GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-34「ジン」

 

 

 ヴァルキリーに裏切られ、アルバに諭されたジンは、自分の戦う理由を見失っていた。どうすれば納得できるのかが分からなくなり、彼は苦悩を深めていた。

「ミナ・・ミリィ・・・オレは、どうするのがいいんだ?・・どうすれば、オレが納得できる?・・お前たちが納得してくれる・・・?」

 ジンが問いかけるが、ミナもミリィも答えるはずもない。

「オレはこのまま戦うべきなのか?・・戦っても、オレの納得できる場所にたどり着けない・・・」

 迷いを振り切ることができず、ジンは苦悩をさらに深めていく。

“それなら・・ジンの考えるままに動いたらいいと思う・・”

 そのとき、ジンの脳裏にミリィの声が響いてきた。聞き間違いと思って、彼は首を横に振った。

 再び目を上げたジンが見たのは、佇んでいるミリィの姿だった。

「ミリィ・・・!?

 ミリィの姿を見て、ジンは困惑を隠せなくなっていた。

 

 ユウのリヴァイバーの前に、カナの乗るブレイズが現れた。ブレイズの登場に、ユウは驚きを隠せなくなった。

「ブレイズ・・どうしてここに・・・!?

「ユウ・・ユウだよね・・・?」

 困惑しているユウに向けて、カナからの通信が入ってくる。

「ユウ、これがユウの望んだ平和への道なの?・・誰かからの言いなりになっていない・・・?」

「カナ・・ホントにカナなの・・・!?

 カナからの声を聞いて、ユウはさらに困惑する。

「どういうことなんだ・・・僕たちを裏切って、またブレイズで現れて・・どういうつもりなんだ、カナ!?

 ユウが感情をあらわにして、カナに問い詰める。

「ジンは仕方がないかもしれない・・そもそも、僕たちのことを仲間として見てなかったから・・でもカナ、どうして君まで・・・!?

「私はジンを見捨てられなかった・・ジンは純粋に、世界の本当の平和を望んでいただけだから・・あのまま処刑されてしまうのが、私には耐えられなかった・・・!」

「だからって・・・君はジンのために、僕たちを見捨てたって言うのか!?

 カナが投げかける言葉に、ユウが憤りを募らせていく。

「ユウ、裏切り者の言葉に耳を貸すな。」

 そこへレイアの声がユウに向けて飛び込んできた。グレイヴがビームライフルで放ったビームを、ブレイズが後退してかわす。

「お前が戦う理由は何だ?世界の平和のために戦う、それを脅かす敵と戦う、それがお前の決意ではなかったのか?」

「それは・・・」

「カナ・カーティアとジン・シマバラは友でも仲間でもない。我々を裏切り、我々が追い求める平和を壊そうとする敵だ。」

「でも、カナは僕たちと同じで、平和のために戦っているんです!敵なんかじゃ・・!」

「敵だ。お前が敵でないと思い込んだ隙を付け込んで、致命傷を負わせてくる。そうなれば平和を取り戻せるわけがない・・」

 レイアが投げかける言葉に反論できなくなり、ユウが冷静さをなくして困惑を膨らませていく。彼は迷いを振り切ろうとしてブレイズに狙いを向け、リヴァイバーが2つのビームライフルを組み合わせてレールガンとして構える。

「もう1度僕たちの仲間として戻ってきてくれ、カナ・・僕たちと君の追い求めている平和は同じはずだろう・・・!」

「違うよ、ユウ・・私たちとユウの追い求めている平和と、今のヴァルキリーが実現しようとしているものは違う・・・」

 ユウが忠告を送るが、カナは聞き入れようとしない。

「どうして・・・カナ・・どうして!?

 ユウが憤り、リヴァイバーがブレイズに向けてレールガンを発射する。カナが反応して、ブレイズが素早く動いてビームをかわす。

「やめて、ユウ!私たちが戦うことが、私たちが願っている平和なの!?

「君たちがその平和を壊す行為をしているんじゃないか!やっとここまで来たのに、それを台無しになんてさせない!」

 悲痛の叫びを上げるカナに、ユウが感情のままに叫ぶ。リヴァイバーがレールガンを連射して、ブレイズを追い詰めていく。

「僕は取り戻すんだ・・世界の本当の平和を・・・!」

 完全に冷静さを見失ったまま、ユウはカナへの攻撃を続けた。

 

 ルナの補修が終わり、クレストがMSの発進準備を進めていた。その中の1機に、リリィは見覚えがあった。

 かつてアルバとリリィが搭乗していたMS「ソリッド」である。

「ソリッド・・1年前の戦争で大破したはずじゃ・・・!?

「修理するのに手を焼いたって、整備士のみなさんが不満を言っていたわよ・・でもこうして治って、クレストに待機させていたのよ・・誰も乗れる人がいなかったから、ずっと待機したままだったけどね・・」

 驚きを見せているリリィに、マリアが事情を説明する。

「そうだったの・・でも、私がまだ乗ってもいいの・・・?」

「本当はいけないけど・・緊急事態よ。人手がいくつあっても足りないから・・ソリッドに乗るのはあなたよ・・・」

 問いかけるリリィに、マリアが真剣な表情を見せて言いかける。

「急ぎなさい、リリィさん。私はルナで行くわ・・」

 マリアがリリィに呼びかけてから、ルナに乗り込んだ。リリィも迷いを振り切って、ソリッドへと乗り込んでいった。

(懐かしい感じ・・本当に久しぶりにソリッドに乗ったって感じ・・・)

 自分が使っていた機体の感触を確かめて、リリィは心地よさを感じていく。彼女は気持ちを切り替えて、戦いに意識を集中する。

「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」

「リリィ・クラウディ、ソリッド、行きます!」

 マリアのルナが再度発進し、リリィの乗ったソリッドも続いて飛び出していった。

 

 ヴァーナの上空でグレイヴ、ヴァルカス、カースと交戦するフューチャーとゼロ。2機がエクスカリバー、トラスカリバーを構えて、アルバとソワレが取り囲む3機を見据える。

「まさか君と背中を合わせることになるとは・・」

「今は目の前にいるMSの攻撃から生き延びることが先決だ・・お前がオレを敵視していることは分かっているが、そのことは後だ・・」

 不満を口にするソワレに、アルバが淡々と呼びかけていく。

「フューチャーもゼロも倒す・・我々なら2機も倒し、世界をヴァルキリーの色に染めることができる・・・」

「そうだ、バーン。我々が世界を導くのだ・・ディアス・フリークス、いや、アルバ・メモリアにも、ソワレ・ホークスにも、我々の邪魔はさせないぞ・・」

 バーンが振り絞った言葉に、レイアが不敵な笑みを浮かべる。

「バーン、ゼビル、フューチャーとゼロを止めろ。私がラグナログで仕留める。どちらか一方でも撃破すれば、もう一方を打ち倒すのはたやすい・・」

「分かりました・・ただ、フューチャーもゼロも陽電子砲のビームすらも切り裂くことが可能・・反撃の隙さえも与えないようにしなければ・・」

 レイアの呼びかけにバーンが答える。ヴァルカスが2本のビームサーベルを組み合わせて、ビームソードにして構える。

「私がスピードでヤツらを翻弄します。その隙を狙ってください。」

「いいだろう。油断するな・・」

 ゼビルの言葉にバーンが頷く。カースが2本のビームサーベルを手にして、一気に加速してゼロに迫る。

 ゼロがトラスカリバーを的確に動かして、カースのビームサーベルを防いでいく。

「ゼロもフューチャーも、スピードは速いが一撃必殺の攻撃を主力としている。連続攻撃を行えるカースから逃れることはできない。」

 ゼビルが鋭く言いかけ、カースがゼロをさらに攻め立てる。カースがビームブレイドを発した右足を振りかざした瞬間、ゼロが手にしていたトラスカリバーを上に投げた。

「何っ!?

 突然のゼロの行動にゼビルが驚きを覚える。ゼロも右足にビームブレイドを発して振りかざし、カースを迎え撃った。

 2機のビームブレイドがぶつかり合い、火花を散らしていく。

「ゼロにもそのような武器があったな・・だがスピードはこちらが上・・!」

 ゼビルが言い放ち、カースが胴体を翻して左足のビームブレイドを振りかざす。だが同時に上空に飛んでいたトラスカリバーがゼロの手元に戻り、突き出してカースのビームブレイドを迎え撃ち、押し返した。

「スピードがお前だとしても、パワーではオレとゼロは負けてはいない・・」

「一筋縄ではいかないか・・だが最後に勝つのはオレたちだ・・・!」

 真剣な表情を浮かべるソワレと、目つきを鋭くするゼビル。

 その傍ら、アルバのフューチャーとバーンのヴァルカスが攻防を繰り広げていた。エクスカリバーとビームソード、2本の巨大な光の刃がぶつかり合って、衝撃を轟かせる。

「お前たちのような存在が世界の平和を乱す。その世界を正すために、我々は戦い勝利する。」

「オレたちは生きるために力を振るい、戦う・・命を落とした仲間たちのために、オレたちは死ぬわけにはいかないんだ・・・!」

 低く告げるバーンと、決意を口にするソワレ。フューチャーとヴァルカスが各々の刃をぶつけ合っていく。

 だが4機の攻防の中、グレイヴがラグナログ発射のエネルギーを集めていた。

「その調子で動きを押さえておけ。一気にヤツらを粉砕してくれる・・」

 フューチャーとゼロの撃破の機会をうかがい、レイアが期待の笑みを浮かべていた。

 

 困惑を募らせていたジンは、ミリィの姿を目の当たりにしていた。だが彼はこの彼女の姿が幻であることを痛感していた。

「ミリィ・・お前は本当は、オレの前にはいないんだろう?・・どんなに否定しても、お前は・・・」

 ジンが歯がゆさを浮かべながら、ミリィに向けて声を振り絞った。彼は今、自分自身の心の世界に意識を運んでいた。

「うん・・私はあのとき死んだ・・やっと決めた願いを叶えられなかったのは残念だけど・・この願いを叶えようとしたことは後悔していない・・・」

「ミリィ・・オレがお前を連れ出そうとしたのは、間違っていなかったのか・・・?」

「うん・・ジンがいなかったら、ジンが声をかけてくれなかったら、ジンが手を伸ばしてくれなかったら・・私は人じゃなく、兵器や道具として戦い続けて、人となることなく死んでいた・・ジンが、私を救ってくれた・・・」

「放っておけなかった・・・お前がミナとそっくりだったのもあったが・・身勝手な連中にずっと言いなりのなっているのが我慢できなかった・・なっているのがオレ自身であっても、他のヤツであっても・・・」

 微笑みかけてくるミリィの前で、ジンが歯がゆさを募らせていく。

「オレは戦うことができない・・戦えば、オレのようなヤツを増やすだけだ・・・」

「それでもあなたは戦ってきた・・許せないことに立ち向かっていった・・それを許さないという人さえも許さないという考えで・・」

「オレが、オレのようなヤツさえも許さなかった・・・」

「あなたはあなたの納得できる世界を取り戻そうとしてきた・・でもそれはあなたが憎んできた、身勝手な人たちとは違う・・身勝手に振り回されることのない世界を、あなたは望んできた・・」

 ミリィの言葉に心を動かされていくジン。目を見開いている彼に、ミリィが寄り添ってきた。

「だからジン・・これからも自分の信じる道を進んでいって・・・あなたの信じている平和を手にして・・・」

「ミリィ・・・いいのか?・・オレは・・戦ってもいいのか・・・?」

「あなたが、今でも心から平和を求めているのなら・・・」

 戸惑いを浮かべるジンに、ミリィが笑顔を見せた。荒んでいたジンの感情を和らげてきた笑顔である。

「私はこうして命を落としたけど、いつでもあなたのそばにいる・・そのことは忘れないで・・・」

「ミリィ・・ありがとう・・・お前がそこまで言うなら、オレはもう迷いを捨てる・・・」

「信じ続けて、ジン・・自分自身と、あなたを信じ続けている人たちのことを・・・」

 ミリィはジンに呼びかけると、彼から離れていく。

「待て、ミリィ・・行くな・・・!」

「私は行かないよ、どこにも・・私はずっと、あなたたちを見ているから・・・」

 手を伸ばすジンに笑顔を見せたまま、ミリィは彼の前から姿を消した。

「ミリィ・・・」

 ミリィへの思いを胸に秘めて、ジンは徐々に気分を落ち着かせていった。彼の心から迷いの霧が薄らいでいた。

「ミリィ・・・お前がそこまで言うなら、オレは戦う・・平和を望んでいたお前を殺したスバルを、この手で・・・」

 ミリィを死に追いやったバーンを倒すこと。ジンの中に、平和への渇望と敵への憎悪が再び芽生えた。

 

 地下施設の中に整備ドックに来たジン。待機しているMSの中に、ブレイズの姿はない。カナが乗って発進したのである。

(他の機体、ソルディンなどではブレイズ以上の戦闘力は持っていない・・ブレイズ以外で戦える機体は、あれしかないか・・・)

 ブレイズ以上の性能を備えたMSを求めたジンが目にしたのは、フェイスだった。

 フェイスはクラスターシステムを2機搭載したダブルクラスターを搭載しているが、その莫大なエネルギーがパイロットにも影響するため、使用ができない機体である。

「オレは戦う・・オレに降りかかるもの全て、振り払って・・・!」

 リンたち整備士の注意がそれたのを見計らって、ジンがフェイスに乗り込んだ。初めて見る構造のコックピットだったが、彼は難なくフェイスを起動させた。

「動いたか・・武装は・・遠距離、近距離そろっているか・・」

「ちょっとー!誰なの、フェイスを動かしてるのー!?

 武装を確かめたところで、ジンが声をかけられた。フェイスの前に駆け込んできたリンが、怒鳴り声をあげていた。

「降りてきなさーい!フェイスはパイロットへの負担が大きすぎる機体なの!発進したら死ぬことになるよー!」

 リンが呼びかけてくるが、ジンは降りようとしない。

「ハッチを開けろ!でなければ風穴を開けるぞ!」

 ジンがリンたちに向けて呼びかけてきた。

「ジンくん・・やっぱりジンくんね・・絶対に行かせないで!ハッチをハチの巣にされてもフェイスを出させないで!」

 リンがミルたちに呼びかけて、ジンの乗るフェイスを発進させないようにする。手足を鉄のアームでつかまれて、フェイスがロックされる。

「オレは行くんだ・・スバルを・・ミリィを殺したスバルを倒しに・・・!」

 怒りを募らせて、ジンがフェイスを強引に動かそうとする。しかしフェイスの両腕はアームを振り払うことができない。

 そのとき、フェイスの胴体から光があふれ出してきた。その光を目の当たりにして、リンはさらに緊迫する。

「リンさん、この光、もしかして・・!?

「フェイスはパイロットのリンクが極めて強い・・フェイスから出ている光は、フェイスだけのエネルギーだけじゃない・・!」

 ミルが訊ねると、リンは緊張を浮かべたまま答える。フェイスが全身から発するエネルギーで、手足を拘束していたアームを破壊した。

「やってやる・・バーンをこの手で・・この力で・・・!」

 ジンが声を振り絞り、フェイスが飛び上がった。地下施設のハッチを突き破り、フェイスが全身に光を宿したまま、ヴァーナに向かっていった。

 

 

次回予告

 

ミリィの後押しを受けて、ジンは再び戦場に舞い戻った。

敵を倒すことを目的とする2人の青年。

ジンとバーン。

新たなる力を手にして、2人は意思をぶつけ合う。

 

次回・「フェイス」

 

 

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