GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-41「ギルド」

 

 

 チェスターを失い、マアムたちも殺されたギルド。1人生き残った彼は、自身の回復とソルディン02の修復を待っていた。

(オレだけが無様に生き残った・・ソルディンがまだ修理可能だったのがせめてもの救いだが、マアム艦長もチェスターも、ヴァルキリーに・・・)

 自分以外の全てを壊されたギルドが歯がゆさを募らせる。

(本当ならばヤツらを倒すべきところだが、オレの中でくすぶっているものがある・・)

 ギルドの中に1つの感情が揺れ動いていた。

(お前だけは必ず倒してやるぞ・・ヴァルキリーの小僧・・・!)

 ギルドの意識は今、ジンだけに向いていた。

 

 フェイスの修復のため、自分の身元を知られることを承知で、リンはミルを連れてクレストに向かった。事前の連絡を受けて、クレストは彼女たちの着艦を許可した。

「ふぅ・・無事にたどり着けて何よりだったよ・・」

「どうして出てきたんだ、リン?・・知られたくないと言っていたではないか・・」

 安堵を見せるリンに、アルバが不満の声をかけてきた。

「緊急事態だったからね。自分のわがままばかりに気を向けている場合じゃないって思っただけだよ・・」

 リンが気さくに答えて、ソワレとマリアに目を向けた。

「それに、同じ相手と戦う戦士が1人でもいてくれたほうがいいって、向こうも思ってくれてるし・・」

「本当にそれだけですよ。あなたもアルバたち同様、敵対勢力と見なしていますから・・」

 笑みをこぼすリンに、ソワレは毅然とした態度を見せた。

「では早速作業にかかることにするよ。おしゃべりが1番の目的じゃないんだから・・みんなも手伝ってくれると助かるよ・・」

 リンがフェイスのところに向かい、クレストの整備士たちも彼女に続いていく。リンは真剣な表情で、フェイスの状態を見ていく。

「覚悟を決めているんだ・・必ずフェイスを直してくれるだろう、リンは・・」

「でも仮に直っても、このままフェイスを乗り続けていったら・・・」

 真剣な表情で頷くアルバと、不安を口にするリリィ。

「オレは戦い続けるぞ・・」

 そこへジンがカナと一緒にやってきた。ジンは目つきを鋭くしたまま、リンが修復に取り掛かっているフェイスを見据えた。

「ジン、大丈夫なのか・・・?」

「オレは死なない・・スバルもヴァルキリーも、世界の敵を全てを叩き潰すまでは・・・!」

 アルバが声をかけると、ジンが憤りをむき出しにしてきた。

「敵を徹底的に、一方的に排除しようとする考えとやり方には賛同できないのが正直なところだ。そのやり方が悲劇を招いたのを、僕は何度も・・」

「お前たちも悲劇を招いたヤツらだろうが・・」

 真剣な表情で呼びかけてくるソワレに、ジンが敵意を見せる。

「お前たちもオレの敵だが、先に叩き潰さないといけないヤツがいる・・」

 ジンがヴァルキリーを、バーンとなったスバルを見据えていた。ジンはスバルを倒すことを最優先にしていた。

「アルバさんやリンさん、ソワレさんたちには感謝しています・・ですが私は、ジンについていきます・・」

 カナも自分の決心をアルバたちに告げる。彼女の決意も頑なとなっていた。

「あくまで共通の敵と戦う者同士・・だがせめて話は聞いてくれ・・同士討ちという敵の思う壺になるのが1番してはならないことだから・・」

 ソワレからの注意に対し、ジンもカナも何も答えない。2人の沈黙を肯定と受け取って、ソワレがアルバに視線を移す。

「アルバも、そのことは肝に銘じておけ・・」

「ソワレも・・ここは共通の敵を倒すために・・・」

 反目しあうも、ソワレもアルバもヴァルキリーの戦いに一時的な協力を認め合っていた。

「ジンくんももう少し休んでいたほうがいいよ。フェイスが直るまで時間がかかるし・・カナさんもそばにいてあげて・・」

「分かりました・・ジン、まだ待っていよう・・・」

 リリィに言われて、カナがジンと一緒に医務室に戻っていった。

「ジンくん、カナさんの言葉に素直になったわね・・」

 2人の様子を見てマリアが呟く。

「もしかしたら、カナさんを心のよりどころにしているのかもしれない・・」

「えっ・・?」

 リリィが口にした言葉に、マリアが疑問を投げかける。

「自分だけで戦ってきたつもりでも、ヴァルキリーに依存していた。そのヴァルキリーに裏切られた彼が今すがっているのは、過去のよりどころと、一緒にヴァルキリーを抜け出したカナさん・・・」

「まるであなたとアルバくんみたいね・・事情は違うけど・・・」

「それを言わないでください、マリアさん・・私たちは・・・」

「あ・・ごめんなさい・・私としたことが軽率だったわね・・・」

 目つきを鋭くしたリリィに、マリアがすぐに謝る。

 アルバとリリィは仲間を殺されている。その悲劇が心の傷となって、2人に残っていた。

「気にすることはない・・お前たちが手を下したのではないから・・・」

 その2人にアルバが言葉を投げかけてきた。

「ボルドもドーマも死んだ・・仇を考える必要もなくなっている・・」

「アルバくん・・・そういわれても、お互い気休めにしかならないのに・・・」

 アルバの言うことに、マリアが物悲しい笑みを浮かべた。

「私たちも自分の乗る機体のチェックをしてから、次の先頭に備えて待機することにしましょう・・」

 マリアの言葉にアルバとソワレは真剣な面持ちで頷いた。

「マリアさん・・私、これからもソリッドに乗っても・・・?」

「今まで散々勝手なことをしていて、今さらそんな弱気なこと言わないでよね・・」

 戸惑いを見せるリリィに、マリアが呆れてため息をついた。

「お互いやるべきことをやる。そうでしょう?」

「マリアさん・・・そうですね・・後で返してと言ってきてもダメですからね。」

 マリアに励まされて、リリィが笑みを見せた。和らいでいく2人の様子を見て、アルバもソワレも安心していた。

 

 1度医務室に戻ったジンとカナ。ジンは医務室のベッドに腰を落として、揺れ動いている気分を落ち着かせようとする。

「みんな、私たちのために頑張ってる・・今の戦いの後に、私たちが敵になることは分かってるのに・・」

「他のヤツらが何をしようと、オレはオレの戦いをするだけだ・・・」

 カナの呟きを聞いて、ジンが低く言葉を返す。

「今はスバルたちを倒すことを優先しているだけ・・その後は連合もリードも倒す・・」

「その先に、平和はあるのかな・・・?」

「分からない・・だがヤツらが動かしている世界には、確実に平和はない・・」

 わずかも揺るがないジンの決意に、カナは戸惑いを募らせるだけだった。

「そういうなら・・私もどこまでもジンについていくからね・・」

「勝手にしろ・・いつになったら落ち着けるようになるのか知らないぞ・・」

「その覚悟もないのに、ジンと一緒に戦えるわけないよ・・」

「ならばどこまでもついてこい・・オレは徹底的に抗って、ここまで来たんだ・・・」

 ジンはカナに言いかけて、彼女を抱き寄せた。突然の抱擁にカナが動揺を覚える。

「これからもオレたちは、平和を壊す連中に逆らっていく・・スバルもヴァルキリーも、今では平和を壊す敵だ・・・!」

「ジン・・・私も、ジンのように迷いなく戦いたい・・・できれば戦わないで分かり合えたらいいんだけど・・・」

 ジンの決意を聞いて、カナが物悲しい笑みを浮かべる。彼女はユウのことを思い返していた。

 平和を求める気持ちを逆手に取られて、心から望んでいない戦いまで行っているユウ。彼の闇雲な戦い方を止めたいと、カナは望んでいた。

「愚かなヤツらとは分かり合えない・・分かり合おうともせずに、勝手に決める・・そんな愚かなヤツらは、倒す以外にない・・」

「ジン・・・倒して止める・・それがジンのやり方・・・」

 頑ななジンに共感して、カナは瞳を閉じた。ジンも彼女を抱き寄せたまま、医務室のベッドに横たわった。

 

 ソルディン02の修復が完了した。ギルドはソルディンのチェックと同時に、装備と性能も確かめていた。

(全ての武装が修復されている。さらに性能が若干だが上がっている・・)

 真剣にチェックを進めていくギルド。

(だが、この程度の性能の向上だけでは太刀打ちできない・・ヴァルキリーにも、あの小僧にも・・・)

 ヴァルキリーのMSやジンとの差を痛感するギルド。

(せめてあの小僧だけにでも引導を・・そのためには、アレを使う以外にもう手段がない・・)

 ギルドは自分のソルディンに備わっている最後の手段のことを考えていた。

(スカーレット艦長の仰っていた通り、アレを使えばオレは生き延びることはできない・・だがアレを使わなければ、小僧を倒すこともできない・・・!)

 ジンへの固執と力の差を痛感して、ギルドは覚悟を決めようとしていた。

(オレは最後まで、あの小僧に囚われることになるのか・・・昔なら不愉快に感じただろうが・・・)

 ギルドがジンとの因縁に思わず笑みをこぼしていた。だが彼はすぐに笑みを消した。

(あのような小僧の思い通りの世界には絶対にさせない・・たとえ差し違えるとしても、この手でヤツらを・・・!)

 ソルディンのチェックを終えて、ギルドがコックピットから出てきた。

(1つ気になるのは、あのMSがヴァルキリーと敵対していたことだ。そもそもあのときのあのMSの動き、あの小僧が乗っているとは思えない・・)

 ギルドがブレイズとヴァルキリーとの戦闘の映像を思い出した。彼はそのときブレイズに乗っていたのがジンでないと気付いていた。

(それに新たに現れた機体・・あの動き・・小僧はあの機体に乗っていたようだ・・・)

 ギルドはジンがブレイズではなくフェイスに乗っていたことも気付いていた。

(新しく乗り換えたとしても、オレが引導を渡すのはあの小僧だ・・・!)

 頑なな意思を秘めるギルドが、連合のオペレーターに声をかけた。

「ヴァーナに新たに現れたMSの行方は分かっているか?」

「バイザー少佐・・いえ、クレストに収容されたこと以外は・・」

 ギルドの問いかけにオペレーターの1人が答える。

「そうか・・クレストの位置は?」

「ポイント1102を北北西に進んでいます。宇宙に上がることも配慮してのものでしょう・・」

 オペレーターの答えを聞いて、ギルドは自分自身に決断を下した。

「クレストの追跡に出る。ただし、行くのはオレ1人だ。」

「少佐・・!?

 ギルドの口にした言葉に、オペレーターたちが眉をひそめる。

「これは任務でも作戦でもない。オレ個人の戦いだ。他の連中がわざわざ付き合ってやることはない。」

「ですが、1機でリードやヴァルキリーに挑むのはあまりにも無謀です!命を落とすだけです!」

「そうなるだろうな・・それでもオレはヤツらを・・ヤツをこの手で倒さなければならない・・任務のため、そしてオレ自身のけじめのために・・・!」

 オペレーターが抗議の声を上げるが、ギルドは考えを変えなかった。

「身勝手で、ひたすら傲慢なこのパイロットを許してくれ・・お前たちは、長く生き延びてくれよな・・・」

「少佐・・・」

 ふと笑みをこぼしたギルドに、オペレーターたちだけでなく、周囲にいた整備士たちも戸惑いを浮かべていた。

「ハッチを開けてくれ。あとはオレ個人の独断と判断してくれ・・・」

「少佐・・・了解しました・・・ご武運を・・・」

 歩き出していくギルドを、オペレーターと整備士たちが敬礼で見送った。ギルドが乗り込んだソルディンの眼前のハッチが開かれる。

「ギルド・バイザー、ソルディン、発進する!」

 ギルドの乗ったソルディンが連合のドックから発進していった。

(大佐、申し訳ありません・・ですが、オレとしてのけじめは、つけなければならないのです・・・)

 マアムへの謝意を胸に秘めて、ギルドはクレストを追っていった。

 

 宇宙に上がることを考慮して、クレストは航行を続けていた。その間にも、リンの指揮の下、フェイスの修復も進められていた。

 その作業が終わりに近づいていたリンに、マリアが声をかけてきた。

「リンさん、1つ聞いてもいいですか?」

「えっと・・君は確か・・」

「クレスト所属、マリア・スカイローズです。」

 返事をするリンにマリアが名乗る。

「あぁ、マリアちゃん・・で、何の用?」

「この機体、フェイスのことです・・なぜあれほどのパワーを発揮できたのですか?・・ゼロやフューチャーさえも上回るレベルですよ・・」

 リンの問いかけにマリアが言葉を返していく。マリアはフェイスについて訊ねていた。

「フェイスの最大の特徴はダブルクラスター、クラスターシステムを2機搭載していること。」

「クラスターシステムを2機・・それならあれだけのパワーを発揮できたのも頷けるわね・・」

「ダブルクラスターを搭載したことで、フェイスは膨大なエネルギーと戦闘力を発揮できるようになった。でもそのエネルギーの高さが、パイロットに大きな負担をかけることになるはずだった・・」

「はずだった・・?」

「あのリスクの高いフェイスを動かして、ジンくんは体力を消耗して意識を失っただけで済んだ・・しかもジンくんが動かすフェイスは、彼の強い意思に反応していたみたいに予想以上の力を出したのよ・・」

 マリアの疑問に、リンも疑問を感じながら答えていく。リンもジンがフェイスを乗りこなせていることが、不思議に思えてならなかった。

「強い意思に反応していた・・まるで、体を通して出る力ですね・・・」

「体を通して出る、ね・・うまいこと言うね・・」

 マリアの口にした言葉を聞いて、リンが笑みをこぼした。

「何事もなく乗りこなしてるように見えるジンだけど・・このまま何もないとは思えない・・・」

「フェイスの負担という問題ですか・・・」

「うん・・体力の大きな消耗は、時間を置けば回復してはいる・・でも寿命を縮めないとは言い切れない・・私としては、長くフェイスに乗るのはよくないんだけどね・・・」

 マリアの言葉に答えて、リンが物悲しい笑みを浮かべた。

 

 クレストの司令室は、静寂ながらも緊張の空気が漂っていた。ヴァルキリーの襲撃にガルたちは備えていた。

 そのクレストのレーダーが接近する熱源を捉えた。

「こちらの接近してくる機体あり!」

「ヴァルキリーか・・・!?

 声を上げるオペレーターにガルが問いかける。

「いえ、この反応は・・地球連合、ソルディン02です!」

「何っ!?

 思わぬ相手の接近にガルが眉をひそめる。航行しているクレストの前に、ギルドのソルディンが近づいて止まった。

「ソルディン・・連合が、しかも1機で何を・・・!?

「通信回線を開いてきています!」

 思考を巡らせるガルにオペレーターが呼びかける。ガルは気を落ち着けてから、通信をつなげた。

「私はクレスト艦長、ガル・ビンセントだ。地球連合が我々に何の用だ?」

“オレはギルド・バイザー。そこにあの小僧、ジン・シマバラがいるはずだ。”

 ガルの問いかけに対して、ギルドがジンを呼び出してきた。ギルドはジンに最後の戦いを挑もうとしていた。

 

 

次回予告

 

ジンに戦いを挑むギルド。

敵を倒すため、ジンはギルドの挑戦を受ける。

不条理な世界を変える者と、秩序と自分の誇りを守る者。

2人がぶつかり合った先にあるものとは?

 

次回・「決闘」

 

 

作品集

 

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