GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-44「レイア」
オーディンによる地球連合、リードに向けての砲撃と、レイアの世界に向けての言葉。ヴァルキリーがもたらす導きに、世界が揺れ動きだしていた。
“地球とオメガ、地球連合とリードによる戦争。両者の闘争の中、無関係の者、平和を望んでいた者が無残にも命を奪われた。怒りと憎しみに駆られた者も少なくないだろう・・”
レイアがさらに世界に向けて語りかけていく。
“我々はお前たちが忌み嫌う軍事力の大半を、この世界から排除した。これでお前たちが戦争による理不尽を強いられることも、心身ともに苦痛を味わうこともなくなる・・”
「そうだ・・これで戦争がなくなるなら、これ以上いいことはない・・・!」
レイアの言葉に世界の人々が共感し始める。
「連合もリードも自分たちのことばかりで、私たちのことなんて全然考えてなかった・・!」
「アイツらがいなければ、僕たちは平和に過ごせたんだ!」
「ヴァルキリーなら、本当の平和を実現できる!」
地球、プラネットGでヴァルキリーを支持する人が増えていく。地球連合とリードの戦争での悲劇を痛感した人たちにとって、ヴァルキリーが心の支えとなりつつあった。
“連合とリードの壊滅を機に、世界は平和という革命が起こる。お前たちの望む理想郷は、我々の手で築き上げてみせる。”
レイアの言葉に感銘して、人々がヴァルキリーに心を奪われていった。
世界がヴァルキリーの言動に賛同している動きは、クレストにも伝わっていた。報告を聞いたガルも緊張を隠せなくなっていた。
「・・とんでもないことになったぞ・・・」
ガルは息をのんでから、クレストのオペレーターたち、そして姿を見せたソワレとマリアに視線を向ける。
「世界はヴァルキリーの行動に賛成し始めている・・ヤツらの行動が平和をもたらすものだと思い始めている・・・!」
「そんな・・ヴァルキリーのしていることは平和どころか混乱だというのに・・・!」
ガルに続いてソワレも不快感を浮かべる。
「より正しいように見えたり聞こえたりしてしまうと、それが本当に正しいものだと思い込まされてしまうのも否定できないことよ・・」
「えっ・・・?」
マリアが投げかけた言葉にソワレが当惑を覚える。
「リードと地球連合が繰り返していく戦争。巻き込まれた人々にとっては、戦争そのものを強く嫌悪している・・ヴァルキリーが戦争をなくすために行動し、戦争の元となっている軍や兵器を排除していっているなら、人々はヴァルキリーに心を傾けてしまう・・」
「そんな・・それで混乱に巻き込まれたり、ヴァルキリーの考えに操られたりしても・・・!」
マリアの話を聞いても、ソワレは納得がいかなかった。
「何にしても、ヴァルキリーが仕掛けたあの兵器を破壊することは変わらない・・」
アルバがリリィ、リン、ミルと一緒にやってきた。
「お前たちもこのままクレストに残って、ヴァルキリーと戦うつもりか・・?」
「あぁ・・あの兵器のために命が失われるのは耐えられないからな・・」
「お前たちは本来は我々の敵だ。リードの一員としてお前たちを仲間とするわけにはいかないところだ・・」
「分かっている・・緊急事態だから仕方なく手を組む、ということか・・」
言葉を交わしていくガルとアルバ。リリィ、リン、ミルも真剣な表情を見せていた。
「少しでも人手がほしい状況だ・・こちらの指示に従うことを条件に、乗艦を許可する・・」
「艦長・・・!」
アルバに向けて告げたガルの言葉に、ソワレが抗議の声を上げる。
「人手がほしい状況だと言ったはずだ・・最悪な事態が何かを見誤るな・・」
「艦長・・・分かりました・・・」
ガルの言葉に腑に落ちないながらも聞き入れるソワレ。
「すまない・・やらせてもらう・・・」
アルバがガルに向けて頭を下げた。
「クレスト発進だ。アルバたちも備えてくれ。」
ガルはソワレたち、アルバたちに呼びかけて、クレストの指揮に集中するのだった。
オーディンによる射撃とレイアの演説で、地球とプラネットGの人々の心が揺れ動いていた。ヴァルキリーの作戦を目の当たりにしたユウの心も。
「連合とリードの基地が、一気に・・・!」
「これがヴァルキリーの最後の作戦だ。」
動揺を見せているユウに、ゼビルが声をかけてきた。
「点在している全ての軍事力を排除する。そうすれば戦争もなくなり、平和がもたらされる。ユウ、お前が思い描き、願い続けていた平和が・・」
「でも、攻撃した基地のそばには、無関係の人がいたはずだよ・・その人たちを巻き添えにしないって、とても言い切れないよ・・」
説明をするゼビルにユウが不安を口にする。
「それならば心配はいらん。今攻撃したのは、民間の地域に隣接していない基地と軍事施設に限定している。」
そこへレイアが現れて、ユウに声をかけてきた。ゼビルとユウが彼女に頭を下げる。
「だが世界が天秤にかけられるのはこれからだ。連合やリードなど、我々の意思を頑なに受け止めようとしない者も出てくる。本来守るべき存在をないがしろにしてでも己のエゴを貫こうとする。」
「レイア様・・・」
レイアの言葉を聞いて、ユウが息をのむ。
「自分の犯した過ちが滑稽であることを、ヤツらは死という罰を受けて思い知ることになるだろう。だがそれも、世界が平和に向けての意思を高めることとなる・・」
「ですが、それでも無関係な人を巻き込むことに・・!」
「心から理想郷を望む者たちは理解している。世界の敵に鉄槌が下ることを・・」
ユウが不安を募らせるが、レイアは冷静に語っていく。
「戦争で世界を乱してはいけない。その意思を抱き続けながら、私はヴァルキリーを設立した。」
レイアがゼビルとユウに向けて、自分たちの過去を語り始めた。
「ヴァルキリーに加わった者は、ユウのように地球連合とリード、あるいは戦争そのものを憎んでいる者が多い。だがその誰もが、純粋に平和を望んでいる・・」
「レイア様も、心から平和を望んできた・・・」
「戦争の根源である連合、リードを世界から一掃すれば、自ずと平和は訪れるもの。ユウ、お前が願い続けてきた理想郷は、すぐそこまで来ているのだ・・」
戸惑いを見せるユウの肩に、レイアが手を添えてきた。
「ユウ、お前の手でも平和は取り戻せる。いや、お前が取り戻すのだ・・・」
「レイア様・・・僕、やります・・僕の手で平和を取り戻すために・・・」
レイアが投げかけた言葉に、ユウが真剣な面持ちを見せて答える。
「ですが、僕にはどうしてもやらないといけないことがあります・・・」
「ジン・シマバラとカナ・カーティアのことか?」
ユウが切り出した言葉にレイアが眉をひそめる。
「あの2人は裏切り者だ。ヴァルキリアから脱走し、アルバ・メモリアと手を組んでいる。しかもジンはあのような不可解な能力と性能を備えたMSに乗っている・・」
ゼビルがユウに向けて低く告げてくる。
「でも2人とも平和のために戦ってきた!間違った道から引き戻してあげれば、きっと分かってくれます!」
「だが2人ももうすぐ我々に牙を向けてくる。お前が2人を連れ戻すにしても、お前は戦って牙を折らなくてはならない・・」
「分かっています・・僕も力を手にしたんです・・希望はこの手で実現させてみせます・・・!」
レイアに言葉を返すと、ユウは頭を下げてから歩き出していった。
「ユウはヴァルキリーの目指す理想に忠実になりきれていません。今すぐということはないでしょうが、裏切る可能性が大きいです・・」
「それでもこちらの戦力であることに変わりはない・・次の戦いで戦死したなら都合がいい・・」
懸念の言葉を投げかけるゼビルだが、レイアは冷静さと笑みを崩さなかった。
「準備を怠るな。我々の最後の切り札、平和とともに破壊させはせぬ。」
「分かっています、レイア様・・」
レイアの言葉に答えたのはバーンだった。
「たとえ分担することになっても、我々は負けることはありません。単独でも勝利できる力と意思を持っているのですから・・」
「頼むぞ、バーン。我々が理想郷を築くのだ。」
揺るぎない意思を見せるバーンに、レイアが信頼を寄せていた。
「ヴァルキリア、宇宙に上がります!」
アンの声がヴァルキリアの艦内に響く。ヴァルキリアがオーディン防衛のため、宇宙に上がっていった。
宇宙に上がったヴァルキリア。レイアはその窓から地球と暗い宇宙を眺めていた。
(とうとうここまで来た・・ここまで平坦だったとは思っていないが、必ずたどり着けるという確信はあった・・)
レイアが心の中で、これまでの自分たちの行動と戦いを思い返していった。
(私1人では、ここまで行うのにかなりの時間をかけたことだろう。志を同じくする者がいたからこそ、今この瞬間に立ち会えるのだ。地球連合にもリードにも憎悪を抱いている者たちが・・)
レイアの脳裏にジンの姿がよぎる。
(その中で有力視したのがジン・シマバラだった。戦争に対する憎悪が誰よりも高く、パイロットとしても高い数値を叩き出している。ただ自分に納得できないことにはとことん反発するのが欠点だった。最悪同士を手にかけることも厭わなかった・・)
ジンの行動を事細かに思い出していくレイア。パイロットとしての実力は折り紙つきとされていたジンだが、反発してきた味方を戦闘中に攻撃することもあった。
(そのような危険分子を切り捨てようとしなかったのは、ヤツが我々の理想を実現させる上で、有力の存在だったからだ・・もう1人、ヤツにとって代わる存在を見つけるまでは・・)
レイアの脳裏にバーン、仮面を身に着けたスバルの姿が浮かび上がる。
(スバル・アカボシ。高い戦闘能力を備えた存在。戦争そのものを嫌悪して自ら戦おうとしていなかったが、あのような思考の相手を導くことは造作もなかった・・)
スバルを策略によって自分たちに引き入れたことに、レイアが喜びの笑みを浮かべる。
(自分の意思を貫けられなくなったことでスバルは絶望し、ヴァルキリーの理想を実現させるために行動する聖戦士、バーン・アレスとなった・・バーンはジンに勝るとも劣らない戦闘能力を発揮した。ヴァルカスに乗ったことで、その能力は飛躍的に増大した・・)
バーンが動かすヴァルカスの戦いを、レイアは思い返していく。
(MSの性能の差もあったが、バーンはジンに圧倒的な力の差を見せつけた。ヴァルキリーの理想を速やかに実現させることができるのはバーン。そう思っていた・・)
レイアの顔から笑みが消えていく。
(ジンが得体の知れないMSに乗って、我々に牙を向けてきた。陥れてきた我々に反感を抱いてもおかしくなかったが、あのMSはヴァルカスをも凌駕する力を発揮した・・)
バーンのヴァルカスと交戦するジンのフェイスの光景が、レイアの頭に焼き付けられていく。
(あの機体に加えて、フューチャーとゼロ・・3機が結託したなら、これ以上厄介なものはないだろう。だがそれでも、我々は負けることはない。負けることは許されないのだ・・)
決意を強めたレイアが両手を強く握りしめる。そして彼女が笑みを取り戻す。
「残るはヤツら・・ヤツらを一掃すれば、ヴァルキリーの理想は実現されたことになる・・」
廊下を歩き出すレイアが自信を募らせていく。どのような反乱分子が迫ろうとも、自分たちを阻むことはできない。彼女はそう思っていた。
(これまで我々が受けてきた屈辱を糧にして、真の平和を取り戻す・・・!)
ヴァルキリアが飛翔してから数分後に、クレストも宇宙に上がった。クレストは情報整理のため、リードの宇宙軍事施設「カンヘル」に立ち寄った。
クレストからの連絡を取ってから、ガルはカンヘルの指揮官、クール・コードと対面した。
「ご無事で何よりです・・歓迎、感謝します・・」
「まさかこのようなことになろうとは・・・今、プラネットGと地球、双方のリードの各部隊に連絡を送っているが、連絡の取れないところも少なくない・・」
敬礼を送るガルに、クールが深刻な面持ちを見せる。
「そちらに有力な戦力が備わっていることは知っている。時間と確実性が勝負の鍵だ。つまり、君たちが勝負の鍵だ。」
「少し言い過ぎという気もしていますが・・一刻の猶予も許されないことは自覚しています・・」
「こちらも部隊編成を完了させ次第出撃する。クレストはその先陣を切ってくれ。我々もすぐに駆けつける。」
「了解しました。援護、感謝いたします。」
クールの言葉を受けて、ガルが再び敬礼を送った。
その頃、アルバやソワレたちが滞在しているクレストにて、ジンとカナが医務室を出てドックに足を踏み入れていた。
「もう行くんだね、ジン・・?」
カナが声をかけるが、ジンは答えない。無言を肯定と思って、カナは話を続ける。
「ジンはスバルさんと、私はユウと対峙する・・その先に何があるのかは分からない・・それでもやらないといけない・・・」
「関係ない・・オレは今まで、自分が1番だと思い上がっているヤツらを叩き潰してきた・・そうしなければ世界は狂ったままだった・・これからも、オレのこの戦い方は変わらない・・」
カナの言葉にようやく答えて、ジンが頑なな意思を口にしていく。
「ヴァルキリーもオレを陥れる連中に過ぎなかった・・そしてスバルはオレを、戦争を拒んできた自分自身さえも裏切った・・オレがこの手で倒すしかない・・・!」
「ジン・・・もう私には、ジンにかける言葉がない・・誰にだって、ジンのこの考えを変えることはできない・・」
ジンの意思を受け入れようとするカナ。2人はフェイスとブレイズに乗り込もうとした。
「行くのか、お前・・」
そこへアルバに声をかけられて、ジンとカナが足を止める。するとカナがアルバを止めようと両手を大きく広げた。
「ジンの邪魔はさせない・・ジンにはどうしても果たさないといけないことがあるんです・・・!」
「・・・生きて帰ってくると約束できるか・・・?」
カナが鋭く言いかけると、アルバが彼女とジンに問い詰めてきた。
「オレは死なない・・身勝手な連中にくれてやる命は持っていない・・」
「そうか・・・ならオレはもう止めるつもりはない・・」
ジンが示した意思を聞いて、アルバは2人に背を向けた。
「おい、そこで何をやっているんだ!?」
そこへソワレが現れて、ジンとカナに声をかける。ジンが同時に飛び出して、フェイスに乗り込んだ。
「ジンを、あの機体を止めろ!攻撃されても絶対にクレストから出すな!」
ソワレが整備士たちに呼びかけて、自分もゼロに向かっていく。
「ジン、行って!」
「ジン・シマバラ、フェイス、行くぞ!」
カナに後押しされる形で、ジンがフェイスを動かす。フェイスは前方のハッチを強引に突き破って、クレストから飛び出した。
次回予告
世界への最後の宣戦布告をしたヴァルキリー。
世界がヴァルキリーの攻撃を止めようとする中、ジンは自分の戦いに挑もうとしていた。
ジンの信念が、フェイスの光とともに宇宙を焦がす。