GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-26「脱走の二人」

 

 

 ジンの処刑が行われようとしていたところで起きた爆発。その煙の中から、カナとウォーティーの乗るブレイズが現れた。

「ブレイズ・・・!?

 突然のブレイズの出現に、ジンが驚愕を覚える。

「なぜブレイズが!?・・搭乗者は誰だ!?

 レイアがブレイズに向けて怒鳴り声を上げる。ブレイズが右手を伸ばして、兵士たちがたまらず後退する。

「ジン、乗って!早く!」

 ジンに向けて声がかかってきた。その声はカナだった。

「お前・・どういうつもりだ・・・!?

「いいから早く!このままじゃ殺されちゃうよ!」

 声を荒げるジンに、カナが叫ぶように呼びかける。

(ここにいたら死ぬのは確実だ・・そうなるくらいなら!)

 警戒心を抱きながらも生に執着し、ジンがブレイズの手の上に飛びついた。ブレイズのコックピットのハッチが開かれ、ジンが中に入れられた。

「カナ・カーティア・・お前まで我々に反逆を示すのか・・・」

 バーンが銃を手にして発砲するが、ブレイズは爆発によって開いた穴から外に出ていった。

「このまま2人とブレイズに逃げられれば、我々にとっての不安要素になりかねない。我々の情報が外にもれることにも・・!」

 レイアが焦りと憤りをたぎらせて、歯がゆさを浮かべる。彼女はすぐにブレイズの追跡を決めた。

「ヴァルカス、カース、リヴァイバー、グレイヴの発進準備を急げ!ブレイズを撃墜させる!」

 

 ウォーティーとともにブレイズに乗り込んでいたカナ。シュミレーションを続けていると見せかけて、彼女はジン救出の機会を狙っていた。

「やるよ、ウォーティー・・踏み出したらもう後戻りできないよ・・・」

 カナの呼び声が小さかったため、ウォーティーは反応しなかった。彼女は気にせずに、ブレイズを起動させた。

「カナ・カーティア、ブレイズ、ゴー!」

 カナのかけ声と同時に、ブレイズが発進。ヴァルキリアのドックのハッチを突き破り、外に飛び出した。

「お、おい!何を・・うわっ!」

 声を上げるマートンだが、爆発の爆風に押されてしまう。

 ジンが処刑されようとしていたところに、カナの駆るブレイズが飛び出してきた。ブレイズがジンを収容して、外へと飛び出していった。

 加速するブレイズの中で、カナはジンの心配をしていた。

「ジン、大丈夫・・・?」

「なぜオレを助けた!?・・・そんなマネをしても、お前が損をするだけだぞ・・・!」

 ジンが心配しているカナに疑問を投げかける。するとカナは真剣な面持ちで、首を横に振ってきた。

「あのままヴァルキリーにいるほうが、私にとっては損だった・・平和な世界に戻ろうとしていたミリィさんを殺して、それが正しいことになるのが、私も我慢できなかった・・そして、ジンがあのまま殺されてしまうことも・・・」

「くだらないことを・・オレはお前に助けられるつもりは・・・!」

「これは私がそうしたいと思ったの!これは私のわがまま!」

 歯がゆさを見せるジンに、カナが悲痛の叫びを上げる。感情をむき出しにする彼女に、ジンが眉をひそめる。

「後であなたに殺されてもいい・・でももう、後悔したくなかったから・・・」

「本当にバカだ・・オレにそこまでしても、何の意味もないのに・・・」

「うん・・私はバカだよ・・今も前も大バカ・・これが、バカなりに割り切って出した答えだよ・・・」

 ため息をつくジンに、カナが物悲しい笑みを浮かべる。

「これ以上の文句は後でお願い・・今は逃げることが1番・・・!」

 カナは気持ちを切り替えて、ブレイズをさらに加速させてヴァルキリーから離れようとした。

 そのとき、ブレイズのレーダーがヴァルカス、リヴァイバーの反応を捉えた。スピードのあるこの2機が先にブレイズに接近してきていた。

「もう追いついてくるなんて・・こんなにスピードがあるなんて・・・!」

 新型のMSの性能を痛感して、カナが焦りを覚える。

「こうなったら全速力で逃げ切るしかない・・・少し辛抱して、ジン・・・!」

 カナはジンに呼びかけて、さらなる加速に備える。ブレイズが戦闘機型に変形して、さらにスピードを上げる。

「あくまで逃げようというのか・・だがムダなことだ。我々の方が全ての点に置いてブレイズを超えている・・・」

 ヴァルカスを駆るバーンがブレイズの機影を見据える。

「ユウ・フォクシー、聞こえるか?リヴァイバーもMA形態への変形が可能だ。変形してブレイズを追跡し、回り込め。」

「し、しかし、ジンとカナが・・・」

 指示を出してくるバーンだが、リヴァイバーに搭乗していたユウがためらいを浮かべる。

「どうした?リヴァイバーでもブレイズのスピードを上回っている。MSの操縦訓練を続けていたお前なら、リヴァイバーでも十分に扱うことができる。」

「ですが、仲間だったカナを攻撃するなんて・・・せめて話し合いを・・・!」

「2人はもはや裏切り者。我々が排除すべき敵に成り下がった。お前が手にかけても、誰もお前をとがめることはできない。」

「しかし・・・!」

「ブレイズとて我々ヴァルキリーの情報の一端だ。このまま2人を逃がせば、我々の情報が外部に漏れ、世界平和を遠ざけることになる。それは絶対に避けなければならないこと。そのことを自覚しろ、リヴァイバーのパイロット。ユウ・フォクシー。」

 ブレイズの撃墜を命じるバーンに、ユウは困惑を隠せなくなる。仲間の絆と平和を天秤にかけることに、ユウは苦悩を強めていた。

「何をしている、お前たち!?

 そこへグレイヴを駆るレイアがバーンとユウに呼びかけてきた。ゼビルの乗るカースも駆け付けてきた。

「私とバーンで回り込む。ゼビルとユウは追撃しろ。」

「了解、レイア様。」

 命令を下すレイアにゼビルが答える。グレイヴとヴァルカスが先行し、ブレイズとの距離を詰める。

「は、速い!・・これだけ飛ばして追い詰められるなんて・・・!」

 たまらず声を上げるカナ。するとジンが鎖を振りほどこうとしながら声を上げてきた。

「お前にブレイズを的確に動かせるものか・・オレがやる・・・!」

「ダメだよ、ジン!そんな体のほうが的確に動かせないって!」

 声を張り上げてジンを呼び止めるカナ。体にのしかかる重圧に耐えながら、彼女はブレイズのスピードを最高まで上げた。

 だがブレイズはグレイヴとヴァルカスを引き離すどころか、逆に距離を詰められてしまう。

「ダメ・・追いつかれる・・・!」

 危機感を募らせるカナ。ついにブレイズの前にグレイヴとヴァルカスが回り込んできた。

「これ以上は逃がさない・・自分の過ちを悔みながら、地獄に落ちろ!」

 レイアが言い放ち、グレイヴがビームライフルを手にして発砲する。ブレイズがスピードを落とさずにビームをかわしていく。

 だが別方向から飛んできたビームが当たり、ブレイズが体勢を崩す。ヴァルカスもビームライフルでブレイズを狙い撃ってきた。

「これじゃ逃げ切れない・・どうしたら・・・!?

「戦うしかない・・戦わなければ死ぬだけだ・・・!」

 打開の糸口を探るカナに、ジンが声を振り絞る。彼の言葉にカナは従い、ブレイズが人型に変形してビームライフルを手にする。

「戦おうというのか?だがムダだ。ヴァルカスだけでもブレイズを打ち負かせた。レイア様のグレイヴもいるこの状況、お前たちが切りぬけることは不可能だ。」

 カナとジンをあざけるバーン。グレイヴとヴァルカスがブレイズの逃げ道をふさいだところで、カースとリヴァイバーが追い付いてきた。

「ユウ、今度こそブレイズを攻撃するんだ。」

 ゼビルがユウに向けて指示を出す。だがユウは未だにブレイズへの攻撃をためらっていた。

「直接手にかけたくないと言い張るなら、けん制の攻撃だけはやってもらう。ブレイズの行動範囲を狭めろ。」

「ゼビル・・・僕は・・・」

 ゼビルのさらなる指示にも困惑するユウ。カースがビームサーベルを手にして、ブレイズに向けて振りかざす。

 カナが反応して、ブレイズもビームサーベルを手にしてカースの攻撃を受け止める。

「カナ、もうやめるんだ!僕たちの敵にならないで!」

 ユウがカナに向けて呼びかけるが、カナは聞き入れようとせず、レイアたちも攻撃をやめようとしない。

「ためらうな、ユウ!平和を取り戻すことが、お前が抱いていた願いだったはず!」

「それは、そうだけど・・・!」

 ゼビルに呼びかけられて、ユウがさらに困惑する。

「ならばジンとカナを撃て!ヤツらはオレたちヴァルキリーに反旗を翻し、その平和と願いを壊そうとしているんだぞ!」

「平和を・・平和を取り戻せるところに手が届いているのに・・・!」

 ゼビルの言葉に突き動かされて、ユウが戦意と敵意を覚える。

「やめるんだ、カナ、ジン!平和を壊すマネはやめてくれ!」

 ユウが言い放ち、リヴァイバーがビーム砲「リヴァイブバースト」の狙いをブレイズに向ける。それでもカナは彼の言葉を聞き入れようとせず、ブレイズがグレイヴとヴァルカスの追撃を防いでいく。

「どうして・・どうして!?

 ユウが悲痛の叫びを上げ、リヴァイバーがリヴァイブバーストを発射する。高出力のビームが飛び込み、ブレイズは紙一重でかわせたが体勢を崩す。

「ユウ!?

 砲撃をしてきたユウに、カナがたまらず声を荒げる。

「本当の平和を取り戻せるのは連合でもリードでもない!このヴァルキリーだって、カナは思っていたんじゃないの!?ジンはともかく、カナはそう思っていたはずだろう!?

「ユウ・・私も最初はそう思っていた・・でも私たち以上に平和を望んでいたジンを簡単に切り捨てることに、本当の平和なんてないって気づかされたの!」

 呼びかけるユウに、カナも悲痛さを込めて言葉を返す。2人の会話をさえぎるように、ヴァルカスのビームサーベルがブレイズのビームシールドを叩いた。

「世迷言を言って、見苦しいマネを!」

「違う!間違っていたってやっと気づいたの!あなたたちの考え方じゃ、誰の心も救えない!リリィさんを救わず、ジンの願いも聞き入れようとしない!そんなんで誰かを救えるなんてありえないよ!」

「それが世迷言であることも分からないとは・・カナ・カーティア、お前もジンと同じ、世界を乱す存在でしかなかった!」

 言い返していくカナを、バーンがあざけってくる。

「いずれにしろ、ブレイズだけでは我々に太刀打ちすることなど絶対に不可能!お前たちの過ちは、ここで潰えることとなる!」

 バーンが言い放ち、ヴァルカスがビームサーベルを振りかざしてブレイズを突き飛ばす。そこへブレイヴが待ち構えて、ビームソード「クレイモア」を手にしてきた。

「これでお前たちを、その愚かさもろとも真っ二つにしてくれる!」

 レイアが言い放ち、グレイヴがブレイズに向けてクレイモアを振り下ろす。かわし切れずにビームシールドで防ごうとするブレイズだが、シールドはグレイヴの巨大な一閃で両断された。

「そんな!?

 たやすく攻め立てられることに驚愕するカナ。ブレイズが左手にビームライフルを持ち替えて、迎撃を敷こうとした。

「ムダだと言っているというのに・・」

 バーンの乗るヴァルカスが2本のビームサーベルを振りかざしてきた。1本のビームサーベルを右手で持っていたビームサーベルで受け止めるも、ブレイズはもう1本のビームサーベルで、ビームライフルを持った左手をなぎ払われてしまう。

「キャッ!」

「ぐっ!」

 衝撃に襲われて、カナとジンがうめく。逃走も迎撃もままならなくなり、ブレイズは次第に追い込まれていく。

「このままじゃやられてしまう・・もうダメ・・・!」

「簡単に諦めるな!ここを抜けなければ死ぬだけだ!」

 悲痛さを浮かべるカナに、ジンが怒鳴り声をあげる。

「オレはこんなところで死ぬつもりはない!どんなことをしてでもオレは、ヤツらを必ず叩き潰してやる!」

「ジン・・そこまでヴァルキリーに怒りを感じているんだね・・・」

 ジンの心の内を痛感して、カナが戸惑いを覚える。彼女は胸に秘めていた憤りを募らせた。

「私もヴァルキリーに不満を感じたから、ヴァルキリーのやり方に怒りを感じたから、こうして出てきたんだった・・ここでやられてもいいというなら、最初からこんなマネはしてないよ・・・!」

 自分自身の怒りを口にして、カナが戦意を膨らませていく。だが感情や決心とは裏腹に、負傷したブレイズはヴァルカスたちに対して防戦一方となっていた。

 ビームサーベルを手にしていたブレイズの右手も、ヴァルカスのビームサーベルの一閃でなぎ払われた。

「これで終わりだ、お前たち。もはやお前たちは抵抗の術もない。」

 絶体絶命となったブレイズに向けてバーンが言い放つ。ゼビルのカースがブレイズに向けてビームサーベルを突き出す。

 そのとき、ブレイズとカーズの間を一条の光が飛び込んだ。次の瞬間、カースの右手がビームサーベルごと爆発を引き起こした。

「なっ・・!?

「えっ・・!?

 ゼビルとカナが驚愕の声を上げる。光は光線ではなく、高速の移動と光の刃だった。

 ブレイズとヴァルカスたちの前に現れたのは、ビームソード「エクスカリバー」を手にしたMS「フューチャー」だった。

「あれはフューチャー・・前の戦争を終わらせたMSの1機・・・!」

「フューチャーがなぜここに!?・・しかもブレイズを助けた・・・!?

 声を荒げるカナとゼビル。彼らはフューチャーが現れたことに驚きを隠せなくなっていた。

“そちらの救難信号をキャッチしてここに来た。事情は知らないが、お前から生きようとする強い意思を感じた・・”

 ブレイズに向けてフューチャーから通信が飛び込んできた。パイロットはアルバ・メモリア。

“オレがヤツらを一時食い止める。お前はこちらが提示するポイントに向かえ。オレの仲間がいる。”

「フューチャー・・ここは言うとおりにしたほうがよさそう・・・」

 カナに迷っている余裕もなかった。彼女はアルバの指示に従い、提示された地点に向かって前進を始めた。

「この期に及んでまだ逃げるか・・」

 バーンが目つきを鋭くして、ヴァルカスがブレイズを追おうとする。だがフューチャーに行く手を阻まれる。

「ここは引き返してくれ。できることなら死なせたくない・・」

「思い上がるな。たとえフューチャーであろうと、このヴァルカスを止められるものか。」

 呼び止めるアルバだが、バーンは引き下がろうとしない。ヴァルカスが振り下ろしてきた2本のビームサーベルを、フューチャーがエクスカリバーで受け止める。

「これで防いだつもりか。甘いぞ。」

 ヴァルカスが胸部からビームを放とうとする。そのとき、フューチャーが左手をビームサーベルに向けて突き出し、掌部分にあるビーム砲「ビームハンド」を放ってきた。

「何っ!?

 2本のビームサーベルを破壊され、ヴァルカスが後退する。

「気をつけろ、バーン!フューチャーは並のMSではないぞ!」

 毒づくバーンにレイアが呼びかける。ブレイズを助けに現れたのは、アルバのフューチャーだった。

 

 

次回予告

 

予想だにしなかった人物からの救援。

生と未来を信じて戦った者。

自分たちの命の尊さのため、アルバは戦いに戻ってきた。

彼らの力を目の当たりにして、ジンとカナは何を思うのか?

 

次回・「未来の邂逅と喪失」

 

 

作品集

 

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