GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-33「心の剣」

 

 

 ヴァーナに向かう決意を固めたアルバとリリィ。フューチャーと、リンによって性能が高められたソルディン02が発進準備を整えていく。

「性能を上げたって言っても、元はソルディン。フューチャーやゼロには遠く及ばないってことは覚悟してちょうだい。」

「分かりました、リンさん・・ありがとうございます・・・」

 リンからの呼びかけにリリィが答える。

「では行くぞ、リリィ・・リン、ここを任せた・・」

「分かったよ。せめて不意打ちはくらわないようにはするよ。」

 アルバの呼びかけにリンが答える。アルバのフューチャー、リリィのソルディンが発進準備を終えた。

「アルバ・メモリア、フューチャー、行くぞ!」

「リリィ・クラウディ、ソルディン、行きます!」

 フューチャーとソルディンが地下施設から発進していった。2つの機影が去っていくのを、カナは沈痛な面持ちで見送っていた。

 

 レイアのグレイヴとマリアのルナが交戦を繰り広げる。2機は射撃、砲撃による遠距離攻撃を続けていた。

「お前も遠距離型のMSのようだが、性能はグレイヴのほうがはるかに上回っているようだな。」

 レイアが不敵な笑みを浮かべ、グレイヴがルナに向けてラグナログを放つ。だがルナは素早く動いてビームをかわし、グレイヴに向かっていく。

「遠距離だけではないのよ、ルナは!」

 マリアが言い放ち、ルナがクレッセントを振りかざす。回避して距離を取るグレイヴを、ルナが追撃を仕掛けていく。

 だがルナが再び振りかざしたクレッセントは、グレイヴが手にしたクレイモアに防がれる。

「グレイヴが接近戦に弱いと誰が言った?」

 レイアが強気を崩さず、グレイヴがクレイモアを振りかざしてルナを突き飛ばす。

「ビームも剣も一撃必殺の威力がある・・1発でも受けたらひとたまりもない・・・!」

 マリアがグレイヴの性能と威力に焦りを覚える。距離を取ろうとするルナに、グレイヴが一気に詰め寄ってくる。

 ルナがレールガンで迎撃するが、グレイヴは素早くかわす。グレイヴが振りかざしたクレイモアが、ルナの持っていたクレッセントの柄を切り裂いた。

「いけない!」

 接近戦の武器を失い、マリアが危機感を募らせる。ルナがレールガンを発射してけん制し、グレイヴから離れようとする。

「逃げられると思っているのか?」

 レイアが笑みを強めて、グレイヴがルナに迫る。

「マリアさん!」

 マリアのピンチにソワレが声を荒げる。トラスカリバーを構えるゼロに、ヴァルカスとカースが執拗に攻撃を仕掛けていく。

「たとえゼロであろうと、我々の道を阻むことはできない。」

 バーンが言葉を口にし、ヴァルカスが2本のビームサーベルを合わせてビームソードにする。ヴァルカスが振りかざしてきたビームソードを、ゼロがトラスカリバーで受け止める。

「ゼビル、今だ、やれ!」

 バーンが呼びかけると、ゼビルのカースがゼロに向けてビームサーベルを振り下ろしてきた。ヴァルカスのビームソードを受け止めるだけで、ゼロは手一杯になっていた。

 そのとき、カースのビームサーベルが手元から弾かれた。ゼロがその隙にヴァルカスを突き飛ばし、2機の攻撃から脱出した。

 カースのビームサーベルを弾いたのはビームブーメラン。それを投げてきたのは、

「フューチャー・・アルバ・・・!?

 ソワレは目を疑った。ゼロを救ったのはアルバの乗るフューチャーだった。

「フューチャー・・ここに現れるとは・・・!」

「ヤツの相手は私がする。ゼビルはゼロを。」

 緊張を浮かべるゼビルにバーンが呼びかける。ヴァルカスがビームソードを構えて、フューチャーに向かっていく。

「リリィ、そっちは任せるぞ!」

「分かった、アルバ!」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。リリィの乗るソルディンがグレイヴに向かっていく。

「マリアさんは1度クレストに戻って!ここは私が持たせるから!」

「リリィさん・・・!」

 呼びかけてくるリリィに、マリアが戸惑いを覚える。動揺を募らせていく彼女だが、1度クレストに戻ることを優先した。

「なぜお前がここにいる!?・・何のつもりだ!?

「生きるためにオレたちは戦っている。ソワレ、お前たちが死ぬことを、オレは望んでいない。いや、オレ以上にリリィが、そう思っている・・」

 声をかけてくるソワレに、アルバが返事をする。

「そんな理由で、お前たちが敵でなくなったことにはならない・・・!」

「お前も死ぬことがいいことにならないことは分かっているはずだ・・だからオレたちは、ここでヴァルキリーに負けるわけにはいかない・・・!」

 敵意を見せるソワレに決意を告げるアルバ。フューチャーとゼロの前に、ヴァルカスとカースが距離を詰めてきた。

「フューチャーでも私は負けない。ここで切り裂いてやる・・」

 バーンが戦意を強めて、ヴァルカスがフューチャーに向かっていく。ヴァルカスが振りかざしてきたビームソードを、フューチャーがエクスカリバーを構えて受け止める。

「この前の借り、ここで返させてもらうぞ・・・!」

 声を振り絞るバーン。ヴァルカスがビームソードを左手に持ち替えて、右手でビームライフルを持って構える。

 アルバが即座に反応し、フューチャーが右足を突き出してヴァルカスを蹴り飛ばす。この一蹴でフューチャーはヴァルカスの追撃を阻んだ。

「荒削りだが、それで私を退けられると思うな・・・!」

 バーンが声を振り絞り、ヴァルカスが再びフューチャーに飛びかかる。フューチャーもエクスカリバーを構えて、ヴァルカスを迎え撃った。

 

 ゼロの攻撃を受けて負傷したリヴァイバー。ヴァルキリアに1度戻ったリヴァイバーは、すぐにマートンたち整備士によって補修が行われていた。

「マートンさん、僕も手伝います・・1人でも多く作業に回ったほうが・・!」

「ユウ、お前はもうパイロットだ!こっちの作業で体力使ったら戦えなくなるだろう!」

 呼びかけるユウだが、マートンに呼び止められて、リヴァイバーのコックピットで待機することになった。

(本当に手ごわいな、ゼロは・・でもこっちには強力なMSがそろっているんだ・・負けるはずがないんだ・・・!)

 心の中で自分に言い聞かせるユウ。彼は気持ちを落ち着かせて、出撃に備えた。

「ユウ、フューチャーがヴァーナに現れた。今まで以上の注意が必要だぞ・・」

「フューチャーまで!?・・ゼロとフューチャーが、同時に僕たちの敵になるなんて・・・」

 マートンからの報告を受けて、ユウが驚愕を覚える。しかし彼はすぐに気を引き締めた。

(フューチャーだろうとゼロだろうと、平和のために戦って、倒してやるんだから・・・!)

「ユウ、完了した!出られるぞ!」

 改めて決意を固めたユウに、マートンからの声が飛んできた。

「ユウ・フォクシー、リヴァイバー、行きます!」

 ユウの乗るリヴァイバーが再びヴァルキリアから発進した。

 

 レイアのグレイヴとの戦闘を行うリリィのソルディン。だが2機の性能の差は明らかで、ソルディンは次第にグレイヴに追い詰められていった。

「いくら性能を上げていると言っても、あそこまでのレベルまでは・・・!」

「どうした?その程度では模擬戦の相手も務まらないぞ?」

 焦りを感じていくリリィと、不敵な笑みを浮かべるレイア。グレイヴがソルディンに向けて、クレイモアを振りかざす。

「うっ!」

 リリィが衝撃に襲われてうめく。グレイヴの一閃で、ソルディンがビームサーベルを持った右手と、メインカメラを備えた頭部を切り裂かれた。

「リリィ!」

 追い込まれたリリィに、アルバが声を上げる。だがフューチャーにヴァルカスが攻め立ててくる。

 フューチャーはヴァルカスのビームソードをかいくぐって、ビームブーメランをグレイヴに向けて投げつけた。レイアが気付き、グレイヴがクレイモアでビームブーメランを弾いた。

「リリィ、大丈夫か!?

「アルバ・・私は大丈夫・・でも、ソルディンが・・・!」

 アルバの呼びかけにリリィが答える。彼女の乗るソルディンはこれ以上戦える状態ではなかった。

“クレストに戻りなさい。そんな状態で戦場にいられても死ぬだけよ。”

 そのとき、ソルディンのコックピットにマリアからの通信が入ってきた。思いもよらなかった相手からの通信に、リリィは一瞬驚いた。

「でも、私はリードにとっては・・・」

「リリィ、行け・・ここでみすみす死ぬよりはいい・・・!」

 戸惑いを覚えるリリィにアルバが呼びかける。リリィは迷いを振り切って、クレストに向かっていった。

「このまま逃げられると思うな。」

 レイアがソルディンを見据え、グレイヴが追撃に出る。だがグレイヴの前にフューチャーが飛び込んできた。

「リリィに手は出させないぞ・・!」

「フューチャー・・私とバーンを同時に相手にしようとは、ずい分と図に乗っているようだな・・」

 目つきを鋭くするアルバと、不敵な笑みを浮かべるレイア。ヴァルカスがグレイヴとともにフューチャーを挟み撃ちにしていた。

 

 1度クレストに帰還したマリアのルナ。ルナが補修を受けている間、マリアはリリィに通信を送っていた。

 彼女の誘導により、ソルディンがクレストに向かってきた。

「ソルディン・・・!」

「いいえ、あのソルディンは敵ではないわ・・こちらに着艦させて・・」

 警戒する兵士たちにマリアが呼びかける。彼女の指示でソルディンがクレストに着艦した。

 損傷したソルディンからリリィが出てきた。兵士たちが彼女に銃を向けるが、マリアがそれを制止させる。

「マリアさん・・どうして、私を・・・!?

「私たちとあなたたちには、ヴァルキリーと敵対している共通点がある・・」

 問いかけるリリィに、マリアが真剣な表情を見せて答える。

「ここで1つ聞いておくわ・・あなたとアルバさんは私たちの敵なの・・?」

「敵になるつもりはない・・あなたたちを放っておくことができなかった・・死んでしまうのが耐えられなかった・・・」

「ハァ・・あなたたちらしいわね・・本当に都合のいい考え・・・」

 リリィの言葉を聞いて、マリアがため息をつく。

「私はもう1度ルナで出撃する。あなたも発進の準備をしなさい。」

「えっ?でも、ソルディンはもう・・」

 呼びかけるマリアにリリィが戸惑いを見せる。ソルディンは甚大な損害を受けており、すぐに修理して出撃できる状態ではなかった。

「乗り換えるのよ。あなたの専用機、クレストが預からせてもらっていたのよ・・」

「えっ・・・!?

 マリアが口にした言葉に、リリィが一瞬耳を疑った。

 

 アルバたちの参戦を、地下施設にいたリンたちも見守っていた。

「あちゃー・・やっぱりソルディンが歯が立たなかったか・・」

「リンさん、分かっててソルディンで行かせたんですかー?」

 頭に手を当てるリンに、ミルが呆れる。

「ところで、カナさんの姿が見えませんね?さっきは一緒に見ていたんですけど・・?」

「そういえばそうね・・練習に疲れて、部屋に戻ったのかな?」

 ミルが投げかけた疑問に、リンが疑問符を浮かべながら答えた。

 そのとき、基地施設が小さな揺れに襲われた。この異変に彼女たちが緊張を覚える。

「これって、もしかして・・・!?

 ミルが声を荒げて、リンがドックへと駆けだした。待機しているMSの中に、ブレイズの姿がなかった。

「カナちゃん、けっこう大胆不敵ねぇ・・でも、ちょっと楽観的にはなれないね。今回はさすがに・・」

 余裕の笑みを消して、リンは緊張を募らせる。彼女はミルと一緒に、ジンのいる医務室に向かった。

「ジンくん、カナさんがブレイズに乗って行っちゃいましたよ!」

「何っ・・!?

 ミルの呼び声を聞いて、ベッドに横たわっていたジンが起き上がる。

「今、ヴァルキリーがヴァーナでリードと戦ってるんです・・アルバさんとリリィさんも一緒にヴァルキリーと戦ってます・・」

「ヴァルキリー・・・スバルが現れたのに・・ブレイズを持ち出すとは・・・!」

 ミルの言葉を聞いて、ジンが憤りを浮かべる。カナではなくヴァルキリーへの憎悪とブレイズという力のほうを気にしている彼の態度に、ミルが不満を覚えた。

「カナさんはあなたの仲間なんでしょ!?・・・あなたを必死に助け出してくれたじゃないですか・・・!」

「他のヤツは関係ない・・オレは今までオレの戦いをしてきただけだ・・ヴァルキリーのヤツらを仲間と思ったことはない・・むしろ今では敵でしかない・・・!」

「そんな最低な考え・・カナさんを止められるのは、もうジンさんしかいません!ここのMS使っていいですから、追いかけてください!」

「オレはオレの戦いをするだけだと言ったはずだ・・追いかける必要がどこにある・・・!?

 自分の考えを変えないジンに怒りを感じて、ミルが彼の頬を叩いた。

「あなた、本当に最低です!自分のことしか考えないで・・それでも男・・・!」

 怒りの言葉をぶつけようとしたミルだが、直後にジンに殴り飛ばされる。衝撃と痛みに襲われて、彼女の意識がもうろうとなる。

「オレを振り回すな!自分のことを他人に押し付けるお前のほうが最低だろうが!」

 ジンが怒号を放って、ミルに再び殴りかかろうとした。だがそのとき、彼の視界にミナとミリィの姿がよぎり、殴りかかろうとしていた彼の手が止まった。

「ミナ・・・ミリィ・・・オレは・・・オレは・・・!」

 これ以上ミルに殴りかかることができなくなり、ジンはたまらず医務室を飛び出した。

「ジンくん・・・ミルちゃん・・・」

 ジンとミルへの心配を感じて、リンは困惑を感じていた。

 

 ヴァルキリーを見過ごすことができず、カナはブレイズでヴァーナに向かっていた。

(ゴメン、ジン、リンさん・・でも私、みんなを放っておくことができない・・このまま平和から遠ざかっていく気がして・・・)

 心の中で駆け巡っていく思惑を抱えたまま、カナはブレイズを動かしていく。

“カナ、オチツカナイ!オチツカナイ!”

 ブレイズのコックピットにいたウォーティーが声を上げてくる。

「落ち着かないよ、ホントに・・みんなとどう向き合えばいいのか、全然分かんないんだから・・・」

 カナが独り言を口にするように答える。揺らいだ心境のまま、彼女はさらにブレイズを加速させた。

 

 ヴァルキリアから再び出撃したユウのリヴァイバー。リヴァイバーは交戦するフューチャーとグレイヴに近づいていた。

「本当にフューチャーが来ていたなんて・・でも、僕たちは負けない・・どんな相手にだって・・・!」

「ユウ、私がフューチャーの動きを止める。お前はその一瞬を狙って、シヴァを放て。」

 決意を固めるユウにレイアが呼びかける。グレイヴがフューチャーの攻防をかいくぐっていく。

(シヴァを最大限にチャージしたなら、フューチャーでも吹き飛ばせる・・レイア様なら、きっとあのビームソードを振るわせる隙を与えないはずだ・・・!)

 ユウが心の中で言い聞かせて、シヴァのエネルギーのチャージに専念する。フューチャーとグレイヴがエクスカリバーとクレイモアをぶつけ合う。

 2機の一進一退の攻防の中、シヴァのエネルギーチャージが完了した。

「シヴァ、エネルギーチャージ完了!」

 ユウの呼びかけを聞いて、レイアが不敵な笑みを浮かべる。グレイヴがフューチャーとのつばぜり合いに持ち込んだところで、わざと一瞬力を緩めて押される。

「今だ、ユウ!」

 レイアの呼び声を受けて、ユウがシヴァを放とうとした。

「ユウ、待って!」

 そのとき、聞き覚えのある声を耳にして、ユウのシヴァ発射が遅れた。放たれたビームはフューチャーにかわされる。

 眼前に現れた機影に、ユウは目を疑った。カナの乗っているブレイズがリヴァイバーの前に現れた。

 

 

次回予告

 

大切な人も日常も失った。

守ろうとした人も守れなかった。

自分の戦う理由さえも見失った青年。

思いを向ける人たちに支えられて、彼は再び立ち上がる。

 

次回・「ジン」

 

 

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