GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-30「軍の雷鳴」
地球連合総合基地の壊滅を耳にして、リードにも動揺の色が深まっていた。ソワレもマリアも込み上げてくる感情を抑えるのに必死だった。
「他にも高い性能のMSを保持していたとは・・ますます厄介なことになったわね・・」
「あの紅い機体だけでなく、他にも3機・・これではゼロだけでは・・・」
勝機を見出せなくなり、マリアもソワレも不安と緊張を膨らませていた。
「ですがだからといって、彼らの行動を見過ごすことはできません・・何か策を練らないと・・・」
「しかし、我々の最有力がゼロだけではな・・」
打開の糸口を探るソワレに向けて、ガルが声をかけてきた。
「性能や武力の面において対抗できるのはゼロだけだ。それ以外ではその面で劣ってしまう・・」
「ルナでも、今のヴァルキリーには対抗できないというんですか?」
説明するガルに、マリアが疑問を投げかけてくる。マリアは自分がヴァルキリーに劣っていることを認めたくなかった。
「リードに限らず、他の機体も含めれば、ヴァルキリーに対抗できるMSが1機ある・・それは・・」
「フューチャー・・ですか・・・?」
ガルの言葉を聞いて、ソワレが目つきを鋭くする。
「ソワレ、フューチャーやアルバ・メモリアを認めたくない気持ちは、私も気付いている・・だが状況は状況だ。こだわっていられる状況でもなくなってきている・・」
「ですが、敵であるアルバが、僕たちに協力する確証はありません。それに彼らが力を貸してくれるとも限りません・・」
「そうか・・そうだな・・最後の切り札にような扱いになるが、頼らないといけなくなることも考慮しておいたほうが・・」
「敵である者の存在の力を借りるわけにはいきません。どのような影響が出るか分かりませんし・・」
ガルに呼びかけられても、ソワレはアルバの力を借りることを拒絶する。頑ななソワレの考えに対して、マリアは肩を落としていた。
「アルバさんはどうかよく分からないけど、リリィさんなら分かり合えると思うのだけれど・・」
「マリアさんまで・・アルバのために世界がどれほど混乱に陥ったのか、忘れたわけではないでしょう・・・」
マリアの言葉にも滅入って、ソワレが頭を抱える。
「とにかく、ヴァルキリーの襲撃に備えます・・僕が全力を尽くします・・」
ソワレはガルにそう告げると、感情を抑えられないまま立ち去っていった。
「ソワレくん、そういうところでガンコなんですから・・・」
「だがそのような意固地なところが、限界以上の力を発揮するきっかけにもなる・・フューチャーとともに、その点にかすかな希望を持つことにしよう・・」
ガルが口にした言葉に、マリアは小さく頷いた。
地球連合総合基地を壊滅させたヴァルキリー。ヴァルキリアは場所を移動し、束の間の休息と整備を行っていた。
自ら戦果を挙げたことに、ユウは未だに戸惑いを感じていた。
「本当に・・僕がやったんだ・・ホントに僕が、この手で・・・」
「よくやったな、ユウ・・・」
ユウに声をかけてきたのはマートンだった。マークも一緒だった。
「今でも夢を見てるみたいだよ・・ユウが敵をやっつけたなんて・・」
「マートンさん・・マーク・・ホントに、僕がやったんですね・・・」
マークが喜びを見せると、ユウは自分の力が本物であることを自覚した。
「いつまで寝ぼけてんだよ・・お前の腕は本物になったってことだ、ユウ・・」
マートンがユウの肩に手を乗せてきた。ユウが笑顔を取り戻して、大きく頷いた。
「今のうちに整備とチェックを済ませるようにとの、上からのお達しだ。ユウもチェックを怠るなよ。」
「マートンさん・・はい!」
マートンに呼びかけられて、ユウがマークと一緒に機体のチェックに向かうのだった。
その頃、レイア、バーン、ゼビルは休息を取りながら、世界の動きを把握しようとしていた。
「地球連合の他の部隊だけでなく、リードも慌ただしい様子を見せてきていますね。我々の真の力を目の当たりにして、焦りの色を隠せなくなったということでしょうか・・?」
「我々を侮っていたところがあると、今になって思い知ったのだろうな・・」
ゼビルが自信を口にして、レイアも不敵な笑みを浮かべた。
「しかし、未だにジン・シマバラとカナ・カーティア、フューチャーの行方は分かっていません・・性能の面では我々が有利ですが、ヤツらが不意を狙ってこないとも限りませんし・・」
バーンがジンたちへの警戒を強めていく。彼はジンたちを逃がしたことを後悔しつつ、彼らへの憎悪を胸に秘めていた。
「ヤツらにも注意を払うことにするが、我々には他にやるべきことがある・・」
「分かっています・・地球連合だけでなく、リードも我らが打ち倒すべき敵対勢力ですので・・」
レイアの言葉にバーンが頷く。ゼビルも自分たちの敵勢を倒す決意をさらに強めていた。
「ユウも我々の力になっていますが、まだ迷いが見られます。それが致命的にならなければいいのですが・・・」
ゼビルが懸念を口にしたときだった。ヴァルキリアのレーダーが接近する熱源を捉えた。
「戦艦だな・・アン、アイナ、詳細を報告せよ。」
“地球連合、チェスターです!”
レイアの声にアンが答える。チェスターがヴァルキリアを追跡してきていた。
「やはり追撃に出てきましたか・・この行為が無謀ということも分からずに・・・」
「地球連合の残党など敵ではないが、いつまでも追いかけまわされるのもいい気がしない・・殲滅に出る・・」
ゼビルとレイアが言いかけて、バーンとともに戦いに備えた。
ヴァルキリアの姿を、チェスターの指令室のモニターが映し出していた。
「とうとう姿を捉えましたね・・向こうもこちらに気付いていると見て間違いないでしょう・・」
マアムが呟いて、ギルドをはじめとしたクルーたちに目を向けた。
「もう後戻りはできません・・覚悟を決めてください・・」
「何の覚悟ですか、大佐?我々は死ぬつもりは全くありません。ヤツらを倒し、生きて戻ってきますよ・・」
真剣な表情で呼びかけるマアムに、ギルドが不敵な笑みを見せて言葉を返す。一瞬彼の態度に呆れるが、マアムは指示を出した。
「第一級戦闘配備。パイロットは全員出撃してください。」
「了解!」
ギルドたちパイロットが走り出し、ソルディンへと乗り込んでいった。専用のソルディン02に乗り込んだギルドに向けて、マアムからの通信が入る。
“ギルド少佐、先ほど言った通り、決してアレは使わないように・・”
「使わないで済む状況になることを祈っていてください、大佐・・」
不敵に答えて、ギルドがマアムとの通信を終える。
「ギルド・バイザー、ソルディン、発進する!」
ギルドの掛け声とともに、ソルディンが発進する。他のソルディンも続々とチェスターから発進していった。
チェスターを迎え撃つため、バーンたちはそれぞれのMSに乗り込んでいく。リヴァイバーに乗り込もうとしていたユウが、マートンとマークに目を向ける。
「今度も頼むぞ、ユウ。リヴァイバーは念入りに整備とチェックをしたんだからな・・」
「今回も応援させてもらうよ・・頑張って、ユウ・・」
2人から励ましの言葉を受けて、ユウは笑みを見せて頷いた。彼は改めてリヴァイバーに乗り込んだ。
「ユウ・フォクシー、リヴァイバー、行きます!」
ユウの乗るリヴァイバーがヴァルキリアから発進していった。
「レイア・バルキー、グレイヴ、出撃する!」
「バーン・アレス、ヴァルカス、発進する!」
「ゼビル・クローズ、カース、発進する!」
レイアのグレイヴ、バーンのヴァルカス、ゼビルのカースもヴァルキリアから出撃していった。
「MSは我々が相手をする。ユウ、お前はチェスターを落とせ。」
「レイア様・・僕が・・・シヴァで、ですか・・・」
レイアの指示を受けて、ユウが一瞬戸惑いを覚える。だが彼はすぐに真剣な表情を見せる。
「分かりました・・援護をお願いします!」
「あぁ・・バーン、ゼビル、行くぞ。」
声をかけるユウと、バーンとゼビルに呼びかけるレイア。グレイヴ、ヴァルカス、カースがチェスターに向かっていく。
その彼らに向かって、ソルディンたちが迫ってきた。
「あの機体が、あの小僧がいない・・どこに行ったというんだ・・・!?」
ギルドが周囲を見回して、ブレイズ、ジンを探す。彼らもブレイズもヴァルキリアにいないことを知らずに。
「だったら引きずり出してやる・・何をしてもムダだと分からせてな!」
ギルドのソルディンが先陣を切り、引き抜いたビームサーベルをカースに振りかざした。だがカースもビームサーベルを出して、ソルディンの一閃を防いだ。
「今さらその程度の機体で太刀打ちできるはずがないだろう・・」
ギルドが冷淡に告げて、カースがソルディンに競り勝って突き飛ばす。続けてビームブーメランを投げつけるカースだが、ソルディンにビームサーベルが弾き飛ばされる。
「性能の高さで強さが決まるなら、戦闘もかなり単純になるな・・」
ギルドがヴァルキリーに対して皮肉を口にする。だが彼以外が一進一退の攻防をしているわけではなかった。
ヴァルカスがビームライフルとビームサーベルを巧みに使って、ソルディンを次々に撃墜させていく。
グレイヴがビームソード「クレイモア」を手にして、ソルディンをなぎ払っていく。クレイモアは柄がビームサーベルよりも大きく、刃となるビームがさらに大きいものとなっていた。
「なんて速さと破壊力だ・・・!」
「一振りで数機が・・こんなのに勝てるわけ・・・!」
ソルディンのパイロットたちが新たなるヴァルキリーの戦闘力に恐怖を覚えていく。
「何を怯んでいる、お前たち!?」
そこへギルドからの声が飛び込んできた。その呼び声にパイロットたちが刺激を受ける。
「敵が強いとか敗北とか、そのようなことで戦う意欲をなくすくらいなら、最初から戦場に出てくるな!」
「ギルド大佐・・すみませんでした!」
ギルドから檄を飛ばされて、パイロットたちが謝意を見せる。
「どうしても勝てると思えないなら、すぐに尻尾巻いて逃げちまえ!勝てる自信のあるヤツだけついてこい!」
ギルドがさらに呼びかけ、彼の乗るソルディンがカースに立ち向かう。
「ヤツらは我々3人に注意を向けている・・ユウ、今のうちに・・」
思惑通りと思った直後、レイアが笑みを消した。リヴァイバーにもソルディンが攻撃を仕掛けてきていた。
「これじゃ、シヴァを撃てない・・!」
エネルギーを集めるも砲撃の狙いを定められず、ユウのリヴァイバーはソルディンの攻撃をかわす一方となっていた。
「総合基地がシヴァでやられたことを頭に入れて、撃たせないつもりか・・少しは知恵を働かせているようだな・・」
ユウが砲撃を放てないにもかかわらず、レイアは笑みを消していなかった。
「レイブラスター、起動。MSを撃破します。」
マアムの指示により、チェスターが陽電子砲の発射体勢に入る。
「たとえそのようなものを使っても、我々にはもはや通用しない。」
バーンが淡々と告げて、ヴァルカスが2本のビームサーベルを組み合わせる。ビームソードと呼べるほどの巨大な刃を手にして、ヴァルカスが構える。
「発射!」
チェスターがヴァルカスたちに向けてレイブラスターを発射した。するとヴァルカスがビームソードを振り下ろしてきた。
ヴァルカスの一閃が陽電子砲の巨大なビームを切り裂いた。
「レイブラスターを切り裂いた!?」
ソルディンのパイロットが驚きの声を上げる。次の瞬間、ヴァルカスがさらに振りかざしてきたビームソードにソルディンたちがなぎ払われた。
「くそっ!・・これ以上勝手にさせてたまるか!」
ギルドがいきり立ち、彼の乗るソルディンがヴァルカスに向かっていく。ソルディンがビームサーベルを振りかざすが、ヴァルカスはビームソードで軽々と受け止めた。
だが2つの光刃の衝突が、ギルドとバーンのシンクロをもたらした。
「ほう?ジン・シマバラに執着しているのか・・だが私には関係のないことだ・・」
バーンは冷淡に告げて、ヴァルカスがソルディンを突き飛ばす。バーンにはスバルとしての自覚がなかった。
「お前の都合に合わせるつもりはない。ましてや、自己満足な意欲などもってのほか・・」
バーンは冷淡に呟き、ヴァルカスがソルディンにビームソードを振りかざす。この一閃をかわしたソルディンだが、ヴァルカスが左手で射撃したビームライフルのビームに右足を破壊された。
「ぐっ!・・威力が高いだけでなく、反応もいいというのか・・・!」
毒づくギルドがヴァルカスへの憤りを感じていく。
「いつまでも調子に乗るな、お前たち・・お前たちのような大罪人が、世界を思い通りにできると思っているのか!?」
ギルドが激高し、ソルディンがヴァルカスに向かっていく。ヴァルカスはビームソードを2本のビームサーベルに戻して、ソルディンを迎え撃つ。
スピードを伴ってぶつかり合うソルディンとヴァルカス。だがヴァルカスのほうが1枚も2枚もスピードが上だった。
ヴァルカスの速い一閃が、ソルディンの左腕を切り裂いた。
「何をしてもムダだ。お前たちは勝つことも逃げることもできない。」
「お前たちにそれを決めることはできない!」
冷徹に告げるバーンにギルドが言い返す。傷ついたソルディンが、強引にヴァルカスにビームサーベルを突き立てようとする。
だがヴァルカスが右足を振りかざし、ビームブレイドでソルディンの右腕をも切り裂いた。
「まだだ!まだオレの攻撃は終わっていないぞ!」
ギルドが声を振り絞り、ソルディンがヴァルカスに突進する。するとギルドがソルディンのコックピットのハッチを開き、持っていた爆弾をヴァルカスに向けて放り投げた。
すぐにソルディンのハッチを閉じて、爆発に巻き込まれないようにするギルド。ヴァルカスに投げ込まれた爆弾が爆発し、ソルディンが爆風に押されて落下していった。
爆弾の爆発に巻き込まれたヴァルカスだが、機体には傷ひとつついていなかった。
「そんなもので倒せるはずがないだろう・・結局は姑息な手段にしかならないということだ・・」
落下していくソルディンを見下ろしてから、バーンは戦いに意識を戻した。
「そんな・・バイザー少佐まで・・・!?」
チェスターにいるオペレーターたちが目を疑っていた。ソルディンやチェスターがヴァルキリーに全く歯が立っていない。
「あの機体の遠距離砲撃に警戒しつつ、他の機体をおびき寄せて迎撃します。」
マアムが冷静さを保って、クルーたちに呼びかけた。
「危険です、大佐!ヤツらのMSの武装の破壊力は計り知れません!それを距離を縮めて攻撃するなんて・・!」
「やらなければ私たちは犬死にするだけです!あの性能、あの威力、全てを私たちを上回っています!この劣勢を打破するためには、これしか手段が・・!」
不安を見せるクルーたちに、マアムが檄を飛ばす。
「もう1機、ビーム砲の発射体勢に・・!」
そのとき、クルーの1人が声を上げた。マアムが目を向けたモニターには、ラグナログを発射してきたグレイヴの姿があった。
「ビーム砲を放てる機体が、もう1機・・!」
目を見開くマアム。回避行動も間に合わず、チェスターの艦体がラグナログのビームに貫かれた。
次回予告
絶対的優位に立ったヴァルキリーの脅威。
裏切った勢力に対し、ジンの心が揺れる。
何をするのが納得できることなのか。
泥沼に溺れる彼を支えるものとは?