GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-39「戦場での再会」

 

 

 スバルに会おうとする意思を受け止めて、カナはフィーアを病院から連れ出した。カナはジンのいるブレイズのコックピットにフィーアを入れた。

「なぜコイツが来ているんだ・・・!?

 思っていなかったフィーアの登場に、ジンが声を上げる。

「あたし、どうしてもスバルに会いたいの・・会って何か言ってやらないと気が治まらない・・・」

「勝手なことを・・・言ったはずだ。オレはスバルを許さない。必ずこの手で倒すとな・・そのオレに、アイツまでの道案内をさせるとは・・・」

 自分の気持ちを口にするフィーアに、ジンが不快感を覚えてため息をつく。

「そんなに死に急ぎたいなら勝手にしろ・・何があってもオレは助けないからな・・・」

「ありがとう・・ありがとうね・・・」

 憮然とした態度を見せるジンに、フィーアが感謝の言葉をかける。

「しっかりつかまっていて・・飛行機以上の圧力がかかるよ・・」

 カナの呼びかけにフィーアが頷く。ジンがブレイズのエンジンを起動させた。

(スバル、あたしが行く・・もうバカなことはさせないよ・・つかんででも連れ帰る・・・!)

 心の中でスバルに対する思いを募らせていくフィーア。3人を乗せてブレイズが動きだし、飛翔していった。

「フィーアさん!」

 遅れてソワレが病院から飛び出してきた。しかしフィーアを連れ戻す前に、ブレイズは発進してしまった。

「・・・マリアさん、ジンたちを止めてください!2人、一般人を1人乗せて、グーランに向かいました!」

 ソワレが通信機で、クレストにいるマリアに呼びかけた。

“何ですって!?・・分かったわ!私も発進するから、ソワレくんもジンくんたちを追いかけて・・・!

「分かりました!追いかけます!」

 マリアの返答を受けて、ソワレもゼロに乗り込んだ。

 ブレイズとゼロがグーランに向かって飛行していく。そこへクレストから発進してオートで飛行していたフェイスがやってきた。

「オレはフェイスに移って先を急ぐ。ブレイズはカナ、お前が動かせ。」

「ジン・・・うん・・」

 ジンの呼びかけにカナが頷く。フェイスと並行したところで、ブレイズのコックピットのハッチが開いた。

 2機が飛行したまま、ジンはブレイズからフェイスへと移った。彼とカナの操作で、2機のハッチが同時に閉じた。

「スバル・・今度こそ・・今度こそお前を・・・!」

 スバルへの、バーンへの怒りを募らせながら、ジンはフェイスのスピードを上げた。機体自身のエネルギーとジンの精神力で、フェイスからあふれた光が翼の形になって広がっていた。

 

 ソワレからの連絡を受けて、マリアはルナに乗って、クレストより先にグーランに向かおうとした。その彼女にアルバとリリィが声をかけてきた。

「ソワレたちに何かあったのか?」

「グーラン基地にヴァルキリーが現れたわ。ソワレくんとジンくんたちが向かって、ジンくんがあの機体を呼び寄せたのよ。」

 アルバの問いかけに、マリアが真剣な表情で答える。

「ジン、またフェイスに乗ったのか・・今度こそ死んでしまうかもしれないというのに・・・!」

「私たちも行かせて・・ヴァルキリーもだけど、ジンがフェイスに乗ることも放っておけない・・・!」

 毒づくアルバと、マリアに呼びかけるリリィ。一瞬悩んだマリアだが、すぐに決断を下した。

「いいわ。あなたたちの力が、味方にすると頼もしいことは実証されているものね・・私の指示を優先させるなら、出撃を許可するわ。」

「マリアさん・・ありがとう・・・」

 了承したマリアにリリィが感謝する。3人はすぐに各々の機体に乗り込み、発進に備えた。

「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 マリアのルナ、アルバのフューチャー、リリィのソリッドがクレストから発進していった。

 

「レイア・バルキー、グレイヴ、出撃する!」

「バーン・アレス、ヴァルカス、発進する!」

「ゼビル・クローズ、カース、発進する!」

 レイアのグレイヴ、バーンのヴァルカス、ゼビルのカースがヴァルキリアから発進する。彼らはリード基地、グーランに攻撃を仕掛けていた。

 リヴァイバーに乗り込もうとしたユウに、マークが駆け寄ってきた。

「ユウ、大丈夫なのかい・・・?」

「えっ・・?」

 マークが投げかけた問いかけの意味が分からず、ユウが疑問符を浮かべる。

「最近のユウ、落ち着けていないみたいだ・・ジンとカナのことがあるのは僕も分かる・・・」

「マーク・・・」

「またジンたちと戦うことになるかもしれない・・イヤなら、ムリに戦わなくても・・・」

「いや、行くよ・・僕がジンとカナの間違いを終わらせる・・僕がこの手で、終わらせないといけないんだ・・・」

 ユウを呼び止めようとするマークだが、ユウは戦いをすることを諦めなかった。

「ゴメンね、マーク・・心配をかけさせてしまって・・・」

「ユウ・・僕はただ・・・」

 謝るユウにマークが戸惑いを見せる。彼を背にして、ユウは改めてリヴァイバーに乗り込んだ。

「ユウ・フォクシー、リヴァイバー、行きます!」

 ユウの乗るリヴァイバーがヴァルキリアから発進した。リヴァイバーが、グレイヴ、ヴァルカス、カースと合流した。

「お待たせしました!」

「ユウ、リードの増援が来る前に、グーランを叩くぞ!」

 声をかけるユウに、ゼビルが呼びかける。リヴァイバーが一気にグーランを掃討するため、シヴァのエネルギー充填に入った。

 ザグ、グフが迎撃するが、グレイヴとカースの攻撃に歯が立たず撃墜されていく。

「まずはお前たちで、生まれ変わったヴァルカスの力を試させてもらうぞ・・」

 バーンが低く呟き、ヴァルカスが向かってきたザクとグフに攻撃を仕掛けた。ヴァルカスが後ろに移動してきた瞬間に、ザクやグフが切り裂かれて爆発を起こした。

「は、速い・・!」

「速いかどうかも分からない・・いつ動いたのかも分からなかった・・・」

 リードのパイロットたちは驚きを隠せなくなっていた。ヴァルカスの動きは目にもとまらぬほどになっており、MSや基地のカメラでも捉えきれなかった。

「新たなヴァルカスの力・・たとえお前のあの機体でも回避することはできないぞ、ジン・シマバラ・・」

 ジンへの憎悪を募らせて、バーンが攻撃を続けようとした。

 そのとき、ヴァルカスのレーダーが近づいてくる熱源をキャッチした。グーラン基地に向かってきたのは、ジンの乗るフェイスだった。

「来たか・・・!」

 ジンとの再戦にバーンが笑みを浮かべる。

「私がヤツを倒します。レイア様たちはグーランを・・」

 バーンはレイアたちに声をかけて、フェイスを迎え撃つ。

「今度こそお前を始末させてもらう・・!」

「見つけたぞ、スバル・・お前は絶対に許さない!」

 互いに敵意を見せ合うバーンとジン。ヴァルカスがビームサーベルを、フェイスがサーベルモードのストライカーを手にしてぶつけ合う。

「この前のように、私に手傷を負わすことはできないと思ってもらおう・・!」

「今度こそお前を倒す!ミリィを殺した罪を、必ず償わせてやる!」

 激闘を繰り広げるバーンのヴァルカスとジンのフェイス。戦闘が激化するグーラン基地に、ゼロとブレイズも駆けつけた。

「ここまで来たからには、君たちの力も貸してもらうよ!」

「力を貸すことになるんですね・・まずはヴァルキリーを止めるのが先・・・!」

 呼びかけるソワレに、カナが言葉を返す。グーランの防衛に向かうゼロの前にグレイヴが立ちふさがる。

「お前たちに邪魔はさせないぞ。」

 レイアが目つきを鋭くして、グレイヴがゼロに迫る。グレイヴが振りかざしてきたクレイモアを、ゼロがトラスカリバーで受け止める。

「お前のいいようにはさせないぞ。」

「ソワレさん!」

 ソワレに不敵に言いかけるレイアと、声を荒げるカナ。

「ねぇ、スバルが乗ってるのは、どれなの・・・!?

 フィーアがカナに声をかけてきた。動揺を浮かべながら、カナはフェイスと交戦しているヴァルカスに目を向けた。

「あっち・・ジンのフェイスと戦っているあの紅い機体ですよ・・」

「あたしを連れてって・・スバルに言ってやらないと・・・!」

「ムチャです!今でも戦闘という危険な状態にあるんです!」

「それでも行かせて!行けないって言うなら降ろして!戦いの邪魔はしないから!」

「なおさらムチャですよ!死んでしまいます!」

「それでも・・あたしはスバルに言いたいのよ・・・!」

 呼び止めようとするカナだが、フィーアはスバルに声をかけようとするのをやめない。

「呼びかけるだけだから・・危なくなったらすぐに引き返します・・・」

 カナは忠告を返しながらも、フィーアの懇願を聞き入れた。ブレイズが攻防を繰り広げているフェイスとヴァルカスに近づいていく。

「カナ、こっちに来るな!」

 ブレイズの接近に気付いたジンが声を上げる。次の瞬間、フェイスの胴体からエネルギーの閃光が放出された。

 その光に包まれたことで、戦場にいたパイロットたちの精神が干渉しあうことになった。カナと一緒にブレイズに乗っていたフィーアも。

「何、これ!?・・・まるで、何もかも見られてるみたい・・・!」

 フェイスの光に抱かれたフィーアが、感じている感覚に動揺していた。その彼女の視界に、ジンと対峙しているバーン、スバルの姿が入ってきた。

「スバル!」

 フィーアが声をかけるが、バーンは彼女に振り向かない。

「どうしてこんなとこにいるのよ・・何でそんなものに乗って戦ってるのよ!?

 フィーアがさらに呼びかけるが、バーンは答えない。

「何で黙ってんのよ・・何とか言いなさいよ、スバル!」

「私はお前を知らない。それ以前に、お前にそのような態度をされるいわれもない・・」

 怒鳴るフィーアにバーンが冷徹な態度を見せる。

「バ・・バカ言わないで、スバル!アンタはスバル!あたしのボーイフレンドなんだから!」

「私はバーン・アレス。ヴァルキリーのための存在。それ以外の何者でもない。」

 声を張り上げるフィーアだが、バーンの考えと態度は変わらない。

 次の瞬間、光のきらめきが弱まって、ジンたちの意識が現実へと戻された。その直後、フェイスのストライカーとヴァルカスのビームサーベルのぶつかる轟音が響き渡った。

「そんなことない・・あれはスバル・・スバルなの・・・!」

 困惑を膨らませていくフィーア。彼女は拒絶されても、スバルに自分の声が届くと信じていた。

「カナ!」

 カナとフィーアの乗っているブレイズの前に、ユウの乗るリヴァイバーが駆けつけてきた。

「ユウ・・・!」

「カナ、もうやめるんだ・・平和を壊すようなことはやめてくれ・・・!」

 戸惑いを覚えるカナに、ユウが呼びかけてくる。しかしカナはユウの願いを聞き入れない。

「ユウもヴァルキリーのやり方で戦うのはやめて・・ジンのように簡単に切り捨てられてしまう・・・!」

「そんなことない・・レイア様もゼビルも、僕を励ましてくれる・・僕の力を頼りにしてくれる・・・!」

「それじゃレイアもバーンも、私たちを許してくれているというの・・・!?

 カナに問い詰められて、ユウは困惑する。彼はレイア、バーン、ゼビルの言うとおりにジンとカナを撃つことができず、ためらいを抱いていた。

「ユウ・・ユウが倒そうとしている敵は何なの・・・!?

「僕は・・僕の敵は・・平和を壊そうとしている連中・・・」

 カナの言葉でユウが動揺を募らせていく。

「もうカナもジンも・・世界を壊す敵になってしまった!」

 ユウが激高し、リヴァイバーがビームライフルを組み合わせてレールガンにして発砲する。カナがとっさに反応し、ブレイズがビームをかわす。

(ダメ・・フィーアさんがいるのに戦えない・・・!)

 フィーアを気遣い、反撃や激しい動きに出ることができないカナ。そのとき、リヴァイバーがシヴァのエネルギーチャージを完了させた。

「一気に決めろ、ユウ!」

「シヴァ、発射!」

 ゼビルに背中を押される形で、ユウがシヴァを発射した。かわそうとしたカナだが、シヴァのビームの余波がブレイズに襲いかかった。

「うっ!」

 衝撃に襲われるカナとフィーア。胴体から火を噴いたブレイズが、飛行を保てなくなって落下していく。

 シヴァのビームはグーラン基地の軍事施設に直撃して、炎に包みこんだ。

「しまった!グーランが!」

 驚愕の声を上げるソワレ。グーランに向かおうとしたゼロに、レイアのグレイヴが猛攻を仕掛ける。

「お前の相手は私だ。」

 レイアが声をかけ、ソワレが焦りを募らせる。だがグレイヴが突然ゼロへの猛攻を中断し、離れる。

 次の瞬間、駆けつけたアルバのフューチャーが飛び込み、エクスカリバーを振りかざしてきた。

「無事か、ソワレ!?

「アルバ・・またお前に助けられるとは・・・!」

 呼びかけてくるアルバにソワレが毒づく。

「フューチャー!」

 ゼビルのカースが飛びかかり、フューチャーにビームサーベルを振りかざしてきた。フューチャーがエクスカリバーがカースの速い攻撃を受け止め、回避していく。

「では続きをしようか、ゼロ・・」

 レイアが不敵な笑みを浮かべ、グレイヴがゼロに向けてクレイモアを振り下ろしてきた。

 

 シヴァのビームの衝撃に襲われて、ブレイズが崩壊を喫しているグーラン基地に落下した。その弾みでカナが意識を失った。

「カナさん、しっかりして!カナさん!」

 フィーアが声をかけるが、カナの意識は戻らない。

「カナさん・・・スバル・・・!」

 フィーアはたまらずブレイズのコックピットのハッチを開けた。彼女はジンとカナの操作を見ていた。

 フィーアはブレイズを飛び出して、ヴァルカスに向かって叫んだ。

「スバル、そんなこと、戦うなんてこと、スバルは全然望んでなかったじゃない!平和は戦いや暴力じゃ作れない!言葉と分かり合う気持ちと姿勢が大事だって言ってたじゃない!」

 フィーアが声を振り絞って、バーンに向けて叫び続ける。彼女の声を耳にして、ジンのフェイスが攻撃の手を止めた。

「バカなヤツだ・・お前のようなヤツをそこまで信じようとしているなんて・・・」

 ジンがフィーアに呆れて肩を落としていた。だがジンはフィーアのスバルに対する真っ直ぐな想いを理解していた。

「帰ろうよ、スバル・・また2人で一緒に、楽しいこと、いっぱいしようよ・・・」

 フィーアが涙を浮かべながら笑顔を見せる。彼女はスバルが戻ってくると信じていた。

「邪魔だ・・・」

 次の瞬間、ヴァルカスが右手に持ったビームライフルを発砲した。放たれた光が、目を見開いたフィーアをのみ込んだ。

 バーンは冷徹にフィーアを吹き飛ばした。彼の中にスバルとしての人格はない。フィーアの心に全く共感を持ってはいなかった。

「スバル・・お前!」

 バーンの態度と行動に怒りを爆発させたジン。フェイスがストライカーを組み合わせてストライクセイバーとして握り、ヴァルカスに飛びかかっていった。

 

 

次回予告

 

あの時の心はなくなっていた。

フィーアをも手にかけたバーンに、ジンの怒りは一気に増した。

この世界にスバルはいない。

ヴァルキリーのために戦う戦士がいるだけ・・・

 

次回・「戻らない時間」

 

 

作品集

 

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