GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-18「想いの崩壊」

 

 

 黒ずくめの男たちに連れられて、ミリィはレックスの前に戻ってきた。苛立ちを膨らませていたレックスは、力任せにミリィの顔を叩いた。

「よくも私たちの首を絞めるマネをしてくれたな・・言いなりになるだけの人形のくせに!」

 叩かれて倒れたミリィに、レックスが怒鳴りかかる。

「お前は私たちの命令に従っていればいい!また勝手なマネをすれば、廃棄以外の末路はない!そのことを肝に銘じておけ!」

「はい・・申し訳ありませんでした・・・」

 警告するレックスに謝るミリィ。

「いいか!お前たちも絶対にコイツから目を離すな!」

「了解!」

 続けてレックスが男たちや研究員たちに警告を送った。怒りが治まらないまま、レックスはこの場を後にした。

 

 ミリィと別れ、ジンとカナはヴァルキリアに戻った。ミリィを連れ戻せなかったことを、ジンは後悔していた。

「ジン・・・ミリィのことで、深く考えないほうがいいよ・・・」

 ヴァルキリア艦内の廊下で、カナがジンに声をかける。

「私はジンと違って何もできなかった・・ミリィさんに声をかけることもできなかった・・いけないのは、何もしなかった私・・・」

「お前には関係ない・・オレが迷わなければ、後悔なんてものを感じることもなかったし、ミリィも・・・」

 互いに自分を責めるカナとジン。2人の自責の念は、互いのすれ違いを生んでいた。

 気持ちを錯綜させているジンとカナに、ゼビルと一緒にいたユウも心配していた。

「どうしたのかな、2人とも?・・声をかけたほうがいいのかな・・・?」

「やめておけ。逆に怒らせるだけだ・・」

 不安を浮かべているユウを、ゼビルが呼び止める。

「それよりもオレたちにはやるべきことがある・・ユウ、訓練を続けているお前にも戦うときが来るかもしれない・・」

「ホント!?よーし、僕もやってやるよー!」

 ゼビルからの言葉を受けて、ユウが自信を見せる。気持ちを引き締めたユウは、自分の仕事を再開した。

 

 自分の部屋に戻っていったジン。その彼をカナは呼び止めることができなかった。

 ベッドに横たわり、ジンは塞ぎ込んだ。ミリィを助け出せなかったことで、彼はミナの死を思い返していた。

(確実とはいえないにしても、ミリィは死んでいるか、死んだも同然の状態になっている可能性がある・・ミナのように、身勝手な連中に弄ばれているかもしれない・・・)

 心の中でさらに不条理と自責を強く痛感していくジン。

(オレに力があれば・・どんな身勝手にも動じず屈しない強さがあれば・・・ミナを救えた・・ミリィを助けられた・・・)

 込み上げてくる悲しみと苦しみのあまり、ジンは涙ぐむ自分の顔に両手をあてた。悲しみに満ちた自分の姿を他に見せられないと、彼は思っていた。

(もう後悔しないようにする・・オレは戦う・・ミナやミリィみたいな、心のある優しい人間を苦しめたり、失わせたりさせてたまるか・・・!)

 敵と戦い倒すという決意を強めていくジン。自分の顔から離した両手を、彼は強く握りしめた。

「まずは今度こそ、ゼロとあの巨大なヤツを・・・!」

 ゼロとファントムを含めた敵への憎悪を募らせて、ジンは次の出撃のときまで休息と睡眠を取ることにした。

 だがファントムのパイロットがミリィであることを、ジンは思いもしていなかった。

 

 苦悩を深めていくジンのことを気にかけながら、カナはシュミレーション練習を行っていた。その練習には、ブレイズに乗ったときを想定しての設定を組み込んでいた。

 そんな彼女に向けて、ゼビルが声をかけてきた。

「カナ、それはブレイズのシュミレーションではないか・・」

「そう・・万が一もないと思うけど、念のために備えるのもいいかなって・・」

 カナが練習を続けながら、ゼビルに答えていく。

「ブレイズの操縦はスナイパー以上の技術を必要とする。仮に動かそうとしても、簡単なことではないぞ・・」

「そんなことは分かってるよ。それでもやってみようと思うのはいけないこと?」

「そうはいわない。その向上心から生まれる力は貴重な戦力になる。むしろいいことだ・・」

 突っ張った態度を見せるカナに、ゼビルが淡々と言葉を返す。

「オレも負けていられないな。下手をすれば出し抜かれることになる・・」

「張り合わなくてもいいよ。これは私の問題だから・・」

 ゼビルと会話しながら、カナは練習を続けていく。

(そう・・ジンとミリィさんを助けられなかった、私の問題・・・)

 その中で、カナは自分の無力さを痛感していた。助けたい、守りたいという気持ちが、彼女の向上心を増していた。

 

 テンダスから離れて海上を飛行していたヴァルキリア。その艦影を特別育成班は捉えていた。

「ついに見つけましたよ、ヴァルキリー・・今度こそ撃墜させてやる・・・」

 モニターに映し出されているヴァルキリアを見据えて、レックスが呟く。彼はようやく憤りを抑えて冷静さを取り戻していた。

「ファントムとミリィの様子はどうです?」

「ファントムの整備は完了しています。パイロットの適合率は96.2%。出撃可能範囲です。」

 レックスの問いかけに研究員が答える。納得できる報告だったはずだが、レックスの顔には笑みがなかった。

「また以前のように急に適合率が低下する可能性もある・・ヤツの勝手なマネもあるし、また滞りなく攻撃できるとは言い難い・・」

「班長・・・」

「戦闘中もデータに決して目を離さないように。データを細大漏らさず収集しておくように。」

「分かりました・・」

 レックスの指示を受けて、研究員は作業に戻っていった。

(次こそ・・次こそ必ず私たちの力を見せつけてやる・・・!)

 ヴァルキリーとリードを打ち倒し、自分たちの力を誇示しようとするレックス。次のヴァルキリアへの攻撃に備えて、彼も着々と準備を進めていった。

 

 海上の孤島に存在する地球連合の基地「ヴァウン」。ヴァルキリアはヴァウンへの攻撃を狙っていた。

「あの巨大MAやゼロを警戒するなら、真っ向から出て攻めに行くのは得策ではない。だが世界の武力の排除が我々の最大の任務。」

 ジャッカルがクルーたちに淡々と語りかけていく。

「ここはあえて攻撃を仕掛けて、勢いをつけておくのがいいだろう。攻撃の最中に他からの介入が出る可能性は高い。その点はくれぐれも慎重に。」

「はいっ!」

 ジャッカルの指示を受けて、クルーたちが答える。スナイパーのパイロットたちも発進に向けて準備を進める。

 ジンとゼビルもブレイズとスナイパーに乗り込み、発進に備える。

「ジン、出ていって大丈夫か?」

「オレは戦うだけだ・・軍隊や、身勝手な連中を見逃すつもりはない・・」

 ゼビルが問いかけるが、ジンは低く言い返すだけである。

「それならばいい・・余計なお世話だが、今回も期待させてもらうぞ・・」

「本当に余計なお世話だ・・・」

 呼びかけるゼビルに、ジンが憮然とした態度で答える。

「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」

「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」

 ジンのブレイズ、ゼビルのスナイパーがヴァルキリアから発進した。

 ブレイズが先行し、ヴァウンを攻撃していく。迎撃に出たソルディンも、ブレイズは次々と撃破していく。

「もう迷わない・・悲しみと苦しみをまき散らすお前たちは、絶対に逃がさない!」

 ミナとミリィを思い返して、込み上げてくる感情を爆発させるジン。彼の怒りのままに、ブレイズがヴァウン基地の中央指令室にビームサーベルを突き立てた。

 

 テンダスでの戦闘で、ギルドのソルディンにスナイパーを大破させられ、カナはヴァルキリアでの待機を余儀なくされていた。彼女は艦内からジンたちの戦いを見守っていた。

(ジン・・結局、ジンやみんなを頼るしかないなんてね・・・)

 何もできずにいる自分を情けなく感じていたカナ。

(悔しい・・ジンたちに甘えている自分の弱さが悔しい・・・)

 何とかしたいと思っていても、そのための手段がない。カナは絶望しそうになるのを必死に耐えていた。

 そのとき、ヴァルキリアのモニターにファントムの機影が映し出された。

「あれは、あのときの・・・ここでも出てくるなんて・・・!」

 カナは危機感を隠せなくなった。強大な破壊力を備えたファントムが、再びヴァルキリアの前に現れた。

 

 ヴァルキリアへの攻撃のため、発進に備えるファントム。そのコックピットにはミリィがいた。

「いいか。ファントムは私たちの、いや、連合軍最強の戦力。ファントムが負けることは絶対にない。お前が戦い続ける限りはな・・」

 レックスがミリィに向けて呼びかけていく。

「今度こそヴァルキリーをせん滅するのだ。私たちの前進の第一歩とするために・・」

「分かっています・・・」

 レックスの命令にミリィが無表情で答える。ファントムを収容しているドックの上部ハッチが開かれる。

「ミリィ・ミスティ、ファントム、出撃します・・」

 ミリィの駆るファントムが発進し、外へと飛翔する。ヴァウンにて交戦を繰り広げるブレイズとスナイパーに向かって、ファントムが前進していく。

「気をつけろ!この前のヤツが出てきたぞ!」

 ゼビルの呼び声を耳にして、ジンがファントムに視線を向ける。

「アイツ・・今度こそ叩き潰す・・・!」

 ジンが怒りをあらわにして、ブレイズがファントムに向かう。ビームライフルでの射撃を仕掛けるブレイズだが、ファントムの胴体に弾かれてしまう。

「ヴァルキリー・・私の倒すべき敵・・・」

 ミリィも攻めてきたブレイズを敵と認識する。ファントムが人型に変形して、ブレイズを迎え撃つ。

「あなたがいなくなれば、私は苦しまなくて済む・・・!」

 ミリィが目を見開き、ファントムが右手を伸ばす。ブレイズは素早く動いて、ファントムの手をかいくぐる。

「もう1度貫いて吹き飛ばしてやる!」

 ジンが言い放ち、ブレイズがファントムにビームサーベルを突き立てようとする。だがファントムが右手からファントム・ビームブレードを発して、ビームサーベルを受け止めてきた。

「ぐっ!」

 重い衝撃に襲われてうめくジン。ブレイズがファントムのビームブレードに押されて突き飛ばされる。

 ファントムがビームブレードをブレイズに向けて振りかざす。ブレイズが即座に左手でビームライフルを手にして発砲する。

 右手が爆発に襲われて、ファントムのビームブレードの動きが鈍る。その一瞬の隙に、ブレイズが上昇してビームブレードをかわす。

「何度もそんな攻撃でやられるか!」

 ジンが言い放ち、ブレイズがファントムとの距離を詰める。ミリィもとっさに反応して、ファントムがビームブレードを振り上げた。

 2つの光の刃がぶつかり合い、激しく火花を散らした。

 その瞬間、ブレイズとファントムの中にいたジンとミリィの意識がシンクロした。

「これは・・・!?

「えっ・・・!?

 互いの機体のパイロットを直感して、ジンとミリィが驚愕を覚える。ブレイズとファントムの攻撃が止まり、ゆっくりと距離を離していく。

「ミリィ・・ミリィなのか・・・!?

「その機体に乗っているの・・ジン・・・!?

 困惑を膨らませて声を上げるジンとミリィ。ジンがたまらずミリィの乗るファントムに向けて通信を試みる。

「ミリィ!・・応答しろ、ミリィ!」

「ジン!・・本当に、ジンがそれに・・・!?

 実際に互いの声を耳に入れて、ジンもミリィも困惑を膨らませていく。

「ミリィ・・お前も軍人だったのか・・お前も身勝手な連中の仲間だったのか!?

「ジン・・私は、世界を混乱させているヴァルキリーを倒すために動いているの・・・!」

 怒鳴り声を上げるジンに、ミリィが困惑したまま呼びかける。

「でも、ジンがヴァルキリーだったなんて・・・!」

「お前までオレを騙していたのか・・どうなんだ、ミリィ!?

「ジンがヴァルキリーだなんて、敵だなんて信じない!」

「信じられないのはオレのほうだ!」

 激昂を見せつけ合うミリィとジン。ブレイズがビームサーベルを振りかざしてくるが、ファントムは防ぐだけで反撃をしてこない。

 やがてジンも、ミリィの乗るファントムへの攻撃をためらうようになる。

「もうやめろ・・ミリィ、お前が戦いに出ることはない・・そんなものに乗って、身勝手なヤツらのいいなりになってはいけないんだ・・・!」

 苦悩と憤りを募らせて、ジンが体を震わせながら呼びかける。

「ダメだよ・・私には、ファントムで戦うしかない・・・!」

 歯がゆさを見せるジンに対し、ミリィが沈痛さを膨らませていく。ヴァルキリーと地球連合が交戦する中、ブレイズとファントムが攻撃の手を止めていた。

「どうしたの、ジン・・どこかやられたの・・・!?

 ブレイズの様子がおかしいと思い、ヴァルキリアにいたカナが不安を覚える。

「ジン・・・!?

 ゼビルもジンの異変に疑問を感じていた。

 

「どうした!?なぜ戦闘を止める!?

 ファントムの異変にレックスが激昂していた。

「戦え、ファントム!お前が敗れれば、世界はオメガやヴァルキリーのいいようになるのだぞ!」

 レックスがミリィに命令を下す。彼がキーボードを操作して、ミリィに電磁波と思念波を送り込んだ。

 

 ジンの乗るブレイズに対して攻撃を加えることができずにいるミリィ。その彼女の頭に向けて、レックスの手によって発せられた電磁波と思念波が押し寄せてきた。

「ぐ、ぐあっ!」

 頭の中に直接命令を伝えられて、ミリィが苦しんで顔を歪める。

「ミリィ!?・・どうした、ミリィ!?

「ジン、ダメ・・私、逆らえない・・・!」

 呼びかけるジンに言葉を返そうと、ミリィが声を振り絞る。

「ダメ・・私は・・私はジンとは戦えない・・・!」

 必死にレックスからの命令に抗おうと、ミリィがファントムを動かしてブレイズから離れようとする。

「行くな、ミリィ!お前をそんなものに乗せるヤツらのいるところに戻ることはない!」

 ジンに呼び止められて、ミリィの駆るファントムが動きを止める。

「そんなものから降りて、戦いから離れろ、ミリィ!」

「ジン・・・でも私は・・世界の敵と戦うための存在なの・・・!」

 ジンの呼び止めを聞き入れることなく、ミリィは彼の前から遠ざかっていく。

「ミリィ・・ミリィ!」

 悲痛の叫びを上げるジン。彼の一途な願いも虚しく、ミリィのファントムはレックスのところへと戻っていった。

「くそ・・くそが!」

 悲しみを吹き飛ばそうと激昂するジン。ブレイズが彼の怒りのままに攻撃を仕掛け、ヴァウン基地の壊滅の引き金となった。

 

 ヴァウン基地は壊滅した。スナイパーたちが次々とヴァルキリアに引き返していく。

 だがヴァウン基地の上空で、ジンは悲しみに暮れていた。2度もミリィを連れ戻せなかった自分を、彼は強く責めていた。

 

 

次回予告

 

ミナを救えなかった。

ミリィを連れ戻せなかった。

大切な人を守れない自分さえも、ジンは許せなくなっていた。

絶望からの脱出のため、ジンは再び立ち上がる。

そして、ミリィも・・・

 

次回・「希望を求める手」

 

 

作品集

 

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