GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-31「壊れゆく信念」

 

 

 グレイヴの放ったラグナログのビームが、チェスターの艦体を貫いた。艦体に爆発が起こり、チェスターが体勢を崩していく。

「まさか・・何もできずに・・撃墜されることになるとは・・・!」

 燃え盛るチェスターの艦内で、マアムが愕然となる。

「全てをなぎ払うことのできるいかずちを持っているのは、ヴァルキリアとリヴァイバーだけではない・・」

 レイアがチェスターを見下ろして、不敵な笑みを浮かべる。他のソルディンたちも次々に撃墜され、ついに全滅した。

「どのような行動を取ろうと、武力を持つお前たちが辿るのは破滅の末路だ。」

 連合軍の兵士たちを見下ろして、レイアが勝ち誇る。

「全機、ヴァルキリアに帰艦せよ。戦闘は終わりだ。」

「了解しました、レイア様・・」

 レイアの指示にバーンが答える。ユウのリヴァイバー、ゼビルのカースもヴァルキリアに戻っていった。

 

 ヴァルキリーによってチェスターは撃墜。ソルディンたちも海や近隣の島々に残骸を残していた。

 その中で1人、ギルドだけが生き残った。ソルディンから這い出た彼は、ヴァルキリアの去った方向に目を向けていた。

「アイツら・・絶対に許しておかないぞ・・絶対に!」

 自分の全てを奪ったヴァルキリーに対する、ギルドの怒りは頂点に達していた。

 

 ヴァルキリーがチェスターを撃墜したという情報は、ジンたちの耳に入ってきた。

「チェスター・・アイツが倒されたのか・・・アイツをこの手で叩き落とせなかったのは納得できないが、ヤツらがどうなろうとオレには関係ない・・」

 ギルドたちのことを考えて、ジンが憮然とした態度を見せる。

「だがいつまでも、スバルたちの勝手を許すつもりもない・・必ず叩き潰してやる・・・!」

「だがお前の乗っていた機体ではムリだ・・」

 いら立ちを見せるジンを呼び止めたのはアルバだった。

「フューチャーでさえも、ヴァルキリーの機体を1機でまとめて相手をするのは危険だ。あの機体でも絶対に勝てる保障はない・・」

「なくてもやるんだ・・ヤツらの勝手な行動を、オレは認めるつもりはない・・・!」

「それにお前は戦うことに迷いを捨てられなくなっている。口や頭では迷いがないと言っても、無意識に迷いを感じてしまっているんだ・・」

「勝手に決めるな・・オレは・・オレは・・・!」

 アルバの言葉を拒絶しようとするジンだが、次第に迷いの色が浮き彫りになっていく。

「何のために戦うか、それをお前自身がどう決めても、オレはとがめるつもりはない・・だが迷いを吹っ切れないまま戦おうとすれば、待っているのは敗北、最悪死だ・・死ぬことはオレは認めない・・」

「誰が死ぬか・・オレはヤツを、スバルを絶対に許してたまるものか・・・!」

 スバル、バーンへの怒りをたぎらせるも、自分の憎悪がさらなる破滅を呼び込んでしまう悪循環にさいなまれ、ジンはその意思と決意を貫くことができなくなっていた。

「どうしても倒しに行きたいというなら、もう少し休んでから、もう少しヤツらの動きを把握してからでもいいのではないか?」

 アルバの投げかけた言葉に不満を抱くも、ジンは渋々聞き入れることにした。

「彼、本当に頑固者みたいね・・アルバ以上に手を焼かされるかも・・」

 リリィが立ち去っていくジンを見て肩を落とす。彼女の隣でカナが沈痛の面持ちを浮かべていた。

「でも、彼の気持ち、私も分かる・・私も、オメガに復讐することを考えてたから・・」

「リリィさんも、そんなことがあったんですか・・・!?

 リリィが口にした言葉に、カナが驚きを見せる。

「私の故郷はアフェード。オメガの攻撃で、今も立ち入りできない島なのよ・・」

「アフェード・・旧人類とオメガの戦争の被害者・・・」

 リリィの言葉を聞いて、カナがアフェードのことを思い出していた。

 カナはアフェードの出身ではないが、自分の故郷を地球連合とリードの戦争に巻き込まれて、甚大な被害を被った。一方的に故郷や家族を蹂躙されたことに憤り、カナはヴァルキリーの誘いに応じることになった。

「自分たちの勝利のために私たちやみんなをムチャクチャにした戦争や軍人が許せなかった・・そこでヴァルキリーに誘われて・・・」

「そうだったの・・いきさつや目的は違うけど、独自に世界の平和を取り戻す。それがあなたたち、ヴァルキリーなのね・・?」

「はい・・細かい目的や考え方、やり方は違うけど、平和を取り戻そうとする気持ちは同じだった・・同じだった、はずなのに・・・」

 リリィの問いかけに答えるも、カナは悲痛さを感じて思いつめてしまう。ジンを平気で切り捨てたヴァルキリーのやり方に、彼女はやるせなさを感じずにいられなかった。

「少し休んでいたほうがいいわ・・どうしたらいいのかを決めるまで、時間がないわけじゃないから・・」

「リリィさん・・ありがとうございます・・・」

「でもどうすることが自分が納得できることなのかの判断を間違わないようにね・・取り返しがつかなくなるところまで行って、後悔することがないように・・」

「分かっています・・ジンを放っておくことができない・・それが今の私です・・・」

 リリィからの励ましと忠告を受けて、カナも真剣な表情を見せて頷いた。後悔しないように肝に銘じながらも、カナはジンを助けていくという決意をさらに強めていた。

 

 ヴァルキリーの本格的な行動を受けて、ジンは彼らへの、特にバーンへの憎悪を募らせていた。だがジンはまだ、戦うことへの揺らぎを抱えたままだった。

(オレはどうしたら納得できる?・・オレが何をしたら、ミナとミリィは受け入れてくれるだろうか・・・?)

 バーンに攻撃を仕掛けることとミナとミリィの気持ちの板挟みにされて、ジンは苦悩を深めていた。

(ミナ、ミリィ・・お前たちが今望んでいることは、いったい何なんだ・・・!?

 心の中で呼びかけるジンだが、ミナもミリィも答えるはずもなかった。

(今まで戦争を憎んで、それらを叩き潰すために戦ってきたはずなのに・・戦うことに嫌気がさしてきている・・後悔することはないと思っていたのに・・・)

 押し寄せてくる迷いを振り切ろうと、ジンが首を横に振る。だが払おうとすればするほど、ジンの中にある迷いは膨らむばかりだった。

(ミナ・・ミリィ・・・オレは・・オレは・・・!)

 2人への思いに囚われたまま、ジンはベッドに横たわって突っ伏した。自分の意思を確立させようとするあまり、彼は無意識に現実から目をそむけてしまっていた。

 

 地球連合の壊滅的被害は、リードさえも慌ただしくさせていた。いつどこからヴァルキリーが襲撃を仕掛けてきても対処できるよう、各部隊入念に警戒を行っていた。

 その最中、ソワレはゼロをじっと見つめていた。自分とゼロが今のヴァルキリーを相手にどこまで戦えるか、彼は考えを巡らせていた。

「やっぱりアルバさんとリリィさんに協力をあおったら?・・といっても、ソワレくんは聞かないのよね・・」

 マリアがソワレに声をかけて、彼と同じようにゼロを見上げる。

「もしも2人の力を借りなかったから負けたってことになったらどうするの?」

「アルバは僕たちの敵です。敵の力を借りて勝つぐらいなら、1人で戦って負けたほうが・・」

「甘えたこと言わないで。自分だけの戦いならともかく、私たちがしているのは戦争。オメガ全員の生命を左右しているのよ。戦争に負けないためなら、時に屈辱的なことでも受け入れなくてはいけないのよ・・」

「甘えではありませんよ。たとえ世界の人々の生命が守られても、心や魂は死んだことになって抹消されてしまうのです・・アルバの協力を受けることは、死ぬよりもやってはいけないことなんです・・」

 マリアの呼びかけを聞き入れようとせず、ソワレは自分の意思に頑なになっていた。

「お前たち、やはりここにいたか・・・」

 そのソワレとマリアにガルが声をかけてきた。

「今の我々にとって、ゼロが最大にして最後の砦だ。だが状況によっては、かつて敵だった者の力を借りることもやむを得なくなる・・」

「艦長まで・・・」

「どうしても意固地でいるというならば、せめて最後の手段として、頭の奥にしまっておけ。その手段、使わずに済めばいいと言い聞かせておくことだ・・」

 困惑を見せるソワレに忠告を投げかけて、ガルは2人の前から去っていった。

「最後の手段・・本当に、それを使わないのが1番ですね・・・」

 ソワレが皮肉を込めて呟く。彼はアルバに対する感情を抑えられなくなっていた。

 

 ヴァルキリーがチェスターを撃墜してから1日がたった。それからヴァルキリーは目立った動きを見せておらず、その居場所をつかめなくなっていた。

 そんな中、旧人類の上層部が緊急議会を行っていた。驚異的な戦力を発揮するヴァルキリーに、議員たちは声を荒げずにはいられなかった。

「ヤツらの戦闘力は非常に厄介だ!早急に手を打つ必要がある!」

「しかし総合基地を壊滅させられ、チェスターが落とされた・・我々にもはや抵抗の術がない・・」

「いっそのこと、降伏したほうがいいのでは・・・?」

 議員たちが不安と感情を込めた議論を交わしていく。

「なぜヤツらに屈する必要がある?断固としてヤツらの戯言に反対していく!」

 その彼らに檄を飛ばしたのは議長だった。

「我々はヤツらの要求や介入、全ての行動を拒否する!それこそが我々が果たすべき使命であり、世界が望んでいること!」

「本当にそう思っているのか?」

 言い放つ議長に向けて言葉が返ってきた。次の瞬間、会議場の天井が突然そぎ落とされた。

「何っ!?

 声を荒げる議員たち。天井がそぎ落とされたことで青空が広がり、強い風が巻き起こる。

 その空に浮上していた機影。バーンの乗るヴァルカスだった。

「ヴァルキリー、なぜここが!?

「お前たちは我々の手の中で踊らされるだけの存在でしかないというのに・・世界や人々のためと言っておきながら、それらを建前にして自分たちの思い通りにしようとしか考えていない・・」

 議長が声を荒げ、バーンが冷淡に語りかけていく。

「バカを言うな!我々は本当に世界のためを思って・・!」

 議員の1人が反論しようとしたが、ヴァルカスのビームライフルから放たれた光に巻き込まれて消えた。

「現実を見ろ。今や世界は自分勝手なお前たちに何の期待も抱かず、本当に世界のために尽力する者たちに感情移入している。戦争と苦しみを振りまいているお前たちではなく、お前たちのような存在を駆逐している我々こそが、世界のために行動している・・」

「現実が見えていないのは貴様たちのほうだ!その傍若無人な行動が世界を狂わせていることすらも理解できない・・!」

 低く告げるバーンの言葉に反発する議長だが、ビームブレイドを発したヴァルカスの右足に蹴られて吹き飛ばされた。

「言葉を交わしてもわずかも理解しない。聞く耳すら持とうとしない。それが自分の愚かさであるとも、お前たちは気付こうともしない・・まさに愚の骨頂だな・・」

 バーンがさらに冷淡に言葉を投げかける。自分たちの覇気を完全に打ち砕かれて、他の議員たちが絶望して震える。

「や、やめてくれ・・助けてくれ・・・!」

「もう君たちの要求を受け入れるから・・殺さないでくれ・・・!」

 議員たちが恐怖に駆られて、バーンに助けを請う。しかしヴァルカスが攻撃態勢を崩さない。

「お前たちは大罪を犯している・・死でしか償うことができないほどの大罪を・・」

「やめろ!やめてくれ!うわあっ!」

 バーンの動かすヴァルカスのビームライフルの射撃で、悲鳴を上げる議員たちが吹き飛ばされた。

「まずい!逃げろ!」

 残りの議員たちが逃げ出そうとするが、ヴァルカスが連続で放ったビームの爆発に巻き込まれた。議員たちが会議場ごと一掃されることになった。

「破滅以外に、お前たちが辿る末路はない・・」

 バーンが冷淡に告げて、ヴァルカスが会議場から去っていった。

 ヴァルキリーの攻撃はこれだけではなかった。他の会議場や重要施設が、レイアたちヴァルキリーの攻撃を受けた。連合軍が迎撃に出たが、太刀打ちできずに撃墜され、全滅を被った。

 地球連合だけでなく、リードにも攻撃の余波が及んでいた。

 ヴァルキリーの行動で世界が混乱し、人々にさらなる不安を植えつけていた。だがその中で、ヴァルキリーの行動を賛美する声が増えてきていた。

 戦争を繰り返して世界と人々を脅かしてきた地球連合とリード。その両者が壊滅へと追い込まれていることを喜ぶ人もいた。

 賛否が飛び交う中、ヴァルキリーを食い止める手段を誰も見出せないでいた。

 

 行動も練習も行わずにベッドにふさぎ込んでいたジン。横たわっている彼のいる医務室に、カナがやってきた。

「ジン・・ずっと医務室にいて、大丈夫なの・・・?」

 カナが心配の声をかけるが、ジンは何も答えない。

「ジン・・私、ゼビルたちと向き合っていこうと思う・・戦うことになる・・敵わないことは分かっているけど・・・」

 カナがジンに向けて、自分の気持ちを打ち明けていく。

「これは私自身で決めて、貫こうとしていること・・リリィさんたちの仲間になるつもりはないよ・・みんな親切でたくましいんだけどね・・」

 苦笑いを浮かべつつも、カナが真剣に語りかけていく。

「ジン・・ジンはこれからどうしていくつもりなの?・・戦っていくの?戦わないの・・?」

 カナが問いかけるが、それもジンは答えようとしない。

「もしかしたら、私がこれからもブレイズに乗ることになるかもしれない・・そのときは、ゴメン・・・」

 カナがジンに沈痛さを込めた言葉を投げかけてから、彼の隣のベッドに腰掛けた。

「ちょっとだけいさせて・・邪魔だったら、すぐに出てくから・・そういうまで、私の気持ちが切り替わるまで・・・」

 カナは囁くように言って、ジンを見つめる。彼女の心配と決意をよそに、ジンは自分だけで考えを巡らせていた。

 

 旧人類だけでなく、オメガの地球上施設をもヴァルキリーに攻撃され、リードの警戒心は頂点に達していた。

 リード上層部はヴァルキリーの攻撃行動を阻止するため、部隊を送ることを検討した。その先陣としてガルたちとクレストが選ばれた。

「とうとうこのときが来たか・・そのために準備を進めてきたのではあるが・・」

 クレストの作戦室で呟くガル。彼や他のクルーたちのいる作戦室に、ソワレとマリアがやってきた。

「出撃となりましたか、艦長・・」

「あぁ・・だが我々が接触する前に、ヴァルキリーが他の部隊や施設を襲撃しなければいいのだが・・」

 ソワレがかけた声にガルが答える。誰もが緊張と不安を感じていた。

「その前に止めるしかない・・行きましょう・・」

 マリアの呼びかけにガルたちが頷いた。彼らが発進の準備に入る。

「クレスト、これより発進する!」

 ガルの指示を受けて、クレストがリード地球基地を発進した。

 

 

次回予告

 

ヴァルキリーの次の標的。

地球上に点在するリード基地だった。

過激化する地球上でのヴァルキリーの戦い。

新たなる戦況に、ソワレとアルバは・・・?

 

次回・「虚無と未来」

 

 

作品集

 

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