GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-36「悲惨な願い」
1度クレストに着艦することになったアルバ、リリィ、カナ、ジン。フェイスの中で意識を失っていたジンは、クレストの医務官たちによって医務室に運ばれることになった。
アルバ、リリィ、カナは1つの個室に入れられることになった。抵抗を見せることなく部屋にいる彼らを、ソワレとマリアが外から見ていた。
「本当によかったんですか、マリアさん?・・もしもアルバたちが、艦内で何かを仕出かしたら・・」
「そのときは、私たちで責任を持ちましょう。せめて話ぐらいは聞いておかないと、私たちとしても混乱するばかりになるわ・・」
未だに腑に落ちないでいるソワレに、マリアが言いかけてきた。
「アルバくんたちはどこで生活や機体の整備を行ってきたのか、そしてもう1人の彼女は誰なのか、聞いてからでも決断を下しても遅くはないと思うの・・」
「マリアさん・・僕は責任を持ちませんよ・・・」
マリアに言いとがめられて、ソワレは言葉を返せなくなった。彼が個室から離れていき、マリアが部屋に入ってきた。
「待たせて悪かったわね・・さっそく話を聞かせてもらうことにするわ・・」
「あの・・ジンは、大丈夫なんですか・・・?」
カナが沈痛の面持ちでマリアに訊ねた。
「大丈夫よ。身体チェックをしているだけだから。でも彼があなたの前の、あの機体のパイロットだったのなら、暴れさせない処置ぐらいはせざるを得ないわね・・」
「エヘヘ・・ジン、ホントに感情的だから・・・」
マリアが口にした言葉を聞いて、カナが苦笑いを浮かべた。
「でも、どうして私たちまで・・・私とジンのほうが、確実にあなたたちの敵のはずなのに・・・」
「でもヴァルキリーの新型と対立していた。あなたたちの中で何か事情があったようだけど、あなたも向こうに敵と見られていることは確かだから・・」
「敵の敵は味方、ということですか?・・私は地球連合もリードも味方とは思っていませんよ・・私以上に、ジンはあなたたちを敵と見ている・・」
敵対心を見せないマリアに、カナが敵意を込めた言葉を返した。ヴァルキリーを裏切っても、世界を快く思っていない彼女の気持ちは変わっていない。
「私はジンを見捨てられなかった・・ジンを簡単に切り捨てるヴァルキリーのやり方に、私は我慢できなかった・・・」
「なるほど。それで2人そろって逃避行ということね・・あなたの事情はだいたい分かったわ・・・で・・」
納得して頷くマリアが、アルバとソワレに視線を移した。
「あなたたちは前の戦争から今まで、どこで何をしていたの?なぜ突然現れて、私たちを助けようとしたの?」
「ある人から援助を受けて過ごしていた・・戦争の後に戦闘行為を行ったのは今回と、カナとジンを助けたときの2回だけだ・・」
マリアが真剣な面持ちで投げかけた問いかけに、アルバも真面目に答える。
「それ以外では戦いから足を洗ったと言いたいわけ?戦争で命運を分ける対決をしたパイロットとは思えない発言ね・・」
「力も戦いも生きるための手段だとオレは思っている・・ただそれだけだ・・」
「それが世界を混乱させているって、ソワレくんだったら言い返してきそうね・・」
自分の考えを正直に告げるアルバに、マリアが苦笑いを浮かべる。
「それじゃ、最後の質問よ・・私たちは今、ヴァルキリーの攻撃に対する防衛を行っている。その中で、あなたたちは私たちにわずかの敵意もないのよね・・?」
「オレたちはお前たちと戦うつもりはない。お前たちが敵対してこなければだが・・」
マリアが投げかけた問いかけに、アルバも真剣な表情を見せて答える。リリィも彼と同じ気持ちだった。
「私は世界の軍隊を許せなくて、ヴァルキリーにいた・・だから私はあなたたちの味方ではないです・・・」
カナがマリアに鋭い視線を傾けていた。それでもマリアは動じる様子を見せない。
「でも私が相手をしないといけないのはヴァルキリーのほう。私たちは共通の相手を持つ者同士ということです・・」
「なるほど・・だったらヴァルキリーを止めるための共同戦線を張るのはどうかしら?連携が取れずに同士討ちになったら、それこそヴァルキリーを止められなくなるから・・それはいいわね?」
「はい・・それは頭に入れておきます・・・」
マリアの言葉を聞き入れるカナだが、マリア共々気にしていることがあった。
「問題はジンです・・ジン、ヴァルキリーにいたときも連携のれの字もなかったですから・・・」
カナが口にしたこの言葉に、マリアもアルバも言葉を返さなかった。
「ジンは自分の全てを奪った戦争と軍隊を強く憎んでいます。理不尽に押しつぶされるのが我慢できなくて、時々力と感情を爆発させたこともありました・・」
「あのとき、彼が乗っていたあの機体が、ソワレくんのゼロにしつこく攻撃してきたのもそれでなのね・・怒り爆発は怖いものね・・」
困惑を見せるカナに、マリアが再び苦笑いを浮かべた。
「いいわ。私はあなたたちを敵とは見なさないわ。ただしあの彼はもう少し用心させてもらうわね。あなたの忠告を聞き入れての決断で・・」
アルバたちとの協力を改めて受け入れたマリア。すると外で話を聞いていたガルが部屋に入ってきた。
「話し合いはまとまったようだな・・これから君たちは、君たちが進言しない間はここクレストに留まってもらうことになる。その間は私の指示を第一としてもらうぞ。悪いようにしないことは約束しよう・・」
「すまない・・オレたちのために・・」
注意を促すガルにアルバが頭を下げる。
「アルバ、リリィ、あのMSについて調べておきたい。情報提供を頼みたいのだが・・」
「フェイスのことか?・・残念だが、あれを調べられるのはやめていただきたい。お前たちにその気がなくても、その情報が他のヤツに悪用されて、戦いの道具に使われるのは避けたい・・」
ガルがフェイスの調査を申し出たが、アルバはこれを拒否した。
「だがこれだけは言っておく。フェイスはとても動かせるものではないはずのものだった・・」
「どういうことだ?」
「フェイスが莫大なエネルギーを発揮したことは、今の戦いで証明されただろう。だがその大きなエネルギーが、パイロット自身にも影響を及ぼす。計算では、戦闘の途中で命を落とすとされている・・ジンが気絶と過度の体力消耗で済んだのは、奇跡といっても過言ではない・・」
ガルが投げかけた疑問にアルバが語る。ジンがフェイスを乗りこなして命を落とさなかったことに、ジンもリリィも驚いていた。
「確かにそんな物騒なもの、命を粗末にするような連中にとってはいいおもちゃになるな・・」
ガルがフェイスに対して皮肉を口にした。
「相応の信頼があったからこそ、我々は君たちをここに引き入れた。わずかの敵対意思も見せないという条件下で、ヴァルキリーへの迎撃をともに行おう・・」
「本当にすまない・・感謝する・・・」
分かち合い握手を交わすガルとアルバ。2人の様子を見て、リリィとマリアも笑みをこぼしていた。
「あ、あの・・私、ジンのところに行ってもいいでしょうか・・・?」
そこでカナがガルに申し出てきた。ジンの暴走を懸念したガルは、彼女の申し出を受け入れた。
「頼む。手を焼く思いをしたくないのは同じということだ・・」
フェイスの中で意識を失ったジン。眠りに落ちていた彼の意識は、自分自身の精神の中にいた。
「オレは・・死んだのか?・・体が・・動かない・・・」
空間の中を漂うジンが弱々しく呟く。彼の体は指一本さえも思うように動かせない。
「オレは死なない・・死んでたまるか・・オレはまだスバルを倒していない・・世界の敵を全員倒していない・・それなのに死ぬなんて、オレは絶対に認めない・・死んでたまるか・・・」
ジンが強引に右手を上げようとする。彼は右手だけに全ての力を持っていこうとする。
「オレは・・オレはスバルを倒すんだ・・・!」
「大丈夫・・ジン・・・ジンは、まだ生きている・・・」
そのとき、ジンに向けて呼び声が飛び込んできた。彼の前に現れたのはミリィだった。
「ジンは死んだりしない・・そのことを、私は知っている・・・」
「ミリィ・・・」
笑顔を見せるミリィに、ジンは戸惑いを覚える。
「私の他の、あなたを信じている人がいることも、忘れないで・・・」
ミリィがゆっくりとジンから遠ざかっていく。
「ミリィ・・待て・・行くな・・・!」
ジンが力を込めた右手を伸ばすが、ミリィに届くことはなかった。
ミリィの姿が消えた直後、ジンの意識は現実に戻っていた。彼は自分が見知らぬ部屋のベッドの上にいることに気付いた。
(ここは?・・・オレは・・いったい・・・?)
ジンが自分の身に起きたことと自分がいる場所を模索していく。
(そうか・・オレはスバルを追い詰めていたところで、突然意識を失って・・この分だとスバルたちに逃げられたか・・・)
記憶を呼び起こしたジンは、ゆっくりと体を起こした。その様子は、外にいた医務官に見られていた。
「例の機体のパイロットが目を覚ましました。」
医務官がクレストの指令室へ連絡を取ったとき、ガルとカナが医務室を訪れた。
「意識が戻ったようだな・・アルバの言うとおり、命に別状はなかった・・」
ジンが起きていたのを見て、ガルが安心の笑みを浮かべる。
「ジン!」
カナがジンに駆け寄って喜びの笑みを見せてきた。彼女の突然の登場に、ジンは唖然となった。
「ジン・・よかった・・意識が戻って、よかった・・・」
「ここはどこだ?・・ヴァルキリアでもあの場所でもない・・・」
涙ながらに言いかけるカナに、ジンが問いかけてくる。
「ここはリード戦闘艦、クレストの中だ・・」
「リードだと・・!?」
ガルが言いかけて、ジンがいきり立つ。だが体力は回復しきっておらず、ジンは立ち上がった途端にふらついて、倒れそうになったところをカナに支えられる。
「一命を取り留めたとはいえ、とても動ける状態ではない。我々は君に何かするつもりはない。しばらく休養を取ることだ・・」
「黙れ・・リードも世界をムチャクチャにする連中・・お前たちの言葉に耳を貸すか・・・!」
呼びかけるガルだが、ジンは聞き入れようとしない。
「落ち着いて、ジン・・今、体を休めておかないと、これから戦うこともできなくなるよ・・!」
「放せ!このままコイツらの言いなりになることが、死ぬこと以上に苦痛なことだ!」
カナが押さえるが、ジンは怒号を言い放つ。
「私は、あなたが死ぬのはイヤなのよ!」
カナがたまらず声を張り上げた。その声にジンだけでなく、カナ自身も驚きを浮かべた。
「ゴメン、ジン・・・私・・私は・・・!」
カナが動揺して震え、ジンから離れていく。気分を落ち着かせたジンが憮然とした態度を見せる。
「オレは死なない・・敵を倒すまでは、死んでたまるか・・・」
ジンはカナに告げてから再びベッドに横たわった。彼の脳裏に、夢の中で見たミリィの姿がよぎっていた。
「話の通りの男だ。少しでもよそ見をしたら不意打ちをされそうだ・・」
ガルがジンを見て苦笑いを浮かべていた。カナはジンのそばについて、心配の眼差しを送っていた。
「2人から目を離さないようにしてくれ。何が起こってもおかしくないという気持ちでな・・」
「分かりました・・」
ガルの呼びかけに医務官が頷く。カナは離れようとしないという様子で、ジンに付き添っていた。
クレスト艦内での行動を許されたアルバとリリィ。クレストの廊下にいた2人の前に、ソワレが声をかけてきた。
「艦長は了承したようだけど、僕は認めてはいない。だがヴァルキリーからの防衛が最優先だからな・・」
「分かっている・・お前がオレたちに戦いを挑むことがあるなら、オレも戦うことをためらわないが・・」
敵対心を示すソワレに、アルバが真剣な表情で言葉を返す。ソワレはあくまでアルバを頑なに敵として見ていた。
「はいはい。これからヴァルキリーを迎え撃つのにいつまでもケンカしないの。」
マリアが声をかけて、アルバとソワレを言いとがめる。
「クレストの中を自由に動くことができるようになったけど、できるだけあの2人のそばにいてあげて。あなたたちはともかく、2人はヴァルキリーのパイロットだったのだから・・」
「マリアさん・・ジンくんもカナさんも敵になるようなこと・・」
マリアの呼びかけに対して、リリィが不安の表情を浮かべる。しかしマリアも顔色を変えない。
「今はヴァルキリーでなくても、地球連合と私たちリードを敵と見ていることに変わりはない。あなたたちが大丈夫だと言っても、そう警戒せざるを得ないのよ・・」
「・・リードの艦にいる以上、受け入れるべきことか・・・」
マリアの言葉を聞き入れて、アルバが小さく頷いた。
「私たちもジンくんとカナさんのところに行きましょう。マリアさんの言うことを聞く意味も込めて・・」
「あぁ・・そうだな・・・」
リリィの呼びかけにアルバが頷く。2人はマリアに付き添われる形で、ジンとカナのいる医務室に向かった。
(アルバ・・お前のその考えと行動が、世界の混乱を引き起こすことがまだ分からないのか・・・!?)
アルバへの憤りを胸に秘めて、ソワレはドックに向かっていった。
再び眠りについたジンを、カナがじっと見守っていた。2人のいる医務室に、アルバ、リリィ、マリアがやってきた。
「彼の様子は?・・・また眠りについたようね・・」
「はい・・あなたたちリードのことを、私以上に敵だと思っています・・・」
マリアが声をかけると、カナが悲しい顔を見せる。
「あなたたちが正しいと思ってやったことが、ジンや私の心を傷つけている・・あなたたちのように誰かのことを気にする人ならいいのですが、自分たちのことしか考えていない人も、この世界には、国や軍の上層部にはいる・・・」
「その平和の崩壊をもたらしている敵と戦うために現れたのが、あなたたちヴァルキリーということね・・」
リリィが言葉を投げかけると、カナは小さく頷いた。
「でもそのヴァルキリーも、目的のために手段を選ばないことが分かったんです・・あれだけ世界のために戦ってきたジンを、簡単に切り捨てるなんて・・・」
「なるほど・・あなた、ジンくんに惚れているのね・・」
「えっ!?・・私はそんなんじゃないです・・ただ、放っておけなかっただけです・・」
マリアがからかうが、カナは沈痛の面持ちを見せていた。
「ジンは純粋に戦ってきた・・単に許せないものに立ち向かっていただけ・・・それだけだったのに・・・」
歯がゆさを募らせるカナに、リリィは共感していた。復讐のことだけを考えていた昔の自分を、彼女は思い出していた。
「私はジンのそばにいます・・たとえジンに殺されることになっても・・・」
「カナさん・・・」
頑なな決意を口にするカナに、マリアが戸惑いを覚える。カナの心は完全にジンだけに向いていた。
次回予告
ともに本当の平和を求めて戦ってきた青年と少女。
その中で少女の心は、徐々に青年に傾いていった。
憎悪を膨らますだけの頑なな青年。
その彼に、少女は胸に秘めていた思いを伝えた。