GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-13「安息への渇望」
スバルと待ち合わせてテンダスの中央広場にやってきたジン。その彼をカナはこっそりと後をつけていた。
だがスバルには気付かれており、広場にてカナはジンに見つけられてしまう。
「ジン・・これは、えっと・・・」
「お前・・・あんまりしつこくすると容赦しないぞ・・・!」
慌てるカナにジンが鋭い視線を向けてくる。
「落ち着いて、ジン・・ジンの知り合いみたいだけど・・・」
そこへスバルが呼びかけて、ジンをなだめる。スバルがジンからカナに視線を移す。
「えっと・・うん、まぁ、知り合いってところかな、アハハハ・・・」
カナが作り笑顔を見せてごまかそうとする。ヴァルキリーに所属している者は、組織に関する全てのことの口外を許されていない。口外はヴァルキリーの者に待っているのは、死を免れない処罰だけである。
「まぁいいや・・それにしても、ジンも隅に置けないね。こんなかわいい人と知り合いだなんて・・」
「そんなんじゃない。少なくても、あんなヤツに逆らおうともせず従ってばかりのお前とは違う・・」
続けて声をかけてくるスバルに、ジンが不満の言葉を返す。
「よかったら一緒にどうです?男同士で休日を楽しむのは、悪くないんだけど華がなくて・・」
「いいんですか?・・それじゃ、お言葉に甘えて♪」
スバルからの誘いを受けて、カナが喜びを見せた。
「スバル、お前・・!」
「大丈夫。浮気なんてしたくてもできないよ。フィーに百叩きにされてしまうから・・」
さらに不満を見せるジンに、スバルが苦笑いを見せる。それでも納得できないでいるジンだが、返す言葉が見つからず黙るしかなかった。
その頃、チェスターは北西の方向に飛行していた。マアムはチェスターの指令室から、レックスとの連絡を取っていた。
「ヴァルキリーはおそらくテンダス近辺にて整備と補給を行うことでしょう。彼らが万全の体勢となる前に攻撃を仕掛けるのが得策でしょう。」
“その意見には我々も同意します。ですがこちらは今、ファントムが整備中。すぐに出撃することはできません。”
「では私たちがヴァルキリーへの攻撃を行います。あなた方に頼りきりになってしまうと、彼らを逃がす可能性が出てしまいます。」
レックスとの通信の中、マアムがヴァルキリア討伐を請け負う。だがマアムはすぐに、レックスに対して目つきを鋭くしてきた。
「あなた方の戦力、ファントム・・その攻撃力は評価しましょう。ですが民間人まで巻き込むあの攻撃と行動、私は賛同しかねます。」
“ヴァルキリーを叩くためには徹底的にやらなくてはならない。野放しにすることは、世界の混乱の増長につながります。他のことを気にかけていては、ヤツらを調子づかせることにつながりかねませんよ・・”
「そんなことはありません。私たちは決して破壊者になっては・・」
“私たちは破壊者ではなく救世主となるのです。世界を乱す悪の根源を叩くのが正義なのですよ。”
「ですが・・」
“ともかく、ヴァルキリーせん滅を最優先にお願いしますよ。”
マアムの反論を聞き入れることなく、レックスは通信を切った。
「レックス班長・・仕方のない人です・・・」
ヴァルキリー打倒しか考えていないレックスに、マアムはため息をつくしかなかった。
「今度の我々のヴァルキリーへの攻撃、必ず成功させるしかないようですね、マアム大佐・・」
そこへギルドがやってきて、自信のある態度を見せてきた。
「そのようですね・・戦闘力は評価していますが、やり方までは納得していません。私たちが、ヴァルキリーの攻撃のみを鎮圧させなくてはなりません・・」
「任せてください、大佐。このギルド・バイザー、必ずヤツらを・・」
「功を焦ってはいけません、ギルド少佐。的確な行動を取らなければ、特別育成班の二の舞になりますよ・・」
「あんな得体の知れない連中と一緒にされるとは心外ですよ、大佐・・」
注意を促してくるマアムに、ギルドが意気込みを示す。彼の調子のよさに呆れるも、マアムは真剣な面持ちを浮かべて呼びかけた。
「テンダスへ急ぎます。整備と補給を完了する前に、ヴァルキリーに攻撃を仕掛けます。」
スバルとの再会をテンダスで果たしたジン。だがカナに付けられてしまい、2人は彼女と一緒に行くこととなった。
「ジン、人を寄せ付けない性格と雰囲気をしているから、ガールフレンドもできないと思っていたのが正直なところだったよ・・」
「そんなんじゃないと言っているだろう・・あまりしつこいと許さないぞ、スバル・・」
声をかけてくるスバルに、ジンが不満を見せてくる。
「それよりもいい加減に本題に入れ。オレをこんなところまで呼び出した理由を話せ・・」
ジンが真剣な面持ちを見せて、スバルに声をかけてきた。スバルも落ち着いた表情を浮かべて、話を切り出した。
「この前ニュースになった災害は聞いているかい?」
スバルのこの言葉を聞いて、ジンが目つきを鋭くする。彼もカナも災害と報道されているのが、ファントムによる被害であることを知っていた。
「でもその災害、本当に災害なのかな・・・?」
「何が言いたいんだ?・・誰かがやったとでも言いたいのか・・・?」
「うん・・誰かは分からないけど、自然に起きたとは考えられないよ・・・」
逆にジンに問い返されて、スバルが沈痛の面持ちを浮かべる。
「もしもあんなことを引き起こすヤツがいたら、オレは許さないけどな・・」
ジンが呟きながら、心の中でファントムへの憎悪を膨らませていた。居住区を襲撃した詳細を知っていた彼は、敵意を向ける相手を明確にしていた。
「今回のことだけじゃない。最近戦闘が、戦争が行われている・・あのヴァルキリーが現れてから、戦闘が過激化している・・」
スバルが続けて口にした言葉に、ジンが目つきを鋭くし、カナが緊張を覚える。
「ヴァルキリーばかりが悪いとは思わないけど、彼らの介入で戦争が激しくなっていることだけは確かだから・・」
「戦うことが嫌いなお前らしいな・・だけどオレは悪いとは思っていない・・」
自分の心境を打ち明けてくるスバルに、ジンも自分の考えを口にする。
「今までいた軍が自分勝手なことばかりして、戦争を繰り返してきた・・だから誰もが苦しむことになるんだ・・・」
「ジンのその気持ちは分かるよ・・でも戦うことそのものがよくないよ・・戦って傷つけ合っても、絶対に平和はやってこない・・・」
ジンの考えに反論するスバル。
スバルは軍人としての戦闘訓練を経験している。が、戦争、戦いの非情さと理不尽に我慢ができなくなり、彼は戦うという選択肢を切り捨てた。
「傷つけ合っても幸せになれないのかもしれない・・だけど、戦わずに逃げてばかり、目を背けてばかりでいるほうが、平和から遠ざかってしまう・・オレは、そう思う・・・」
ジンの意思を聞いて、スバルが物悲しい笑みを浮かべた。
「確かに逃げ口上だね・・でも、苦しみや悲しみをまき散らすよりはマシだ・・」
戦わなければ平和を取り戻せない。戦うから平和は戻らない。ジンとスバルの考えは相対的で頑なだった。
2人の会話を後ろで聞いていたカナは、2人に対してどんな考えを出せばいいのか分からなくなっていた。
テンダス付近を飛行していたチェスター。そのレーダーがヴァルキリアと思しき熱源を捉えていた。
「やはりテンダスにいましたか・・今度こそ撃ち落としてやるぞ・・・」
ギルドがソルディンで出撃しようと、ドックに向かおうとする。
「くれぐれも慎重にお願いしますよ、ギルド少佐。決して街に飛び火しないように。」
そんな彼にマアムが注意を投げかける。
「分かっています。私はファントムのような過激なことはしませんよ・・」
ギルドは不敵な笑みを見せると、改めてドックに向かった。彼に対する心配を拭えないまま、マアムは指揮に専念する。
「MS隊、出撃。ヴァルキリーを決して逃がしてはなりません。」
マアムが命令を下し、ソルディンたちがヴァルキリアに向かって出撃し、先陣を切った。
「ギルド・バイザー、ソルディン、発進する!」
ギルドもソルディン02に乗って、チェスターから出撃していった。
テンダスのショッピングモールにて小休止することにしたジン、スバル、カナ。休める場所を見つけて、カナが腰を下ろす。
「街でこんなに歩いたのは久しぶりな気がする・・最近忙しかったし・・」
カナが両腕を伸ばして深呼吸する。
「何か飲み物を買ってくるよ・・あなたの分も買ってきますよ・・」
そこへスバルがカナに声をかけてきた。
「あ、そういえば自己紹介をしていなかったですね。僕はスバル・アカボシ。」
「私はカナ。カナ・カーティア。よろしくね。」
互いに自己紹介をするスバルとカナ。
「オレが買ってくる・・騒がしいのは好きじゃないからな・・・」
ジンが唐突にスバルに声をかけてきた。
「それじゃジン、お願いしようかな・・・」
一瞬戸惑いを見せるスバルだが、ジンに飲み物を買いに行くのを任せることにした。
ジンの姿が見えなくなったところで、カナはスバルに話を切り出した。
「あの、スバルさん・・・ジンに、何があったんですか・・・?」
「えっ・・?」
突然の彼女の問いかけに、スバルが当惑を見せる。
「ジン、ものすごく戦争を憎んでいるようなんです・・自分が許せない相手を見ただけで我慢がならなくなるみたいで・・・私たちには、そのことを話してくれなくて・・・」
「ジンには、僕が話したのは内緒にしてもらえますか・・・?」
ジンの心配をするカナに、スバルが深刻さを込めて念を押してきた。カナは戸惑いを見せるも、彼の言葉を受け入れた。
「ジンは、前の戦争で恋人を亡くしているんだ・・恋人を殺した戦争、恋人を見捨てて自分勝手に振る舞った軍人に、ジンは強い怒りを覚えるようになったんだ・・」
「ジンに、恋人・・・」
スバルが語りかける言葉に、カナが困惑を浮かべる。
「元々真っ直ぐで、心から許さない相手には突っかからずにいられない性格をしているし・・・軍人に暴行して捕まっても、ジンは我慢ができずに暴れていたらしい・・・それから連絡を付けられたのは最近だった・・・」
「ジンに、そんなことが・・・でもジンのあの性格なら納得できるかも・・・」
ジンの過去を打ち明けるスバルに、カナも納得して物悲しい笑みを浮かべる。
戦争と軍のために全てを狂わされたジン。彼は今も戦いへの憎悪から抜け出せないでいた。
「ジンが何かに関わっている・・それが不安に思えてならない・・イヤな予感が・・・」
不安を口にするスバルに、カナも困惑したまま言葉を返せないでいた。
「おい、買ってきたぞ・・・」
そこへジンがジュースを買って戻ってきた。
「あ・・ありがとう・・ジン・・・」
ジュースを受け取ったカナが感謝の言葉をかける。ジンは憮然とした態度を見せながら、自分の分のジュースを口にした。
そのとき、ジンとカナの持っている発信機が振動した。2人はヴァルキリーに何かあったのだと察した。
(まさかこの前のバケモノか・・それとも・・・!)
ジンが敵意を心の中で膨らませて、ヴァルキリアが停泊しているほうに向かって駆け出していった。
「あ、ジン!・・スバルさん、私も失礼します!」
「えっ?・・あ、うん・・ジンのこと、よろしくね・・僕だけじゃ彼の暴走を止められそうにないから・・」
頭を下げるカナに、スバルが戸惑いを見せながら呼びかけてきた。
「難しいかもしれませんが、私もやれるだけのことはやってみますね・・・」
カナはそう答えると、ジンを追うようにヴァルキリアに向かっていった。
ソルディンたちの接近に、整備を続けていたヴァルキリアのクルーたちは気付いていた。
「相当目の敵にされているということか・・あの巨大MAの部隊とは別のようだが・・・現在のヴァルキリアの状況は?」
呟いたところでジャッカルが呼びかける。
「本艦の修復と補給作業は完了しています。ですがスナイパー3機とブレイズの修復が完了していません。」
アンがジャッカルに状況を報告する。
「ゼビルとカナのスナイパーは出せるか?」
「どちらも出撃可能です。ですがカナさんが戻ってきていません。」
アンの報告を聞いて、ジャッカルが迎撃の手段を模索する。そこへゼビルがスナイパーのコックピットから呼びかけてきた。
“私が先に出ます。ジンとカナもすぐに来るでしょうから・・”
「分かった。だが海のほうに出ろ。武力のない街での戦闘は避けろ。」
“分かりました。ゼビル、これより出撃します。”
ジャッカルの指示を受けて、ゼビルがスナイパーでヴァルキリアから発進していった。
発信機からの呼び出しを受けて、ジンとカナがヴァルキリアに戻ってきた。
「やっと帰ってきたか、お前たち・・!」
ドックに駆け込んできた2人にマートンが声をかける。ジンは気に留めずにブレイズに乗り込んだ。
「今度攻めてきたのは誰だ!?」
「地球連合、ソルディンの部隊だ。この前のバケモンの姿はないみたいだが、気をつけろよ。」
呼びかけてくるジンにマートンが呼びかける。ジンはハッチが開かされた先の空を見据える。
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
ジンの駆るブレイズがヴァルキリアから発進する。
「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」
カナもスナイパーでヴァルキリアから出撃した。
人型に変形したブレイズがビームサーベルを振りかざし、ソルディンたちをなぎ払っていく。カナのスナイパーもビームライフルを発砲して、ソルディンたちを撃ち抜いていった。
「ジン、カナ、来たか!」
ジンとカナが駆け付けたことに気付き、ゼビルが声をかける。
「ジン、ブレイズの修復完了は確認されていない。何が起こってもおかしくないことを自覚しておくんだ。」
「関係ない・・オレはこの力で敵を倒すだけだ・・・!」
ゼビルが注意を促すが、ジンは自分が敵と見なした相手を倒す意思を崩さない。攻めてくるソルディンたちを、ブレイズがビームサーベルで素早く切りつけていく。
「万全の状態でないブレイズで、これほどの動きを見せるとは・・本当にすごいヤツだ、ジンは・・」
万全でないブレイズを通常と同等かそれ以上の力を発揮させているジンに、ゼビルは驚きの声を口にしていた。
「私も負けていられない・・あのバケモノが出てきていないのだから、私だって!」
カナもジンに負けじと攻撃を続けていく。テンダスへの被害を避けるため、ヴァルキリアも発進して海上に出てきていた。
ソルディンを撃退していくジンのブレイズ。そこに向かってきたのは、ギルドの乗るソルディンだった。
「アイツ・・・!」
「また出てきたか、小僧!だがここでお前の勝手も終わりだ!」
憤りを膨らませるジンと、敵意をむき出しにするギルド。ブレイズとソルディンが各々のビームサーベルをぶつけ合った。
次回予告
日に日に増していく憎悪。
この怒りの炎は、誰も消すことはできないのだろうか?
過激化するジンとギルドの攻防。
2人の戦いが、最悪の事態を引き起こす。