GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-38「安らぎの居場所」
テンダスの中央病院。その320号室で眠り続けていたフィーアが、永い眠りから意識を取り戻した。
意識が戻らないことも予測されていたフィーアの重傷。ところが彼女は意識が戻っただけでなく、記憶に障害は出ていなかった。
「スバル・・スバルはどこ・・・?」
まだはっきりしていない意識で、フィーアがスバルを求めて病室を見回し、弱々しく声を発していた。彼女のスバル探しは度々起こっていた。
病院の看護士たちもスバルへの連絡を取ろうとしたが、全く連絡が取れなかった。
フィーアは不安を抱えたまま、病院での療養を続けることになった。
「フィーアさんの意識が戻った・・本当ですか・・・!?」
クレストのオペレーターからの連絡に、カナが驚きを隠せなくなった。
「詳しくは分かりません。暗号文がそのような内容としか・・」
「そうですか・・・もう1度連絡を取らせてください。確認してみます・・」
オペレーターの言葉を受けて、カナが連絡を試みる。だがガルに止められる。
「いくら連合やヴァルキリーに属していないとはいえ、我々の現在位置を知られるようなことはされたくない・・」
「でしたら私たちをMSと一緒に外に出してください。離れていれば位置がばれることはないですよね?」
「だがな・・そう言って逃げない保障もないしな・・」
提案を持ちかけるカナだが、ガルは素直にそれを受け入れられないでいた。
「なら僕が見張り役として一緒に行きましょう。それでしたら、もしも奇襲に打って出ようとしてもすぐに対応できます・・」
そこへソワレが呼びかけ、ジンとカナの見張りを買って出た。
「ソワレ・・・分かった。2人のことはお前に任せる・・」
「ありがとうございます、艦長・・・そういうことだ。連絡は僕の監視の下で行ってもらうよ・・」
ガルの了承を受けて、ソワレがジンとカナに指示を出す。
「分かりました・・それでお願いします・・」
「すまない・・手間を取らせることになるが、君たちは敵になりかねないからね・・」
感謝するカナにソワレが謝意を見せる。彼らの言動に対して、ジンは憮然とした態度を見せていた。
ジンとカナはともにブレイズに乗り込むことになった。フェイスでは負担が大きすぎると、アルバたちから止められた。
「フェイスは高いエネルギー量を備えている機体だって言ってた・・ブレイズやフューチャーから遠隔操作で呼び寄せることもできるって・・」
「オレはフェイスに乗って行っても構わなかったのだが・・」
呟きかけるカナにジンが憮然さを見せる。
「またフェイスに乗って意識を失ったら・・今度こそ意識が戻らなくなるかもしれないよ・・」
「死ぬと言いたいのか?・・言ったはずだ。オレは死なないと・・」
「でも・・それでも心配になってくるのが、正直なところ・・・」
「余計な心配だな・・オレは死なない・・敵を倒すまで・・いや、倒した後も・・・」
不安を見せるカナだが、ジンに迷いは一切なかった。バーンを、スバルを倒そうとするジンに、カナは心配を拭うことができなかった。
クレストから距離を取ったところで、ブレイズとゼロが止まった。
「ここならクレストが感知されることはなくなる・・連絡を取っても構わない・・」
「分かりました、ソワレさん・・ありがとうございます・・」
呼びかけるソワレに感謝の言葉を返して、カナがリンへの連絡を試みた。
“おっ!カナちゃん、無事だったみたいだねぇ。今どこにいるんだい?”
「今はそれは言えません。リードの人からの監視を受けています。先ほどの連絡のことだけを・・」
応答したリンにカナが事情を説明する。
「本当なんですか?フィーアさんが、意識を取り戻したって、本当ですか・・・?」
“そう病院から連絡が入ったわ。もしも行けるようならカナちゃん、行ってみたらどうかな・・?”
「はい・・行けるようでしたら行ってみます・・」
“それでカナちゃん、ジンくんとフェイスは大丈夫なの・・?”
「はい・・戦闘中に意識を失ったんですけど・・意識が戻りました・・」
“戻った!?・・フェイスで出たって言うだけでも驚きだけど、それで死んでいないって言うのも・・”
カナからの報告を聞いて、リンが驚きの声を返す。
「そろそろ連絡を切り上げてもらえないか?通信が長引けば現在位置の特定が容易になってくる・・」
そこでソワレがカナに呼びかけてきた。
「リンさん、すみません・・みんな無事ですので・・ここで失礼します・・」
カナはリンの返事を聞かずに通信を切った。
「内容は聞かせてもらった・・君たちはどうするつもりだ?」
「病院に行きたいです。フィーアさんのことが気になりますし・・」
ソワレの問いかけにカナが真剣に答える。2人の自由にさせることに腑に落ちないながらも、ソワレはクレストへの連絡を取った。
「カナ・カーティアの通信が終わりました。これより2人とともにテンダス中央病院に向かいますが、よろしいでしょうか?」
“ソワレくん、どういうことか聞かせてもらえる?”
ソワレの連絡に答えたのはマリアだった。
「2人の知人に会いに行くのです。テンダスにて戦闘に巻き込まれた1人のようで・・失ったままだった意識がようやく戻ったそうです・・」
“なるほどね・・分かったわ。私が許可する。ただし連絡が入ったら、ジンくんとカナさんを連れて戻ってくるように。”
「ありがとうございます、マリアさん・・」
マリアからの了承を得たソワレは、彼女との通信を終えた。
「許可をもらった。少しの間ならテンダスに行ける・・」
「ソワレさん・・ありがとうございました・・」
呼びかけるソワレにカナが感謝の言葉をかける。ブレイズとゼロは一路テンダスへと向かうのだった。
MSと武装の修繕を行っているヴァルキリー。その最中、ヴァルカスは攻撃力とスピードを重視した調整が行われていた。
「ジン・シマバラ・・あのようなMSでいつまでもいいようにはさせない・・今度こそ葬り去る・・2度と邪魔できないように・・」
「お前らしくないな、バーン・・いつもの冷静さが欠けているぞ・・」
いら立ちを浮かべているバーンに、レイアが声をかけてきた。
「レイア様・・私はただ、これ以上ジン・シマバラに妨害をされたくないだけで・・」
「分かっている。私としても、ジンたちや他の勢力を一刻も早く排除しなければならないと痛感している・・」
言葉を返すバーンをレイアが言いとがめる。動揺を悟られたと思い、バーンは言葉を詰まらせた。
「我々の目指す世界の平和。それは世界に足を踏み入れている者全員が思想を同じくすることで初めて実現される。我々以外の全ての武力が排除されれば、世界の人々の思想は同じ方向に向かうようになる・・我々が導く平和の中で・・」
「分かっています。その思想は全て、レイア様の導きに基づくものです・・」
信念を口にするレイアに、バーンが頷いた。
「あの準備も着々と進んでいる。我々が攻めきれないのでは、他の者に示しがつかんな・・」
「そんな・・レイア様にそのようなやましいことを考える者など・・」
「言わなくていい、バーン・・たとえそのような者が出てこなくても、私自身が許せんのだ・・」
バーンが弁解を入れるが、レイアは自責を口にしていく。
「地球連合は我々の手によって壊滅的な打撃を受け、再起までに時間を要する・・後はリードを壊滅させ、裏切り者のMSを撃破するのみ・・」
「そうすることで、世界は本当の平和を取り戻すことができます・・・」
レイアの決意にバーンが賛同する。その2人の前にユウがやってきた。
「レイア様、バーンさん・・ジンとカナのことなんですけど・・・もう1度仲間として迎えたいんです・・・」
ユウがレイアたちに向けて自分の願いを口にした。しかしレイアもバーンも彼の願いを聞き入れるつもりはなかった。
「残念だが2人はもはや裏切り者でしかない。少なくとも2人が我々を敵だと認識している・・とても受け入れられない・・」
「ですが・・・!」
「お前も2人に攻撃されたのを、忘れたわけではあるまい。2人はもはやお前のその純粋な優しささえも踏みにじっているのだぞ・・」
レイアの言葉に反論できなかったが、ユウは納得していなかった。そんな彼の肩に、バーンが手を添えてきた。
「我々が2人にしてやれるのは、この手で華々しく葬ってやることだ。誤った行為を止めてやるのも、2人のためだ・・」
「バーンさん・・・」
「どうしてもできないというなら私がやる。2人を討つことにそこまで罪の意識を感じるなら、お前は関わらないほうがいい・・」
困惑を浮かべるユウに言いかけるバーン。気持ちの整理がつかないまま、ユウはレイアとバーンの前から去っていった。
「あのような精神状態では、ユウ・フォクシーはジン・シマバラとカナ・カーティアに敗北します・・ヤツらを撃つことに躊躇しているようでは・・」
「いや、逆に触発されて、ヤツらを倒すことに執着するようになるかもしれない。どちらに転がろうと、ヤツらを倒す切り札となることには変わりない・・」
ユウの戦いを危惧するバーンだが、レイアは不敵な笑みを見せていた。
「それよりも、そろそろ次の攻撃場所に到着する。ヴァルカスの調整は完了しているのか?」
「はい。予定通りの調整が行われ、テストもシュミレーションも終わっています。いつでも発進できます・・」
レイアの問いかけにバーンが答える。他のMSの修繕とともに、ヴァルカスはフェイス打倒のための調整を完了させていた。
テンダスに着地したブレイズとゼロ。ソワレはジンとカナを連れて病院を訪れ、許可を得てからフィーアのいる病室に向かった。
「失礼します。」
ソワレがノックしてから病室に入った。彼らは意識を取り戻したフィーアの姿を目にした。
「あなたたちは・・・」
ジンの姿を見て、フィーアが怯える。彼女は以前にジンに殴られたことを怖がっていた。
「ホントに意識が戻ったんですね、フィーアさん・・よかった・・・」
カナが喜びを見せてフィーアに抱きついた。
「よかった・・ホントによかったよ・・フィーアさん・・・」
「ち、ちょっと・・苦しいって・・苦しいから放して・・」
泣きじゃくるカナにフィーアが声を上げる。
「ゴ、ゴメン、フィーアさん・・!」
カナが慌ててフィーアから離れた。そしてフィーアは再びジンを見て困惑を見せる。
「あなたたちは誰なの?・・あたし、今までどうしてたの・・・!?」
「あなたのことは僕も聞いている・・落ち着いて、僕たちの話を聞いてほしい・・・」
困惑を見せるフィーアにソワレが呼びかけてきた。何とか気持ちを落ち着かせようとしながら、フィーアは彼らの話に耳を傾けた。
「フィーアさん、君はこのテンダスで戦闘に巻き込まれて、先日まで意識を失っていたんだ・・このまま意識が戻らないのではということも危険視されていたそうだ・・」
「あたしが・・・そうよ・・あたしはスバルと一緒に・・・」
ソワレの説明を聞いて、フィーアはテンダスでの出来事を思い出した。容赦なく銃口を向けたビームライフルを発砲したブレイズ。そのビームに巻き込まれて、フィーアとスバルは傷ついた。
「あのとき・・あたしたちは・・・やめてって思ったのに、やめてくれなかった・・・!」
「フィーアさん・・・」
困惑して震えるフィーアに、カナも動揺を隠せなくなる。
「オレは敵を倒そうとしただけだ・・だがそれがお前を、スバルを傷つけることになってしまった・・・」
ジンが歯がゆさを見せて口にした言葉を聞いて、フィーアが驚愕を覚える。
「どういうことなの・・・!?」
「テンダスでソルディン、地球連合のMSと戦っていたのは、ジンの乗っていたブレイズなの・・ジンは連合を倒そうとして・・・」
震えるフィーアの問いかけに答えたのはカナだった。
「それじゃ・・アンタがあたしとスバルを・・・!」
フィーアが怒りをむき出しにして、ジンに詰め寄ろうとした。だが頭痛を覚えて彼女はジンたちの前で膝をついた。
「フィーアさん、ムチャをしたらダメですよ・・・!」
カナがフィーアに近寄って心配の声をかける。フィーアは落ち着こうとしながら、記憶を巡らせていく。
「スバル・・・スバルはどこなの・・・?」
フィーアが口にしてきた問いかけに、ジンが当惑を覚え、カナが困惑する。スバルはヴァルキリーに属し、ヴァルカスのパイロット、バーンとなっていた。
「スバルは、今はヴァルキリーにいる・・MS、ヴァルカスのパイロットとしてな・・」
「パイロット!?・・・ウソよ・・スバルはパイロットの腕はあるけど、戦うのを嫌がってた・・そのスバルが、戦うなんて絶対にないわよ!」
ジンが告げた言葉をフィーアが否定する。しかしジンは表情を変えない。
「オレもあのスバルが戦おうとは思っていなかった・・だがアイツはヴァルキリーのMSに乗って、ミリィを殺し、ブレイズさえも1度撃墜させたんだ・・・」
ジンがさらに呼びかけるが、フィーアは信じようとしない。
「信じたくないならそれでいい・・だがオレはスバルと戦う・・オレを裏切り、陥れたアイツを許すつもりはない・・・!」
「アンタ・・スバルを殺すつもりなの・・・!?」
「オレは敵を倒す・・スバルがあのようにオレの敵になるなら、オレは倒すことをためらわない・・・」
問い詰めるフィーアだが、ジンは考えを変えようとしない。彼にとって、ミリィの命を奪い、それを正当化しているスバルは敵でしかなかった。
そのとき、ソワレの持っていた通信機に、クレストからの連絡が入った。
“グーラン基地にヴァルキリーが現れました。カナさんたちは1度クレストに戻ってください。”
オペレーターからの呼び出しを聞いて、ジンが目つきを鋭くする。その通信を同じく聞いていたフィーアは、動揺を募らせていた。
「すぐにフェイスを発進させろ!発進させた後はオレがオートで呼び寄せる!」
ジンが通信機を奪い取ってオペレーターに呼びかける。
“ですがあなたは・・”
「早くしろ!ヤツらを逃がしたいのか!?」
オペレーターに怒鳴ると、ジンはソワレに通信機を押し付けて、病室を飛び出した。
「ジン!・・私も行きます!ジンやヴァルキリーを放っておけません!」
「待って!」
ジンを追いかけようとするカナを呼び止めたのはフィーアだった。
「あたしも連れてって・・行こうとしてる場所に、スバルもいるんでしょ!?」
「フィーアさん・・・でも、私たちが行くのは戦場・・戦いに巻き込まれて死にそうになったフィーアさんを、連れ出すなんて・・・!」
「あたしは、スバルに会いたい!もしもホントに戦争をやってたなら、文句のひとつでも言ってやらないと!」
カナが聞き入れようとしないが、フィーアは行こうとする。
「置いてけぼりにしようとしても行くよ・・あたし1人でも・・・!」
「フィーアさん・・・死ぬかもしれないんですよ・・今度こそ、2度と助からなくなるんですよ・・・」
「このままここで大人しくして後悔するほうが、死ぬよりもずっとイヤだ・・・!」
「・・・私の言うことを必ず聞くって言うなら、連れて行ってもいいです・・・」
カナはついにフィーアを連れていくことを聞き入れた。
「待つんだ、カナさん。戦闘の場に彼女を連れていくなんて・・・!」
「無理やり止めようとしても、スバルさんを探しに飛び出していってしまう・・フィーアさんがそういう性格だということを、私、気付いてしまったんです・・・」
ソワレが呼び止めるが、カナは首を横に振った。
「行きましょう、フィーアさん・・スバルさんのところへ・・・」
カナの声にフィーアは頷いた。カナが差し出した手をつかんで、フィーアは病室を飛び出した。
次回予告
再びぶつかり合うジンとバーン。
激化する2人の激闘に、フィーアが飛び込んでいく。
バーンとしての意思か、スバルとしての心か。
フィーアが目の当たりにする答えとは?