GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-11「ファントム」
パイロット特別育成班がヴァルキリー迎撃を請け負ったという知らせは、チェスターにも伝わっていた。その艦内で、ギルドだけが納得していなかった。
「なぜ・・なぜあのような連中に、ヤツらの討伐を・・・!?」
ギルドが我慢できずに右往左往し、声を荒げる。
「どこの馬の骨とも分からないヤツらに、我々の任務を取られてたまるか!」
「少しは落ち着いたどうですか、ギルド少佐・・」
そこへマアムがなだめてきたが、ギルドは苛立ちを抑えきれずにいる。
「私たちは軍人です。上層部の判断に、私たちは絶対に従わなければなりません。たとえ納得できないことであっても・・」
「しかし、これでは我々の立場が・・!」
「ここで出しゃばれば、それこそ立場を理解していない人の行動となるのですよ。身の程をわきまえなさい。」
言い返してくるギルドだが、マアムに言いとがめられる。納得していないギルドだが、返す言葉が見つからずに反論できずにいた。
「ここは特別育成班のパイロットの実力を確認させてもらいましょう・・ですが・・」
マアムが言いかけて、特別育成班のパイロットに関するデータに目を通した。だがそのほとんどが記載されておらず、詳細不明となっていた。
「どのような人物がパイロットなのでしょうか・・人道的に問題がなければいいのですが・・・」
マアムも不安を感じずにいられずにいた。しかし彼女は軍人としての責務を全うしようと、冷静かつ毅然とした態度を振る舞った。
特別育成班の調整施設にて、1人の少女が戦闘シュミレーションを行っていた。巨大兵器の搭乗を想定してのシュミレーションだった。
少女は表示されていくターゲットを的確に仕留め、さらに指示された操作も的確に行っていった。
「この勢いなら適合率95%越えも夢ではないな。だがくれぐれも最新の注意を払うように。」
「もちろんです、班長・・それにしても、私も楽しみになってきましたよ。彼女の戦闘力が仮想ではなく実際に発揮されるときが来るのですから・・」
少女の様子を見て、レックスと研究員が言葉を交わす。
「まずはヴァルキリーを相手に力を見せつける。そして恐れをなしたリードを一気に攻め立てる。こうして我々は旧人類の英雄となるのだ・・」
野心を膨らませて不敵な笑みを見せるレックス。
「新兵器のチェックも怠るな。せっかくの使い手も、剣が錆び付いていたら意味がないからな・・」
研究員たちに呼びかけると、レックスは部屋を後にした。
レックスや研究員たちの企みを全く気に留めず、少女は黙々とシュミレーションを重ねていった。
対ヴァルキリーの迎撃態勢のため、クレストは発進準備を整えた。ソワレとマリアもゼロとルナの最終チェックを終えて、いつでも出撃できるようにしていた。
「まずは表立って戦闘を行っているヴァルキリーに接近する。だが攻撃ではなく、戦闘停止の呼びかけを優先させる。」
ガルがクレストのクルーたちに指示を出していく。
「ソワレ、マリア、十分自覚していると思うが、特にお前たちは注意してもらいたい。ゼロとルナは戦闘力の高いMSだからな・・」
「分かっています・・僕たちもそのつもりで出撃に当たります・・・」
ガルの警告にソワレが深刻さを浮かべて答える。
「武力の排除を目的としていると思っていたが、人の命を奪うことにも迷いがない。パイロットだけでなく民間人まで・・」
「そのことには僕も納得していないです。無関係な人まで傷つけて、平和が訪れるとはとても思えません・・」
「くれぐれも慎重にな、何度も言うが・・今まででも慎重にならないといけないことは多々あったが・・・」
「ヴァルキリーとは関係ないと思いますが・・・あの2人もどんな手に出てくるか・・・」
ガルの言葉を聞きながら、ソワレはかつての戦争で激闘を繰り広げた相手を思い返していた。
「2人がこの戦いで出てこないとは言い切れない・・このときは今度こそ・・」
「ソワレ、私情に囚われすぎるな。状況判断がおろそかになるぞ・・・」
歯がゆさを浮かべるソワレに、ガルが注意を促す。我に返ったソワレが深刻さを募らせる。
「すみません、艦長・・・」
「気にするな・・任務を忠実に遂行することが要求される軍人も、心ある人間だ。全く迷わずにいるのはムリというものだ・・」
謝るソワレにガルが弁解する。
「そろそろ発進だ。お前たちも備えてくれ。」
「分かりました・・・」
ガルの呼びかけにマリアが答える。ヴァルキリーの戦闘を止めるため、クレストはプラネットGから地球に向けて発進していった。
その頃、ヴァルキリアは地球連合、リードの基地や軍事施設を次々に攻撃していった。迎撃態勢を敷いていた連合、リードだったが、ジンの駆るブレイズの高い戦闘力を止めることはできずにいた。
数々の戦果を上げているジンだが、未だに安らぎが戻っていなかった。
(まだだ・・まだ敵はいる・・ミナを殺したアイツもまだいる・・・)
「地球連合の迎撃に違和感を感じないか・・?」
心の中で呟いていたところで、ジンはゼビルに声をかけられた。
「リードは各々が全力の攻め方をしてきたが、連合軍はオレたちを迎え撃ってきた戦力が少なすぎる。何かを企んでいるように思えてならない・・」
「関係ない。敵が何をしてこようと、オレは全て叩き潰すだけだ・・」
地球連合に対して警戒心を強めるゼビルだが、ジンは自分の考えを貫くだけだった。
「お前は迷いがなくていいな・・だがくれぐれも罠に落ちるようなことがないようにな・・」
「罠も破る・・それ以外にオレのすることはない・・・」
ゼビルが忠告しても、ジンは頑なな態度を崩さなかった。
(戦うこと、敵を倒すことに固執していて、周りの言葉に動じることもない・・戦闘において重要だが、それが裏目に出なければいいが・・・)
ジンに対する称賛と不安を感じていくゼビル。彼の心境を察することなく、ジンは彼の前を去っていった。
特別育成班の課した全ての課題をクリアして、少女は正式に新兵器のパイロットに選ばれることとなった。
「適合率、98.86%。全ての操作もシュミレーションでは全てこなしている。この結果からの信頼により、君をこのパイロットに認定した・・」
レックスが少女に向けて淡々と声をかけていく。
「君が遂行する戦いは、負けることは決して許されないもの。だが成功させれば我々は栄光の道を歩むことができる。そのことを十分理解してもらおう・・」
レックスの言葉を聞いて、少女は小さく頷いた。笑みをこぼしたレックスが、オペレーターに声をかけた。
「ヴァルキリーの行方はつかめたか?」
「エリアポイント7437を北西に向かって飛行中。ヴェスタ基地を狙っているようです。」
「近くにいたとは好都合だ・・ファントムを発進させろ!」
レックスが命令を下し、少女が新兵器のコックピットに乗り込んだ。
特別育成班が用意した戦力。それは巨大MA「ファントム」だった。
ヴァルキリアのレーダーは、次の標的である地球連合基地「ヴェスタ」を捉えていた。
「もうすぐ目でも見える頃か・・パイロットは出撃準備。といっても、またジンが勝手に先陣を切ることになるが・・」
「そうなりますね・・ジンさん、全然言うこと聞かないですから・・」
指示を出すジャッカルにアンが微笑みながら答える。
「これまで世界に散らばる武力を叩いてきたが、まだまだ武力は残っている。それでも我々は叩かなければならない。本当の世界の平和のために・・」
「こちらに接近する熱源あり!高いエネルギー量です!」
決意を口にしていたジャッカルだが、突然アンが声を上げてきた。モニターにもヴァルキリーに向かってくる機影が映し出されてきた。
「何、あれ・・・戦艦・・・!?」
アンがその機影を目にして、困惑を浮かべる。その形状と大きさは戦艦を思わせるものとなっていた。
「新手の攻撃部隊か。地球連合の部隊であると見て間違いないだろう・・」
呟くジャッカルが戦艦に対して警戒を強める。
「エネルギー量、増大!攻撃を仕掛けてくる模様!」
「回避!」
アイナの言葉を受けて、ジャッカルが指示を出す。ヴァルキリアが左上に向けて回避行動を取ったとき、戦艦から大量のビームが放たれた。
ビームは回避していたヴァルキリアから外れ、さらに近くの地上に次々と命中していった。
「地上にもビームを仕掛けてくるなんて・・・!」
「そこには居住区があるというのに・・暴走でも起こしているのか・・・!?」
アンが声を荒げ、ジャッカルも毒づく。戦艦の射撃で、地上の町や村が火の海と化していた。
「あの戦艦を排除すべき武力と断定!パイロットは出撃!戦艦を攻撃し、活動停止させろ!」
ジャッカルが指示を出し、ヴァルキリア艦内は騒然となった。アンとアイナが戦艦のデータの収集に尽力した。
出現した戦艦の突然の射撃に、ジンたちも気付いていた。
「今度はあんなものを持ち出してくるとは・・何者かは知らないが、ヤツを野放しにするつもりはない・・・!」
憤りを覚えたジンが、ブレイズのコックピットに乗り込んだ。同じくスナイパーに乗り込んだゼビルとカナが、ブレイズに通信を送ってきた。
“今度の敵は得体が知れない。迂闊に動くと一瞬にして木っ端微塵になるぞ。”
「関係ないと何度も言わせるな。どんな敵だろうと、敵である以上は倒すだけだ・・」
ゼビルの注意にジンは敵意を揺るがせない。
“でもあれだけの出力のビーム・・いくらブレイズでも・・”
「よけられないというのなら、撃たせずに叩き潰すだけのことだ・・・」
カナも声をかけるが、ジンはそれでも自分を貫く。
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」
「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」
ジンのブレイズ、カナとゼビルのスナイパーがヴァルキリアから発進する。なおも前進してくる戦艦に向かって、ブレイズとスナイパーがビームを発射する。
だがビームが命中しても戦艦は傷を負うことはなく、速度が揺らぐこともなかった。
「ホントに頑丈ね・・このくらいじゃ全然効かない・・・!」
「だが接近しても格好の的になるだけだ・・・!」
カナとゼビルが戦艦の戦力に脅威を覚える。
「接近するのは危険だ。効果は薄いが、ここは距離を取って攻撃を・・」
ゼビルがカナたちに呼びかけていたときだった。ジンの駆るブレイズが、戦艦に接近していき、距離を詰めてからビーム攻撃を仕掛ける。
「ジン、近づいたら危ないって!」
カナが呼びかけるのも聞かずに、ジンが戦艦に射撃していく。だが接近してのブレイズのビーム射撃も、戦艦の艦体に弾かれてしまう。
「狙撃のビームそのものが効かないのか・・ならば!」
ジンが思い立ち、ブレイズが人型へと変形する。そしてブレイズはビームサーベルを引き抜き、戦艦に直接斬りかかった。
光の刃と艦体が衝突した瞬間、ジンは戦艦を包んでいる光の膜を目撃する。
「ビームのバリア・・だから射撃が効かなかったのか・・・!」
戦艦の耐久力の正体を見出したジン。ビームの衝撃で突き飛ばされるも、ブレイズは空中で体勢を整える。
「攻撃が通じないわけではない・・通じないと言われようと、押し通すだけだ!」
ジンがいきり立ち、ブレイズが再び戦艦に向かって飛びかかる。
そのとき、戦艦の艦体が変化を見せた。変形を行い、その姿は人型となっていった。
「これは・・・!?」
「MS!?・・・ううん、MAよ・・・!」
戦艦が変形した姿に、ゼビルとカナが声を荒げる。MAは地上に着地し、轟音と砂煙を巻き上げた。
「兵器だったの、あれ・・・!?」
「あのようなMAを出してくるとは・・・!」
アイナとガルが声を荒げる。MAはヴァルキリアに向かってゆっくりと前進していった。
「あれだけの大きさなら、どう攻撃しても当たる・・・!」
ジンがブレイズを駆り、MAに攻撃を仕掛ける。だがビームサーベルで切りつけても、ブレイズはMAの胴体に傷を付けることができなかった。
MAがブレイズに向けて右手を伸ばしてきた。ジンは即座に反応し、ブレイズが加速してMAの右手から逃れる。
「捕まえれば勝ちと思っているのだろうが・・スピードは上のようだな・・」
ジンがMAを見据えて呟きかける。
「パワーでも、オレはお前に勝ってやる!」
ジンがすぐにいきり立ち、ブレイズがさらにMAに向かおうとする。だがその行く手を駆け付けたソルディン02の放ったビームにさえぎられる。
「くそっ!邪魔して・・!」
ジンが苛立ち、向かってきたソルディンをブレイズが迎え撃つ。ブレイズがビームサーベルを振りかざし、ソルディンの胴体を切り裂いていく。
「オレの前に現れて、無事で済むと思うな!」
軍への敵意を膨らませて、ジンが叫ぶ。ブレイズの機動力と攻撃力に、地球連合のパイロットは心身ともに追い詰められていった。
ヴァルキリアとの交戦に突入した地球連合。特別育成班の介入により、レックスも戦闘の様子をうかがっていた。
「ヴァルキリー、我々の戦力に驚いているようだな。動きに鈍りがある・・」
MAと交戦するヴァルキリアを見据えて、レックスが不敵な笑みを浮かべる。
(だが驚くのはこれからだ。これから味わう地獄の苦しみに比べれば、本当の地獄の苦しみなど手ぬるい位だ・・)
「ではそろそろ、ファントムの本当の力を見せつけてやるときだ・・・!」
レックスがMA、ファントムに向けて命令を下した。
ジンたちの前に立ちはだかったMA、ファントム。戦艦型と人型の2つの形態を併せ持っている。
攻撃力、破壊力ではこれまで投入されてきた兵器の中でも1、2を争う高さを備えている。真っ向勝負で敵う戦力は、戦艦クラスを含めてもあるかどうかも怪しいとされている。
その圧倒的な戦力を備えたファントムに、ジンは動じることなくブレイズを動かす。だがブレイズが何度ビームサーベルを叩きつけても、ファントムは応えていなかった。
「切りつけても効き目がないのか・・だったら突いて・・!」
ジンがファントムにさらなる攻撃を加えようとした。
そのとき、ファントムの右手が腕の中に突然収納された。その右腕にエネルギーが集まっていく。
「何だ・・何を仕掛けてくるつもりだ・・・!?」
ファントムの動きにジンが眉をひそめる。エネルギーを集めた右腕を、ファントムがブレイズに向けてきた。
「これは、ビーム砲か!」
ジンが声を荒げた瞬間、ファントムが右腕から高出力のビームを発射してきた。放たれた閃光に照らされて、ブレイズの機影が白んだ。
次回予告
ジンの前に立ちはだかった巨大な戦力、ファントム。
その強大な攻撃力の前に、ヴァルキリアは追い詰められていく。
怪人は破壊の権化か、それとも世界の救世主か。
その疑問さえも、怪人の放つ光の中に消えていく。