GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-22「裏切り」
ファントムを撃破し、向かってきたブレイズを返り討ちにした紅い機体、ヴァルカス。ヴァルキリアに乗艦したヴァルカスから、バーンが降りてきた。
声色から若い男であることは判別できるが、仮面で顔は口元以外は隠されている。
「突然のことで驚かれていることでしょう。レイア・バルキー様の指示で、こちらに向かいました。」
ヴァルキリアのクルーに声をかけるバーン。彼らのいるドックに、ジャッカルがやってきた。
「まさかこちらの援軍だったとは・・聞いていれば連携が取れていたのだが・・」
「いえ、事前に連絡しなかったこちらが悪いのですから・・・」
声をかけてきたジャッカルに、バーンが弁解を入れる。するとジャッカルが表情を曇らせた。
「ですが、こちらに非があったとはいえ、同じヴァルキリーの機体であるブレイズを攻撃し、破損させるのはどうかと思う。ブレイズは我々にとって貴重な戦力であり、これまでも幾多の苦難を切り抜けてくれた・・」
「たとえ貴重な戦力であったとしても、敵対行動を行う者には絶対的な反応を示さなければなりません。でなければ内部崩壊になりかねない・・」
「しかしそれでは、これからの戦いに支障が出てきます。スナイパーも多くが大破に追い込まれています・・」
「その心配はいりません。私がこれからもこのヴァルキリアに留まり、戦闘行動を行っていきます。それと、私の乗るヴァルカス以外にも、ヴァルキリーが開発した最新鋭のMSもこちらに送られる予定です。」
不安を口にするジャッカルに、バーンが淡々と答えていく。
「それともうひとつ。レイア様が来るようにとのことです。その新型MSを乗艦させる目的もあります。」
「レイア様が・・・!」
バーンが告げた言葉を聞いて、ジャッカルだけでなく、周りにいたクルーたちも緊張を覚える。
「スナイパーや他の武装の補充も行います。これでヴァルキリアの武力は安泰、いいえ、それ以上の武力を有することになります。」
「分かりました・・体勢を整え次第、目的地に向かいます。」
「これが目的地を示す地図のデータです。」
答えるジャッカルに、バーンが地図を収録したデータチップを手渡した。
「それとひとつ。ジン・シマバラを収監しておくように。それとパイロットのメンバーから彼を外しておくように。」
「しかし、ジンは・・」
「いつ噛みついてくるか分からない飼い犬を野放しにしておくのは、あなたも当然と思いますが?」
バーンの言葉に反論しかけるジャッカルだが、逆に問いかけられて押し黙ってしまう。
「では私はこのままここに滞在します。移動中に戦闘が行われることがあれば、私も参加させていただきます。」
バーンはジャッカルに告げると、ドックから歩き出していった。
ドックに来ていたカナがバーンに声をかけようとした。だがゼビルに手で制される。
「ジンのことを言おうとしているならやめておけ。お前も反逆者として処罰の対象となるぞ。」
「でも、これじゃあまりにジンが・・・!」
「もう潮時となったのだ・・ジンが勝手気ままにヴァルキリーのMSを乗り回すことが・・」
ゼビルに言いとがめられて、カナが押し黙ってしまう。
「ついに本格的にヴァルキリーが動くこととなった。だがジンはこの戦いに足を踏み入れることはなくなってしまった・・」
「でもジンは、ミリィさんを、あの機体のパイロットを助けようとしただけ・・あのMSに攻撃したのも、ミリィさんを殺されたから・・・!」
「あのMAは世界を混乱させる敵でしかない。倒すのは当然だ。」
ゼビルが口にした非情の言葉に、カナが絶望感を募らせていく。
「それならゼビル、どうしてジンと一緒に、ミリィさんを探しに出たの・・・!?」
「その目的は2つ。MAを撃破するため、そしてジンを監視するためだ・・」
あくまでジンを戦力としか見ていない。バーンだけでなく、ゼビルも。そのことを思い知らされて、カナは冷静さを保てなくなった。
反論も反抗もできないまま、カナは夢遊病者のようにドックを後にした。
ヴァルキリーの新たなるMS、ヴァルカスの出現を、クレストも感知していた。
「あの機体・・動けなくなっていたとはいえ、ファントムを一撃で撃破するとは・・・」
「あの艦に乗ったということは、あの機体もヴァルキリーのようね・・」
ソワレとマリアがヴァルカスの動きを見て言いかける。
「あの性能・・ゼロに勝るとも劣らないかもしれない・・」
「そんな・・ヴァルキリー、これほどの兵器を作り出せるというの・・・!?」
ソワレが口にした言葉を聞いてマリアが不安を口にする。
「ヴァルキリーの本当の戦力がどういうものなのか把握できなくなった。すぐに行動を起こすのはかえって危険だ。」
ガルの言葉に、ソワレとマリアが真剣な面持ちで頷く。
「ルナや他のMSや装備も万全ではないですし・・戦闘を行うときは、最善の状態でいないと・・」
「ますます戦いが激しくなっていく・・僕たちは、これからどうしていけばいいんでしょうか・・・?」
注意を促すマリアと、深刻さを口にするソワレ。彼の脳裏には、かつての戦いで激闘を繰り広げたMS、フューチャーの姿がよぎっていた。
破損したブレイズは回収され、ジンはヴァルキリアの独房に入れられた。意識を取り戻したジンは、怒りに駆り立てられて暴れていた。
「出せ!ここから出せ!」
扉や壁にひたすら体当たりするジン。しかし満身創痍となっていたジンは、強引に扉を打ち破ることもできないでいた。
「こんな状態になっても手に負えないことだな、ジン・シマバラ・・」
暴れ続けるジンの前にバーンが現れた。
「私はバーン・アレス。お前を撃墜させたヴァルカスのパイロットだ。」
「お前が・・お前がミリィを!」
名乗るバーンに怒りを膨らませて、ジンが再び暴れ出す。彼は強引に扉を押し込んで突き破ろうとする。
だがバーンが銃を手にして発砲してきた。左肩を撃ち抜かれたジンだが、怒りに駆り立てられているためか、激痛に打ちひしがれることなくさらに暴れ続ける。
「本当に獣同然だな。まだ倒すべき相手を間違えているのか?」
「間違えていない!オレはミリィを止めようとした!それなのにお前がミリィを殺した!」
見下してくるバーンにジンが怒鳴りかかる。しかしバーンは口調を変えることなく声をかけていく。
「あれは敵だ。ヴァルキリーが排除しなければならない敵の1人。その敵を葬った同胞に攻撃を仕掛けるのは滑稽ではないのか?」
「何が同胞だ!お前はオレの敵だ!平和を願っていたアイツを殺して、それを間違っていないと言い張っているお前を、オレは絶対に許さない!」
バーンの言葉にひたすら反発するジンだが、新たにバーンが取り出した銃に撃たれて昏倒する。
「ヴァルキリーの一員の中に、ここまで愚かなヤツがいたとは・・自覚する気は毛頭ないのだろうが、あえて言っておく。」
苦言を呈するバーンが、起き上がろうとするジンを見下ろす。発砲した銃が麻酔銃だったため、ジンは麻痺に襲われて、怒りとは裏腹に動くことがままならなくなっていた。
「お前の勝手を今まで野放しにしていたのは、お前を超えるパイロットがヴァルキリーにいなかったからだ。でなければレイア様は、お前をヴァルキリーに引き入れることはなかった・・」
「オレはお前たちの駒になったつもりはない!そのことはレイアも聞いているはずだ!」
「そうだ。お前の考えも意思も、レイア様は全て承知してお前をヴァルキリーに迎え入れた。お前が我々の仲間になったつもりがないのも先刻承知。いつ裏切られて攻撃されることになるか分からないにもかかわらずお前を受け入れたのは、そのリスクよりも成果を上げられるメリットのほうが高かったからだ・・だが今はそのリスクを負う必要もなくなった・・」
ジンに言葉を返していくバーン。
「ヴァルキリーの新しい戦力として、私がレイア様に呼ばれた。これからは私が世界から混乱や悲劇を排除し、本当の平和を取り戻す。」
「ふざけるな!平和を願っていたミリィを殺したお前が、平和を取り戻すことができるわけがない!身勝手なことをしているヤツが、平和を口にするな!」
決意を口にするバーンだが、ジンはさらに怒りを募らせていく。ミリィの命を奪ったバーンを、ジンは許すことができなかった。
「感情に任せて攻撃するだけのお前のほうが平和から程遠い。その人格だから自覚のあるほうがおかしな話だが・・」
「出せ!お前はオレが・・!」
バーンに反抗しようとするジンだが、麻酔銃の効果で意識を保てなくなった。
「次に目を覚ますのはおそらく、レイア様の前、お前の処罰のときだろう・・その間に、本当の平和をどのようにすればもたらせるのかを理解していればいいが・・」
ジンに向けて言葉を投げかけると、バーンは独房の前から立ち去っていった。怒りと憎しみに囚われたまま、ジンは深い眠りへと落ちていった。
ミリィが亡くなり、ジンが独房に閉じ込められ、カナも非情の現実に打ちひしがれていると思われていた。だがカナはこのときもブレイズのシュミレーション練習に没頭していた。
その彼女の様子を、ユウとマークは見守っていた。
「カナ、辛いはずなのに・・今も訓練して腕を上げようとしている・・・」
「もしかしたら、ああして気を紛らわせているのかもしれない・・カナは、ジンのことを気にしてる・・」
マークが不安を口にすると、ユウが深刻さを込めて言いかける。
「バーンって誰なんだ?・・レイアさんの部下だってことは分かるけど・・・」
「僕もそれ以外のことは分からない・・後はものすごい腕前の持ち主というくらいだ・・」
バーンについて話をするも、その正体を予想することもままならないマークとユウ。
「何にしても、僕がしっかりしないと・・ジンがあんなことになったことに納得できてるわけじゃないけど、だからこそ、カナやみんなを支えるために頑張らないと・・」
「ユウ・・僕も応援しているから・・」
決意を口にするユウを、マークが励ましていく。ユウもその後、シュミレーション練習に励むのだった。
バーンの提示した地点に向かって航行していくヴァルキリア。地球連合、リードの攻撃を受けることなく、ヴァルキリアは次の夜明けとともにその地点に到着した。
「この辺りは孤島が点在しているだけだが・・?」
ジャッカルがバーンに向けて声をかける。
「あの島の前の海中に降下してください。その先に入口があります。」
バーンが指し示した方向を、ジャッカルをはじめとしたクルーたちが見据える。
「よし。潜航用意。バーンの指示を仰ぎながら、慎重に進んでいけ。」
「了解。」
ジャッカルの指示にアンが答える。ヴァルキリアが海中に入り、その下の岩場を目指していく。
その先には鉄の扉があった。海の下を掘り返して地下施設を設けていた。
「こちらのことは分かっています。すぐに扉が開きます。そのまま進行してください。」
バーンが指示を出し、ヴァルキリアはさらに前進する。鉄の扉が開かれ、道は続いていく。
やがて水の外に浮上したヴァルキリア。そこは地下施設のターミナルだった。
「お疲れ様です。ここがヴァルキリーの地下施設。レイア様は今こちらにおられます・・」
バーンが声をかけたとき、ヴァルキリアの指令室のモニターにレイアの姿が映し出された。
“今日までご苦労様です、ジャッカル艦長。”
「これは、レイア様・・」
声をかけてきたレイアに、ジャッカルたちが敬礼を送る。
“ジャッカル艦長、バーン、ゼビル・クローズ、お話があります。外に出てください・・”
「了解。直ちにそちらへ・・」
レイアの呼びかけに答えるジャッカル。彼はバーンとゼビルに目を向ける。
「他の者はヴァルキリアで待機。次の指示があるまで外に出るな。」
ジャッカルはクルーたちに呼びかけると、バーン、ゼビルとともにヴァルキリアから外に出た。
地下施設の中にある1室で、レイアはソファに腰をおろしていた。ジャッカルたちがドアをノックすると、彼女は立ち上がった。
「ジャッカル・イカロス、バーン・アレス、ゼビル・クローズ、ただいま参りました。」
「入ってきていいです。開いています・・」
ジャッカルが声をかけると、レイアが微笑んで答える。ドアが開かれ、ジャッカルたちが敬礼を送る。
「先日は迷惑をかけたわね。そもそも、ジンをヴァルキリーに選別したのは私・・」
「レイア様のせいではありません。私たちヴァルキリーの理念に反抗的になった彼の責任なのですから・・」
自分を責めるレイアに、バーンが弁解を入れる。
「いいえ、こちらに非があったのは否定できないこと。もしもこれからも戦おうという意思を見せてくれるなら、その力も場所も与えましょう・・」
自分をあくまで責めるレイア。するとゼビルが深刻さを込めて言いかける。
「ですがジンはバーンへの憎悪を膨らませています。以前にも彼の怒りを買って撃墜された者も出ています・・」
「その心配はいらないわ。バーンには別部隊で任務に当たらせる。ジンの怒りを逆撫でしないように・・」
「そううまく行くとは思えません。ジンは本当に独立独歩のパイロットです・・レイア様は、そのことを先刻承知でしょうが・・」
レイアからの提案にゼビルが苦言を呈する。しかしレイアは悠然さを崩さない。
「その当てが外れても我々に支障はないわ。仮にジンが我々に牙をむくことになったとしても、今の我々には彼を上回るパイロットとMSがいるのだから・・」
レイアの自信を込めた言葉に、バーンも笑みをこぼす。自分もその戦力の1人であると、彼は実感していた。
「では新しい兵器の拾うと譲渡を行うとしよう。まず目にしてもらわなければ始まらないから・・」
「新しい兵器・・それは本当に助かります。これまでの戦闘で、スナイパーの多くを撃墜、大破させられていましたから・・」
レイアが切り出した言葉を聞いて、ゼビルが安堵の笑みをこぼした。
「まずはあなたたちに見せよう。他の者にも後で見せることになるが・・」
レイアがジャッカルたちに新兵器を披露しようとして、彼らとともに部屋を出ようとした。だがその部屋に通信が入ってきた。
「どうした?」
“ジン・シマバラが独房の扉を破りました!現在、ヴァルキリアの外に!”
レイアが応答すると、兵士が慌ただしく報告を入れてきた。
「分かった、すぐに行く。くれぐれも負傷させるな。」
兵士に呼びかけて、レイアは連絡を終えた。彼女は急いで部屋を出て、バーンも続いて飛び出した。
ヴァルキリアを飛び出したジンが兵士たちに取り押さえられていた。怒りを膨らませていくジンが、兵士たちに殴りかかって振り払おうとする。
「アイツは・・ミリィを殺したヤツはどこにいる!?」
「少しは落ち着いたらどうだ、ジン・シマバラ・・」
怒鳴りかかるジンに向けて声がかかる。レイアとバーンが彼の前に現れた。
「レイア・・どうしてヤツと一緒に・・・!?」
「彼は私の、我々の新しい同胞だ・・私としては、君に悲劇を与えてしまったことを辛く思っているが・・」
目を見開くジンに、レイアが淡々と声をかけていく。だがジンはバーンに視線を移すと、兵士を振り払って殴りかかった。
殴られてふらついたバーン。彼の顔を隠していた仮面が、その弾みで外れて床に転がった。
怒りを噛みしめて息を乱すジン。彼はバーンの素顔を目の当たりにして驚愕を覚える。
仮面の奥に隠されたバーンの素顔。それはジンの親友、スバルの顔だった。
次回予告
バーンはスバルだった。
その事実に、ジンは今までにない疑念を感じた。
頑なに戦いを拒んできたスバルが、なぜ戦いに身を投じたのか?
その答えを求めるジンに、レイアは選択を迫る。