GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-23「聖戦士の旗」

 

 

 バーンはスバル。その事実にジンは目を疑った。

「スバル・・スバルなのか・・・!?

 思わず疑問を投げかけるジン。しかし殴られた頬を拭うだけだった。

「スバル?何だ、それは?」

 バーンが返した言葉を耳にして、ジンがさらに驚愕する。

「脱走の次は戯言か?本当に愚かしいことだな。」

「間違いない・・お前はスバルだ・・どういうことだ、スバル!?どうしてお前がここにいる!?

 嘲笑してくるバーンに、ジンがさらに呼びかける。しかしバーンはジンの言葉が理解できていなかった。

 2人の対峙をさえぎるように、レイアが話を切り出してきた。

「ジン、お前にも是非見てもらおうと思っている。これから見せる最新型のMSの1機は、お前が新しく乗ることになるのだから・・」

 レイアが投げかけた言葉に、ジンが眉をひそめる。

「意見や文句は見てからでもいいだろう?・・まずはその目に焼き付けることだ・・」

 歩き出すレイアに、ジンは渋々ついていくことにした。バーンは外れた仮面を付け直し、2人の後に続いていった。

 

 レイアの案内で、ジン、ジャッカル、ゼビル、バーンは地下施設の奥の部屋に来た。そこは明かりがついておらじ、暗闇に包まれていた。

 レイアが入口の近くにあるスイッチを入れて、部屋の明かりをつける。その部屋には3体のMSが立っていた。

「レイア様、これがその新機体ですか・・」

「そうだ。スナイパー以外では新機体は4機。1機はバーンが乗っているヴァルカスだ。」

 ジャッカルが声をかけると、レイアが微笑んで答える。

「左からカース、リヴァイバー。そして私の機体となるグレイヴだ。」

 レイアがMSについて説明していく。黒と灰色を基調とした「カース」、白と水色を基調とした「リヴァイバー」、白を基調として薄桃色のラインをあしらった「グレイヴ」が、出撃のときを待って待機していた。

「カースはビームサーベルやビームブレイドなど、近接戦闘に特化した性能と武装となっている。リヴァイバーは逆に、射撃、砲撃といった遠距離攻撃型の機体よ。ヴァルカスとグレイヴは遠近を問わない万能型の性能だが、ヴァルカスはスピード重視、グレイヴは一撃必殺の攻撃が多いわ。」

「そのうち、カーストリヴァイバーが、我々の中からパイロットが選ばれると・・」

 説明するレイアにジャッカルが言葉を投げかける。するとレイアが肯定の意味を込めて微笑みかける。

「ジン、お前にはカースを与えようと思っている。カースなら、ブレイズ以上にお前の力を引き出せるはずだ。」

「分かっているのか、お前!?・・・オレにそれを渡せば、オレはスバルを倒すために使うことになるんだぞ・・・!」

 レイアに視線を向けられると、ジンが目つきを鋭くしてバーンを睨みつけてきた。

「オレは確信している・・お前はスバルだ・・そしてミリィを殺して平気な顔をしている・・・!」

「私はバーン・アレス。ヴァルキリーの一員であり、真の平和のために戦う者・・」

 憤りを見せるジンに、バーンは顔色を一切変えずに言葉を返す。

「お前も今の世界を強く憎んできた。そのために戦おうとすることを、我々ヴァルキリーは高く評価する。だがどんな理由だろうと、我々に敵対の意思を示すのであれば、我々は容赦なくお前を倒す。」

「オレはお前たちの駒になるつもりはない!倒されもしない!オレはお前を倒すまで、死ぬつもりはない!」

 忠告を送るバーンだが、ジンは彼に憎悪を傾けるだけだった。

「あくまで私の、我々の敵であろうとするのか・・ならばお前に我々が与えるのは罰と死の2つだけだ。」

 低く告げるバーンに、ジンが飛びかかろうとする。だが背後にいた兵士たちが撃ち込んだ麻酔銃で昏倒する。

「お前は怒りと憎しみに囚われすぎて、自分自身の現実すら見えなくなっているな。これが麻酔ではなく本物の銃だったならば、お前は死んでいた。運よく生き延びられたとしても、その反抗的な態度をとれる体ではなくなっていることだろう。」

 動かなくなったジンを見下ろして、バーンが言いかける。するとレイアが彼の肩に手を添えてきた。

「お前も攻撃的に事を運び過ぎている。ジンにも猶予を与えておかなくては・・」

「レイア様・・・」

 声をかけてきたレイアに、バーンが肩の力を抜く。

「ただし、最後の猶予だがな・・」

 不敵な笑みを浮かべて、レイアがジンを見下ろす。

「頃合い、ということですね・・・」

 ジャッカルもゼビルとともにジンを見下ろす。彼らもヴァルキリーにジンの居場所がないことを悟っていた。

 

 待機命令を下されているヴァルキリアのクルーたち。戸惑いを感じているクルーたちの中、カナがシュミレーション練習を繰り返しており、ユウもその様子を見守っていた。

 そんな2人の前に、レイアとバーンがやってきた。

「カナ・カーティア、ユウ・フォクシーだな?」

「こ、これはレイア・バルキーさん・・・!」

 レイアに声をかけられて、ユウが敬礼を送る。しかしカナは気付いておらず、練習を続けていた。

「カナ、レイアさんとバーンさんが・・!」

「えっ・・・?」

 ユウに声をかけられて、カナがようやくレイアとバーンに気付き、慌てて敬礼を送った。

「す、すいません!夢中になりすぎて・・!」

「いや、いい。熱心に練習していたところに水を差した私がいけないのだから・・」

 動揺するカナにレイアが弁解する。

「お前たちに知らせておきたいことがある。お前たちにとっては、ひとつが喜ばしいこと、ひとつが辛いことだろう・・」

「レイアさん、それって・・・?」

 レイアが深刻さを込めて言いかけて、ユウが当惑を見せる。するとカナが真剣な面持ちで声をかけてきた。

「どちらも教えてください。私たちは、世界を敵に回すことを覚悟で戦ってきたはずです。どんなことも受け入れて、そして立ち向かっていかないといけないんです・・」

「その勇敢さには好感が持てる・・ではまず喜ばしいことから話そう・・」

 カナの決意を受け止めて、レイアが不敵な笑みを浮かべた。

「カナ、ユウ、もしかしたらお前たちにも、新型MSのパイロットに選ばれるかもしれない。あくまで候補というだけだが・・」

「えっ!?僕が・・いえ、自分が新型に乗れるかもしれないのですか!?

 レイアが切り出した話を聞いて、ユウが喜びの声を上げる。しかしカナは顔色を変えない。

「それで、辛いこととは・・?」

「えぇ・・ジン・シマバラが、我らに反逆の意思を示している・・」

 カナが訊ねると、レイアが深刻さを込めて答える。その言葉にカナとユウが驚愕を覚える。

「私があのMAを撃破したことに反感を感じている。理解できないが、そのことで彼は私を強く憎んでいる。」

 バーンも続けて話を続けていく。

「あくまで彼が我々の敵に回ることに頑なであれば、我々は彼を処罰しなければならなくなる・・」

「そんな・・ジンは、今まで僕たちを助けてくれたんです!」

 バーンが告げた非情の宣告に、ユウが声を荒げる。

「ジンがいなかったら、僕たちはここに来ることなく死んでいたかもしれません!そのジンを・・!」

「たとえ並外れた能力を備えていても、世界を混迷させる要因となるならば排除しなければならない。それが世界のためとなるのだ。」

 ユウの反論を受けても、バーンは顔色を変えずに言葉を返す。さらに反論しようとするユウだが、カナに手を出されて制される。

「そうですね・・私たちは世界をよくしていきたいと思って戦ってきたんです・・今までも、これからも・・・」

「そういうことだ。できることなら、彼がこれからもヴァルキリーの一員として戦っていてほしいと、私も思っています・・」

 カナが切り出した言葉に、バーンも苦言を口にする。

「状況を整理してから、改めてパイロットを決定しようと考えている。もしもお前たちが選ばれることとなったなら、そのときはよろしく頼む・・」

「そのお言葉は嬉しいのですが・・ブレイズに乗せていただけないでしょうか・・?」

 呼びかけてくるレイアに、カナが提案を持ちかけてきた。

「たとえその最悪の事態を招くことになっても、ジンの戦いをムダにしてはいけない・・そのためにも、私は今日まで訓練を続けていたのかもしれません・・」

「そうか・・ならばそのような形で選定しておこう。いずれにしろ、2人とも備えを怠らないように。」

 カナの決心を汲み取ったレイア。レイアはバーンとともにカナとユウの前から去っていった。

「僕も正式なヴァルキリーのパイロットに・・・でも、ジンが・・・」

 喜びと不安が入り混じって複雑な心境になるユウ。だがカナは落ち着いた面持ちを崩していなかった。

 

 再び眠らされたジンは、地下施設の牢獄に入れられていた。彼はさらに、全身を完全に押さえつけて動けなくする特殊な拘束具を付けられていた。

 拘束具や錠というよりも、見た目はほとんど棺桶と変わらなかった。この拘束具のために、ジンは指一本動かせなくなっていた。

 全く動けない状態になっているが、ジンは怒りを膨らませたままだった。

「全身を動かすことができなければ、おのずと力も入れられなくなるものだ・・」

 牢獄にいるジンに前に、レイアがやってきた。

「レイア・・・お前・・・!」

「ほう?この拘束具にかけられれば、全身を押さえつけられて声を出す力もなくなるはずだが・・お前の戦闘能力と強い意思を買ったのは全く間違ったことではなかったようだ・・」

 声を振り絞るジンに、レイアが笑みをこぼす。

「一方的な話となってしまうことを許してくれ。お前が知りたがっていることも、話の内容に入っている・・」

 レイアが切り出した話に、ジンが眉をひそめる。

「まずはバーン・アレスについては・・お前が直感したように彼はお前の友人、スバル・アカボシだ。」

「やはり・・スバル・・・」

 レイアの話から、ジンはバーンがスバルであるという直感が間違っていなかったことを実感する。

「だが、なぜだ!?・・スバルは、戦うことは絶対にしないヤツだった・・・!」

「確かに彼は戦いを望んでいなかった。私が会ったときも、彼は戦うことを嫌がっていた・・ジン、お前とは違う意味で頑なだった・・」

 声を振り絞るジンに、レイアが淡々と語りかけていく。

「だがスバル・アカボシのように純粋な人間ほど、簡単に染まってしまうものだ。赤にも黒にも。自分が頑なに拒み続けていた人間像に彼は変わり果ててしまった・・自ら進んで戦いに足を踏み入れたお前とはその点で対照的だ。」

「お前・・スバルに何かしたのか!?・・何か起きなければ、スバルが戦いに出てくることなんて・・・!」

「そう。我々が仕向けたのだ。彼に高い潜在能力があったことは事前に調査していたからな。」

 驚愕と憤りを感じていくジンに対し、レイアは不敵な笑みを崩さない。

「想い人の負傷で心を痛め、戦いを拒む自分と自分たちに振りかかる不条理の板挟みにあい、スバルの心は荒んでいた。少しの拍車をかけるだけで容易に戦場に引き込めるほどに・・」

「ふざけるな!・・お前たちが、スバルを・・・!」

「それは違う。彼が自分が今まで拒み続けてきた戦いに足を踏み入れさせたのは、我々の策略だけではない。」

 怒りの声を上げるジンに言い返して、レイアが笑みを消した。

「スバルたちに悲劇をもたらし絶望させたのはジン、お前の戦いだ。」

「なん、だと・・・!?

 レイアが告げた言葉にジンが耳を疑った。

「オレがスバルを戦いに引き込んだ・・そんなバカな!?・・オレはスバルの考えを知っている・・戦いたくないという考えには不満があったが、戦わせるつもりは全くない・・・!」

「そのつもりがなかっただろうが、結果的にお前の戦いが引き金となっている。お前の戦いが、スバルの全てを壊したのだ。」

「ふざけるな・・オレは、スバルを傷つけた覚えはない・・・!」

「そこまで言い張るならその目で見てみるがいい。事実は私にもお前にも、決して偽ることはないのだから・・」

 信じようとしないジンだが、レイアは不敵な態度を崩さない。牢獄の中にモニターが現れ、映像が映し出される。

 その映像は、ジンのブレイズとギルドのソルディンのテンダスでの戦いだった。

 ギルドへの怒りを爆発させるジン。ブレイズがソルディンを攻撃するだけの行動を取り、見境なしにテンダスへの被害をもたらすこととなった。

 このとき、スバルはフィーアとともにシェルターに避難しようとしていた。だがその真っ只中にソルディンとブレイズがやってきた。

 ジンがスバルとフィーアがいることも気付かないまま、ブレイズがソルディンにビームライフルの銃口を向ける。

「やめてくれ!僕たちはここにいるんだ!」

 スバルがブレイズとソルディンに向けて叫ぶが、怒りと殺意に駆り立てられているジンには届いていない。

「いつまでも逃げていないで地獄に堕ちろ!」

 ジンが怒りの叫びを上げて、ブレイズがビームライフルを発砲した。ソルディンが回避し、スバルとフィーアがビームの爆発に巻き込まれた。

 ブレイズとソルディンの攻防に巻き込まれて、フィーアは意識不明となり、スバルも傷を負うこととなった。

「バカな・・そんなバカな・・・!?

 自分に突き付けられた事実、自分が犯した罪を目にしても、ジンは信じることができなかった。スバルを傷つけたのが自分であると、彼は認めたくなかった。

「ウソだ・・オレを陥れるために・・オレとスバルを陥れようとして・・・!」

「その時点では我々は陥れるようなマネはしていない。スバル・アカボシを心身ともに追い詰めたのはジン、お前だ。」

 否定しようとするジンだが、レイアは彼に事実を突き付けていく。

 それでも拒み続けるジン。だがどれだけ否定で捻じ曲げようとしても事実が変わることはなかった。スバルが全てを失い、バーンとして戦いに駆り立てられた事実は。

「想いを寄せていた相手が目覚めないことへの悲観と、戦いを受け入れることへの拒絶。その板挟みにあい、割り切ることもできずにいた。そんな人間を戦いに駆り立てることなど造作もないことだ。」

「黙れ・・オレを騙し、スバルを騙したお前たちは、オレが倒すべき敵だったということか・・・!」

「確かに、あれは騙したことになるかもしれない・・だが最終的にこの選択をしたのは彼自身だ。」

「黙れ、敵が・・・!」

 悠然と語ってくるレイアを、ジンは鋭く睨みつけてくる。

「混迷した世界を変えるため、己自身の正義を守るため、スバルは、いや、バーン・アレスは戦うことを自らの意思で選んだのだ・・もっとも、彼はスバル・アカボシとしての意思を完全に捨て去っているがな・・」

 レイアが告げた言葉にジンが愕然となる。拒絶しようとする意思とは裏腹に、ジンはバーンを受け入れつつあった。

 

 

次回予告

 

戦うことが正義か?

戦わないことが正義か?

非情な現実と戦争への拒絶の挟み撃ちに苦悩する青年。

彼の心に追い打ちをかける、聖戦士の策略。

 

次回・「スバル」

 

 

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