GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-40「戻らない時間」

 

 

 呼びかけてきたフィーアに向けて、バーンのヴァルカスがビームライフルで発砲した。放たれたビームに飲み込まれて、フィーアが吹き飛ばされた。

「スバル・・お前!」

 ジンが怒りを爆発させ、フェイスがストライクセイバーをヴァルカス目がけて振り下ろした。だがヴァルカスの姿がフェイスの前から消えた。

「何っ!?

 攻撃をかわされたことに驚愕するジン。次の瞬間、フェイスが強い衝撃に襲われた。

「ぐっ!」

 ジンが揺さぶられてうめく。ヴァルカスの行方を追おうとした彼だが、ヴァルカスの姿が見えない。

「いくらお前の機体でも、調整したヴァルカスを捉えられないようだな・・」

 追い込まれていくジンに、バーンが言いかける。再びフェイスが衝撃に襲われて、体勢を崩して落下しそうになる。

「機体からあふれているエネルギーが防御の膜にもなっているようだ・・普通ならば傷を負わすことができたはずなのに、自身のエネルギーで負傷を免れている・・」

 バーンがフェイスの性能を分析していく。

「少しスピードを殺すことになるが・・そのエネルギーの膜ごとヤツのボディ切り裂くことができるようになる・・!」

 バーンが勝利の策を見出して、ヴァルカスが2本のビームサーベルを組み合わせて出力と威力を上げた。

「今度こそ終わらせてやるぞ、ジン・シマバラ・・・!」

「スバル!」

 倒そうと迫るバーンに、ジンが怒りの声を上げる。フェイスとヴァルカス、2機の光の刃がぶつかり合った瞬間、フェイスからあふれている光が一気に強まった。

「お前はお前を信じていたヤツの命さえも簡単に奪うのかよ、スバル!」

「私はヴァルキリーのバーン・アレス。我らの行く手を阻むものは全て排除するのみ。」

「お前!」

 バーンの言葉に怒号を上げるジン。フェイスが全身からの光を強めて、ヴァルカスを押し切ろうとする。

「許さない!絶対に許さない!必ず地獄に叩き落としてやる!」

「お前に私は倒せない。地獄に落ちるのはお前だ。」

 声を張り上げるジンに、バーンが冷徹に告げる。フェイスのストライクセイバーをすり抜けて、ヴァルカスが高速で動く。

「逃げるな!オレに倒されろ!」

 殺意をむき出しにするジン。フェイスが全身のエネルギーを右手に宿して、ヴァルカスをつかもうとする。

 その光の右手が、ヴァルカスの左腕をつかんだ。

「誰が逃げていいと・・!」

「逃げているつもりはない。」

 だが次の瞬間、ヴァルカスのビームソードがフェイスの右手を切り裂いた。この瞬間にジンが目を見開く。

「お前は私を捉えることなく葬られる。それ以外の辿る道はない。」

 バーンがさらに告げ、ヴァルカスがビームソードを振りかざしてフェイスを斬り付けた。決定打にならなかったが、フェイスの胸部に傷がついた。

「今度こそお前の最後だ、ジン・シマバラ・・」

 バーンがフェイスにとどめを刺そうと迫る。だが次の瞬間、フェイスがヴァルカスに向けて、左手に持っていたストライクセイバーを振りかざしてきた。

 ジンは言葉にならない絶叫を上げていた。彼は高まる怒りと殺意のままに、スバルのヴァルカスを攻め立てていた。

 ヴァルカスはストライクセイバーの一閃を紙一重でかわす。だがフェイスはさらにストライクセイバーを振りかざしてくる。

「どこまでも往生際の悪いことを!」

 バーンも感情をあらわにする。ヴァルカスもフェイスに向けてビームソードを振りかざす。

 ストライクセイバーがヴァルカスの左の脇腹を、ヴァルカスのビームソードがフェイスの左手と両足を切り裂いた。

(逃げるな・・逃がさない・・・!)

 怒りと殺意の赴くままにバーンを捉えようとするジン。だがフェイスにはヴァルカスに届く手がなかった。

 損傷が激しくなり、フェイスが落下していく。だが傷を負っていたのはヴァルカスも同じで、これ以上の戦闘行為は困難となっていた。

「あと一歩というところで、とどめを刺すことができなくなるとは・・・!」

「バーン、ジンのとどめは私がやろう。」

 毒づくバーンにレイアが呼びかけてきた。落下していくフェイスにグレイヴが迫る。

 だがその眼前にソワレが割り込み、行く手を阻んだ。

「マリアさん、あの2機を連れてグーランを離れてください!僕が食い止めている間に!」

「ソワレくん!・・分かったわ・・!」

「私も手伝います!」

 呼びかけてくるソワレに、マリアだけでなくリリィも答える。ルナとソリッドが地上に落ちたフェイスとブレイズを引き上げた。

「ここは撤退するしかない・・このまま戦えば確実に死ぬことになる・・・!」

「だが、ここで引けばグーランが・・・!」

 呼びかけるアルバだが、ソワレは聞き入れるのをためらう。

“ソワレ、基地にいた者は全員脱出した!お前たちも離脱しろ!”

 そこへクレストから通信が入り、ガルもソワレに呼びかけてきた。

「・・・了解しました・・・!」

 ソワレがようやく聞き入れ、ゼロとフューチャーもグーランから引き上げていった。

「逃がしたか・・残念だが、今の我々にヤツらを追う余力はない・・・」

「グーランは壊滅しました。これでリードの地球上での機能も絶望的となりました・・」

 レイアとゼビルが言葉をかわし、撤退していくクレストとジンたちを見逃した。

「我々も引き上げる。そろそろ頃合いだろう・・」

「レイア様・・・分かりました・・・」

 レイアの呼びかけにバーンが答える。ヴァルキリーもグーランから離れていった。

 

 リリィたちに助けられたジンは、クレストの医務室に運びこまれた。フェイスを使ったことでの体力の消耗と戦闘での負傷で、ジンは意識を失っていた。

 同じく落とされたカナは意識を取り戻していた。ブレイズは軽い損傷を被ったが、カナは傷を負ってはいなかった。

「大丈夫、カナさん・・・?」

「リリィさん・・私は大丈夫ですけど・・ジンが・・・」

 心配の声をかけるリリィに、カナが悲しい顔を見せる。今回も命に別状はなかったが、ジンはまた意識を失ってしまった。

「ユウを止めることができなかった・・私には、誰も止めることはできないのかな・・・?」

「そうやって諦めたら、それこそ誰も止められなくなるわよ・・」

 落ち込むカナに声をかけたのはマリアだった。

「これまでのあなたたちは、できるという自信があって今までやってきたのでしょう?せめてその自信を持たないと、できることもできなくなってしまうわ・・」

「マリアさん・・・」

 戸惑いを見せるカナの肩に、マリアが手を添えてきた。

「自分を信じるなら、彼を信じているなら、自信を持ちなさい。女は元気と優しさと勇気が最大の武器なんだから・・」

「それが正しいなら、私の武器のほうが強いかな・・」

 カナを励ますマリアをリリィがからかってくる。

「もう、リリィさんったら。いつの間にそんな冗談を言うようになったのよ・・」

 ふくれっ面を見せるマリアに、リリィが笑みをこぼす。2人のやり取りを見て、カナも笑みを浮かべていた。

「私もしっかりしないと・・ジンも辛いのに・・・」

 だがカナはその笑みを消して、悲しさを募らせていく。

「フィーアさん・・あんなにスバルさんを信じていたのに・・・」

 フィーアの死を悲しむカナ。純粋に思い続けた彼女が死んだことに、カナは強く胸を痛めていた。

「フィーアさんは、スバルさんを連れ戻そうとしただけなのに・・それなのに・・・」

「カナさん・・・」

 震えるカナを見て、リリィも困惑を感じていた。2人と同じく悲しさを感じながらも、マリアは意を決して言葉を切り出した。

「せめて間違いを止めること。それが相手のため、命を落とした人のためになる・・」

「マリアさん・・・」

「あなたが大切にしている人がどうあってほしいのか・・そのためにどのような選択をしていったらいいのか、あなたも分かっているはずよ・・・」

 戸惑いを見せるカナに、マリアが手を差し伸べてきた。

「正しいと思ったことのためにやろうとしていることを迷わないで・・心に決めたら、こうだと思い込んだら、躊躇しないでやり通すのよ・・言うはやすし、行うは難しだけど・・」

「私もアルバも、頑固なくらいにそういうのを貫いてきているから・・・」

 マリアに続いてリリィも呼びかけてきた。彼女たちの言葉を受けて、カナは気持ちの整理をしていた。

「ユウの間違いを止めるのは、私がやるしかない・・ユウが大事だから・・・」

 心の中にあった動揺を和らげていくカナ。彼女はヴァルキリーと、ユウと対立することもいとわなくなっていた。

 

 バーンのヴァルカスとの戦いで損傷したフェイス。クレストの整備班が修繕を試みようとしたが、リード管轄の機体でないため、迂闊に手を出すことができなくなっていた。

「本当にどうしたらいいのやら・・・」

「下手に手を出してエネルギーが暴発して、オレたちやクレストが吹っ飛ばされたらたまんないし・・」

「しかしこれのおかげで助かっているところもあるし・・何とかしてやりたいが・・・」

 フェイスの修繕に着手できず、整備士たちは困り果てていた。その問題をアルバとソワレも頭に入れていた。

「アルバ、お前があの機体が必要不可欠と考えているなら、開発か整備に携わっている人を呼び出さないといけなくなるが・・」

「そうしたいところだが、その人から自分たちのことを知られたくないと釘を刺されているのでな・・」

「そうはいうが・・このまま放置しておくのもよくないとも思っているのだろう?」

「そうなのだが・・オレたちの独断で話を進めていいものか・・・」

 機体の修繕のための行為を求めるソワレに対し、アルバは思い悩んでいた。彼はリンに自分のことを打ち明けないでほしいと言われていた。

 そのとき、クレストの整備ドックに向けて通信が入ってきた。その会話がドックに響いてきた。

“クレスト、クレスト。そこにアルバくんとリリィちゃんはいるかい?”

 響いてきた声にアルバが驚きを覚える。通信を入れてきたのはリンだった。

「リン・・クレストに通信をして大丈夫なのか・・・!?

 アルバが動揺を感じたままリンに問いかける。

“フェイスがやられたんじゃ、こっちのエゴを優先してもいられないじゃない・・今、そっちに向かってる。フェイスの修理はしっかり私が・・”

「失礼ですが、あなたは誰ですか?あの機体の関係者ですか?」

 話しかけてくるリンに、ソワレが問いかけてきた。

“あぁ、ゴメン、ゴメン・・自己紹介をしないで勝手に話を進めるのはよくないね・・私はリン・ヒビノ。ジンくんが乗ってた機体、フェイスの開発者よ。”

「リン・ヒビノ!?・・あの兵器開発のエキスパートの・・!?

 名乗りを上げてきたリンに、ソワレが驚きを覚えた。ドックにいた整備士たちも、リンの登場に動揺を隠せなくなっていた。

「彼女と一緒にいたのか、アルバ・・・!?

「あぁ・・居候させてもらう代わりに、彼女の手伝いをしている。フューチャーの性能も彼女は把握している・・」

 ソワレが視線を向けると、アルバが淡々と答える。

“ちょっとー、話を進めてるのはこっちなんだけどー。”

 そこへリンからの不満の声が飛び込んできた。ソワレは顔色を変えずに彼女に応答する。

“フェイスの修理と整備をやるなら、私が見たほうがいいと思うんだけど?部外者を入れるのはそっちとしては納得いかないだろうけど・・”

「確かに許可できかねます、本来ならば・・ですが非常事態です。僕たちの監視下で、あの機体の修理と整備をしてもらいましょう・・」

 言いかけてくるリンを、ソワレは渋々受け入れることを決めた。

「すまない、ソワレ・・」

「非常事態と言ったはずだ。ヴァルキリーの勢力を食い止めるには、あの機体も必要不可欠と判断しただけだ・・」

 謝意を示すアルバに、ソワレが落ち着いた素振りを見せた。

「話は私たちも聞かせてもらったわ・・」

 マリアがリリィ、カナと一緒に2人の前に現れた。

「リンさんが直接来るなんて・・ちょっとビックリしちゃったけど、これでフェイスを直せる・・」

 リンの来訪に、カナは喜びと不安が混ざった複雑な気分を感じていた。

「ジンくんに知らせに行ってきて、カナさん。パイロットなしでこの話を進めるのはよくないから・・」

「え・・あ、はい・・」

 リリィに言われて、カナはジンのいる医務室に向かった。

「これはヴァルキリーの暴走を止めるための戦いね。理念や考え方は違うけど、現時点での共通の目的がある・・」

 マリアが口にした言葉に、アルバ、ソワレ、リリィが頷いた。

「私たちも戦いましょう。いつまでもフェイスに、ジンくんだけに任せるのは気が滅入るわ・・」

「そうね・・他人に任せてばかりなのは、私たちらしくないね・・・」

 マリアの言葉にリリィが頷く。アルバとソワレもヴァルキリーとの戦いに備えようとしていた。

 

 リンのことをジンに知らせようと、カナは医務室に向かった。彼女が医務室に来たとき、ジンは目を覚ましてベッドから体を起こしていた。

「ジン・・もう起きていて大丈夫なの・・・?」

「こんな気分でいつまでも寝ていられるか・・・」

 声をかけるカナに、ジンは視線を移さずに返事をする。

「スバルは完全にオレたちの敵になった・・アイツは自分の目的のために、今まで大切にしてきたものを全て切り捨てた・・自分が大事にしてたあの女も・・・!」

「ジン・・私も信じられないし、信じたくない・・スバルさんが、フィーアさんにあんなことをするなんて・・・」

 スバルへの憤りを募らせていくジンと、悲しさを噛みしめていくカナ。

「もうアイツに何を言ってもムダだ・・何をしても意味はない・・オレがアイツにすることは1つしかない・・」

「ジン・・・」

「オレはこれからも戦っていく・・スバルを叩き潰す・・敵を全て倒す・・それがオレのやるべきことだ・・・」

「それでフェイスに乗って、死ぬことになるとしても・・・」

「オレは死なない・・敵を全て倒すまで、絶対に死んだりしない・・・!」

 揺るがない決意と敵意を抱くジンに、カナは戸惑いを感じた。しかし彼女はすぐに落ち着きを取り戻して、ジンに近寄った。

「私がジンを死なせない・・今の私にはもう、あなたしかいないから・・・」

「誰の世話になるつもりはないが・・お前は信じてもいいかもしれないな・・・」

 信頼を寄せるカナの想いを受けて、ジンがふと笑みをこぼした。彼は無意識に、ミナ、ミリィと過ごしたときと同じ安らぎをカナから感じていた。

「ジン・・・ありがとう・・私、とても嬉しいよ・・・」

 カナは心から喜んで、感謝の言葉を返した。

「あ、言い忘れてた・・もうすぐここにリンさんが来るよ・・」

 カナがリンのことを告げると、ジンが眉をひそめた。

「フェイスを直すために、自分のことを知られるのも覚悟して・・」

「そうか・・・オレが戦いを続けるのも、難しくなくなったようだ・・・」

 カナの話を聞いて、ジンは笑みを浮かべていた。

 

 

次回予告

 

全てはあの邂逅と衝突から始まった。

積み上げてきたものを全て打ち砕かれた。

残されているもの。

それは全てを壊す引き金となった男。

 

次回・「ギルド」

 

 

作品集

 

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