GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-32「虚無と未来」

 

 

 ヴァルキリーの襲撃で、地球連合の機能は壊滅的な打撃を受けていた。ヴァルカスたちがヴァルキリアに帰艦し、バーンたちは束の間の休息を取ることになった。

「これでまずは地球連合を叩き伏せることはできた・・仮に反撃を狙っていたとしても、それまでに時間がかかることになる・・」

 レイアが自分たちの戦果に喜びを感じていた。するとバーンが真剣な表情で声をかけてきた。

「ですが、これで全てが終わったわけではありません。連合以上に力を持っているのがリードです・・」

「分かっている。だが我々は前進あるのみ。リードであろうと、我々を撃ち滅ぼすことはできない・・」

「当然です。我々にはヤツらよりも力が、揺らぎのない信念があります・・」

 バーンはレイアに頭を下げると、彼女から離れて歩き出していった。

 そのそばで、ユウは戸惑いを感じていた。自分の手と力が直接平和を手繰り寄せていることを、彼は実感していた。

「ここまでよくやったな、ユウ・・ヴァルキリーの戦力として、お前も成長しているのだな・・」

 そんなユウにゼビルが声をかけてきた。

「この調子でリードも撃破する。平和の敵は、全て世界から排除しなければならない・・」

「うん・・戦っていけば、みんな分かってくれる・・ジンもカナも・・」

「ユウ、2人は裏切り者だ。2人のことは気にするな。」

「でも、ゼビル・・」

「ヤツらがオレたちを倒すために現れたらどうする?お前が2人を倒すことを躊躇したために、ヴァルキリーが滅ぶことになるのだぞ・・」

「でも・・やっぱりジンとカナは・・・!」

「それに、ジンが自分の気に入らないヤツには、たとえ同朋であっても容赦なく攻撃を仕掛けるのを忘れたのか?最悪、ヤツに憎悪を向けられて、落とされることにもなりかねない・・」

 ジンとカナのことを気にするが、ゼビルに言い返すことができず、ユウは歯がゆさを募らせながらも押し黙ることしかできなかった。

「やられるくらいならやれ。命を落としたら、お前が求めている平和を取り戻すことさえできなくなるぞ・・」

 ゼビルはそう告げて、ユウの前から立ち去っていった。いつか対決するかもしれないジンとカナに対して、ユウは再び苦悩することになった。

 

 ジンがふさぎ込んでいる中、カナはブレイズのシュミレーション練習を続けていた。自分自身のため、ジンのため、彼女はいつでもどのような状況になってもいいように、ブレイズを使いこなそうとしていた。

「ウォーティー、今回の成績は?」

“メイチュウリツ、84パーセント。”

 カナの問いかけにウォーティーが答える。彼女がブレイズでヴァルキリアを出たとき、ウォーティーも連れ出していた。

「あの高い性能の機体ぞろい・・ここで100パーセントにしても、勝てるどころか逃げ切れるかどうか・・」

“マケナイデ。アキラメタクナイ!”

 不安を浮かべるカナにウォーティーが呼びかけてくる。この言葉を受けて、カナは笑みを浮かべる。

「そうね、ウォーティー・・諦めたらその時点で負け決定だからね・・」

 カナはハッチを開いて、ウォーティーを連れてブレイズから出た。

「少し休んでからまたやることにしよう、ウォーティー・・通しでやるのはよくないと思う・・出なくちゃいけないときに出られなかったら、元も子もないから・・」

 ウォーティーに話しかけていたところで、カナがリンたちが集まっていることに気付いた。

「あの・・何かあったんですか・・・?」

 カナが声をかけると、リンはモニターを見たまま答える。

「ヴァルキリーが、今度はリードの軍事施設に向かっているみたいだよ・・」

 彼女の言葉を受けて、カナも緊張を覚える。モニターにはヴァルキリアの姿が映し出されていた。

「ゼビルたちが、リードを・・どんどん攻撃の狙いを拡大させてるんですね・・・」

「それだけじゃないよ・・別のリードの部隊が、その施設を守るために接近してきてる・・その部隊は・・」

 言いかけるカナにリンが話を続ける。

「クレスト・・・ソワレさんとマリアが・・・」

 次に言葉を発したのはリリィだった。彼女はソワレとマリアが今のヴァルキリーと交戦することに、少なからず不安を感じていた。

「もしかしたら、オレたちが考えている最悪の事態になるかもしれないぞ・・」

 動揺を浮かべているリリィに、アルバが声をかけてきた。真剣な表情を浮かべていた彼だが、心の中で動揺を感じているのをリリィは悟っていた。

「いくら2人でも、今のヴァルキリーを食い止められるなんて・・・すぐにでも助けに・・・」

「いや、すぐに出て行っても、助けるどころかオレたちの危険が増すだけになる・・ここはもう少し様子を見よう・・いつでも出られるように準備をしておいてな・・」

 意見を投げかけたリリィをアルバが呼び止める。気持ちの揺らぎを抑えながら、リリィが微笑んで頷いた。

「アルバさん、ジンにもこのことを伝えに・・」

「ジンがどうするかはジン自身だ。オレたちが教えてやるより、自分で確かめて自分で行動するのがいい・・」

 カナが声をかけるが、アルバに言葉を返されて止められる。だがカナはジンに対する沈痛さを抑えることができないでいた。

 

 リード軍事施設「ヴァーナ」。地球上に点在するリードの施設の中で指折りの規模を備えている。

 レイアたちの次にヴァーナを狙い、リードの機能を一気に落そうと考えていた。

「今度の相手はリード・・地球連合以上の武力を持っている・・・」

 ユウが次の戦いに対して緊張を感じていた。

「だがリードが相手でも、オレたちは負けない。もちろんユウ、お前も・・」

 ゼビルが呼びかけてくると、ユウが真剣な表情を見せて頷く。

「僕だってやれているんだ・・リードが相手だったら、僕もやってやる・・・」

「その意気だ。オレだけでなく、バーンもレイア様もお前に期待しているからな・・」

 ゼビルの言葉に背中を押されて、ユウはリヴァイバーのコックピットに乗り込んでいった。

“お前とゼビルが先陣を切れ。時期を見計らって、私とバーンも出撃する。”

 ユウのいるリヴァイバーのコックピットに、レイアからの通信が入ってきた。

“そこの戦力では、お前たちだけで十分だろう・・だが、近くにクレストが近づいてきている・・”

「クレスト・・もしかして、ゼロ・・あのゼロが・・・」

“仮にゼロが出てきても心配はいらん。私とバーンで押さえる。お前たちはヴァーナへの攻撃に集中するのだ。”

「レイア様・・・分かりました・・感謝します・・」

 レイアからの言葉を受けて、ユウが戦いに意識を集中させる。リヴァイバーの先のハッチが開かれた。

「ユウ・フォクシー、リヴァイバー、行きます!」

 ユウの乗るリヴァイバーがヴァルキリアから発進した。

「ゼビル・クローズ、カース、発進する!」

 続けてゼビルのカースが発進した。リヴァイバーとカースがヴァーナに向かっていく。

「オレが接近して切り込む。ユウは後方から施設とMSを撃て。」

「分かったよ、ゼビル・・気を付けて・・・!」

 ゼビルの指示を受けて、ユウも言葉を返す。カースがビームサーベルを手にして、出撃してきたザク・スマッシュ、グフ・グレイスを迎え撃つ。

 各々の武器で射撃と打撃を繰り出すMSたちだが、カースの素早い動きと斬撃で次々に返り討ちにされていった。

「くそっ!パワーがあるだけでなく、スピードも格段にある!」

「取り囲め!動きを封じていけば確実に当てられる!」

 リードのパイロットたちが声をかけ合って、打開の行動に出ようとした。だが飛び込んできたビームに撃たれて、ザクとグフが撃墜された。

 カースを援護して、リヴァイバーがビームライフルで狙撃してきたのである。

「僕がみんなを守るんだ・・平和を壊すお前たちに、絶対に負けない!」

 ユウが言い放ち、リヴァイバーが2つのビームライフルでザク、グフを射撃していく。接近戦でも撃ち合いでも追い込まれ、リードは次第に劣勢を強いられていった。

 

 ヴァーナが襲撃を受けているという知らせは、航行中のクレストにも伝わってきていた。

「遅れてしまったか・・このままではヴァーナが・・・」

 モニターに映し出されたヴァーナとヴァルキリーを目にして、ガルが呟く。

「艦の最大スピードでもヴァーナの護衛に間に合いません!」

 オペレーターの声が飛び交う中、ガルは決断を下した。

「ソワレ、ゼロで先に行ってくれ!」

 ガルの呼びかけに、ゼロのコックピットで待機していたソワレが頷いた。

「ゼロがこの中で1番の速度がある。ソワレ、お前が先陣を切り、ヴァーナを守れ。」

「分かりました、艦長。」

「私も同時に出ます。ソワレ、すぐに追いつくから・・」

 ガルの指示にソワレが答えると、同じくルナで待機していたマリアも呼びかけてきた。ソワレは頷いて、マリアとともに発進に備えた。

「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」

「マリア・スカイローズ、ルナ、行くわよ!」

 ソワレのゼロ、マリアのルナがクレストから発進する。ゼロが一気にスピードを上げて先行し、ヴァーナに向かっていく。

「ユウ、気をつけろ!ゼロが来たぞ!」

「えっ!?

 ゼビルの呼びかけにユウが声を荒げる。リヴァイバーのコックピットのモニターに、ゼロの機影が映った。

「近づかれる前にビームで攻撃を!」

 ユウがいきり立ち、リヴァイバーがビームライフルを発砲する。しかしソワレの駆るゼロは素早くビームをかわす。

「速い!?

 簡単にビームをよけられたことに驚くユウ。高速でリヴァイバーとの距離を詰めるゼロだが、カースがその間に飛び込んできた。

「ユウ、離れろ!」

 ゼビルがユウに呼びかけ、カースがビームサーベルを振りかざす。ソワレがとっさに反応し、ゼロがトラスカリバーを掲げて受け止める。

「ユウ、今だ、撃て!」

「でも、これじゃゼビルにまで当たるよ・・・!」

 呼びかけるゼビルだが、ユウが困惑を浮かべて攻撃をためらう。

「お前の攻撃に巻き込まれるオレではない!オレがヤツの隙を作る!そこを狙え!」

「ゼビル・・・分かったよ!」

 ゼビルのさらなる呼びかけにユウが答える。リヴァイバーが距離を取って、シヴァの発射体勢に入る。

(これ以上攻撃をさせるわけにはいかない・・まずはあの2機をヴァーナから離さないと・・・!)

 ヴァーナを守ろうと思考を巡らせるソワレ。ゼロがヴァーナに接近しているスナイパーたちを引き離そうとするが、カースに接近されて迎撃を妨げられる。

 ゼロが対処している間、シヴァの発射準備が着々と進んでいた。

「ゼビル、離れて!シヴァ、発射!」

 ユウがゼビルに呼びかけると、カースがゼロから離れた。リヴァイバーがゼロに向けて、シヴァを発射した。

「陽電子砲さえも貫くゼロとトラスカリバーを甘く見るな!」

 ソワレが言い放ち、ゼロがスピードを上げて、ビームに向けてトラスカリバーを突き出した。高速のゼロの突きはビームを真っ二つに切り裂いた。

「そんな!?

 シヴァのビームを破られたことに驚愕するユウ。ゼロが高速のまま突っ込み、リヴァイバーの右腕を切り裂いた。

 ゼビルが毒づき、カースがゼロにビームブーメランを投げつける。トラスカリバーを盾にしてビームブーメランを防いだゼロに、カースが飛びかかってきた。

「ユウ、1度ヴァルキリアに戻れ。その損傷では戦えない。」

「でも、ゼビルだけじゃゼロにはとても・・!」

 ゼビルの呼びかけにユウが困惑を浮かべる。

「私とバーンも出る。ユウ、お前は気にせずに帰艦するのだ。」

 レイアが通信を送り、ユウに呼びかけてきた。

「レイア様・・分かりました・・・!」

 ユウが頷き、リヴァイバーがヴァルキリアへと戻っていった。

 

「レイア・バルキー、グレイヴ、出撃する!」

「バーン・アレス、ヴァルカス、発進する!」

 レイアのグレイヴ、バーンのヴァルカスがヴァルキリアから出撃する。ヴァルカスが2本のビームサーベルを手にして、カースと交戦するゼロに向かって切りかかってきた。

 ソワレがとっさに反応して、ゼロが素早く動いてヴァルカスのビームサーベルをかわした。

「新手・・引き返していったのも合わせて4機・・・!」

 強力な相手の増加にソワレが焦りを覚える。ゼロでも複数を相手にすることに勝ち目がないことを、彼は分かっていた。

「バーン、ゼビル、お前たちで挟み撃ちにしろ。私が距離をおいて援護する。」

「分かりました、レイア様・・」

 レイアの呼びかけにバーンが答える。ヴァルカスがビームサーベルを構えて、ゼロに飛びかかる。

 ゼロがトラスカリバーでヴァルカスのビームサーベルを受け止める。その背後を狙って、カースがゼロに向けてビームブレイドを発した右足を振りかざす。

「ソワレくん!」

 だがそこへ高出力のビームが飛び込んできた。ゼビルが反応して、カースがゼロから離れてビームをかわす。

 カースの攻撃を妨げたのは、マリアの乗るルナだった。

「ソワレくん、大丈夫!?

「マリアさん・・僕は大丈夫です・・・ですがあのヴァルキリーのMS、思っていた以上に手ごわいです・・」

 心配の声をかけるマリアに答えるも、ソワレは深刻さを募らせていた。

「マリアさんはヴァーナの護衛を!僕は引き続きこのMSたちの相手をします!」

「それなら大丈夫よ。ヴァーナはクレストが護衛に回っているわ。」

 呼びかけるソワレにマリアが答える。既にクレストがヴァーナに到着しており、スナイパーたちを迎撃していた。

「あの機体は私が押さえるわ。ソワレくんは他の2体をお願い。」

「マリアさん・・気を付けてください・・・!」

 マリアの呼びかけにソワレが答える。ゼロがヴァルカスとカースと対峙する一方、ルナがグレイヴに向かっていった。

「ルナも現れたか。だが我々の勝利は揺るがない。」

 強気な態度を崩さないレイア。グレイヴが向かってくるルナとの交戦を始めた。

 

 ヴァーナでのソワレたちとバーンたちの交戦を、アルバたちも見ていた。この戦いを見続けて、カナもリリィも困惑を感じていた。

「ソワレたちを放っておけないか・・・?」

 アルバに声をかけられて、リリィが沈痛な面持ちを浮かべたまま頷く。

「ならオレたちも行くぞ。それでリリィが納得できるのなら・・」

「でもそれじゃ、私たちのことがソワレさんたちに・・・」

「もしもソワレたちが敵対してくるなら、覚悟を決めるしかない・・リリィ、出るならお前も覚悟を決めたほうがいい・・」

「アルバ・・うん・・行くわ、私・・・」

 問い詰めてくるアルバにリリィが頷いた。彼女の決心を受け止めて、アルバがリンに声をかけた。

「フューチャーの発進準備を頼む。ヴァルキリーを止める・・」

「いいの?ここが危なくなるかもしれないよ・・」

「そうならないように、おそらくこれからの連絡を極力避けることになるかもしれない・・・」

 リンが気さくに問いかけるが、アルバは表情を変えない。

「仕方ないね・・君たちはこっちに来る前は、2人きりで行動してたっけ・・・分かったよ。すぐに準備する・・」

「本当にすまない・・・」

「気にしなくていいって・・君たちの好き勝手は、今に始まったことじゃないし・・・」

 謝るアルバにリンが笑みを見せたまま言葉を返す。

「リリィはソルディンで。すぐに性能を高めるように調整するから・・」

「リンさん・・ありがとうございます・・・」

 リンからの計らいにリリィが感謝した。ソワレたちを助けるため、アルバとリリィもヴァーナに向かうことにした。

 

 

次回予告

 

ヴァーナでの激闘は続く。

バーンたちとの交戦の中、ソワレはアルバとの対面を果たす。

戦いの中で交錯するそれぞれの思惑と感情。

その動揺は、カナの中にもあった。

 

次回・「心の剣」

 

 

作品集

 

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