GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-14「激情の暗雲」
ジン、カナと別れて、スバルはフィーアの向かった同窓会の会場を訪れた。彼は友人たちと会話を弾ませているフィーアを見つけた。
「あっ、スバル、戻ってきたのね♪」
フィーアが明るくスバルに駆け寄ってきた。彼女に抱きつかれて、スバルが赤面する。
「いいわねぇ、フィーアは。こんなかっこいい彼氏が迎えに来てくれて・・」
「私もせめてボーイフレンドぐらい作っておかないと・・」
フィーアの友人が口にした言葉を聞いて、スバルがさらに動揺する。
「そんなんじゃないわよ、スバルは。お手伝いみたいなもんなんだから。」
フィーアが返した言葉に、スバルは今度は気まずくなって肩を落とす。しかしフィーアは彼の反応を全く気にしていなかった。
「さて、あんまり遅くなっちゃうといけないから、あたしたちはもう帰るね。」
「え、もう?これから2次会、3次会といって、どんどん盛り上がっていくっていうのに・・」
フィーアが帰ることを告げると、友人から不満の声をかけられた。
「遠くからわざわざここまで来ただけでもありがたいと思ってよね。」
「冗談、冗談。気にしないで、フィーア。」
屈託のないフィーアたちの会話を聞いて、スバルも笑みをこぼしていた。
そのとき、スバルは上空を何かが通り過ぎていったのを目にした。
「あれは・・・」
呟いたスバルの声を耳にして、フィーアたちも空を見上げた。テンダスの空を駆け抜けていったのは、ヴァルキリア攻撃のために発進したソルディンたちだった。
ジンのブレイズとギルドのソルディン。2機の持つビームサーベルが交わり合い、激しく火花を散らす。
「どこまでも世界の秩序に逆らうつもりなのか、お前は!?」
「その秩序をムチャクチャにしているのはお前たちだろうが!」
互いに言い放つギルドとジン。ブレイズとソルディンが一進一退の攻防を繰り広げていく。
「法や秩序は世界全てにおいて平等とうたっている!その秩序を壊そうと、お前はそんなものに乗って好き勝手にしている!」
「自分たちに好都合に作り上げている秩序を口にして何を言うか!」
ギルドの言葉に反発するジン。ビームサーベルを突き出すブレイズだが、ソルディンにかわされる。
「お前たちのような勝手な連中がいるから、世界はいつまでたっても平和にならないんだよ!」
「平和を壊しているお前たちが、ねぼけたことを言うな!」
「それはお前だ!お前が、お前たちがいるから!」
高らかに言い放つギルドに激昂するジン。だがジンの怒りとは裏腹に、ブレイズの攻撃はことごとくソルディンにかわされていく。
「許せるものか!オレたちの全てを壊しておきながら、お前はその罪を罪とも思っていない!」
「罪でないものをなぜ罪と思わないといけない!?償う必要があるのか!?」
ジンに言い返して見下すギルド。
「それに罪を犯しているのはお前だ!罪を繰り返したところで、お前が平和を作れるわけがない!」
「許さない!認めない!もはやこの世界から消える以外に、お前の末路はない!」
ギルドの言葉を聞くことすら我慢がならなくなったジン。ブレイズが強引にソルディンに詰め寄って、ビームサーベルを振りかざす。
だがこの一閃もソルディンの盾で防がれてしまう。
「自分勝手な感情のままに真っ直ぐに向かってくる・・相手にするのは簡単だな・・・」
ギルドが低く告げ、ソルディンがビームサーベルを振りかざす。ジンが即座に反応し、ブレイズが距離を離して一閃をかわす。
「せっかくの高い機動力がムダになっているな!」
「オレのことを勝手に決めるな!」
あざ笑ってくるギルドに、ジンがさらに怒りを募らせる。だが徐々にブレイズがソルディンに追い詰められつつあった。
ヴァルキリーとチェスターが戦闘を開始したことを、航行していたクレストも感知していた。テンダス付近で起こっているこの攻防に、ソワレは一抹の不安を感じていた。
「海上で戦闘が行われているようですが、いつテンダスの市街に飛び火するか分かりませんよ・・」
「だが下手に手を出せば、我々が双方の標的になりかねない。今は戦線ギリギリまで近づいて、出方をうかがうしかない・・」
ソワレの口にした言葉にガルが返事をする。
「ソワレ、ゼロに搭乗して、いつでも出られるようにしておけ。何かあったときには、臨機応変に戦闘を収束させる・・」
「艦長・・分かりました・・・」
ガルの指示を渋々受け入れるソワレ。
「できればお前がこのまま出撃しないことを、お前自身だけでなく、オレも祈っている・・おそらくマリアや、他の者も・・・」
ガルが口にした言葉を聞いて、ソワレは小さく頷いた。
カナとゼビルを筆頭に、スナイパーがソルディンを次々と撃退していく。中でもカナのスナイパーは果敢にソルディンの撃破に向かっていた。
「ムリをするな、カナ。動き過ぎると、それだけエネルギーの消耗が激しくなるぞ。」
「大丈夫。このくらいじゃないと、とてもジンをサポートできないから・・」
呼びかけるゼビルだが、カナは攻撃の手を緩めない。彼女の乗るスナイパーのカメラが、ブレイズとギルドのソルディンの攻防を捉えた。
「ジンが追い詰められるなんて・・あのソルディン・・・」
カナがジンを助けようとして、スナイパーがブレイズの援護に向かう。
「よせ、カナ!あのソルディンは他のヤツとは違う!」
ゼビルが呼びかけるが、カナのスナイパーは止まらず、2機の交戦に割って入っていった。
怒りのままにギルドに攻撃を仕掛けていくジン。だが攻防を重ねるにつれて、ブレイズは劣勢を強いられていった。
「なぜだ・・なぜオレはコイツに攻撃を当てられない・・・!?」
さらにいら立つジンだが、感情的になればなるほど、逆にブレイズの攻撃はソルディンに命中させることができなくなっていた。
「自分のしていることが大罪だと自覚しろ!それ以外にお前の進む道はない!」
ギルドが言い放ち、ソルディンがビームサーベルを振りかざす。回避が間に合わず盾で防ごうとするブレイズだが、ビームサーベルを叩きつけられた衝撃で突き飛ばされる。
「ぐっ!」
揺さぶられてジンが顔を歪める。体勢を整えられずにいるブレイズに、ギルドのソルディンが迫る。
「これでとどめだ!」
ギルドが言い放ち、ソルディンがブレイズに向けてビームサーベルを振りかざす。だがカナのスナイパーがビームライフルを撃ってきたことに気付き、攻撃せずにブレイズから離れた。
窮地に追い詰められたブレイズにスナイパーが駆け付ける。
「ジン、大丈夫!?ジン!」
「邪魔をするな!ヤツはオレが倒す!」
呼びかけるカナにジンが怒鳴る。ブレイズがスナイパーを突き飛ばして、ソルディンに向かっていく。
「そんなにとどめを刺されたいとはな!」
だが言い放つギルドの乗るソルディンの迎撃で、ブレイズがまたも突き飛ばされる。
「ジン!」
カナが叫び、スナイパーが再びブレイズの援護に向かう。
「今度は私が相手に・・!」
「お前も真っ直ぐ向かってくるだけか!?」
攻撃を狙うカナにも言い放つギルド。
「相手にならないというんだよ!」
スナイパーが突き出してきたビームサーベルをかわし、ソルディンが逆にビームサーベルを振り下ろす。この一閃がスナイパーのビームサーベルを持つ右手を切り裂いた。
「えっ!?」
驚きの声を上げるカナ。続けて振りかざしてきたソルディンの一閃だが、スナイパーは反射的にかわした。
「簡単に逃げられると思っているのか!?」
しかしギルドのソルディンが即座にビームライフルを手にして、スナイパーに向けて発砲する。この一条の光線が、スナイパーの胴体に直撃した。
「キャアッ!」
スナイパーから爆発が起こり、その火花はそのコックピットにまで及んだ。その衝撃でカナは意識を失い、スナイパーが煙を発しながら落下していく。
「カナ!」
ゼビルが叫び、彼の乗るスナイパーがカナのスナイパーを受け止める。
「カナ、しっかりしろ!カナ!」
ゼビルが呼びかけるが、カナからの返事がない。
「艦長、カナがやられました!1度帰艦します!」
“カナが!?・・分かった。すぐに戻ってこい・・”
ゼビルの呼びかけにジャッカルが答える。2機のスナイパーがひとまずヴァルキリアに戻っていった。
ブレイズに加勢してきたカナのスナイパーを返り討ちにしたギルドのソルディン。その前にブレイズが飛翔してきた。
「最後まで向かってくるのか・・だが力がこっちのほうが上だということは、イヤでも理解できているはずだが?」
「たとえオレより力があっても、敵は必ずこの手で倒す・・お前も必ず倒す・・・!」
嘲笑してくるギルドにジンが言葉を返す。
「バカは死ななきゃ治らないとはよく言ったものだな・・お前の場合、死んでも治らないだろうがな・・!」
呆れ果てるギルド。ソルディンがブレイズに一気に詰め寄り、ビームサーベルを振りかざす。
とっさにビームサーベルで防ぐブレイズだが、突き飛ばされて落下していく。
「地獄に落としてやるよ、小僧!そうすればお互い顔を見ることも声を聞くこともなくていいことだらけになる!」
改めてとどめを刺そうとするギルド。ビームサーベルを振り上げるソルディンの前で、ブレイズの中にジンが怒りを膨らませていく。
(コイツがいるから全てが壊れていくんだ・・オレのように・・ミナのように・・・それなのに、コイツがいいようにしているなんて・・・!)
ジンの頭の中で、ミナの笑顔がかき消えていく。
(絶対に認めない!許してなるものか!)
ソルディンがビームサーベルを振り下ろした瞬間、ジンの中の殺意が爆発した。ブレイズもビームサーベルを振りかざして、ソルディンの一閃を迎え撃つ。
「許さない!お前は絶対に許さない!」
ジンが力任せにブレイズを動かしていく。そのビームサーベルが、強引にソルディンを突き飛ばした。
「何っ!?」
一気に力を上げてきたブレイズに、ギルドが驚愕する。ジンの駆るブレイズが間髪置かずにソルディンに迫る。
「おのれ!」
ギルドが毒づき、ソルディンが素早く動いてブレイズのビームサーベルをかわす。
「逃げるな!」
ジンが叫びながらギルドのソルディンを執拗に狙う。ブレイズがソルディンに向けてビームサーベルを突き出す。
この突きがソルディンの右肩をかすめた。
「ぐっ!」
ギルドが衝撃に襲われて顔を歪める。ブレイズがさらにソルディンに追撃を仕掛けていく。
(どういうことだ!?小僧の力が格段に上がっている!)
ギルドがブレイズの力の向上に危機感を募らせていく。
「だがどれだけ力を上げてこようと、オレを狙っていることは同じ!」
ギルドが目を見開き、ソルディンが左手でビームライフルで発砲する。だがブレイズはビームを素早くかわし、ビームサーベルでソルディンの左腕を切り裂いた。
(このままではやられる・・オレが尻尾を巻いて逃げることになるとは!)
腑に落ちないながらも撤退の選択肢を取るギルド。スピードを上げてチェスターに向かおうとするソルディンだが、ブレイズの加速がソルディンを上回る。
「誰が逃げていいって言った!」
ジンが怒鳴り、ブレイズがソルディンに突進を仕掛ける。
「小僧が!どこまでもしつこくして!」
激昂するギルド。ソルディンが盾を手にして、向かってくるブレイズに投げつけた。
ブレイズがビームサーベルでその盾を真っ二つにする。その間にギルドのソルディンがテンダスに向かって加速していった。
MSの飛行と海上での交戦で、テンダスの市街は逃げ惑う人々で慌ただしくなっていた。スバルとフィーア、同窓会に参加していた人々も避難をしようとしていた。
「急ごう、フィー!いつここも危なくなるか分からないから!」
「そんなこと言ったって、すぐに急げないって!」
呼びかけるスバルにフィーアが抗議の声を上げる。
「どうして僕たちの近くで戦闘が・・!?」
自分たちにも降りかかりそうな危険に、スバルは緊張を隠せなくなっていた。
「もう少しいけばシェルターがある!そこに行けばひと安心だよ!」
スバルが走りながら呼びかけていく。だが次の瞬間、フィーアが足をつまづいて転んでしまう。
「フィー!」
スバルが足を止めてフィーアに駆け寄る。
「フィー、大丈夫!?」
「う、うん・・でも痛い・・・!」
心配の声をかけるスバルに、フィーアが目に涙を浮かべながら頷く。
「もうちょっとでシェルターに着ける!それまで頑張るんだ・・!」
スバルがフィーアに呼びかけたときだった。先に行っていたフィーアの友達が、突然巻き起こった爆発に巻き込まれた。
「えっ・・・!?」
突然の出来事にフィーアだけでなく、スバルも目を疑った。ついに戦闘がテンダスに飛び火し、彼女の友達が命を奪われた。
スバルもフィーアも言葉を出せなくなり、体を振るわせるばかりになっていた。だがスバルは自分を奮い立たせて、フィーアを抱えて歩き出そうとする。
その2人の上。テンダスの上空にギルドのソルディンが飛行してきた。ソルディンを追ってブレイズも高速で降下してきた。
ソルディンを狙ってのブレイズのビームライフルによる射撃。そのビームがテンダスの市街に飛び込み、フィーアの友達がその爆発に巻き込まれてしまったのである。
「フィー、逃げるんだ!」
スバルがフィーアを連れて逃げようとする。だがソルディンへの敵意をむき出しにするジンのブレイズがさらにビームライフルを放ち、スバルとフィーアの行く手をビームによる爆発がさえぎる。
逃げ場を失っていく2人の前にソルディンが移動してくる。ジンが怒りのままにブレイズを操作し、ソルディンにビームライフルの銃口を向ける。
「やめてくれ!僕たちはここにいるんだ!」
スバルがたまらずブレイズとソルディンに向けて叫ぶ。しかしブレイズはビームライフルを下げない。
「僕たちは逃げたいだけなんだ!戦うなら街から離れてくれ!」
必死に呼びかけるスバル。だが彼の呼び声は、怒りと殺意に駆り立てられているジンには届いていない。
「いつまでも逃げていないで地獄に堕ちろ!」
憎悪を込めた叫びを上げるジン。ブレイズがビームライフルを発砲し、ソルディンが回避行動を取る。
目を見開くスバル。フィーアを庇う暇もなく、彼は彼女とともにビームの爆発による爆風に吹き飛ばされた。
ジンもギルドも気付くことがないまま、スバルとフィーアはブレイズとソルディンの攻防に巻き込まれて負傷することとなった。
「地獄に堕ちろと言っているのが分からないのか!」
ブレイズがさらにソルディンを狙い撃とうと、ビームサーベルを構える。ソルディンの過度の操作と動きで、ギルドは一気に疲労を増すこととなった。
ブレイズのビームライフルの銃口からビームが放たれた。
そのとき、一条の刃がその光線を弾き飛ばした。そしてジンとギルドの視界にひとつの機影が飛び込んだ。
「これは・・・!?」
思わず声を荒げるギルド。ブレイズとソルディンの前に現れたのはゼロだった。
次回予告
先の戦争で活路を切り開いた機体の1機、ゼロ。
混迷する世界の中で、ソワレが戦闘停止のために奮起した。
軍への憎悪を抱くジンと、世界の平和を模索するソワレ。
それぞれの意思を胸に、2人の青年が激突する。