GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-37「カナ」

 

 

 私が初めて見たジンは、怒りと憎しみで満ちあふれていた。

 私だけじゃなく、誰が声をかけてもジンは心を開かなかった。それどころか、気に入らない人に対しては敵として見ることもあった。

 ヴァルキリーの人でさえもジンは寄せ付けなかった。でも私は、孤独の中にいるジンを放っておけなかった。

 私はいつの間にか、ヴァルキリーのためというよりも、ジンのために戦っていたのかもしれない。

 だから私はジンが処刑されそうになったとき、ヴァルキリーを裏切ることになってもジンを助けようって思った。

 ジンならホントの平和をつかめると、私は思っていた。

 だからヴァルキリーに逆らうことを、私は後悔しない。

 

 ジンは医務室から別の部屋に移されることになった。その部屋で、カナはジンの付き添いをしていた。

 ジンの目覚めを祈って待っているカナ。部屋に滞在している2人を、ガルたちが監視していた。

「部屋を移動してから、彼女、ずっと彼のそばから離れないな・・」

「本当に彼、ジンのことを気にかけているのですね、カナさんは・・」

 ガルが言いかけると、マリアが微笑んで答える。

「我々も不本意ながら、彼らに悲劇をもたらし、戦いに駆り立たせてしまったのだな・・」

「それでも戦う以外に、私たちが平和を取り戻す方法を持っていませんから・・」

「不器用だな、オレたちは・・他にもっといい方法があるはずなのに・・・」

「そういうならその方法をやるようにと言われますよ・・」

 愚痴をこぼすガルに、マリアがからかいの言葉をかける。ガルが呆れて肩を落とす。

「それで、ソワレと、アルバくんとリリィさんは?」

「ブリッジに出ています。相変わらずの険悪のムードなのでしょうね・・」

 ガルの問いかけに答えて、マリアがため息をついた。

 

 クレストのブリッジに、アルバとソワレはいた。2人は航行しているクレストから、空と海を見つめていた。

「聞いておくが、アルバ、お前はヴァルキリーを倒した後、どうするつもりだ?」

「詳しくは決めていない。だが生き続けることは変わらない・・」

 ソワレが投げかけた言葉に、アルバが淡々と答える。彼のこの態度が、ソワレの感情を逆撫でしていた。

「自分たちが生き残るためだけに、世界を混乱させてもいいというのか、お前は・・!?

「オレたちが生きるのが、オレたちの仲間の弔いになる・・彼らは記憶を失ったオレを支えてくれたから・・」

「仲間か・・そのような思いがないのも問題だが、固執するのもどうかと思う・・いつまでも死んだ人のことを気にしすぎては、かえってその人のためにならない・・」」

「オレとリリィはそうは思わない・・オレたちが死んだら、彼らの死が無意味なものにされてしまう・・そう思えてならない・・」

 頑なな意思のアルバに、ソワレは憤りを通り越して呆れていた。

「本当に意固地だ、お前は・・だが、だからこそフューチャーを操れる、というべきなのか・・」

「できることなら、オレはお前とは戦いたくない・・お前たちにも純粋な意思があるのだから・・」

 互いに受け入れがたいものを感じながらも、ソワレもアルバも互いの意思と力を認め合っていた。

「質問を変える。あの男、ジン・シマバラが敵対してきたら、お前はどうする?」

「オレたちが生きることの邪魔をしてくるなら、戦うこともいとわない・・フェイスを破壊することになっても、敵わないとされていても・・」

 ソワレの質問にアルバが真剣に答える。ソワレだけでなく、アルバもジンと対立することを懸念してはいなかった。

「迷いがないな・・僕もそれに同意見させてもらう・・・」

「お前もその道を選ぶと思っていた・・いや、貫いているというべきか・・」

 おもむろに笑みを見せ合うソワレとアルバ。共通の目的のため、2人は一時的に手を組むことにした。

「対立しているのかと思っていたけど、悪くないじゃないの・・」

 そこへリリィが2人に声をかけてきた。

「ヴァルキリーの攻撃はあの強力なMSたちだけじゃないと思うの・・何かとんでもない攻撃方法を隠している気がしているの・・・」

「オレもだ・・あれだけの戦力をそろえられるヴァルキリーだ。他に何もないとは言えない・・」

 リリィが抱えていた不安に、アルバも同意する。ソワレも2人と同じ予測を立てていた。

「本当の規模が分からない以上、どうしても後手に回らざるを得ない・・ジン・シマバラとカナ・カーティアでさえも、ヴァルキリーの一端しか知り得ていない・・」

「それは仕方がないとしか・・今でも謎の部分が多いですから・・・」

 懸念を抱くソワレにリリィが言葉を返す。

「ヴァルキリー撃退の鍵は、オレたちよりもジンになるだろうな・・」

「元ヴァルキリーで、ヴァルキリーに激しい憎悪を抱いているからか?」

「それだけではない・・フェイスを乗りこなしたジンが、ヴァルキリーを退ける鍵になっている気がする・・・」

 ソワレの疑問にアルバが答える。ジンの行動とフェイスの活動が世界の命運を決めることを、彼らは予感していた。

 

 ヴァーナでの戦闘から、リンたちはアルバたちとの連絡を取っていなかった。

「アルバさん、全然連絡がないですね・・まさかやられてしまったなんてことはないですよね・・・?」

 ミルが不安の言葉を口にしてきた。

「それは考えにくいって。アルバくんたちは簡単にやられたりしないって・・」

「それもそうなんですけど・・相手も手ごわいですし・・・」

「それよりも心配なのはジンくん・・フェイスに乗って無事でいられるはずがないのに・・・」

 リンが不安にしていたのは、フェイスで発進したジンだった。彼女たちはジンの安否を知らなかった。

 困惑を隠せないでいる2人のところで、オペレーターの1人がやってきた。

「リンさん、カナさんに頼まれていたことで、リンさんに報告しておきたいことが・・」

「頼まれてた?」

 オペレーターの言葉にリンが疑問符を浮かべる。

「この子のことですが、先ほど病院から意識が戻ったとの連絡が入りました・・」

 オペレーターは話を続けて、1枚の写真をリンに手渡した。その写真に写っていたのは、スバルとともに戦争に巻き込まれたフィーアだった。

 

 クレストの個室で眠りについていたジンが、再び目を覚ました。

「ジン・・気分はどう・・・?」

 彼を介抱していたカナが声をかけてきた。

「またオレは眠っていたのか・・敵の艦の中で、オレはいつまでも・・・」

「数日ここにいたけど、クレストもリードも私たちにも、フェイスにもブレイズにも危害を加えなかった・・」

「騙されるものか・・ヤツらは敵だ・・あの連合のMSを倒そうとしたオレたちを攻撃したんだぞ・・・!」

「それでも、今は大丈夫だから・・・!」

 リードを敵視するジンを、カナが必死に言いとがめる。怒りのままに立ち上がろうとするジンだが、意識がはっきりしていなかったため、一瞬ふらついた。

「ジン、ホントに大丈夫?・・あなたが乗ってきたフェイス、とても危険なものだって、リンさんが・・」

「それがどうした・・敵を倒すためなら、オレはどんなこともやってやる・・たとえオレ自身を殺す武器だとしても、オレは絶対に死なない・・・!」

 心配の声をかけるカナに、ジンが信念を見せつける。

「・・・すごいね、ジンは・・何があっても何を言われても、自分の考えを曲げようとしない・・でもあなたが憎んでいる自己満足な人たちと違って、ちゃんと優しさも持ってる・・」

 カナがジンに向けて物悲しい笑みを浮かべる。

「私も・・ジンのように、強くてガンコになれたら・・・」

「なればいいだろう・・なっていけない理由もないだろう・・」

 自分を無力に感じているカナに、ジンが憮然とした態度を見せる。

「オレは戦いと軍に全てを奪われた。そのことに怒りを感じても、力と身勝手な考えに押しつぶされた・・力や権力だけで一方的に押しつぶせるような世界を、オレは認めない・・」

「だから、ヴァルキリーに加わったんだね・・・」

「連合にもリードにも入りたくなかった・・それ以外の力を手にするには、ヴァルキリーに入るしかなかった・・それでもヤツらを倒せるなら、オレはそれでも構わなかった・・・」

「でも、ヴァルキリーはジンを利用していた・・自分自身の戦いを続けていたジンを、ヴァルキリーは利用していたにすぎなかった・・・」

「オレがヤツらを憎んでいるのはそれだけの理由ではない。ミリィを勝手に殺し、それを正しいことのようにしているのが、オレは許せなかった・・・」

 カナと言葉を交わしていって、ジンが右手を強く握りしめていく。彼は込み上げてくる怒りを抑えきれなくなっていた。

「オレはスバルを倒す・・ミリィを殺したスバルを、オレは許すつもりはない・・・!」

「ジン・・スバルさんを倒して、ヴァルキリーを滅ぼして、それからどうするの・・・?」

「そこまでは考えていない・・敵を倒すことしか考えていない・・それがミナのため、ミリィのためになる・・・」

「ミナ・・・?」

「オレと一緒の時間を過ごした仲だった・・だが戦争に巻き込まれて、連合の身勝手で見捨てられて・・・」

「そうか・・・ジンがここまで怒りを抱えていたのは、大切な人を殺されたから・・・」

 ジンの過去と心を知って、カナは戸惑いを感じていた。戦争や軍への怒りはあったが、カナは大切な人を奪われた悲しみを直に体験したことがなかった。

「ゴメン、ジン・・そこまで辛い思いをしているのに・・」

「オレのことを知ったところで、お前がオレにできることは何もない。これはオレの戦いだ。これからもオレは、オレの戦いをするだけだ・・」

「その戦いに、私も加わりたい・・ジンを守りたい・・・」

「分からないのか?お前がオレにすることは何もない・・」

「それでも、私はジンを放っておけない!守りたいよ!」

 冷徹に振る舞うジンに、カナが感情をあらわにして寄り添ってきた。いら立ちを浮かべたジンが引き離そうとするが、カナは離れようとしない。

「あなたに嫌われてもいい!邪魔だと思ったら殺しても構わない!」

「お前・・・!」

「私にはジン、もうあなたしかいないの!」

 動揺を覚えるジンに、カナが自分の想いを叫ぶ。ヴァルキリーよりもジンを選んだカナは、彼以外の大切なものはなかった。

「お願い、ジン・・私をあなたのものにして・・あなたが、私の全てになっている・・・!」

「そこまでオレの命を預けようとするとは・・本当に物好きなことだな・・・」

 涙ながらに懇願するカナに、ジンが憮然とした態度を見せる。

「だったらどこまでもついてきてもらうぞ・・オレはこういうことは気に入らないが、お前が望んだことだから・・・」

「ジン・・・ありがとう・・・私も、全てを賭けて戦っていくから・・・」

 低く告げるジンにカナが寄り添ってきた。そのとき、ジンはミナやミリィに対して感じていた気分を感じていた。

(どうして、カナにもこんな気分を感じているんだ?・・もしかしてオレは、カナにもこんな感情を持っているというのか・・・?)

 実感している気分に戸惑いを覚えるジン。

(ミリィ・・カナと一緒にいることを、カナを守ることを、お前は望んでいるのか・・オレにそうしろというのか・・・?)

 苦悩するジンの意識は、幻で見たミリィへと意識を傾けていた。彼が見ていたミリィは、微笑んで小さく頷いていた。

「ミリィさん・・・?」

 そのとき、カナが口にした言葉を耳にして、ジンが驚きを浮かべる。

「カナ・・お前にも見えているのか、ミリィの姿が・・・!?

「うん・・・幻と思ったんだけど・・幻じゃないはずがないんだけど・・・」

 問い詰めるジンにカナが頷く。2人ともミリィの幻を目にしていた。

「ジン、カナ・・お互いを・・信じて・・・」

 ミリィはジンとカナに微笑むと、霧のように消えていった。

「オレは戦う・・今までオレが貫いてきた意思を、これからも貫き通す・・・」

「私も戦う・・連合にもリードにも、ヴァルキリーにも振り回されない・・ジンのこの意思を、私も押し通す・・・」

 互いに決意を口にする2人。そしてジンがカナを強く抱き寄せてきた。

「これからはオレと一緒に戦ってもらう・・そしてオレに断りもなく、勝手に死んだりするな・・さもないと、地獄の底からでも引きずり出すからな・・」

「うん・・私は死なない・・ジンを苦しめるようなことはしない・・・」

 ジンが投げかけた忠告に、カナが微笑んで頷いた。気分を落ち着かせた2人は、おもむろに部屋から外に出た。

 その廊下で、アルバとリリィが2人を待っていた。

「お前たちも、自分の進む道を決めたようだな・・」

「オレの道はもう決めていた・・これからもその道を変えるつもりはない・・」

 声をかけるアルバに、ジンは自分の意思を告げる。

「これからオレはスバルを、ヴァルキリーを倒す・・邪魔をするヤツも容赦なく倒す・・たとえお前たちだろうと・・・」

「そうか・・・改めてこれだけは言っておく・・オレはこれからも生きるために戦っていく・・それでお互いが敵同士になろうと、オレもお前も覚悟を決めないといけない・・・」

 互いに決意と忠告を口にするジンとアルバ。2人は互いを敵として戦い倒すことにためらいをもってはいなかった。

「今度こそ意識がはっきりしているようだな・・」

 そこへガルがやってきて、ジンたちに声をかけてきた。ガルの後ろにはソワレとマリアもいた。

「お互い、敵同士に自己紹介をしあうのもおかしなことだが・・・私はこのクレストの艦長、ガル・ビンセント・・」

 名乗ってきたガルに対して、ジンが目つきを鋭くする。

「そしてソワレ・ホークスとマリア・スカイローズ、ゼロとルナのパイロットだ・・」

「ゼロ、だと・・!?

 ガルの紹介を聞いて、ジンがソワレに怒りを覚える。

「お前が邪魔をしなければ、連合のアイツを倒せたはずなのに・・・!」

「もしかして、テンダスで無差別に攻撃していたあの機体のパイロットか・・あのまま君が暴走を続けていたら、テンダスが壊滅するところだった・・」

「アイツが逃げなければすぐに終わっていた・・ミナを殺したアイツを叩き潰すところだったのに、お前が・・!」

「あのまま放っておいたらテンダスが壊滅していた・・お前が敵を倒そうとして、無関係な人まで傷つけたんだぞ・・」

 反発するジンだが、ソワレのこの言葉を聞いて当惑を覚える。ジンは自分の行動でスバルとフィーアを傷つけたことを思い出したのである。

 この重い空気の場にいるジンたちに、オペレーターがやってきた。

「失礼します・・ジン・シマバラくん、あなたの乗ってきた機体に暗号通信が入ってきました。」

「オレに・・?」

 オペレーターの言葉にジンが眉をひそめる。

「相手は判別できませんでしたが、内容は解読済みです。“フィーア・クリムゾンが意識を取り戻した”と・・」

「えっ・・!?

 この報告に驚きの声を上げたのはカナだった。フィーアが目を覚ましたという知らせは、ジンたちにも伝わった。

 

 

次回予告

 

怒りの犠牲者の目覚め。

スバルを戦いに追いやったジンを見たフィーアの心。

ジン、カナ、フィーア。

スバルに対する彼らの思いとは?

 

次回・「安らぎの居場所」

 

 

作品集

 

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