GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-12「破滅の亡者」
ファントムの右手から高出力のビームが放たれる。ビームはブレイズに向けて迫ってきていた。
「くっ!」
ジンがとっさにブレイズを操作する。人型から戦闘機型に変形したブレイズが一気に加速し、ファントムのビームをかわそうとする。
だがわずかにファントムのビームが当たり、ブレイズが体勢を崩される。
「ぐっ!・・くそっ!」
ジンが強引にブレイズを動かし、安定させようとする。損傷がないに等しい状態だったブレイズは、機体を安定させて飛行していった。
“ジン、大丈夫!?”
カナがジンの乗るブレイズに通信を送ってきた。
「オレがやられると思っているのか?・・オレはこんなところで死ぬわけにはいかない・・・!」
“ジン・・・でも、今のビームで・・・”
自分の意思を貫くジンが、カナの言葉を耳にした途端、周囲の光景を見て思わず息をのんだ。
ファントムが放ったビームは、ブレイズの回避行動によって外れた。だがその先の町や森林をほとんど焦土に変えてしまっていた。
「アイツ・・なんてことを・・・!」
戦闘や攻撃、自分たちの目的のために、命を奪ったり破壊の限りを尽くしたりしてくる軍のやり方に、ジンは怒りをさらに膨らませた。
「お前は必ず、ここで叩き潰す!」
ジンがいきり立ち、ブレイズがファントムに向かって飛びかかる。ファントムの巨体に向けて、ブレイズがビームサーベルを突き出した。
ビームサーベルを突き立てられたファントムの右腕から火花が散る。だがファントムが右腕を振りかざして、ブレイズを振り払う。
「ぐっ!」
ブレイズが軽々となぎ払われ、ジンが衝撃にあおられてうめく。体勢を整えられないでいるブレイズに、ファントムが左手を伸ばしてくる。
だがそのとき、ファントムの左手に向けてビームが飛び込んできた。ビームは弾かれたものの、ファントムが左手を止めた。
カナとゼビルのスナイパーがビームライフルを発砲し、ファントムの注意をそらした。
「ジン、大丈夫!?」
カナがジンに向けて呼びかける。ブレイズがようやく体勢を整える。
「邪魔をするな!コイツはオレが叩き潰す!」
「こんな怪物、1人じゃムリだよ!うまく注意をそらして攻撃したほうが・・!」
怒鳴りかかるジンにカナがさらに呼びかける。ファントムが射撃をしてきたスナイパーたちに振り返り、左手を収納してエネルギーを集めてきた。
「まずい!撃ってくるぞ!」
ゼビルが呼びかけ、カナたちスナイパーのパイロットたちが回避行動を取る。だがファントムの放った左手からのビーム砲「ファントムレイン」にスナイパー数機が巻き込まれて爆発を引き起こした。
辛くも回避したカナが、ファントムの砲撃の威力に戦慄していた。
「この攻撃のチャージの時間は与えるな!発射されれば全滅も免れないぞ!」
「あのバケモノ、どこまで!」
ゼビルが他のパイロットたちに呼びかけ、ジンがファントムへの怒りを募らせる。ブレイズがまたもビームサーベルを構えて、ファントムに飛びかかる。
「ならば頭を叩いて、メインカメラを潰す!」
ジンがファントムの頭部に狙いを絞った。攻撃力が高く巨体だが、パイロットの視界や感覚だけで周囲の状況や動きを全て把握することはできない。彼はそう判断していた。
ブレイズが突き出したビームサーベル。ファントムは回避することができず、光の刃に頭部を切り裂かれた。
(浅い!)
決定打を与えられなかったことに毒づくジン。
そのとき、ファントムが右手から光の刃「ファントム・ビームブレード」を発してきた。巨大な一閃が、ブレイズのビームサーベルを右腕ごとなぎ払った。
「ぐうっ!」
さらなる衝撃に襲われて、ジンが顔を歪める。落下していくブレイズを捕まえようと、ファントムが右手を伸ばす。
だが、突然ファントムの動きが止まった。ファントムを捕まえようとせず、動きも覚束なくなる。
「何・・どうしたの・・・!?」
ファントムの異変にカナが声を荒げる。ファントムはその場でふらついて、攻撃を行おうとしない。
そしてファントムが浮遊し、戦艦の形態へと戻っていった。そのままファントムはブレイズやスナイパーたちの前から去っていった。
「何があったっていうの・・・!?」
「分からない・・トラブルでも起こしたのか・・・!?」
カナとゼビルが言葉を交わす。追撃しても返り討ちにされることが分かっていたため、スナイパーは全機、ファントムを追おうとはしなかった。
“全機、帰艦してください。私たちも一時撤退します。”
そこへヴァルキリアからアンの通信が入ってきた。スナイパーがヴァルキリアに戻っていく中、飛行を保っているブレイズにて、ジンがファントムの去っていったほうを見据えて憤っていた。
(やられた・・無差別な破壊をしてくるアイツを、倒すことも止めることもできなかった・・・!)
怒りを抑えることができず、ジンがコックピットの壁を叩いた。
“ジン、戻るよ・・そんな状態のブレイズじゃ、戦おうとしても戦えないよ・・”
「うるさい!」
カナが呼びかけてもジンは怒りを治めることができず、ヴァルキリアの戻るまでしばらく時間を置いた。
突然のファントムの異変と帰還。それはパイロットの異変にあった。
ファントムに搭乗していた少女は、頭に押し寄せてきた苦痛に苦しめられ、操作をすることができなくなっていた。
「まさかここで薬が切れるとは・・すぐに終わると過信していたか・・・」
ヴァルキリアを攻め落とせなかったことに、レックスが毒づく。少女は研究員から薬を与えられて、心身ともに安定していた。
特別育成班が育成、調整したパイロットは、身体強化剤や神経活性剤といった様々な薬を投与されている。中には断続的に投与しないと命を落とすことになるものもある。
特別育成班のパイロットは、班への反逆も班からの逃亡も許されないのである。
「ファントムの戦闘力は高いが、動かすパイロットの能力の持続は無尽蔵ではない、ということだ・・だが今度は過信も慢心もしない。万全の態勢で臨むとしよう・・・」
不敵な笑みを浮かべたレックスが振り返り、研究員たちに呼びかける。
「パイロットには十分な休養をさせろ。その間にファントムの整備を完了させるのだ。」
「了解。」
特別育成班が少女の再調整とファントムの整備に向かった。
(今のうちに尻尾を巻いて逃げることだ。でなければ今度こそファントムの手にかかり、滅びることになる・・)
レックスが心の中で、ヴァルキリーせん滅への野心を強めるのだった。
ファントムの攻撃による居住区や森林地帯の破壊。この事態はニュースで世界に伝わることになった。
だが明確な情報がほとんど得られず、さらに報道管制が敷かれていたこともあり、破壊は連合やファントムの仕業ではなく、災害としての知らせとなった。
戦闘の当事者であるヴァルキリーや地球連合、さらにはリード、それぞれの軍や部隊のみ、真実が伝わっていた。地球に向かっていたクレストのクルーたちにも、その情報は伝わっていた。
「あんなものが出てくるとはね・・」
「攻撃力、破壊力だけなら、タイタンのトライデストロイヤーに迫るものがありますね・・」
ファントムの機影と戦闘をモニターで確認して、マリアとソワレが呟きかける。
「でもあれだけの巨体です。捕まればやられる危険が大ですが、スピードでかき回すことは可能でしょう。それに・・」
「どこかに弱点はある。攻撃を仕掛ければバランスを崩せる、表面的な弱点が・・」
「でもザクやグフなどでは、あのMAの攻撃を回避できるスピードは出しきれないでしょう・・」
「でも、ゼロなら・・・」
意見を交わしていくソワレとマリア。言いかけたところで、マリアがモニターに映し出されたブレイズを目にする。
「ゼロ以外に、そのスピードを出している機体があるわ・・」
「えっ・・・?」
微笑みかけるマリアの言葉を耳にして、ソワレもモニターのブレイズを目にした。
「あのMSが、あの部隊の主力のようですね・・・」
ブレイズへの警戒を胸に秘めるソワレ。そこへガルが現れ、2人に声をかけてきた。
「そろそろ入港だ。準備を済ませておくように。」
ファントムの脅威に、カナもユウも動揺の色を隠せなくなっていた。
「まさかあんな怪物が出てくるなんて、聞いてないよ・・」
「私も今回は生き延びられるとは思えなかったよ・・」
ユウとカナが肩を落として、ため息混じりに言いかける。
「ところでジンは?また部屋に閉じこもっているの?」
「そうみたい・・あんな怪物、敵わなくてもおかしくないのに・・むしろあれだけ果敢に攻め込んだだけでもすごいことなのに・・・」
ユウが訊ねると、カナが困り顔で答える。
「どんな相手だろうと敵は倒す。それがジンの考えだ・・」
そこへゼビルが2人に声をかけてきた。
「それができないことが、ジンにとって我慢ならないことになっている。たとえ敗れて当然と思える相手であっても・・」
「そうか・・・そうだよね・・ジン、いつもそんな感じで戦ってきたよね・・・」
ゼビルが告げた言葉にユウが納得する。そのそばでカナは深刻さを募らせていた。
「ジン・・・私やみんなを置いて戦って、何をしようとしているんだろう・・・?」
敵を倒すためにひたすら戦いに飛び込んでいくジンを放っておくことができず、カナは困惑を膨らませていた。
ファントムとの戦いから戻った後、ジンは自分の部屋に閉じこもっていた。彼はファントムを仕留められなかったことに、憤りを抑えられなくなっていた。
(あんなものまで持ち出してくる軍・・どこまで自分勝手に、破壊の限りを尽くせば気が済むんだ・・・!?)
ファントムや軍隊への憎悪を噛みしめるジン。彼の手にはミナのロザリオが握られていた。
(ミナ・・たとえ進もうとする道を大きく阻む壁があっても、オレはその壁を突き破る・・でないとミナ、お前は・・・)
ミナの死と悲しみも膨らませていき、ジンは思わず涙をこぼしていた。
ジンは気持ちを落ち着かせようと、おもむろに自分の携帯電話を取り出す。着信履歴にはスバルからの着信が残っていた。
ジンはスバルに電話をかけた。するとすぐにスバルの声が入ってきた。
“もしもし、ジン・・よかった、うまく連絡が取れて・・”
「どうしたんだ、スバル?・・何か用か・・・?」
“うん・・ジン、今どこにいるんだい?僕たち、明日にテンダスに出かけることになったんだ・・”
ジンが訊ねると、スバルが逆に聞き返してきた。
(テンダス・・ヴァルキリーを整備させる地点の近くにある街だ・・・)
ジンが記憶を巡らせて、テンダスについて思い返す。
「まだ決まってはいないが、オレもテンダスには行けると思う・・」
“よかった・・当日になったらまた連絡するよ・・”
「アイツも一緒なのか・・・?」
スバルが安堵を込めた返事をすると、ジンが警戒を込めた質問を投げかける。
“もしかしてフィーのこと?・・行きと帰りは一緒だけど、同窓会に出るからその間は別行動になってる。呼び出しがあるまでは一緒にいられるよ・・”
「そうか・・オレもまた会えればと思ってる・・・じゃ、また連絡する・・・」
スバルとの連絡を終えて、ジンが携帯電話をしまった。
(スバルは冷静だな・・オレが軍や戦争を憎んでいることを知っているのに・・・)
ジンが心の中でスバルについて考える。
(いや・・アイツも冷静というわけじゃない・・アイツもオレと同じように、戦争をよく思っていない・・ただ・・)
ジンは手にしていたロザリオをしまって、部屋を出た。
(アイツは逃げている・・戦争から、このムチャクチャな現実から目を背けてる・・・)
ファントムの強襲から一夜が明けた。艦体や武力の修理や整備のため、ヴァルキリーは秘密裏の施設に停泊することとなった。
ヴァルキリーのパイロットは連絡が入るまで自由時間となった。その知らせを聞いて、ジンはスバルに連絡を入れた。
「オレは大丈夫だ。そっちに行けそうだ・・」
“よかった・・中央広場に時計塔があるから、そこで待ち合せよう・・”
「本当にアイツは来ないのか?」
“もうフィーは同窓会に行ったよ。スクールの知り合いと一緒に行くのを僕は見送ってるからね・・”
念を押してくるジンに、スバルが苦笑いを込めて答えた。
「そうか・・それならいい・・・」
“あんまりフィーを邪険にしないで・・っていっても、ジンは聞いてくれないのは分かっているし、フィーがあんな性格だから説得力もないしね・・”
安堵の言葉を口にするジンに、スバルがさらに苦笑いをしてきた。
“それじゃ、また後で・・”
「あぁ・・・」
スバルとの連絡を終えて、ジンがテンダスに出かけようとする。
「ジンもテンダスに行くの?」
そこへカナが声をかけ、ジンが足を止める。
「どこへ行こうとオレの自由だ・・」
「それはそうなんだけど・・テンダスだったら一緒に行こうかなって・・」
「ついてくるな。オレはお前といるつもりはない・・」
カナの誘いを聞き入れようとせず、ジンは歩き出していった。
(ジンが何を考えているのか、この際はっきりと確かめないといけないかも・・)
ジンを気にするのを諦めきれず、カナはこっそりと彼の後をついていくことにした。
北西エリアにある街「テンダス」。軍事施設が点在しているものの、にぎわいと流通であふれた市街のひとつに数えられている。
時計台のある中央広場に、スバルは来ていた。待ち合わせの場所にするなら、この広場が1番分かりやすいと思ったからである。
(フィー、あの様子なら楽しんでいるだろうね。僕のことも忘れるくらいに・・)
同窓会に行ったフィーアのことを気にするスバル。だが彼の表情がすぐに曇った。
(また世界が混乱に陥っている・・僕やフィーのそばで起きていないだけで、どこかで誰かが死んだり、戦ったりしている・・戦うことじゃ、世界が安定することも平和が戻ってくることもないのに・・・)
世界の混乱や戦争を考えて、胸を締め付けられるような気分に陥っていくスバル。
(自分が何とかしないといけないのかもしれない・・でもどんな理由でも、戦うことは絶対に正しくならない・・・)
何とかしたい気持ちとしてはいけない気持ちの板挟みにあい、スバルは苦悩を深めていくのだった。
何とか気持ちを落ち着けたところで、スバルはジンがやってきたのを目にした。
「ジン・・・よかった、うまく会えて・・・」
「オレはあまり騒がしいのは好きじゃないんでな・・だがあまり贅沢も言ってられないし・・」
微笑みかけるスバルに、ジンが憮然とした態度を見せる。
(ミナとの楽しい時間を思い出してしまう・・もう2度と戻らない時間なのに・・・)
心の中でミナとの思い出を思い出して、ジンが悲しみを募らせる。ミナのように悲劇を体感させないためにも、彼は戦うことを、敵を倒すことを心に秘める。
「ところで、何か用があったんだろう?まさか男2人で買い物しようなどと、気持ちの悪いことを言うんじゃないだろうな・・?」
「買い物じゃないけど、何かゲームぐらいしても・・」
眉をひそめるジンに、スバルが優しく声をかける。
「それに、誰かついてきているみたいだし・・ジンのことを見てるし・・」
「何?」
スバルが口にした言葉を聞いて、ジンが後ろに振り返る。彼らは物陰に隠れているカナを目にした。
次回予告
ジンの親友、スバル。
彼の素性と心情を目の当たりにするカナ。
スバルの口からカナに語られるジンの心。
彼らの束の間の休息を打ち砕く、新たなる攻撃。