GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-28「戦う理由」
果てしなく広がる暗闇の中、ジンは1人疾走していた。彼の見据える先にはミリィの姿があった。
「ミリィ・・手を伸ばせ、ミリィ・・!」
ジンが呼びかけて、ミリィに向けて手を伸ばす。するとミリィがゆっくりと振り返ってきた。
「お前が願っていた、戦いのない平和な世界に行くんだろう!?だったら来い、ミリィ!」
声を張り上げて呼びかけるジン。ミリィもジンに向けて手を伸ばしかけた。
だが上から落ちてきた一条の光にミリィがのみ込まれた。目を見開いたジンの前で、ミリィは光の中で姿を消した。
「ミリィ・・・ミリィ!」
絶叫を上げるジンが上を見上げる。その先にはヴァルカスとバーンの姿があった。
「ミリィを・・・お前がミリィを!」
「私を怒るのか?憎むのか?お前も私が今したのと同じことをしたというのに・・・」
怒りをむき出しにするジンに冷淡に言葉を返すと、バーンが仮面を外して、スバルとしての素顔を見せる。
「スバル・・・」
「僕たちを傷つけてフィーの笑顔を奪った君が・・・自分の罪を棚に上げて、自分の怒りをぶつけるだけ・・結局君も、君が憎んでいた人たちと同類ということか・・」
「違う!オレは自分のことしか考えない軍人とは・・!」
「違わないよ・・フィーを傷つけた君を、僕は許さない・・そんな僕さえも悪いと決めつけて、痛めつけようとする・・まさに独裁者だよ・・・」
怒鳴るジンだが、スバルは冷淡に言いかけるだけだった。彼の言葉を頭に中に押し込まれて、ジンが苦悩していく。
「身勝手な人を憎んでいた君も、その身勝手な人と同じだったということだよ・・・」
「違う・・オレを、あんなヤツらと一緒にするな!」
憎悪と侮蔑の言葉をかけるスバルに、ジンが怒号を上げた。
長い時間眠りについていたジンが飛び起きた。部屋を見回して、彼は見知らぬ場所に疑問を抱く。
「ようやく目が覚めたか・・よほど疲れていたようだな・・・」
そんなジンに、そばにいたアルバが声をかけてきた。彼に振り向いて、ジンが警戒の眼差しを向ける。
「お前・・・あの機体、フューチャーに乗っていたのか・・・」
「あぁ・・救難信号をキャッチして、連合でもリードでもない機体同士で追撃戦が行われていたので、介入させてもらった・・・」
ジンが低く言いかけると、アルバが淡々と答えていく。
「カナか・・勝手なことを・・・」
「あの機体、連合でもリードでもない。世界中で戦闘介入しているヴァルキリーのものか?」
いら立ちを見せるジンに、アルバが問いかける。しかしジンは答えようとしない。
「お前と話をしているオレたちも、連合にもリードにも属していない。好き好んで戦いたいとも思っていない。ただ生きたいだけなんだ・・」
「生きたい?そんな単純なことで、戦ってきたというのか、お前たちは・・!?」
自分のことを口にするアルバに、ジンがいら立ちを見せる。だがアルバは顔色を変えない。
「オレはお前たちのようなヤツらを許さない・・自分の身勝手のために戦いを繰り返している連中が、何もかもムチャクチャにしていくんだ・・・!」
「そうだな・・オレたちの戦う理由も、身勝手で自己満足だろうな・・だが結局は何もかもが身勝手なものと解釈できてしまうのかもしれない・・」
声を振り絞るジンに、アルバは淡々と言葉を投げかけていく。
「自分で考え、自分で行動を起こしてきた。そういうのが自己満足でないとは言い切れないのではないのか?」
「ふざけるな!自分たちのために他のものまで巻き込んで!お前たちのような連中のために、ミナも、ミリィも・・・!」
問いかけてくるアルバに怒りを見せつけるジンだが、徐々に悲痛さを痛感していく。彼の脳裏にミナとミリィの死がよぎってくる。
「ミナ・・ミリィ・・・どうして・・・!?」
不条理な現実と仕打ちに憤り、ジンが右手をベッドに叩き付ける。全てを奪っておいてそれらを間違いとも思わないままのうのうとしている連中に、彼は我慢がならなかったのである。
「お前も、大切な人を失ったのか?・・その仇が許せなくて、戦いをしているのか・・?」
アルバが投げかけた言葉が事実であったため、ジンは反論できずに歯がゆさを浮かべるばかりだった。
「オレも・・オレたちも仲間を失った・・この前の戦争の中でな・・・」
アルバが口にした言葉に、ジンが眉をひそめる。
「オレもミリィも、仲間を死なせたヤツらを憎んだこともあった・・だがオレたちは、憎しみよりも仲間の願いを選んだ・・だからオレたちは生きようとしている・・たとえ罪人の烙印を押されることになっても・・・」
「きれいごとを・・そのためにオレたちは、何もかも壊されたんだ・・・!」
「オレたちが憎いのか?・・だがその憎しみを理由に、お前も戦ってきた・・戦うことを自分で選んだ・・」
「そうだ!オレは身勝手な連中を野放しにするつもりはない!連合もリードも叩き潰す!そしてスバルも・・!」
アルバに言い返そうとして、ジンが言葉を詰まらせる。彼の脳裏に、夢の中で投げかけられたスバルの言葉がよぎってくる。
“自分の罪を棚に上げて、自分の怒りをぶつけるだけ・・結局君も、君が憎んでいた人たちと同類ということか・・”
「・・・違う・・・!」
アルバの言葉を否定しようと、ジンが声を振り絞る。
“身勝手な人を憎んでいた君も、その身勝手な人と同じだったということだよ・・・”
「違う!」
思わず声を上げるジン。だが現実に意識が戻り、アルバの顔を見た彼は我に返る。
「・・・オレは戦っても、オレと同じヤツを増やすだけなのか・・・」
自分自身の戦いに虚しさを感じるようになっていたジン。戦いと憎しみの連鎖を知っていたアルバは、これ以上ジンに声をかけようとしなかった。
リリィとミルにこれまでの自分たちの体験を打ち明けたカナ。彼女もこれからどうしていけばいいのか、決められないでいた。
「今、私は戦う理由も目的もなくなっている・・連合ともリードとも、ヴァルキリーとも・・・」
「カナさん・・・そういうときはムリに戦わなくてもいいと思いますよ・・ムリをしてもスッキリしませんし・・・」
悲痛さを浮かべるカナに、ミルが呼びかけていく。さらにリリィもカナに呼びかけていく。
「私たちはその3つのどれにも属していないから・・単純に言っちゃうと半端者になるんだけどね・・」
「リリィさん・・・私、このままここにいてもいいんでしょうか・・・?」
「ヴァルキリーから離れて、連合にもリードにも敵対している・・ここならあなたたちのような人が滞在しても、何の問題もないわ。」
戸惑いを見せるカナに、リリィが笑顔を見せる。
「でもここはホントに人手不足だから、手伝ってくれると助かるんだけどね・・」
「それはもちろんです!私にできることだったら、やらせていただきます!」
「そういってもらえると心強いわ・・でもこき使うってことはないから安心して・・」
「そんな・・私たちは居候みたいになっちゃってるんですから・・・」
呼びかけるリリィに、カナが照れ笑いを見せる。ミルも2人の前で笑顔を絶やさなかった。
「ところでブレイズは・・私たちの機体は・・・?」
カナがリリィたちにブレイズについて訊ねる。
「ここの整備ドックにあるわ。今頃リンさんが興味津々になっているね・・」
「リンさん・・?」
リリィの答えを聞いて、カナがまた疑問符を浮かべる。
「ここのMSの整備と修理をしてくれる人です。でも興味を持ったものにとことん興味を持つとこもあるんです・・」
「えっと・・壊すなんてこと、ないですよね・・・!?」
「さすがにそれはないと思いますよ・・・多分・・・」
不安を口にするカナに対し、ミルも不安を込めて答えた。
整備ドックに収容されたブレイズについて調べている1人の女性。技術開発のエキスパートと呼ばれていたリン・ヒビノである。
「フフフフ、本当に性能に優れた機体ね。総合的にはフューチャーに劣るけど・・」
リンがブレイズを調査して、興味津々になっていた。彼女は開発や技術への関心が強く、引き込まれると冷静さを取り戻すのが難しいと噂されている。
「クラスターシステムの搭載はもちろん、負担を極力下げての高性能の発揮・・開発した人は相当の技術の持ち主ね・・」
「あんまりやりすぎると、カナさんたちに悪いですよ、リンさん・・」
有頂天になっていたところで、リンが声をかけられる。彼女の前にリリィ、カナ、ミルがやってきた。
「あら。お嬢さん、元気になったみたいね。」
「お世話になりました・・でもまだジンは・・私と一緒にいた人はまだ・・・」
悠然とした素振りを見せるリンに、カナが戸惑いを見せながら言いかける。
「このMS、独自のデータと技術が組み込まれているわね。連合ともリードとも違うから・・」
「はい・・私とジンは、ヴァルキリーの一員だったんです・・・」
ブレイズを見つめるリンに、カナが自分たちのことを打ち明けた。
「その君たちが、どうしてヴァルキリーを抜け出して、同じヴァルキリーに追われていたの?もしかして裏切ったの?」
「はい・・でもジンは多分、裏切られたと思っているかもしれないです・・」
「裏切られた?」
「自分と同じ理想を目指していたと思っていたヴァルキリーが、違う理想を求めていて、利用していたことが許せなくて・・・」
リンからの質問に、カナが戸惑いを浮かべながら答えていく。しかしカナはジンの心境をまだ完全に把握していたわけではなかった。
「それでこれからどうしたいの?・・なんて、いろいろありすぎてすぐに答えなんてでないよね・・」
質問を投げかけると見せかけて、リンがカナに気さくに言いかけていく。
「じっくり考えることだね。時間はたっぷりあるんだから・・それとも、ここで働いてみる?人手不足だから大歓迎よ・・」
「はい・・そのことも含めて、考えさせてください・・まだ、気持ちの整理もついてないですから・・」
呼びかけてくるリンに、カナが苦笑いを見せて答えた。
「それじゃ、そろそろ医務室に戻るわよ。彼、もしかしたら目を覚ましているかもしれないし・・」
「はい・・では戻ります・・・」
リリィの呼びかけを受けて、カナは頷く。彼女たち2人が医務室に戻り、リンとミルがその場に残った。
「ホントにヴァルキリーだったんですね、あの2人・・」
「まぁね・・どんなMSや兵器を開発しているのか、興味が湧くわ・・」
明るく言いかけるミルと、またも興味津々となるリン。
「それで、あのヴァルキリーの機体もすごいんですか・・?」
「相当なもんだよ。まぁ、フューチャーには劣っちゃうんだけどね・・」
ミルの問いかけに、リンが気さくに答える。
「でも問題はあの機体・・パワーは最高峰でも、負担があまりにも大きすぎるからね・・・」
立ち並んでいるMSたち。ブレイズやフューチャー、ソルディンの中に1機の機体があった。青と白と赤を基調としたMSである。
リンがミルと一緒にその機体を見つめていた。
医務室に戻ってきたカナとリリィ。そのときにはジンは目を覚ましていて、カナは喜びを覚えた。
「ジン・・・よかった・・目が覚めたんだね・・・」
体を起こしていたジンを見て、カナが笑顔を見せる。しかしジンは憮然とした面持ちを見せていた。
「オレは・・・戦う理由を失ってしまった・・・誰と戦っても、何を倒しても、オレは平和を取り戻せない・・・」
「ジン・・・」
自暴自棄になっていたジンに、カナが困惑を覚える。
「今は休ませたほうがいい・・ヤツは1人で考えて決断していくようだからな・・・」
アルバが呼びかけると、リリィも真剣な面持ちで頷いた。
「カナさん、今日は別の部屋で休みましょう。彼に気持ちの整理をさせないと・・」
「でも、リリィさん・・・」
「あなたもあなたで、まだ落ち着けていないでしょ?話し合うのは明日でもいいでしょ?」
動揺を見せるカナを、リリィが言いとがめる。カナはジンと話し合いたい気持ちを抑えて、やむなくリリィの言葉を聞き入れることとなった。
その頃、ヴァルキリーの地下施設では、次の攻撃に備えた整備と準備が行われていた。
その中でユウは、ジンとカナのことを気にしていた。リヴァイバーのチェックにも集中できず、彼はため息をついていた。
「いつまで辛気臭いため息をついてるつもりだ・・?」
そんなユウにマートンが声をかけてきた。
「オレたちがお前の機体もしっかり整備してやるから、安心して乗りこなせ・・」
「マートンさん・・マートンさんは、ジンとカナのこと、気にしていないんですか・・・?」
呼びかけるマートンに、ユウが深刻な面持ちのままで問いかけてきた。
「確かに僕たちを裏切りましたよ、ジンもカナも・・でも今まで一緒に戦ってきた仲間じゃないですか!」
「そうだな・・だが結果的に2人は裏切った。いつまでも気にしていると、勝てる戦いで死ぬことになるぞ・・」
「ですが・・・!」
「割り切れ・・心構えが中途半端になってると早死にするぞ・・」
反論しようとするもマートンに言いとがめられて、ユウは黙り込んでしまった。
「・・とにかく、自分の目と手でチェックはしておけよ・・自分の乗る機体なんだからな・・」
ユウに注意を促すと、マートンは立ち去っていった。
(・・もしもジンとカナを見つけたら呼びかけよう・・戻ってくるように・・また一緒に戦うように・・・)
心ひそかにひとつの決意をしていたユウ。たとえジンとカナのように裏切り者扱いされたとしても、2人を助けたいのが彼の本音だった。
ヴァルキリアのクルーたちが各々の仕事をしていく中、レイアとバーンは次の戦いを見据えた会話をしていた。
「ブレイズを失ったが、今の我々にはブレイズを超える機体をそろえている。今まで以上の高度な攻撃や戦略を行うことができる・・」
「申し訳ありません、レイア様。ジン・シマバラとカナ・カーティアを取り逃がしてしまいました・・」
現状を口にするレイアに、バーンが頭を下げる。
「気にするな、バーン。ブレイズでは今の我々の戦力には太刀打ちできない。そのことはお前とヴァルカスが証明したではないか・・」
「ですが、フューチャーを仕留めることができませんでした。私の過ちで、我々の戦いに支障を・・」
「言うな。今更悔いたところで何も変わらない。我々がすべきことはそれではなく、もっと尊いことだ・・」
自分を責めるバーンに、レイアが呼びかけていく。彼女の言葉を受けて、バーンが冷静さを取り戻す。
「時は来た・・新しい我々の力を、ヤツらに刻み付けるときが来た・・・」
「やってみせます、レイア様。我らの進む道を阻む敵は、この手で排除します。」
「頼むぞ、バーン。お前もこの世界を塗り替える戦士の1人だ。」
「そのお言葉、私にはもったいないです・・」
レイアの言葉を受けて、バーンが頭を下げた。
「まずは地球連合総合基地“グランディス”を狙う。我々の新しい戦力の腕試しにはふさわしい標的だ。」
不敵な笑みを浮かべるレイア。新たなる戦力を得たヴァルキリーが、新たなる戦いに踏み切ろうとしていた。
次回予告
本当の平和をつかむための力。
新たなる戦力を得て、ヴァルキリーは動き出した。
正しいのは、世界に打ちひしがれた自分たち。
その強さと信念を示す、聖戦士たちの戦いが始まった。