GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-46「本当の平和」

 

 

 敵対勢力の一掃をオーディンによって行おうとするヴァルキリー。エネルギーの充てんを行っているオーディンを破壊しようと、アルバとリリィ、ソワレたちクレストの面々が先陣を切っていた。

 オーディンの1機を破壊しようと、リリィのソリッドとマリアのルナが速度を上げていく。その戦場にヴァルキリアも姿を現した。

「クレストはこちらで押さえる!そちらはソリッドとルナを止めろ!」

「了解!」

 ジャッカルの呼びかけにスナイパーのパイロットが答える。クレストの前にヴァルキリアが現れ、スナイパーたちがソリッドとルナを追っていった。

「戦艦同士の戦闘か・・これでは2人を援護できない・・!」

「ブラスト発射!目標、クレスト!」

 ガルが毒づいたところで、ジャッカルがヴァルキリアのクルーたちに命令を下す。ヴァルキリアが放ったブラストのビームを、クレストのマーズが迎え撃った。

「あの艦を退けることに専念する!全員気を抜くな!」

「しかし、それではマリアたちの援護が・・!」

「みんなを信じるしかない・・我々も全力であの艦の迎撃に当たる・・・!」

 クルーの反論をはねのけて、ガルがさらに指示を出す。クレストとヴァルキリアも激しい交戦を繰り広げるのだった。

 

 カースが振りかざしていくビームサーベルとビームブレイドを、ゼロがトラスカリバーで受け止めていく。ソワレはゼビルの執拗な攻撃で、オーディンに接近できないでいた。

「このままでは地球とプラネットGが撃たれる・・早くあの兵器を破壊しなければ・・・!」

「オレたちの邪魔はさせない・・ソワレ・ホークス、ゼロ、お前を倒せば、クレストの戦力は著しく低下する・・・!」

 焦りを募らせるソワレに、ゼビルが鋭く言葉を投げかける。

「地球連合にもリードにも、世界を平和にすることはできない・・レイア様の掲げる、私利私欲の武力のない理想郷にこそ、平和はあるのだ・・・!」

「自分たちに従わない者を虐殺する世界を、僕は理想郷とは認めない!お前たちのやっていることは、ただの支配と破壊だ!」

 言い放つゼビルの言葉にソワレが言い返す。

「支配と破壊を強いてきたのはお前たちだ!オメガだの旧人類だのと、己のエゴを力と感情とともにぶつけ合うのを棚に上げて、我々を敵と見なす!」

 ゼビルが言い放ち、カースがビームブーメランを投げつける。ゼロが両手の甲部からビームダガーを出して、ビームブーメランを弾く。

 同時にカースがゼロに飛びかかって、2本のビームサーベルを振り下ろしてきた。ゼロがビームダガーでビームサーベルを受け止める。

「レイア様の掲げる理想郷ならば、戦争を確実に根絶し、純粋な平和をつかむことができる!」

「お前たちが使っているのは武器でも武力でもない!無慈悲に命を奪う破壊の力だ!」

 言葉と意思をぶつけ合うゼビルとソワレ。ゼロがビームダガーを振りかざして、カースを突き飛ばす。

「僕たちはお前たちのその力を撃破する!それは世界の敵、平和の敵だ!」

「どこまでもエゴを振りかざすか・・断罪しなければ理解しないというのであれば、その通りにしてやろう!」

 意思を示すソワレをあざ笑い、ゼビルがゼロの破壊の意思を固める。

「まずはソワレ・ホークス、お前を倒す!」

 ゼビルが目つきを鋭くして、カースがスピードを上げてゼロに飛びかかった。

 

 オーディンを破壊すべく、リリィのソリッドとマリアのルナはスピードを上げていた。オーディンを間近にしていた2人だが、スナイパーたちが接近して攻撃を仕掛けてきた。

「この数、ホントに尋常じゃないよ・・!」

「私たちに気付かれないようにパイロットとMSの数を増やして、周到に準備してきたようね。それにしてもこの数はさすがに異常だけど。リードや連合を確実に超えている・・!」

 リリィとマリアがスナイパーの数に毒づく。

「でも戦いは数で決まるとは限らないのよ・・・!」

 マリアが気を引き締めて、ルナがレールガンを構える。

「さっきと同じ形で行くわよ!今度は活路を見いだせるわ!」

「分かりました、マリアさん!今度こそあの兵器の元へ!」

 マリアの呼びかけにリリィが答える。ソリッドとルナの前にスナイパーが戦闘機型に変形して突っ込んできた。

「行って!」

 マリアの号令と同時に、ルナがレールガンを発射する。それを合図にリリィが反応し、ソリッドが一気にスピードを上げて前進する。

 ルナが放ったビームが、向かってきたスナイパーたちを撃ち抜いた。さらにソリッドがスナイパーを切り付けながら突き進んでいく。

「今度こそ・・今度こそ!」

 リリィがソリッドを最高速度にまで上げる。ソリッドがビームサーベルをオーディンの機体に突き立てた。

 火花を散らすオーディンから離れるソリッド。ソリッドが距離を取ったところで、オーディンの1機が爆発を起こした。

「やったわ!衛星兵器の1機を破壊した!」

 マリアがオーディン撃破に喜びを覚える。

「オ、オーディンがやられた・・・!」

「な・・何ということだ・・・!」

 スナイパーのパイロットたちがオーディンを破壊されたことに愕然となる。

「おのれ、リード・・おのれソリッド!」

「こうなれば、ソリッドとルナだけでも落とす!」

 いきり立ったパイロットたちが、スナイパーを動かして特攻を仕掛ける。ソリッドがビームライフルで迎撃し、ルナがクレッセントで切り付けていく。

「これ以上、お前たちに虐げられてたまるか!」

 パイロットが激高し、スナイパーの1機が戦闘機型となってソリッドに突っ込んできた。他のスナイパーたちの迎撃のために、リリィは回避が遅れてしまう。

 そのとき、一条の光が飛び込んで、突っ込んできたスナイパーを撃ち抜いた。ソリッドを巻き添えにできないまま、スナイパーが爆発を起こした。

「これは・・・!」

「リードの援軍が来てくれた・・・!」

 リリィが驚きを覚え、マリアが笑みをこぼした。宙域に駆けつけたクールの編成部隊が、リリィを救ったのである。

「遅くなった。無事にお前たちの援護ができて、正直安堵を感じている・・」

「援護感謝します・・体勢を立て直し次第、私たちは攻撃を再開します。」

 呼びかけてきたクールにマリアが答える。

「リリィ、1度クレストと合流するわよ。反撃はそれから。」

「えぇ・・!」

 マリアの呼びかけにリリィが頷く。ソリッドとルナは1度クレストのいる地点まで下がることにした。

 

 素早い攻撃とビームの刃で攻め立てるゼビルのカース。初めはカースの執拗な攻撃に追い込まれていたソワレのゼロだが、彼は次第にカースの動きを見定めていった。

「どこまでもしぶとく・・たとえゼロであっても、カースの力が通じなくなるなど・・・!」

「お前の過信が出てきたようだ・・・!」

 苛立ちを覚えるゼビルに対して、ソワレは冷静さを保っていた。

「ヴァルキリーなら間違いはない・・ヴァルキリーのもたらす力なら必ず思い通りにできる・・その過信が、お前たち自身を追い込んでいるんだ・・!」

「過信などではない・・これは確信というものだ!」

 ソワレが投げかける言葉に対して、ゼビルが言い返す。彼はソワレと対照的に、冷静さを保てなくなっていた。

「レイア様のもたらす世界でしか、平和な世界、理想郷は築けない!だから、私はヴァルキリーのこの力を使って、敗れるわけにはいかないのだ!」

「絶対の支配者を置いて、その支配下で築かれる理想郷などありえない!誰もが心から手を取り合える差別のない世界に、理想郷というものはできあがるものだ!」

 憎悪をむき出しにするゼビルに、ソワレが真剣に言い放つ。

「その本当の平和のある世界のため、僕はこれからも戦い続けていく!」

 ソワレが強い意思を示し、ゼロがトラスカリバーを手にして飛びかかる。カースが2本のビームサーベルを手にして、ゼロに振り下ろす。

 カースのビームサーベルを、ゼロはトラスカリバーだけで受け止めていた。ゼロはさらに左手からビームダガーを出して、カースのビームサーベル2本をなぎ払った。

「くっ!」

 ゼビルが毒づき、カースがすかさず右足のビームブレイドを振りかざす。左腕を切り裂かれたゼロだが、同時にトラスカリバーを突き出した。

「ぐあぁっ!」

 コックピットを外したものの、トラスカリバーはカースの胴体を貫いた。機体から火花と衝撃が走り、ゼビルのいるコックピットにまで押し寄せた。

 カースからトラスカリバーを引き抜くゼロ。カースは動かなくなり、宇宙空間をゆっくりと流れていく。

 ゼロがトラスカリバーを持ったまま、スピードを上げて前進する。行く手をスナイパーたちが阻んできたが、ゼロはトラスカリバーを構えて突っ込み、弾き飛ばしていった。

 そしてソワレの視界にオーディンの1機の姿が入ってきた。

「あれか・・このままあれを!」

 ソワレが目つきを鋭くして、ゼロがオーディンに向かって加速し、トラスカリバーを突き出した。トラスカリバーを突き立てられて、オーディンが爆発を起こした。

 またもオーディンを破壊されたことを激高して、ヴァルキリーのパイロットがスナイパーを動かしてゼロに襲い掛かる。

「下がれ!お前たちが守っているものがもたらすのは、破壊と支配でしかない!」

 ソワレが言い放ち、ゼロが右手のビームダガーと両足のビームブレイドでスナイパーたちを撃退していく。ゼロは徐々にクレストに向かって移動していった。

 

 激しい砲撃を繰り広げていくクレストとヴァルキリア。互いのビームはぶつかり合って相殺され、決定打を与えられないでいた。

(このままでは消耗戦になる・・時間も勝負としているこちらとしては、不利に向かうばかりだ・・・!)

「艦長!」

 焦りを募らせていたところで、ガルはマリアに声をかけられた。ルナがリリィのソリッドとともにクレストのいる地点まで戻ってきた。

「衛星兵器の1機を破壊しました。ソリッドの収容をお願いします。」

「整備が完了次第、また出撃して前進します!」

 マリアに続いてリリィも呼びかけてくる。

「リリィ・クラウディ、急いでクレストに入れ。こちらもわずかの油断も許されない状況下にある・・」

 ガルの指示を受けて、リリィのソリッドが急いでクレストに飛び込んだ。同時にルナがレールガンをヴァルキリアに向けて発射する。

 ヴァルキリアが回避行動と電磁バリアでルナのビームを防いだ。

「クレストに加えてルナ、さらにソリッドまで攻撃されたら防ぎようがないです・・!」

「ゼロ、こちらに接近!クレストと合流する模様!」

 アンとアイナが状況を報告する。自分たちが追い込まれていることを痛感したジャッカルが、決断を下す。

「ラグナログ、起動。目標、クレスト。ただし、発射はルナとクレスト、両方が射線軸上に入ってからとする。」

 ジャッカルが告げた指示を受けて、アンたちが緊張を覚える。ヴァルキリアがラグナログの発射口を出して、クレストとルナの攻撃をかいくぐっていく。

「サターンを本艦と敵艦の中間地点に向けて発射。」

「ですが、それでは弾幕で視界が・・!」

「それで構わん・・マリア。」

 クルーの反論に言葉を返して、ガルがマリアに声をかける。同時にクレストがミサイル砲「サターン」を発射して、宙域に爆発を起こした。

(ミサイルの爆発で姿をくらましてきただと!?・・そんなことをしても、時間稼ぎにもならない・・・!)

「ブラスト、ってぇ!」

 ジャッカルの号令で、ヴァルキリアがブラストを発砲する。放たれたビームが舞い上がった煙を吹き飛ばして、クレストとルナの姿を明確にした。

「クレストとルナ、一直線に並んでいます!」

「ラグナログ、ってぇ!」

 アンの声の直後、ジャッカルが命令を下す。ヴァルキリアからラグナログがクレストに向けて放たれた。

 だが同時にルナが上昇し、さらにクレストもサンブレイカーを発射していた。

「やはり陽電子砲を撃ってきたか!」

 声を上げるガルの見据える先で、2つの巨大なビームがぶつかり合って爆発を引き起こした。閃光がきらめいて、双方の視界を一瞬さえぎらせた。

「怯むな!距離を取りつつ、ラグナログの再チャージだ!」

 ジャッカルが命令を下し、アンがレーダーでクレストとルナの位置を把握しようとする。

「本艦にゼロが!」

 アンが声を上げた瞬間だった。エネルギーを再び充てんさせていたラグナログの発射口に、ゼロの右手のビームダガーが突き刺さった。

「クレスト、トラスカリバーを射出してください!」

 ソワレがクレストに向けて呼びかけて、ゼロがヴァルキリアから離れる。

「トラスカリバー、射出!」

 ガルの呼びかけでクレストからトラスカリバーが射出される。トラスカリバーを受け取ったゼロが、ヴァルキリアの機関部に突き立てた。

「メインエンジン、異常発生!姿勢が安定しません!」

「近くの星に不時着します!」

 アイナとアンが悲鳴のように声を上げる。機関部を破壊されたヴァルキリアがバランスを崩し、降下して星の上に不時着した。

「エンジン停止・・ヴァルキリア、浮上しません・・・!」

 アンが声を上げて、ジャッカルが憤りを浮かべる。艦体の破損と爆発、不時着の衝撃でヴァルキリアのクルーたちに負傷者が出ていた。

「マートンさん、しっかりしてください!」

「包帯を!止血しなければ!」

 マークたちの声が飛び交い、マートンたちが傷の手当てを受ける。混乱のヴァルキリアの艦内で、ジャッカルが落ち着きを取り戻して呼びかけてきた。

「全員、ヴァルキリアを脱出して、後方部隊と合流しろ。負傷者に手を貸してな・・」

「艦長・・このまま戦いを放棄するわけには・・・!」

「死ぬしか末路のない戦いをするのは愚か者の行為だ。それはヴァルキリーにとって忌むべきことだ。」

 クルーの反論をはねのけて、ジャッカルがさらに呼びかける。

「スナイパーはまだ残っていたな。オレが注意をそらしている間に、全員後方部隊に向かえ。」

「ですが、それでは艦長が危険に・・!」

「下がることだけを考えろ!私も追いかける!」

 声を荒げるマークにジャッカルが怒鳴る。彼に背中を押される形で、マークたちが司令室を離れていった。

(そうだ・・私に構うな・・私のような大馬鹿者を気にするぐらいなら、自分たちの果たすべきことのために行動しろ・・・!)

 ジャッカルが意を決して、ヴァルキリアのドックに向かう。ドックもヴァルキリアが攻撃された衝撃で破損していた。

(派手にやられたな・・だが待機させていたスナイパーが1機無事のようだ・・・)

 ジャッカルがヴァルキリアに残されていたスナイパーの1機に乗り込んだ。彼はヴァルキリアに開いた隙間から外に出ていった。

(レイア様、彼らを理想郷に導いてください・・・)

 マークたちの無事を祈って、ジャッカルは単身戦場に戻っていった。

 

 

次回予告

 

何の争いもない世界こそが平和。

誰も犠牲にしない世界こそが平和。

少年と少女の衝突は感情とともに激しくなっていく。

虚飾の理想郷に手を伸ばす果てに待つものとは・・・?

 

次回・「ユウ

 

 

作品集

 

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