GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-35「フェイス」

 

 

 ジンが乗り込んだフェイスが、光を発しながら地下施設を飛び出していった。彼を止めることができず、リンもミルも見送るしかなかった。

「行っちゃいましたよ・・大丈夫なんですか、リンさん・・・!?

「私たちにもう、フェイスを止めることはできない・・アルバくんとリリィさんに知らせるしかないね・・」

 心配するミルに向けて、リンがため息をついて言いかける。

「私が連絡するよ・・ミルはドックの修復を手伝ってあげて・・」

「分かりました・・フェイスのことはお願いします・・」

 リンの呼びかけに答えて、ミルはドックの修復の手伝いのために走り出した。リンも急いでフューチャーへの連絡を取った。

 

 感情のままにカナのブレイズに攻撃を仕掛けていくユウのリヴァイバー。ビームライフルを連射していくうち、そのビームがブレイズの右足を破壊した。

「しまった!」

 焦りの声を上げるカナ。彼女の乗るブレイズの眼前に、リヴァイバーが詰め寄ってきてビームライフルの銃口を向けてきた。

「リヴァイバーの性能と僕の腕は、君とブレイズを上回っている・・それでも、僕は君を仲間だと思いたい・・・!」

 込み上げてくる感情を押し殺して、ユウがカナに呼びかける。彼のこの言葉も、カナは聞き入れなかった。

「私はジンについていくって決めた・・いくらユウの言うことでも、もうヴァルキリーには戻れないよ・・・」

「そう・・そこまで僕たちの敵になろうとするのか・・・カナ!」

 ユウが激高し、リヴァイバーがブレイズに向けて発砲しようとした。だがユウがとっさに反応し、リヴァイバーが射撃せずにブレイズから離れた。

 リヴァイバーの前に現れたのはルナ。そしてソリッドだった。

「ソリッド・・そんなものまで・・・!」

 ソリッドの出現にユウが緊張といら立ちを募らせる。カナが戸惑いを感じる中、ブレイズの前にソリッドとルナが移動してきた。

「大丈夫、あなた・・!?

 リリィがカナに向けて通信を送ってきた。

「あなたがヴァルキリーとの間に何があったのかは知らないけど、ヴァルキリーと敵対している点は共通している。だから今回はあなたに協力させてもらうわ・・」

 マリアもカナに向けて通信で呼びかけてきた。

「私はリード、クレスト所属、マリア・スカイローズ。」

「私はリリィ・クラウディよ。あなたは?」

「カナ・・カナ・カーティア・・」

 互いに名乗るマリア、リリィ、カナ。彼女たちの乗るルナ、ソリッド、ブレイズがリヴァイバーに対して臨戦態勢に入る。

「たとえ3機が相手でも、リヴァイバーのほうが性能は上だ・・僕たちが求めている平和を壊そうとするなら、僕はもう迷わない・・!」

 迷いを振り切ろうとしながら、ユウは逃げずに戦うことを自分に強く言い聞かせた。

 

 フューチャーとヴァルカス、ゼロとカース。4機のMSが一進一退の攻防を続けていた。その最中、グレイヴはラグナログのチャージを完了させていた。

「こちらはいつでも発射できる。ヤツらの動きを押さえろ。ヤツらをラグナログから逃がすな。」

「了解。」

 レイアの呼びかけにバーンが答える。ヴァルカスがビームソードを、カースが2本のビームサーベルを使って、フューチャー、ゼロに詰め寄って押さえ込む。

「今です、レイア様!」

 ゼビルが呼びかけ、レイアがフューチャーとゼロを一気に仕留めようと狙いを定める。アルバもソワレも砲撃が来ると察していたが、ヴァルカス、カースの猛攻から抜け出すことができないでいた。

 そのとき、グレイヴのレーダーが接近する巨大な熱源を捉えた。その反応にレイアが目を見開き、ラグナログの発射が一瞬遅れた。

 グレイヴから放たれたビームを、フューチャーもゼロも回避することができた。だが2機のレーダーも熱源を捉え、アルバとソワレも緊張を覚えた。

「何だ、このエネルギーは・・リードにあれだけのエネルギーの機体はない・・連合・・それともヴァルキリーの援軍・・!?

「まさか・・・!?

 声を荒げるソワレとアルバ。アルバには近づいてきているMSに心当たりがあった。

 直後、ヴァーナとクレストを攻めていたスナイパーが、突然切り裂かれて撃墜された。スナイパーを攻撃したのは、まばゆい光を放出するMS。

「フェイス・・・!?

 アルバがその機体をじっと見つめていた。ヴァーナに現れたのは、ジンの乗るフェイスだった。

“アルバくん、大変!ジンくんがフェイスに乗って出てっちゃったのよー!”

「それじゃ、フェイスに乗っているのはジンか・・!」

 そこへリンからの通信が入り、アルバが緊迫を募らせていた。

(ヴァルキリー・・オレを陥れたヤツら・・・そしてスバル・・・!)

 フェイスの中にいるジンが、バーンのいるヴァルカスに目を向けた。

「ミリィを殺したお前を、オレは許さない!」

 ジンが激高し、フェイスが宿している光を放出する。スナイパーを切り裂いたのは、フェイスから放たれる光そのものだった。

 フェイスが両手にそれぞれ武装を手にして、ビームの刃を発する。フェイスのビームウェポン「ストライカー」である。

 ストライカーは「サーベルモード」と「ライフルモード」、2つの形態を備えている。また2つのストライカーを組み合わせることで、出力と威力を上げることもできる。

 フェイスはサーベルモードのストライカーを手にして、ヴァルカスに向かって飛びかかる。

「何者かは知らないが、敵対するなら倒すだけだ・・」

 バーンがフェイスを敵視し、ヴァルカスが迎撃に出てビームソードを2本のビームサーベルに分割して、フェイスのストライカーとぶつけ合った。

 4本の光の刃がぶつかった瞬間だった。ヴァーナ上空がきらめいた光に一気に包まれた。

「えっ・・!?

 白んだ視界にジンもバーンも驚きを感じていた。彼らのいる世界は感覚の研ぎ澄まされた精神の世界だった。

 この世界にいたのは2人だけではなかった。アルバもソワレも、ヴァーナにいたパイロットたち全員の精神がいた。

「何だ、ここは・・!?

「オレたちはヴァーナにいたはず・・・!?

 自分たちのいる場所がどういうところなのか分からず、ジンもバーンも周囲を見回す。

「ここにいたヤツら・・MSのパイロットの素顔も体も、全部筒抜けだ・・・」

「これが、フェイスのエネルギーがもたらした精神の世界だ・・・」

 呟くジンに向けて、アルバが声をかけてきた。彼はこの状況をある程度把握していた。

「ダブルクラスターによって発揮されるフェイスのエネルギーは、MSの中でもかなりの量と瞬発力を備えている。そのエネルギーは、搭乗しているパイロットだけでなく、周囲にいる心のある者全員との干渉を引き起こす・・」

「これは、この機体が起こしているというのか・・・!?

「いや、フェイスだけの力ではない・・フェイスのダブルクラスターは、周囲のエネルギーだけでなく、パイロットの体力や精神力もエネルギーに変える・・お前の意思が、周りへの干渉を起こしたと言っても過言ではない・・」

 疑問を投げかけるジンに、アルバが説明をしていく。納得したジンが、バーンに視線を戻す。

「ジン・シマバラ・・新たな機体に乗って、我々の前に立ちふさがったというのか・・!」

 バーンがジンに敵意を込めた鋭い視線を向けてきていた。次の瞬間、彼らを取り巻いていた精神世界が消え、現実の世界に意識が戻った。

「スバル・・平和を望んでいたミリィを殺したお前を、オレは許さない・・・!」

「オレはバーン・アレス。それ以外の何者でも・・」

「スバル!お前はスバル!戦うことを嫌ってきたのに、オレを裏切って敵にまでなった!」

 バーンの言葉をさえぎって、ジンが怒鳴り続ける。彼の言葉を受けて、バーンが呆れる。

「理解力のないヤツだ・・もっとも、敵に理解など求めていないが・・」

 バーンが冷淡に呟き、ヴァルカスが2本のビームサーベルを組み合わせてビームソードにする。

「どこまで・・どこまでオレたちを弄べば気が済むんだ・・スバル!」

 ジンも叫び、ストライカーを組み合わせてビームソード「ストライクセイバー」とした。

「何っ!?

 バーンは思わず驚愕の声を上げた。ストライクセイバーのビームの刃は、ヴァルカスのビームソードをはるかに上回る大きさと出力だった。

「オレは絶対に、お前を許さない!ここで叩き潰す!」

 ジンの叫びとともに、フェイスがストライクセイバーを振り下ろす。ヴァルカスもとっさにビームソードを振り上げる。

 だがヴァルカスのビームソードは手にしていた両腕ごとなぎ払われた。ヴァルカスが簡単に破損されたことに、バーンは驚愕を一気に膨らませた。

「バーン!・・あれほどの武器とエネルギーを扱う機体が存在するなど・・・!」

 バーンに向けて叫ぶレイアも、フェイスの発揮する力に驚きを隠せなくなっていた。

「あんなの・・あんなのに勝てるわけない・・・!」

 ユウがフェイスの力に恐怖して、戦意を失ってしまう。

「くっ・・全機、撤退!ヴァーナから離脱する!」

 腑に落ちないながらも、レイアは撤退を呼びかけた。

「レイア様、すぐにヴァルカスを修復して立て直せば・・!」

「このまま戦えば最悪全滅だ!1度引き上げて、体勢を立て直す!」

 抗議の声を上げるバーンだが、レイアに押し切られて歯がゆさを浮かべた。

「・・了解しました・・・!」

 バーンが声を振り絞って、ジンのフェイスに目を向ける。

「ジン・シマバラ・・このままにはしておかないぞ・・次はお前が葬られる番だ・・・!」

 バーンはジンに言い放ち、ヴァルカスがフェイスから離れていく。

「逃げるな!」

 ジンが怒りのままにフェイスを動かし、ヴァルカスを追う。

「誰が逃げていいと・・!」

 さらなる怒りと殺意をあらわにした瞬間、ジンは突然視界のビジョンが消えていくような異変に襲われた。

(どういうことだ・・オレは・・・スバルを・・・!)

 声と力を振り絞るジンだが、意思に反して彼は意識を失った。フェイスがヴァルカスに追いつくことなく、力なく倒れていく。

「まずい!ジンが・・!」

 アルバが声を荒げ、フューチャーが落下していくフェイスに駆け寄って腕をつかんだ。

「ジン、聞こえるか!?聞こえたら返事しろ、ジン!」

 アルバが呼びかけるが、ジンからの返事がない。リリィの乗るソリッドもフェイスとフューチャーに近寄ってきた。

「アルバ・・ジン、大丈夫なの・・・!?

「分からない・・返事がない・・・」

 リリィの呼びかけに、アルバが困惑を込めた返事をする。カナの乗るブレイズもフェイスたちに近寄ってきた。

「ジン・・フェイスに乗っているの、本当にジンなんですか・・・!?

「あぁ・・フェイスがもたらした干渉で、ジンがここにいることを感じたはずだ・・」

 カナの問いかけにアルバが答える。カナもフェイスがもたらした干渉で、周囲にいたパイロットたちの素顔が見え、声も聞こえていた。

「引き上げるぞ・・ここではジンの状態を確かめることはできない・・」

「いいえ。全員クレストに来てもらうわ。そこでその機体のパイロットの保護も行うわ・・」

 言いかけたアルバに呼びかけてきたのは、ルナに乗っているマリアだった。

「あなたたちには危害は加えない。加えさせない。ただ、いろいろと詳しく話を聞くけど・・」

「マリアさん、何を言っているんだ!?アルバたちは・・!」

「ヴァルキリーは去ったけど、まだ一刻を争うときなのよ。共通の敵を持つ者同士なら、今は協力したほうがいいわ・・」

 ソワレが抗議の声を上げるが、マリアに言いとがめられて、腑に落ちないながらも聞き入れることにした。

「艦長、フューチャーたちを着艦させます。よろしいでしょうか?」

「本当はやってはいけないことだが、非常事態だ・・着艦を許可する。私と君の責任でな・・」

 マリアの頼みに対して、ガルが念を押す。

「私たちの指示には従ってもらうわ。ちょっとでも逆らったり妙なマネをしたら、私も敵と見るから・・」

「ありがとう、マリアさん・・助かったよ・・・」

 呼びかけてくるマリアに、リリィが感謝の言葉を送る。

「行きましょう、カナさん・・ソワレさんとマリアさんなら心配ないから・・」

「リリィさん・・・はい・・」

 リリィに呼びかけられて、カナが頷く。ブレイズもクレストへと着艦していった。

 

 ジンが新たに搭乗したフェイスの攻撃の前に撤退を余儀なくされたヴァルキリー。フェイスに太刀打ちできず、バーンが憤りを感じていた。

「私が、あのような機体から尻尾を巻いて逃げることになるとは・・・!」

「あの機体、ただ強力というだけではない・・我らを含めたこれまでのMSと比べて、明らかに異質だ・・」

 いら立ちを募らせているバーンに、レイアが声をかけてきた。

「ジン・シマバラが乗っていたあのMS、我々の精神に干渉してきた・・おそらく機体自身の膨大なエネルギーがもたらしたのだろう・・」

「レイア様・・」

「だが惑わされることはない。単純に力があるだけと思えばいいだけのこと・・」

 落ち着きを取り戻していくバーンに、レイアが不敵な笑みを見せる。

「確かにあの機体のエネルギーは膨大だ。だがあれだけの力を操るには、相応の技術と動きが必要になってくる・・」

「必ずどこかに隙がある、ということですが・・そこを狙うことも大事ですが、打つ手はまだあります・・」

 レイアに続いてバーンも笑みを浮かべた。

「ヴァルカスの強化調整を行います。あの機体の前で防御力や耐久力の高さは意味を持ちません。それらを切り捨てる代わりに、攻撃力とスピードを上げるのです・・」

「かなりのリスクを背負うことになるが・・それもやむなしか・・」

 バーンの提案にレイアが目つきを鋭くする。

 バーンが口にしたヴァルカスの調整は、耐久力と防御力よりも攻撃とスピードを重視したものである。ただしフェイスでなくても、攻撃を1発でも受ければダメージを避けることができなくなる。

 一気に低下させた防御の面をスピードで補うのが、バーンの構想だった。

「私も調整に立ち会います。では、失礼します・・」

 レイアに頭を下げてから、バーンは彼女の前から歩いていった。だが彼は心の中でまだ、ジンへの怒りを感じていた。

(ジン・シマバラ・・このままでは済まさないぞ・・世界の平和に、お前のような存在は不要なのだ・・・!)

 ジンへの憤りを抱えたまま、バーンは次の戦いに備えることに専念するのだった。

 

 カナの乱入に動揺し、感情的になったユウ。ヴァルキリアに戻っても、彼は落ち着きを取り戻せないでいた。

「カナ・・ホントに僕たちの敵になってしまったっていうのか・・僕たちの目指していた平和は同じはずなのに・・」

「カナとジンの考えが、お前の考えている平和と違ってしまったということだ・・」

 落ち込んでいるユウに、ゼビルが声をかけてきた。

「いい加減に割り切らなければ、ユウ、お前がやられることになる・・」

「分かってるよ!・・僕は平和を求めていただけなんだ・・仲間同士で争うつもりなんて・・・!」

 言い聞かせようとするゼビルだが、ユウは感情をむき出しにするばかりだった。

「少し休め・・次の出撃まで時間がある・・・」

 ゼビルはユウに告げると、振り返って立ち去った。込み上げてくる感情を抑えることができず、ユウは目から涙を流していた。

 

 

次回予告

 

フェイスという新たな力を得たジン。

自分自身にも負担がのしかかるもろ刃の剣を使うことを、ジンは迷わなかった。

再び戦う決意をしたジンに対し、カナの心は・・・?

 

次回・「悲惨な願い」

 

 

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