GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-15「正義への挑戦」
ヴァルキリアとチェスターが戦闘を行う海上。その付近にクレストも接近していた。
「まずいな・・このままでは街にまで戦闘が広がるぞ・・・」
不安が現実になる危険性を痛感するガル。
「艦長、ここは僕が出て止めるしかないですね・・」
ソワレがガルに向けて声をかけてくる。ソワレはヴァルキリーと地球連合の戦闘に介入することに消極的だった。
「すまない、ソワレ・・発進してくれ・・」
「謝らないでください、艦長・・これは僕たちがやらなくてはいけないことなのですから・・」
ガルの指示を受けて、ソワレが発進に備える。
「ソワレ・ホークス、ゼロ、発進する!」
ソワレの乗るゼロがクレストから発進する。過激化するヴァルキリアとチェスターの戦闘を止めるため、ソワレが先行したのだった。
ジンのブレイズとギルドのソルディンの攻防。テンダス上空にまで繰り広げられたこの戦いに、一条の刃が飛び込んだ。
ブレイズの放ったビームを、ソワレのゼロが切り裂いた。その手には突きに特化したビームソード「トラスカリバー」が握られていた。
「リード最強のMS、ゼロ・・ここで出てくるとは・・・!?」
ゼロの出現に声を荒げるギルド。ソワレがブレイズとソルディンに向けて呼びかけてきた。
「すぐにテンダスから離れろ!この街を火の海にするつもりか!?」
テンダスでの戦闘の停止を促すソワレ。
「やめたくても小僧がしつこくするから、それもできないんだよ・・・!」
ギルドがゼロに向けて苛立ちを浮かべる。怒りを爆発させていたジンは、軍の最高位の武力であるゼロに敵意の矛先を移す。
「撤退するならこちらは何もしない!戦いのために無関係な人を巻き込むことは・・!」
「お前も倒さなければならない敵だ!」
ソワレの呼びかけをさえぎって、ジンが叫ぶ。ブレイズがゼロに向けてビームライフルを発砲する。
「やめろ!こちらは攻撃をするつもりはない!」
ゼロがビームをかわす中、ソワレが呼びかける。しかしジンは聞き入れようとせず、ブレイズが距離を詰めてさらにビームライフルを連射する。
「よけるな!落ちろ!」
ジンが怒りを膨らませ、ブレイズがビームサーベルを手にしてゼロに向けて振りかざす。ゼロが光の刃をかわして、ブレイズに向けてトラスカリバーを突き出す。
だがトラスカリバーの突きがブレイズに紙一重でかわされる。今度はブレイズがビームサーベルをゼロに向けて突き出す。
ソワレがとっさに反応し、ゼロが左手甲部からビームダガーを発してビームサーベルを受け止める。
「やめろと言っている!ここで戦うな!」
「誰が受け止めていいって言った!?早く切り裂かれろ!」
呼びかけるソワレと、激昂するジン。ブレイズが強引にゼロを切り裂こうと力押ししてくる。
(このMS、ものすごい力だ・・・!)
増していくブレイズのパワーに脅威を覚えるソワレ。
「くそっ!」
ソワレが毒づき、ゼロがビームブレイドを発した右足を振り上げた。この一閃が、ブレイズの右腕を切り裂いた。
「これ以上攻撃するな!でないと撃墜させるしかなくなる!」
「このヤロー!」
ソワレの警告にも耳を貸さないジン。ブレイズが左手でビームサーベルを持ったまま切り裂かれた右手をつかみ、ゼロに向けて振り下ろす。
「何っ!?」
不意を突かれたソワレ。ゼロがトラスカリバーをビームサーベルで叩き落される。
「絶対に許すものか!潰してやる!潰してやる!2度と現れないように木っ端微塵にしてやる!」
ひたすら怒りの叫びを口にするジン。ブレイズが再びビームサーベルを振り下ろす。
ゼロが右手甲部からもビームダガーを発し、2本の光の刃でビームサーベルを受け止める。そのままビームダガーを振り抜いて、ブレイズのビームサーベルが弾き飛ばされる。
さらにゼロが左足からビームブレイドを発して、ブレイズの左足を切り裂いた。体勢を崩されて、ブレイズが落下していく。
「このままやられない!やられてたまるものか!」
ジンが力を振り絞り、ブレイズが落下しながら、左手で持ったビームライフルを連射する。だがゼロが手にしたビームライフルから放たれたビームで、ブレイズは左手も破壊された。
これでブレイズの攻撃手段を全て奪うことになったと、ソワレは実感した。
「倒れてたまるか・・お前たちを倒さずに、倒れてたまるか!」
だがジンは強引にブレイズを動かす。コックピットからの操縦だけではまともに動かせない状態となっていることも気に留めず、彼は強引にブレイズを飛ばそうとする。
彼の怒りと殺意に呼応するかのように、ブレイズが再びエンジンを稼働させる。ブレイズがゼロに向かって速度を上げて突っ込んでくる。
歯がゆさを覚えるソワレ。ゼロが突き出したビームダガーが、ブレイズの頭部を破壊した。
消える瞬間に強く燃え上がる炎のように、最後の力を振り絞ったブレイズが、ゼロの攻撃で今度こそ落下していった。
「どうして・・どうしてそこまで戦おうとするんだ・・・!?」
憤りを宿すソワレ。彼はテンダスの市街に稼働している他の戦力がいないことを確かめてから、ゼロを動かして市街を後にした。
ブレイズとゼロが交戦している間に、ギルドのソルディンはテンダス市街から撤退。辛くもチェスターに帰艦することができた。
危機的状況を乗り越えられて、思わず安堵を実感するギルド。だがソルディンから降りてドックから出ようとしたところで、彼は現れたマアムからの平手打ちを受けることとなった。
「何をするのですか、大佐!?」
「あなた、自分が何をしたのか分かっているのですか・・あなたがした軽率な行動で、無関係な民間人を死傷させたのですよ!」
声を荒げるギルドに、マアムが怒鳴りかかってきた。
「しかし、こうでもしなければブレイズをかいくぐることは・・!」
「言い訳をしても、あなたが彼らにした罪が消えることはないのですよ!」
抗議の声を上げるギルドだが、マアムにさらに怒鳴られることとなる。
「その高い技術を失うのは非常に残念ですが、処罰せざるを得ません・・ギルド・バイザー少佐を拘束。処分が決定されるまで独房に入れます・・」
ギルドの処置を告げるマアム。納得できないギルドだったが、マアムの決定に逆らうことができず、独房へ連行されることとなった。
ギルドのソルディンを退け、ジンのブレイズを撃退したソワレのゼロ。ゼロがテンダスから離れたときに、クレストがその付近の海岸線に差し掛かっていた。
“ソワレ、無事か・・?”
「艦長・・僕は大丈夫です・・ですが遅かったです・・僕が来たときには、既にテンダスで犠牲者が出てしまっていました・・・」
ガルからの通信に、ソワレが沈痛さを込めて答える。
「戦闘は沈静化しました・・チェスターが撤退を始めています・・」
“よし。それならば我々も長居は無用だ。ソワレも引き上げろ。”
「分かりました・・引き上げます・・」
ガルの指示を受けて、ソワレはクレストへと戻っていった。ブレイズを撃墜したことも含めて、ソワレは今回自分がしたことに対して煮え切らない気分を感じていた。
ソワレのゼロに撃墜されたブレイズ。そのコックピットの中で気絶していたジン。
ブレイズはその後、スナイパーたちに回収され、ヴァルキリアに帰艦することとなった。ブレイズから出されたジンは、そのまま医務室に運ばれることとなった。
ジンが寝かされたベッド。その隣のベッドには、ギルドのソルディンの攻撃の衝撃で意識を失ったカナが横たわっていた。
2人のパイロットの負傷により、ヴァルキリアは戦力に乏しい状況となってしまった。
「まさかあのゼロが出てくるなんて・・」
「それもジンが、ブレイズがあそこまでやられるなんて・・・」
ゼロの介入とジンの敗北に、ユウとマークが不安を口にする。
「ジンでもゼロに全然敵わなかった・・このまま戦っても、ゼロにやられるだけだよ・・」
「でも、僕たちはやらなくちゃいけない・・たとえ相手がゼロでも、世界平和のために戦わなくちゃいけないんだ・・・」
さらに不安を口にするマークだが、ユウは決意を胸に秘めていた。
「僕もジンやカナみたいに強くなって、戦いたい・・ジンたちに何もかも任せきりにするのはよくないから・・・」
「ユウ・・僕はユウみたいに練習や演習をしていないから、本当にみんなに任せきりにしている・・ゴメン、ユウ・・・」
「謝らないでよ、マーク・・これは僕がやりたいって決めたことなんだから・・まだ実現できていないけどね・・・」
謝るマークにユウが弁解を入れる。
「でも、そろそろ実現させないと・・僕自身のためだけじゃなく、みんなのためにも・・・」
真剣な面持ちを浮かべて、ユウが決意を口にする。自分の無力さを感じながらも、マークはユウやみんなに頼るしかなかった。
「それじゃマーク、また練習してくる・・」
「僕も手伝うよ、ユウ・・僕にできることはこのぐらいしかないから・・・」
歩き出すユウをマークが追いかけていく。2人はシュミレーション演習に集中することとなった。
テンダスでの戦闘から2日目の朝。ヴァルキリアはテンダスから数百キロ離れた海上で停泊していた。地球連合、リードの警戒網を避けつつ、艦体や兵器の修理、整備を行っていた。
既にカナは意識を取り戻していた。負傷も治っていたカナだが、ジンはまだ眠り続けており、その心配を続けていた。
(ジン・・・まさかあのジンが、あそこまでやられたなんて・・・)
ジンのブレイズが完膚なきまでに叩きのめされたことに、カナも苦悩を隠せなくなっていた。
(あのバケモノだけじゃなくて、あのゼロまで出てくるなんて・・フューチャーまで出てきたら、私たちの手に負えなくなるじゃない・・・)
ファントム、ゼロの登場に完全に自信を失くしていたカナ。
(それでも、ジンは戦うだろうね・・ゼロも、全てを奪った敵だと認識しているし・・・)
ソワレから聞いたジンの話を思い返して、カナが沈痛の面持ちを浮かべる。世界や軍の理不尽に反逆し、打ち砕くのがジンの願い。カナはそのことをスバルから知ってしまった。
(私も地球連合やリードのやり方に納得しなかったから、ヴァルキリーに加わったんだよね・・ここで諦めたら、あの身勝手なやり方を認めてしまうことになる・・・)
自分に喝を入れて、カナは次の戦いに備えていく。彼女は体を休めながらイメージトレーニングを進めていくことにした。
昼になって、ジンはようやく目を覚ました。体に痛みを感じて顔を歪めるも、ジンは体を起こした。
「ムリをしてはいけません。生きるか死ぬか断定できない状態だったのですから・・」
医務官が慌ただしくジンに声をかけてくる。ジンが医務室を見回して、記憶を思い返していく。
「オレは、あの連合のヤツと戦って・・・」
「また記憶が欠落してしまったようですね・・・あなたはあのソルディンと戦って、反撃して巻き返したのですが、その後にゼロが現れて・・」
「ゼロ?・・リードのあのMSか・・・!」
医務官の話を聞いて、ジンが憤りを覚える。自分がゼロと戦った記憶はなかったが、ゼロが戦争にて激闘を繰り広げたMSであることは知っていた。
「あなたはゼロと戦いを挑みましたが、返り討ちにされて・・気絶したあなたは、今まで眠り続けていたのです・・」
「ゼロが・・アイツまでオレの前に立ちはだかったのか・・・!」
医務官からの話を聞いて、ジンがゼロへの怒りを募らせていく。彼にとってゼロも倒さなければならない敵でしかなかった。
ゼロを倒すために出撃を思い立つジン。だが痛みのために体が言うことを聞かず、彼はベッドに横たわることとなった。
「まだまともに動ける体ではないのですよ・・ブレイズもまだ修理中ですし・・」
「それでもオレは・・ヤツらを叩き潰さないといけないんだ・・・!」
「今出ていっても撃墜されるだけですよ・・それに、ゼロがどこにいるのかも特定できていないし・・」
疲れ切った体に鞭を打って立ち上がろうとするジンを、医務官が忠告する。憤りに加えて無力さを膨らませていき、ジンは声のない叫びを上げていた。
ギルドに拘束の命令を下したマアムは、気分を落ち着かせることができないでいた。表面的には平静を装っていたが、内面では苦悩を深めていた。
そんな彼女に向けて、レックスからの通信が入ってきた。
“民間人への損害に否定的だったあなたが、ずい分と派手なことをしましたね・・”
「いきなり軽々しい発言をしないでください、レックス班長・・これは部下の軽率な行動が招いたこと・・といっても、言い訳にしかなりませんが・・・」
“気に病むことはありませんよ、マアム大佐。全てはヴァルキリーせん滅のため・・”
「くだらないことで連絡しないでください。私たちはあなたとムダな話をする余裕はないのですから・・」
悠然と声をかけてくるレックスに対し、マアムが目つきを鋭くする。彼女は戦いに関わりのない人々の安全をまるで考えていないレックスの態度に憤っていた。
「あなたも戦闘の際には細心の注意を払ってください。もしも虐殺と取れる行動を今後も取るというのでしたら、私たちは地球連合の名誉にかけて、あなたたちの行動を停止いたします。最悪の場合、せん滅も厭いません・・」
“虐殺とは人聞きの悪い・・それに名誉にかけて行動しているのは私たちのほうです・・そのことをお忘れなきよう・・”
険悪の空気を漂わせたまま、マアムはレックスとの通信を終えた。
「艦とMSの修復と整備を続けてください。極力急いで・・」
マアムがクルーたちに向けて指示を送った。
「それと、特別育成班の動向にも、注意を怠らないように・・」
ヴァルキリアのブリッジで風に当たっていたジン。そのそよ風でも、彼の怒りを和らげることはできなかった。
(祈っても願っても何も変わらない・・だからオレは自分から動いて、思うようにしている・・だが、そのために戦うことさえ、オレにはできないというのか・・・!?)
考えていくうちに苛立ちを募らせていくジン。
(そんなこと、絶対に認めないぞ・・この理不尽をぶち破るためにも、オレはこうして戦っているんだ・・・!)
込み上げてくる迷いを払拭しようとするジン。
気持ちを切り替えようと、ジンは自分の携帯電話を取り出した。そこで彼は1通のメールを着信していたことに気付く。
送ってきたアドレスは非通知になっていた。だがそのメールの内容を目にして、ジンは緊迫を覚えた。
それは、スバルがテンダスにて戦闘に巻き込まれ、負傷したことを知らせるものだった。
(スバル・・・!?)
ジンは目を疑った。感情を揺さぶられたまま、彼はヴァルキリアから飛び出して再びテンダスに向かった。
次回予告
敗北感の上にさらにのしかかる悲劇。
友の絆をつなげていた人が傷ついた。
怒りと無力さをさらに膨らませ、絶望感に苦しめられるジン。
そんな彼を待っていたのは・・・