴァルキリーの整備士としてすぐに馴染むことができた。
当然ヴァルキリーにはパイロットがいた。スナイパーやそれ以上の性能を備えた専用機を乗りこなしていくみんなに対して、僕は憧れとうらやましさを感じていた。
僕もみんなのようにMSを扱ってみたい。そう思って、僕は整備士の仕事をする一方で、MSの操縦の訓練をしていった。
ヴァルキリーに加わってから少したってからだった。
専用のスナイパーに乗っている女の子を見かけるようになった。みんなを明るくする笑顔を見せていた彼女だが、ひどく苦い経験をしているのを隠していることに、僕は気付いてしまった。
彼女の力になりたいと、僕は思うようになっていた。僕1人で何とかできるなんて調子のいいことだと思いながらも、何とかしてあげたいと思っていた。
それから少ししてから、1人の男の人がやってきた。
見るからに冷めている感じで、周りを寄せ付けない雰囲気を出していた。僕たちと同じ理由でヴァルキリーに入ってきたんだということは分かっていたけど、聞いても答えてくれないとも思っていた。
あくまで自分のためだけに戦っていた彼だけど、力はヴァルキリーの中でも飛び抜けていた。彼の乗ったブレイズが、次々に連合やリードのMSを落として、強い相手とも互角以上に渡り合っていた。
僕の頭に、カナとジンのことが完全に焼き付いてしまった。僕がパイロットとなって戦いに出るなんて、夢のまた夢だと思い知らされた。
それでも僕は訓練を続けた。やらないと今までの努力がムダになってしまうと思っていたから。
ヴァルキリーの戦いや整備士の仕事を続けていく中、この出来事は突然起こった。
ジンが裏切り者として処罰されそうになったこと、カナがそのジンを連れてヴァルキリーから逃げ出したこと。
僕はどうしたらいいのか分からなかった。ジンとカナを裏切り者として簡単に切り捨てることができなかった。
そんな迷いを抱えたまま、僕はリヴァイバーを与えられた。やっとMSのパイロットとして戦えるのだと思いながらも、僕はジンとカナのことを気にして素直に喜べなかった。
それでも平和な世界を作らないとって思って、僕はリヴァイバーで戦っていった。いつかカナもその平和な世界に連れて行けることを信じて。
でも僕の前に立ちふさがったのは、ブレイズに乗ったカナだった。
どうして平和の敵になったんだ?
平和のために戦ってきた僕たちが、どうして戦わなくちゃいけないんだ?
何度も呼びかけたけど、カナは僕が目指しているのは平和じゃないと言ってきた。
地球連合やリードといった、自分たちのためだけに力を振るうヤツらのいない世界こそが平和な世界。
いくらカナの言葉でも、僕たちの目指す平和を否定するようなことを受け入れることはできなかった。
たとえカナを傷つけることになっても、僕はカナを平和な世界に連れて行く。
カナにこれ以上辛い思いを抱えてほしくない。
だからもう僕は、戦うことを迷わない。
スピードを駆使した射撃を繰り返していくブレイズとリヴァイバー。交戦していく中で、ユウは徐々に迷いを消していく。
(スピードもパワーも、ブレイズよりリヴァイバーのほうが上・・僕が最大限の戦いをすれば、僕が心から自分を貫いていけば、やられることはない・・!)
ユウは集中力を高めて、リヴァイバーがさらに加速していく。ブレイズを駆るカナも負けじと射撃を行っていくが、リヴァイバーの動きにビームをかわされていく。
次の瞬間、リヴァイバーが突然スピードを落として、追い抜かせたブレイズに狙いを定める。
「そこ!」
ユウがその瞬間を狙って、ブレイズを狙って発砲した。
だが次の瞬間、ブレイズが変形して、引き抜いたビームサーベルでリヴァイバーのビームを弾いた。
「くっ!」
ユウが毒づき、リヴァイバーがブレイズから離れてから人型に変形した。2機が再びビームライフルによる銃撃戦を繰り広げる。
「もうやめるんだ、カナ!君だって本当の平和を望んでいたじゃないか!」
「うん・・望んでるよ・・でもヴァルキリーが描いている平和が、私とジンが求めている平和と違うんだよ・・・!」
ユウが呼びかけるが、カナは聞き入れずに言葉を返していく。
「自分の目的のために、誰かが犠牲になるようなものを、私は平和とは認めない!でもジンなら本当の平和をつかめる!つかめないものなんて、ジンにはない!」
「どうしてもこの平和を壊そうというなら、僕はどうしても、君を止めなくちゃいけない・・・!」
ジンに全てを託しているカナを止めようとするユウ。リヴァイバーが2機のビームライフルを組み合わせてレールガンとする。
「これで確実に狙い撃つ!」
ユウが言い放ち、リヴァイバーがレールガンを発射する。ブレイズが動いてビームをかわすが、リヴァイバーも素早く動きながら射撃をしていく。
(距離を取っていたらあの速さで狙い撃ちされる・・接近して、せめてライフルを弾き飛ばさないと・・!)
カナが思考を巡らせて、ブレイズがビームライフルを発砲しながら、リヴァイバーへの接近を試みる。
「させない!」
リヴァイバーが後退しながらレールガンを放ち、ブレイズに近づかれないようにする。それでもカナのブレイズは、徐々にリヴァイバーとの距離を詰めていく。
「これ以上あなたを、ジンを苦しめるヴァルキリーの中で戦わせるわけにいかない!」
「それでも近づいてきたとしても、僕は君を止めてみせる!」
互いに言い放つカナとユウ。ブレイズがビームライフルを左手に持ち替えて、新たにビームサーベルを手にした。
ブレイズが距離を詰めて、リヴァイバーの構えているレールガンに向けて振りかざそうとした。
「カナ!」
ユウが言い放ち、リヴァイバーがレールガンを発射した。高出力で放たれたビームが、ブレイズのビームサーベルを弾いた。
上に弾かれたビームサーベルに、カナが一気に緊迫を膨らませた。
「中心は狙わない・・手足とエンジンをうまく撃ち抜いて、動きを止める・・・!」
ユウが狙いを絞って、リヴァイバーがレールガンを構えた。
そのとき、弾き飛ばされていたブレイズのビームサーベルが、ブーメランのように回転しながらブレイズの手に戻ってきた。ブレイズがそのビームサーベルを、リヴァイバーのレールガンに突き立てた。
「そんな!?」
驚愕の声を上げるユウ。リヴァイバーが即座に手放したレールガンが爆発を起こす。
「もうやめて、ユウ!今ならまだ間に合うよ!」
「それはこっちのセリフだよ・・今ならまだ、ヴァルキリーに戻れる・・・!」
互いに呼びかけ合うカナとユウだが、2人とも引き下がろうとしない。
「私は戻れない・・ジンも戻らない・・平和のために平気で犠牲を出そうとするヴァルキリーには・・!」
「・・・こういうことをするのには納得できないけど・・カナをこのままにしておくぐらいなら・・・!」
頑なな意思を示すカナに対して、ユウは覚悟を決める。リヴァイバーがシヴァの発射態勢に入る。
「これなら、ブレイズでも直撃すれば確実に大破する・・これが最後だよ・・ヴァルキリーに戻って・・・!」
ユウが声を振り絞って忠告を送る。それでもカナは彼の言葉を聞き入れようとしなかった。
「どうしても戻ってこないなら・・どうしても僕たちの平和を壊そうとするなら・・・!」
ユウが声を振り絞って、シヴァ発射のトリガーに手をかけた。シヴァのエネルギー充填は完了していた。
しかしユウはシヴァを発射することができなかった。頭では覚悟していても、無意識にカナを手にかけることを彼は拒絶していた。
(どうして・・・僕は覚悟を決めたんじゃないのか!?・・・たとえカナが相手でも、やらないと、つかみかけている平和が・・・!)
自問するユウだが、どんなに手に力を込めようとしても、シヴァを発射することができなかった。
「ユウ・・・」
ユウの気持ちを察して、カナも困惑を感じていた。
「何をやっている・・ユウ・・・!?」
そこへ声がかかり、カナとユウが振り向く。ソワレのゼロによって大きく損傷した、ゼビルの乗るカースが接近してきた。
「ゼビル・・・!」
ゼビルのカースの登場に、カナが動揺を募らせる。
「ユウ・・早くやれ・・そいつもオレたちの敵・・敵を目の前にして、何もしないでどうする・・・!?」
「ゼビル・・・!」
声を振り絞ってくるゼビルに、ユウが困惑を募らせていく。
「シヴァのエネルギーはたまっている・・それでブレイズを、他の敵勢力と一緒に撃破するんだ・・・!」
「分かっているよ、ゼビル・・分かっているけど、どうしても撃てない・・・!」
「撃て、ユウ!そのためらいが、ようやくつかもうとしている平和を手放すことになるんだぞ!」
迷いを見せるユウに、ゼビルがさらに呼びかけていく。
「レイア様とヴァルキリーが築き上げていく理想郷に尽力することを、お前は誓ったはずだ!それをお前は、自ら裏切ってしまうのか!?」
「いい加減にして、ゼビル!」
ユウに呼びかけていくゼビルに、カナが声を張り上げてきた。
「ユウがどうするかはユウが決めること!ユウなら、何がホントの平和なのか、判断できるはずだよ!」
「裏切り者がそのようなことを口にするとは・・・!」
ユウに呼びかけるカナに、ゼビルが憤りを募らせる。
「惑わされるな、ユウ!今のカナは味方ではない!オレたちの、ヴァルキリーの敵だ!」
「・・違う・・・」
ゼビルが呼び続ける中、ユウの心が揺れ動く。
「平和を壊そうとする全ての敵を一掃した先に、本当の平和、ヴァルキリーの目指してきた理想郷があるのだ!カナを倒さなければ、その悲願は叶わなくなってしまうぞ!」
「・・違う・・・!」
「気をしっかり持て!カナもジンも倒し、リードもフューチャーも、全ての敵を倒した先に、お前が求めていた平和があるのだぞ!」
「違う!」
ゼビルの呼び声にユウが反発する。リヴァイバーがシヴァの狙いをカースに向けた。
「カナは敵じゃない!救わなくちゃいけない、大切な人なんだ!」
ユウが声を張り上げて、リヴァイバーがシヴァをカース目がけて放った。
「ユウ、ヴァルキリーを、理想郷を裏切るつもりか!?」
絶叫を上げるゼビルが、カースとともにシヴァのビームに巻き込まれて消滅していった。我に返ったユウは、仲間を手にかけてしまったことを痛感する。
「僕は・・僕は・・何ということを・・・!」
「ユウ・・・」
絶望を募らせていくユウに、カナも戸惑いを感じていく。
「僕は仲間を・・同じ平和を目指してきた仲間を、この手で・・・!」
「ユウ、落ち着いて・・あなたは何も悪いことは・・!」
「僕は・・僕はもう・・平和を取り戻すことが・・できない・・・!」
カナが呼びかけるが、ユウは自暴自棄に陥って抜け出せなくなる。カナがブレイズを動かして、リヴァイバーに近づこうとする。
そのとき、一条の光が飛び込んできてきた。リヴァイバーが光に巻き込まれ、爆発を引き起こす。
(カナ・・僕は・・・僕は・・・)
絶望とカナへの思いを抱えたまま、ユウがリヴァイバーの爆発に巻き込まれて消えていった。
「ユウ・・・!?」
光と爆発の中に消えていったユウに、カナは目を疑った。
「滑稽だな・・敵に惑わされて、我々を裏切り同士を手にかけるとは・・」
彼女の耳に嘲笑が飛び込んできた。ブレイズの前に、レイアの乗るグレイヴが姿を現した。
「だが本当の裏切り者の罪はより重い・・同士を惑わせたのだからな・・」
アルバのフューチャーとの攻防の最中、ユウを手にかけたレイア。ヴァルキリーの理想郷のため、レイアはユウを躊躇なく切り捨てたのだった。
次回予告
激化していく宇宙での攻防。
激情の交錯するレイアとアルバの戦い。
本当の平和と生への執着。
激闘の果てに待っているのは?