GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-42「決闘」
クレストの前に突如現れたギルドのソルディン。単独で駆けつけたギルドが、ジンを呼び出してきた。
「出てこい、ジン・シマバラ！お前がこのクレストにいることは察しがついているぞ！」
ギルドがクレストにいるジンに呼びかける。彼の呼び声はジンとカナの耳にも入っていた。
「現れたのは、アイツか・・・！」
ジンが苛立ちを見せて立ち上がる。するとカナがジンの手を握ってきた。
「またフェイスに乗るつもりなの？・・死ぬかもしれないことは分かっているよね・・・？」
「オレには関係ない・・自分勝手に行動する敵は倒すだけだ・・・」
カナが声をかけるが、ジンの意思は変わらない。カナもジンがそう答えることは分かっていた。
「オレは死なない・・どんなことがあっても、敵を全て倒すまで、死んでたまるか・・・！」
「ジン・・・ジンならそういうと思ってた・・・」
声を振り絞るように言うジンに、カナが笑みをこぼしてきた。
「私はここで待ってるから・・必ず戻ってきて・・・」
「・・・お前に言われるまでもない・・・」
優しい笑顔を見せるカナに、ジンは振り向かずに答えて医務室を出ていった。
クレストのドックにやってきたジン。同じくドックにいたアルバ、リリィ、リンが彼に振り返った。
「あのソルディンのパイロットの挑発に乗るのか・・」
「挑発に乗るという言い方をされるといい気がしないな・・」
アルバの言葉にジンが憮然さを見せる。
「フェイスは直っている。だけどパイロットに負担がかかることに変わりはない・・それでも行くの・・？」
「何がどうなろうとオレには関係ない・・オレはオレの戦いをするだけ・・敵を倒すだけだ・・・」
リンが訊ねるが、ジンの意思は変わらない。
「オレは死なない・・敵を全員倒すまで、死んでたまるものか・・・！」
「そうやって敵を倒していっても、敵が減るどころか増やすことになるかもしれない・・私もアルバも、そのことを覚悟して戦ってきたから・・・」
リリィが呼びかけても、ジンは考えを変えようとしなかった。
「オレの人生を狂わせた敵に味方するヤツも敵だ・・敵を倒したのに許さないというほうが筋違いだ・・」
ジンはそう告げて、フェイスに乗り込んでいった。彼の頑なな意思に肩を落としてから、リンはクレストのクルーに呼びかけた。
「ハッチを開けて。でないとジンくん、ぶち破ってでも出ちゃうから・・」
リンの呼びかけを受けて、フェイスの先にあるハッチが開かれた。
「ジン・シマバラ、フェイス、行くぞ！」
ジンの乗ったフェイスが、クレストから発進する。フェイスがギルドのソルディンの前に姿を現した。
「現れたか、小僧・・今度こそ・・今度こそお前を修正してやる・・・！」
「何度オレたちに身勝手を押し付ければ気が済むんだ、お前は・・!?」
鋭く言いかけてくるギルドに、ジンが怒りの言葉を投げかける。
「オレたちは軍人だ。平和を脅かす敵と戦う存在だ。一般人は、オレたちに逆らうことなどおこがましいことだ・・」
「軍人がそんなに偉いのか!?・・軍人だから、何をやっても許されると思い上がっているのか!?」
「同じセリフを返してやる。今は独自の行動を取っていようと、暴挙をやっていることに変わりはない。何の罰もないと思うな・・！」
「自分の思い上がりを棚に上げて、オレを思い上がりだというのか、お前は！」
互いに怒りの言葉を掛け合うギルドとジン。
「お前はオレたちが守ってきた世界の平和と理想を脅かす存在・・どれだけ言葉を交わしても、分かり合うことなどできるはずもない・・！」
「お前のようなヤツと分かり合ったときは、オレがオレでなくなるときだ！」
ギルドのソルディンとジンのフェイスが構えて、ビームサーベルとストライカーを手にする。
「強力かつ不可解な力のＭＳに乗っているからっていい気になるなよ。強い力の持ち主が強いヤツというわけでないのだからな。」
ギルドが言いかけてから、ソルディンがフェイスに向かって飛びかかる。振り下ろされたビームサーベルをストライカーで受け止め、フェイスが左手で持っているストライカーを振りかざすが、ソルディンは後ろに下がってかわす。
「お前たちヴァルキリーが現れてから、世界の平和と秩序だけでなく、オレたちの運命も変わってしまった・・スカーレット大佐をはじめ、多くの仲間をお前たちによって失った・・！」
「それはお前がミナを見殺しにしたからだ！ミナを死なせておいて、何の罪がないような態度を見せた！天罰が下らないなら、オレがお前に罰を与える！」
「自分の愚かさを棚に上げて！」
「棚に上げているのはお前だというのに！」
怒号を放つギルドとジン。フェイスが突き出したストライカーを、ソルディンがビームサーベルでさばいていく。
「よけるな！防ぐな！」
ジンが言い放ち、フェイスがストライカーの１本をしまって、左手でソルディンをつかむ。右手のストライカーを突き立てようとするフェイスだが、ソルディンは胴体を回転させてフェイスを振り払う。
「オレはお前の思い通りには絶対にならない！これが全てを失ったオレの、唯一貫こうとしている意思だ！」
ギルドが意思を示して、ソルディンがビームサーベルを振りかざす。ジンは即座に反応して、フェイスがビームサーベルをかわしていく。
「そんなことを言ってオレたちを陥れて、自分の間違いを正しいものとする・・オレはお前を絶対に許しておかない！」
ジンが激高し、フェイスは２機のストライカーで射撃を仕掛ける。ギルドのソルディンがビームを素早くかわしていく。
フェイスが右手のストライカーからビームの刃を出して、左手のストライカーでの射撃を続けながらソルディンに向かっていく。回避していくソルディンに迫って、フェイスが右手のストライカーを振り下ろす。
「ぐっ！」
ソルディンがビームサーベルでストライカーを防ぐ。その衝撃がギルドを襲う。
（オレは絶対に、この小僧のいいようにはさせない・・！）
ギルドがジンに向けて敵意をむき出しにする。
（あのときオレはオレの任務を果たしただけ。それをこの小僧が刃向かってきた・・恨まれる覚えなど、あるものか・・！）
「あるものか！」
心で叫んでいたことを口に出すギルド。フェイスのストライカーによる射撃と斬撃を、ギルドが反応してソルディンが回避していく。
「よけるな・・よけるな！」
怒りを爆発させるジンが殺気をむき出しにする。フェイスのスピードが上がり、ソルディンを捉えていく。
（まただ・・コイツは急に力を上げてくる・・と言っても、狂犬のような攻め方になるが・・）
ギルドが高まっていくジンとフェイスの戦闘力に毒づく。
（しかもこの機体、前よりもはるかにパワーを引き上げている・・この機体の能力だというのか・・・!?）
「ＭＳが、人のように力を上げられるなど！」
ギルドが激高し、ソルディンがフェイスに向かってビームサーベルを振り下ろす。フェイスが光の刃を出したストライカーで受け止める。
そのとき、フェイスから光が広がった。光に包まれたことで、ジンとギルドの精神がつながった。
このときギルドは、ジンの精神から激しい怒りと殺気があふれているのを目の当たりにした。ジンの感情が彼自身の力となり、フェイスの能力の上昇という形で体現されていた。
「どういうことだ・・その機体、どんなカラクリがあるというのだ・・!?」
「オレも戦いながら実感してきた・・このフェイスは、動かすヤツの心を力に変えているのだと・・！」
疑問を覚えるギルドに、ジンが声を振り絞る。
「そんなバカな・・心を力に変えるなど、人間にできる芸当であっても、兵器にできるなど決してありえない・・！」
「オレもよくは知らない・・だがオレの心が、フェイスの力を高めていることは知っている・・・！」
「そんな理屈で説明できると思っているのか!?」
ギルドが激高し、ジンに詰め寄ろうとする。だがギルドの手はジンに届かない。
「そんなガキの道理で、世界の平和が脅かされてたまるものか！」
「それはお前たちの身勝手がやっているんだろうが！」
ジンが言い返して、ギルドに右手を振りかざす。命中していないにもかかわらず、ギルドはジンに拳を叩き込まれたような衝撃を覚えた。
「どういうことだ・・当たっていないというのに・・・!?」
打撃を当てられた痛みを感じたことに疑問も感じるギルド。
「まさか、これがヤツの殺気だというのか・・殴られたかのような威圧感を覚えたというのか・・・!?」
ジンに気おされたことを受け入れられず、ギルドが苛立つ。
「こんなことで・・オレやスカーレット大佐が敗れるものか！」
感情を爆発させるギルド。ソルディンがビームサーベルを振りかざして、フェイスを突き飛ばす。
「絶対に認めはしないぞ・・こんな小僧に、世界を動かされてたまるものか・・・！」
ギルドがジンの乗るフェイスを鋭くにらみつける。
「お前だけは、何としてでも倒す・・たとえ差し違えてでも！」
ギルドがソルディンのコックピットに備わっている最後の機能を起動させる。
（申し訳ありません、大佐・・これがオレの、最後の意地です・・・！）
マアムへの謝意を秘めるギルド。ソルディンからエネルギーが放出されて、胴体が赤くなっていく。
「最後に見せてやる・・これがオレの切り札、ソルディンのリミッター解除だ！」
ギルドがジンに言い放ち、ソルディンがフェイスに向かって飛びかかる。その速さはこれまでのソルディンをはるかに超えるもので、フェイスにも迫るほどとなっていた。
ソルディンのビームサーベルがフェイスのストライカーのビームの刃を叩いた。ジンがとっさに反応してフェイスを動かしていなければ、フェイスの胴体にビームサーベルが突き立てられていた。
「コイツ・・急に速くなって・・・！」
ジンが感覚を研ぎ澄ませて、フェイスもスピードを上げる。２本のストライカーで迎え撃つフェイスだが、ソルディンはパワーも上がっており、攻撃がぶつかり合う度に押されていた。
「このまま・・このまま押されてたまるか！」
ジンが言い放ち、フェイスが２本のストライカーを組み合わせて、ストライクセイバーにした。組み合わされたビームの刃が巨大になって威力を上げる。
飛びかかってきたソルディンに向けて、フェイスがストライクセイバーを振り下ろす。重みのあるフェイスの一閃が、ソルディンを押し返す。
（やはりあの武器を受け止めるのは、いくら今のソルディンでも危険か・・！）
フェイスの見せる戦闘力に毒づくギルド。リミッターを解除したソルディンの熱量は上がる一方で、ギルドのいるコックピットにも赤い熱が帯びていた。
（機体が限界に向かっている・・この戦いが終われば、オレはソルディンとともに粉々に吹き飛ぶだろう・・・）
ギルドがフェイスを見据えて気を引き締める。
（だがその前に、オレの全てをもって、ヤツとその機体に風穴を開けてやる！）
ギルドが意思を強めて、ソルディンがビームサーベルを構えて、フェイスに向かって突っ込む。
「お前たちのようなヤツがいるから・・オレや罪のない人が・・・！」
ジンが憎悪をさらに膨らませて、フェイスがストライクセイバーを高らかに振り上げた。
「お前を地獄に道連れにしてやる！」
「オレは死なない！お前だけ地獄に逝って、天国にいるミナに詫びろ！」
互いに怒号を言い放つギルドとジン。ビームサーベルを突き出すソルディンが、ストライクセイバーを振り下ろすフェイスの懐に飛び込んだ。
“ジン！”
その瞬間、ジンとギルドの頭の中に声が響き渡った。同時にソルディンとフェイスが巻き起こる閃光に包まれた。
再び精神世界に意識が飛んでいたジンとギルド。彼らの前に現れたのは、死んだはずのミナとミリィだった。
「ミナ・・・ミリィ・・・!?」
「今・・呼んだのはそこの女たちなのか・・・!?」
動揺を覚えるジンと、疑念を膨らませるギルド。ミナとミリィがジンに寄り添って微笑みかけてきた。
「ジン・・ジンなら本当の平和を作り出せる・・私はもう行けないけど・・ジンなら安らげる世界を作り出せると信じている・・」
ミリィに囁かれて、ジンが戸惑いを募らせる。続けてミナもジンに声をかける。
「ジン・・私のことは気にしなくていいよ・・今の私はジンが平和でいてくれるならそれでいいから・・」
「ミナ・・だが、それだとミナが何のために死んだのか、分からなくなってしまうだろう・・・」
「私は・・ジンが辛い思いをしてほしくないのよ・・・！」
歯がゆさを見せるジンに、ミナが悲痛さを見せる。ミナは困惑しているジンから、警戒を見せているギルドに振り向く。
「私は、もうあなたを憎んでいない・・今は、ジンが安心してくれるならそれでいい・・・」
「ふざけるな・・オレはお前たちの納得する未来を迎えさせないぞ・・・！」
許そうとしていたミナだが、ギルドはジンたちへの敵意を消していない。
「平和はオレたちが作るもの！お前たちのような自分勝手な小僧に作れるものか！」
「どこまでもいっても分からないのか、お前たちは!?」
牙を向けるギルドにさらに怒号を放つジン。
ジンにつかみかかろうとしたとき、ギルドがミナとミリィの腕をつかんできた。
「何をする!?放せ！邪魔をするな！」
ギルドが振り払おうとするが、ミナもミリィも彼から離れずにしがみつく。
「この小僧のようなヤツがのさばっても、世界は腐るだけだ！コイツだけは・・コイツだけだ！」
ジンに向けて必死に手を伸ばすギルド。だが彼の手がジンに届くことはなく、ミナ、ミリィに引っ張られて引き離されていく。
（無様だ・・この上なく無様だ・・１人無様に生き残り、エゴだけを優先させて、自分を貫くこともできないとは・・・これ以上の無様があるなら、教えてもらいたいものだ・・・）
皮肉を感じながら、ギルドはジンから遠ざかっていった。
ソルディンが突き出したビームサーベルはフェイスには届いていなかった。ストライクセイバーによって左腕を切り裂かれたギルドのソルディンは、力なく落下して、リミッター解除のエネルギーに耐えきれなくなり、空中で爆発を起こした。
爆発に巻き込まれたギルドも爆発の炎とともに空に消えていった。
（ミナ・・・やっと・・お前の仇を討てた・・・）
ジンが心の中でミナへの思いを呼び起こしていく。
（だけどミナ、お前はアイツを許していた・・お前を死なせたヤツなのに・・・お前が許せても・・オレはアイツを許せない・・・）
ミナの仇であるギルドを倒したにもかかわらず、満足できないでいるジン。歯がゆさを募らせて、彼は声にならない絶叫を上げていた。
“ジン・・・ジン・・・”
呼吸を乱すジンのいるコックピットに、カナの声が響いてきた。
“ジン・・戻ってきて・・この戦いは、終わったんだよ・・・”
「カナ・・・あぁ・・・」
カナの声にジンが答える。ストライカーを収めたフェイスが、クレストに帰艦していった。
（ミナ・・ミリィ・・・オレはこれからも戦う・・安らげる場所を壊す敵を倒すために・・・）
ジンの心の中にミナとミリィ、ヴァルキリーの面々の顔がよぎってくる。
（今はアイツを・・スバルを倒すことを最大の目的とする・・・！）
ジンの戦意はかつての友、スバルに向けられていた。
次回予告
世界の新たなる平和に向けての、ヴァルキリーの戦い。
彼らはそのための最後の切り札を使おうとしていた。
世界に放たれる力が、世界を震撼させる。