GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-27「未来の邂逅と喪失」

 

 

 カナとジンの乗るブレイズを救ったのは、アルバの乗るフューチャーだった。アルバの指示を受けて、カナはブレイズは提示された地点に向かわせた。

「アイツの言葉を信じるな・・アイツも、オレの全てを壊した敵だ・・・!」

 ジンが声を振り絞って、カナに呼びかける。しかしカナは進行方向を変えない。

「敵だったら私たちを助けたりしない・・仮にホントに敵で、私たちを騙そうとしていたとしても、今は言うとおりにするしかないよ・・!」

「アイツの言葉を受け入れれば、オレはオレの全てを否定することになる・・そんなことは絶対に・・・!」

「あのまま残って戦っても死ぬだけだよ!」

 拒絶の意思を示すジンに対し、カナが悲痛の叫びをあげる。彼女の声を耳にして、ジンが言葉を詰まらせる。

「死んだら戦うことも怒ることも、受け入れるのを拒絶することもできなくなる・・私だったら耐えられない・・ううん、ジンのほうがもっと我慢できないと思う・・・!」

「分かったような・・・分かったようなこと・・・!」

 カナに言い返そうとするジンだが、意識を保てなくなって彼女に寄りかかった。

「ジン!・・・ホントに急がないと・・・!」

 カナが焦る気持ちを胸に秘めて、ブレイズのスピードをできる限り上げた。

 

 ヴァルカスたちの前に立ちはだかったフューチャー。ヴァルカスがビームサーベルを破壊されたが、フューチャーにグレイヴ、カース、リヴァイバーが立ち向かおうとしていた。

「フューチャー、アルバ・メモリア・・お前のことは聞いている。いや、MSのパイロットとして戦っている者で、知らないほうがむしろ少ないくらいだ・・・」

「だがいくらフューチャーでも、ヴァルキリーの最新鋭のMS4機を相手にして勝ち目があるとは到底思えない・・」

 レイアとゼビルがアルバに向けて言いかける。しかしアルバは彼らに臆する様子を見せない。

「どんな相手にも屈せずに立ち向かう雄姿は褒めておこう。だが今のお前の行動は勇気ではなく、自殺志願だ。」

 レイアがアルバに向けて言い放ち、グレイヴがフューチャーに向けて、ビーム砲「ラグナログ」を放つ。ラグナログは腰と両肩にある4つの砲門から放たれるビームを1つに集束させて相手にぶつけるビーム砲である。

 だがフューチャーは素早く動いてビームを回避する。エネルギーを集めて強力な砲撃を放つ相手との戦闘を、アルバは深く心に刻みつけていた。

「やはりスピードで攻めるしかないか・・・!」

 ゼビルが毒づき、カースがビームサーベルを手にしてフューチャーに飛びかかる。フューチャーがエクスカリバーでカースのビームサーベルを受け止める。

「甘い!」

 ゼビルが言い放ち、カースが右足からビームブレイドを発して振りかざす。左腕からビームシールドを発してビームブレイドを受け止めるも、フューチャーが突き飛ばされて体制を崩される。

「今だ、ユウ!撃て!」

 ゼビルの呼び声に突き動かされるユウ。リヴァイバーがレールガンを構える。だがアルバは即座に反応し、リヴァイバーに向けてビームブーメランを投げつける。

「えっ!?

 予測していなかったことにユウが驚きの声を上げる。レールガンをビームブーメランに切り付けられて、逆にリヴァイバーが大勢を崩された。

(そろそろ切り上げないと・・こっちが不利であることに変わりはないからな・・・)

 ジンとカナの無事を見据えるアルバ。体勢を整えたフューチャーが、一気にスピードを上げてヴァルカスたちの前から離れていった。

「逃がさないぞ、フューチャー・・・!」

 バーンが目つきを鋭くして、胸部からビームを放とうとする。だがフューチャーとの距離が離れすぎていて、発射することができなかった。

「まさかフューチャーが現れて、しかも逃げられるとは・・・!」

 ブレイズにもフューチャーにも逃げられたことに、バーンは憤りを感じていた。

「やむを得ないが、ここは全機撤退だ・・」

 レイアが歯がゆさを感じながら、バーンたちに指示を出す。

「レイア様、このままではブレイズに逃げられ、我々に関する情報が外部にもれることに・・・!」

「ブレイズがかくまわれることになるのは、同じく連合にもリードにも属さないフューチャー。ヤツらがもたらす情報を、連合やリードが信じるものか・・」

 声を荒げるバーンだが、レイアは焦りを押し殺して返答する。反論の言葉もブレイズとフューチャーを止める手段も浮かばず、バーンは押し黙るしかなかった。

「引き上げるぞ。体勢を整える・・」

「了解・・・」

 レイアの命令にバーンが渋々従う。

「ユウ、戻るぞ・・」

 ゼビルが呼びかけるが、ユウは困惑を抱えたままだった。

「ブレイズとフューチャーを仕留められなかったが、ヤツらを敵視することは間違っていない。ヤツらは世界を混迷に導こうとする敵と裏切り者なのだから・・」

「ゼビル・・でも、僕は・・・」

「世界に平和を取り戻すことがお前の願いだったはず・・そのための力を望み、そしてこうして手にした今、自ら戦わなければならないことはお前自身が1番よく分かっているはずだ・・」

 ゼビルが投げかけた言葉を聞いて、ユウは自分自身の決意を思い返す。彼は平和のために戦い、自分もその戦場に身を投じたのだと自分に言い聞かせていく。

「今は戻るぞ・・こんなところで長居しているわけにはいかない・・」

「うん・・・」

 ゼビルの呼びかけにユウが頷く。ヴァルキリーのMSが1度地下施設へと戻っていった。

 

 アルバが示した場所に向かっていくカナとジン。バーンたちが追跡してくる気配が感じられず、カナは緊張を和らげていた。

「この辺りだけど・・ここに何が・・・?」

 周辺を確かめていくカナ。だがそこは点々と小さな島が並んでいて、それ以外は海が広がっていた。

 迷って動けずにいたカナ。彼女とジンの乗るブレイズに、ヴァルカスたちとの交戦から離脱してきたフューチャーが追い付いてきた。

「まだここにいたか・・リリィが迎えに出ているはずだが・・・」

 不満を口にして、アルバが通信回線を開く。

「リリィ、何をやっているんだ?途方に暮れているじゃないか・・」

“ゴメン・・乗ったソルディンの調子が悪くなって、出られなくなっちゃって・・・”

 アルバが苦言を呈すると、謝意を込めた言葉が返ってくる。

「すぐにそっちに行く。それと負傷したMSを1機収容する。」

“MS?・・この識別コード、もしかして・・・”

「あぁ・・ヴァルキリー。それも裏切りによる同士討ちで負傷している・・・」

 アルバの説明を聞いて、通信の相手、リリィ・クラウディが戸惑いを感じた。

 

 フューチャーの介入でブレイズ追撃に失敗したバーンたち。地下施設に戻ったバーンは、憤りを押し殺していた。

「まさかあそこでフューチャーが現れるとは・・そのためにブレイズを取り逃がしてしまった・・・」

「あまり自分を責めないでください、レイアさん・・フューチャーの妨害は、私も予想できませんでしたので・・」

 歯がゆさを見せるレイアに、ジャッカルが弁解を入れる。

「それにカナが裏切ることも・・・」

「みなまで言うな。私とて不快に感じていないわけではない・・」

 レイアが声を上げて、ジャッカルの言葉をさえぎる。カナの裏切りとジンとの逃亡、アルバの介入に彼女は憤りを感じていた。

「だが我々ヴァルキリーの使命と勝利が揺らぐことはない。たとえフューチャーが敵として立ちはだかろうとも、ヴァルキリーの最新鋭のMSには太刀打ちできない・・」

 レイアはすぐに自信と笑みを取り戻す。

「すぐに編成を立て直す。ジャッカル、苦労を掛ける・・」

「いえ、全てはこの世界を正しい形にするため。そのために戦うことが、我々のすべきことなのですから・・」

 レイアの呼びかけにジャッカルが答える。

「結果的にジンという歯止めはなくなった。バーンは彼とカナ・カーティア、ブレイズの代わりにヴァルキリアに乗艦することになるだろう・・」

「現状、我々は混乱の中にいます。それを打破するためにはやむを得ないかもしれませんね・・」

 レイアが告げた考えを受け入れるジャッカル。

「体勢を整え次第、ヴァルキリアは発進。今度こそ地球連合とリード、双方の中枢を叩く・・」

「一気に大胆になりましたね。これだけの戦力があれば、真っ向勝負をしても問題はさほどないでしょうが・・」

 レイアの指示を受けて、ジャッカルが皮肉を口にする。レイアは彼の言葉を気にせずに、この場から歩き出していった。

 

 海上に点在している小さな島。谷のような形をした岩場の隙間に、フューチャーがブレイズを連れて降下してくる。

 その道の真ん中には人工的な出入り口、ハッチがあり、2機を迎えるように開放されていた。

 フューチャーがそのハッチへと入っていく。ジンが警戒を向けてきているが、カナはアルバにそのままついていくことにした。

 ハッチの奥にある地下倉庫に降り立ったフューチャーとブレイズ。その隣で待機していたソルディンから、リリィが降りてきた。

「ゴメン、アルバ・・結局発進できなかった・・」

「いや、そのほうがよかったかもしれない・・相手は高い性能を備えた機体ばかりだった。フューチャーでも1機ではあの数を相手にはできなかった・・」

 謝るリリィにアルバが弁解する。ブレイズが出てきたカナとジンが、なだれ込むように2人のそばに倒れてきた。

「急いで傷の手当てをしたほうがいい・・ミル、2人を頼む・・」

「りょーかーい♪すぐにつれていき・・う、うわあっ!」

 アルバの呼び声を受けて、1人の少女が走り込んできた。が、足をつまづいて転んでしまう。

「あたたたた・・痛いよ〜・・」

「痛い思いをしているのは2人のほうだ・・早くしてくれ、ミル・・」

 痛がる少女、ミルに苦言を呈するアルバ。唖然となっているカナと警戒の眼差しを向けているジンの前に、ミルがやってくる。

「ここでオペレーターと看護をやっています、ミル・ミルキーです♪よろしくね♪」

「う、うん・・・こんなのが、看護・・・」

 無邪気に明るく挨拶をしてくるミルに、カナはどう対応したらいいのか分からなくなっていた。

 

 何をされるか分からないと不安になっていたカナだったが、ミルの治療は的確だった。カナは安心してベッドに横たわることができた。

 ジンは心身ともに疲れ果ててしまい、眠りについたまま意識が戻っていない。ムリに起こすことはないと思い、カナはそっとしておいた。

「あ、目が覚めたみたいね・・よかった・・・」

 部屋に入ってきたミルが、カナに笑顔を見せてきた。

「正直不安だったよ。その調子でちゃんと手当てできるのかって思っちゃって・・・」

「いつもよく言われるんですよね。おかしいなぁ・・」

 苦笑いを見せて言いかけるカナだが、ミルは気にしていない様子だった。

「この人はまだ目が覚めていないようですね・・よっぽど疲れてたってことでしょうね・・・」

 ミルがジンに目を向けて言いかける。ジンは未だにベッドに横たわって眠り続けていた。

「体の調子はいかがですか?その人はいくつか傷があって手当てをしたんですけど、あなたは目立ったケガはなかったみたいだったんで・・」

「私はブレイズを、MSを動かしただけでしたから・・」

 調子を訊ねてくるミルに、カナは自分の気分を確かめてから答えた。

「ところで、ヴァルキリーはどうなっているの?地球連合とリードの動きは?」

 カナが世界の現状についてミルに聞いてきた。

「今のところ、どこも大きな動きはないみたいです。といっても、こっちは少人数ですので情報収集が追い付かないんです・・」

 ミルが困り顔で答えると、カナが沈痛の面持ちを浮かべる。

「今のヴァルキリーは何を仕掛けてくるのか分かんない・・戦力が一気に増したからね・・・」

 カナは不安を膨らませていた。ヴァルカスをはじめとした高性能のMSがそろったヴァルキリーを相手に、まともに交戦できるMSは限られている。

「ブレイズでも全然敵わない・・ジンがブレイズを動かしても、ヴァルカスには敵わなかった・・・あれだけの機体と戦えるのはリードのゼロ・・あとはフューチャー・・・」

「フューチャーとゼロ・・確かにあの2機でしたら、勝てる相手はそうはいないかもしれないですね。以前の戦争では敵対していた2機でしたけど、実力は高いってミルも思います。」

 不安を口にするカナに、ミルが語りかけていく。

「それとあと1機、ものすごいMSがあるんです・・でも調整中で、今はとても使えるものじゃないんです・・」

「1機?・・フューチャーやゼロよりもすごいというの・・・?」

「えっと・・パイロット次第ですね・・それ次第でフューチャーを超えられるってことなんです・・・」

 カナが投げかけた疑問に、ミルが困惑を見せながら答える。

「でもパイロットへの負担がものすごく大きくて、アルバさんでも乗りこなせないんですよ・・」

「フューチャーのパイロットでも乗りこなせないなんて、どんな機体だっていうの・・・!?

 ミルの口にした言葉を鵜呑みにできず、カナは動揺を募らせる一方になっていた。そんな彼女たちのいる部屋に、アルバとリリィがやってきた。

「あなたは目が覚めたようね・・ミル、迷惑かけたりしてないよね?」

「大丈夫ですよ!ミル、迷惑だなんて・・うわっ!」

 声をかけてきたリリィに言い返そうとして、ミルが足をつまずいて倒れてしまう。顔を押さえて痛がるミルに、リリィは呆れていた。

「そっちは眠ったままか・・よほど疲れていたのだろうか・・・」

「いいえ・・多分体よりも、心の傷のほうがひどいと思います・・・」

 ジンに目を向けたアルバの言葉を聞いて、カナが悲しい顔を見せる。だが彼女の話を聞く前に、アルバが口を挟んだ。

「リリィ、ミルと一緒に話を聞いていてくれ・・オレがここにいる・・」

「アルバ・・・分かった・・何かあったら知らせて・・・」

 アルバの呼びかけを聞いて、リリィがカナとミルを連れて部屋を出た。部屋にある椅子に腰かけて、アルバはジンの様子を見届けた。

 

 カナはリリィとミルに連れられて、別の部屋にやってきていた。リリィは部屋のドアを閉めて、外に話がもれないようにする。

「ここなら外には聞こえない。他に聞かれたくないことだったら、私たちだけの秘密にしてもいいよ・・」

「すみません、気を遣ってくれて・・私が知っているだけのことを話します・・・」

 微笑みかけるリリィに、カナは沈痛の面持ちを見せる。

「世界の本当の平和を取り戻すために戦うのが、ヴァルキリーの目的だと思っていました・・でもヴァルキリーも、自分たちの不安要素になるものを平気で切り捨てる部隊だと思い知らされた・・・」

 カナがリリィとミルに、自分たちのことを打ち明けていく。

「でもジンは第一に、ミリィさんを殺されたことを恨んでいる・・平和の世界に戻ろうとしていたミリィさんを躊躇なく手にかけたことが、ジンには我慢できないことになっているんです・・・」

「ジン・・一緒にいた彼のことね・・・」

 ジンのことを口にするカナに、リリィもミルも困惑を募らせていく。

(ジン・・これからヴァルキリーに対して何をしていくつもりなの・・・?)

 心の中でジンに問いかけるカナ。彼女の心境をよそに、ジンは今も眠り続けていた。

 

 

次回予告

 

何のために戦うのか?

どうすることが安らぎにつながるのか?

戦いを繰り広げてきた者と、それを憎む者。

運命の邂逅を果たしたジンとアルバは?

 

次回・「戦う理由」

 

 

作品集

 

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