GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-10「変わる世界」

 

 

 ドム3機の猛攻を跳ね返し、撃退に追いやったジン。怒りに駆り立てられていたジンは、戦闘の最中に意識を失った。

 カナのスナイパーによってヴァルキリアに収容されたブレイズ。ジンが目を覚ましたのは、医務室に運ばれて3日後の朝だった。

「やっと目が覚めたようね・・」

 体を起こしたジンに、医務官が声をかけてきた。

「オレは・・・ここは・・・?」

「ヴァルキリアの医務室よ。あなたは戦闘中に気絶して、それから3日近く眠っていたのよ・・」

 頭に手を当てるジンに医務官が説明する。

「まさか、オレはやられたのか・・・!?

「ううん、その逆。大活躍といったところよ。あの3機にやられそうになったとき、あなたは猛反撃に出て、そのうちの2機を撃破。ザクや他の機体も次々に落としていったのよ・・」

「オレが、ヤツらを・・・?」

「覚えていないの、自分のしたことを・・?」

 眉をひそめるジンに、医務官が疑問を投げかける。

「分からない・・自分が倒した実感があるのかないのかも・・・」

「よほど夢中になっていたのね・・それともプッツンと切れてしまったのかも・・」

 記憶がはっきりしないジンに、医務官が微笑みかける。

「リードも撤退して、攻撃してくる敵の反応もここしばらく探知されていないわ。次の出撃までの間まで休養することね・・」

 医務官はジンに呼びかけると、医務室から退室していった。1人になった医務室で、ジンは自分の身に起きた記憶を探っていく。

(ヤツらを倒した実感が湧かない・・それだけの力を持ったという実感も・・・)

 ジンが見つめていた自分の右手を握りしめていく。

(確かにオレは力を手にした・・ブレイズの戦闘力と、思うように動かせるだけの技術も・・だがオレはあの軍人を攻め切れなかった・・あの3機の攻撃にも、現に押されていた・・)

 これまでの自分を振り返って、ジンが歯がゆさを感じて顔を歪める。

(記録の映像を見ても納得できないかもしれない・・本当に無我夢中だったということか・・・)

 爆発させた怒りに駆り立てられてリードのMSを次々に撃墜していった自分の行為を、ジンは素直に受け入れることができなかった。

(だがそれが、オレが求めていた、敵を倒す力だとするなら、オレはその力を思うように扱えるようにならないといけない・・・やってやる・・敵を倒すためなら、オレはそれをやってやる・・・!)

 迷いを振り切り、自分が憎む敵を倒す決意を強めていくジン。彼はこれからも戦いを続けていくことにためらいを持ってはいなかった。

 

 医務官によって、ジンの意識が戻ったことがジャッカルに伝えられた。その話は噂のようにすぐにヴァルキリア艦内に広がることになった。

「ジン、目が覚めたんだね・・よかった・・・」

 ジンの無事に、カナが安堵の笑みをこぼす。

「だがすぐに会いに行かないほうがいい。まだジンの状態がどうなっているのか、はっきりしていないからな・・」

 ジンに会いに行こうとしていたのを読まれ、カナがゼビルに呼び止められる。

「それに問題がなくても、ヤツがお前に仲よく話をしてくれるはずがないがな・・」

「はっきり言わないでよ、ゼビル・・余計気まずくなるじゃない・・・」

 ゼビルに言われてカナが肩を落とす。

「気を遣ったところで何にもならないことが分かっているからな、ジンにもお前にも・・」

 しかしゼビルは淡々と言葉を投げかけるばかりだった。

「いいよ・・ばったり会ったときに声をかけるから・・」

 カナは不機嫌な態度を見せながら、ゼビルの前から去っていった。

 

 ガール基地に滞在しているクレスト。その艦の近くにソワレとマリアはいた。

 2人ともカルラ隊がヴァルキリアに大敗した知らせを耳にしていた。

「本当に侮れなくなったわね、ヴァルキリー・・」

「はい・・グフ、ドム、量産型の可能性を持った2種のMSが加わっても敗れたのですから・・」

 マリアが呟くと、ソワレも深刻さを込めた言葉を口にする。

「やはり僕がやるしかないのか・・できることなら避けたいところだけど・・・」

「ヴァルキリーのあの勢いを止められるのは、並みの機体や武装では難しいわ。確実に食い止めるにはソワレくん、あなたの・・」

 躊躇を見せるソワレにマリアが言いかけたときだった。

「久しぶりだな、ソワレ、マリア。」

 2人は声をかけられて振り返る。軍服に身を包んだ1人の男がやってきた。

「ガル艦長・・お久しぶりです。」

 マリアがソワレとともに敬礼を送る。

 2人の前に現れたのはクレスト艦長、ガル・ビンセント。2人を自分の部隊に引き抜いたのも彼である。

「そうかしこまらなくてもいい。お前たちは昇級して、さらに立派になったのだからな。」

「それでも艦長が僕たちの上官であることに変わりはありません。」

 互いに弁解を口にするガルとソワレ。

「MSの整備とチェックは全て完了している。ソワレ、マリア、お前たちのもな・・」

「すみません、お手数をおかけして・・本当は私たちがやらないといけないことなのに・・」

 報告をしてくるガルに、ソワレが謝意を示す。

「いや、気にしなくていい・・ただ、最後の最後では見てもらわないといけないが・・」

「自分の乗る機体です。自分がチェックをいれないとダメですよ・・」

 ガルが投げかけた言葉に、マリアが微笑んで答える。

「早速チェックに入ります。もうクレストの中ですよね?」

「あぁ、そうだが・・すっかりその気だな、お前たち・・・」

 訊ねるソワレにガルが笑みをこぼす。3人はひとまずクレスト艦内に足を踏み入れた。

 

 ますます過激化に向かうヴァルキリーの戦闘に、スバルは困惑の色を隠せなくなっていた。

「ヴァルキリーのために、また戦争が起こっている・・・」

 混迷していく世界の情勢に、スバルは塞ぎ込みたくなる気持ちを膨らませていく。

「これ以上、何も起こらなければいいんだけど・・・」

「何、辛気臭い顔をしてんのよ!」

 思い詰めていたところで、スバルが背中を思い切り叩かれる。不意の衝撃でスバルが思わずせき込む。

 彼の後ろにいたのはフィーアだった。

「フィー、ビックリさせないでよ・・何か起きたかと思ったよ・・」

「何よ!せっかくあたしが喝を入れてあげたのにー!褒められても文句を言われる筋合いはないわよ!」

 肩を落とすスバルに、フィーアが不満を口にする。

「戦争はあたしもイヤだけど、あたしたちがいる場所に飛び火してるわけじゃないでしょ。だったらまだまだ安心できるって♪」

「もう、フィーったら・・他人事だと思ってるんだから・・・」

 明るく振る舞うフィーアだが、スバルは気落ちするばかりだった。

「それにしても、あのジンってヤツ、まだ我慢がならないわ!女を殴る男って最低よ!」

 フィーアがすぐさま不機嫌な態度を見せてきた。

「フィー、相当ジンを根に持ってるんだね・・確かに物騒なところもあるけど、真っ直ぐなところも間違いないよ・・・」

「いいえ、物騒なだけよ!あんな物騒なヤツ、天罰が下ればいいのよ!」

 微笑んで言いかけるスバルに、フィーアが詰め寄って怒鳴りかかる。彼女が全くジンを毛嫌いしていることに、スバルは肩を落とすしかなかった。

「でもジンは、ヴァルキリーの行動をどう思ってるのかな・・・?」

 スバルが唐突にひとつの疑問を呟く。しかしフィーアは聞いておらず、誰もその答えを返してはくれなかった。

 

 旧人類とオメガ。大きな確執によって戦争状態が続き、両者は和解どころか、話を交わすこともなかった。

 だが両者とは別の勢力、ヴァルキリーの介入により、世界の情勢と戦争の戦況は大きく混乱した。ヴァルキリーは地球連合やリード双方を敵に回し、その武力をことごとく破壊していく。

 その戦力は連合やリードに勝るとも劣らないもの。しかも日に日に底力の片鱗を見せつつある。

 ヴァルキリーの脅威を食い止めるべく、地球連合とリードは協定のための会議を持ちかけることとなった。敵対していた両者の対面は、緊張感の高いものとなっていた。

 だが騒動や大きな対立が生じる様子は見られず、会議を開くことができた。

「まさか我々がこうして顔を合わせて話をするときが来るとは・・・」

「ここまでの対立だ。本来ならばこの瞬間は奇跡の中の奇跡・・だがヴァルキリーと名乗る連中が脅威となっていることは、お互い分かっていることでもある・・」

 地球連合、リードの代表者が言葉を交わしていく。険悪な空気を残したまま、会議は進められていく。

「ヴァルキリーのMSの性能も決して低くはない。」

「特にドム3機を撃破したあのMS・・ドムを倒したときの動きは恐怖を感じるほどだった・・」

「量産型でヤツらと交戦するのは無謀というもの。もはや上級レベルの戦力を投入するしか、ヤツらに太刀打ちできん・・」

「そう・・フューチャーやゼロのような・・・」

 言葉を交わしていく中、代表者たちは戦争の勝敗の鍵を握った2機のMS、フューチャーとゼロを思い出した。どちらもリードが開発した高性能のMSだが、そのうちフューチャーが強奪され、2機の一騎打ちが起こることとなった。

 両機の攻防は一進一退だったが、その強さは他のMSの追従を寄せ付けないほどであることは、この戦争を体感した者は十分理解していた。

「フューチャーの行方は依然知れず・・ここはやはりゼロに、ソワレ・ホークスに・・」

「それならば我々に一任していただきたい・・」

 リードの代表が案をまとめようとしたとき、1人の男が声をかけてきた。白髪の長身をしており、黒いスーツに身を包んでいた。

「地球連合軍、パイロット特別育成班、レックス・チェイサーです。ヴァルキリー討伐のための人材と戦力、こちらで用意させてもよろしいでしょうか?」

「自信はあるのかね?ヤツらの戦力は決して侮ってはいけないものだぞ・・」

 男、レックスにリードの代表者が注意を呼び掛けてくる。しかしレックスは悠然とした態度を崩さない。

「あのような者たちは、2度と牙を向けることがないように徹底的に叩く必要があります。そのための戦力と人材が、こちらにはあります。」

「いいだろう。地球連合の特別育成班のお手並み、拝見させてもらうとしよう・・」

 レックスの申し出をリードの代表が了承した。

「だがこちらもそれなりの備えはさせてもらう。ヴァルキリーの矛先は、我々にも向けられているのだから・・」

 リードの代表が付け加えると、レックスは会議場を後にした。特別育成班に一任する一方、リードも警戒態勢の維持を決めるのだった。

 

 休養を言い渡されたが、じっとしているほうが気分が悪くなると思い、ジンは整備ドックに足を運んだ。彼が来たことに気付いて、シュミレーションをしていたカナが手を止めた。

「ジン、大丈夫だった?・・何ともないの・・・?」

「オレがあのくらいのことでダメになってたまるか・・・」

 心配するカナに、ジンが憮然とした態度を見せる。

「あの3機は倒れたそうだが、まだこの世界には敵がいる・・ヤツらがいる限り、オレは戦いをやめるつもりはない・・・」

「だったら、私も戦うよ・・私だってヴァルキリーの一員なんだから・・・」

「オレはお前たちの仲間のつもりはない。敵を倒すためだけにここにいる。もしもお前たちが敵対していると思ったら、オレは容赦なくお前たちも倒す・・・!」

 力になろうとするカナだが、ジンは自分の戦いを続けようとする。

「ジン・・どうしてそこまで戦おうとするの!?・・理由ぐらい教えてくれても・・・!」

「お前も分かっているだろう?この世界を狂わせている敵がいる・・敵を倒さなければ、平和なんてやってこない・・・!」

 声を荒げるカナだが、ジンは憤りを込めた態度を見せるばかりだった。

「お前も世界を何とかしたいと思ったから、戦っているんじゃないのか・・・!?

「それは・・・」

 ジンに問われるが、カナは困惑して答えることができない。

「オレは戦う・・世界を腐ったままにする気はない・・・」

 ジンはそう告げると、カナの前から去っていった。カナは困惑したまま、ジンを呼び止めることができなかった。

(ジンに、どんな言葉をかけても意味がないんだね・・・だったら、実力で何とかするしかないよね・・・)

 何とかジンの力になろうとするカナ。彼女は気持ちを切り替えて、シュミレーションを続けるのだった。

 

 地球連合軍パイロット特別育成班。高度な操縦技術と戦闘を行うことのできるパイロットを育成する機関であると公表されている。

 だがその本質は、非合法の調整と訓練を課すというものだった。調整、訓練の間に死亡する者もいるが、機関の人間は意に介さずにパイロットの選出を優先していた。

 この特別育成班を指揮しているのがレックスである。会議から戻ってきた彼は、パイロット調整施設に来ていた。

「彼女はどうしている?」

「適合率は徐々に最高値を更新。現在92.75%です。」

 レックスが訊ねると、研究員がキーボードを操作しながら答える。モニターには1人のパイロット候補のデータが表示されていた。

「まだだな。最低でも95%は超えておきたい。あれだけの代物を動かすのだ。トラブルがあっては首が飛ぶ程度では済まされないぞ・・」

 レックスの言葉を耳にして、研究員たちが緊張を見せる。

「絶対に成功させるぞ。成功すれば、ヴァルキリーだけでなく、リードに対しても優位に立てる・・」

 野心を込めた笑みを浮かべるレックス。彼は自分たちが手がけたパイロットが戦争の勝利の鍵になると確信していた。

 調整してきた数々のパイロット候補の中の1人に、レックスは興味と期待を抱いていた。

「これで我々の功績が、世界で絶対的なものとなる・・実に楽しみだ・・・」

 レックスは喜びの笑みをこぼすと、モニターを切り替える。映し出された画面には、巨大な機影が映し出されていた。

「これを自分の手足のように動かすことができれば、我々は無敵になる・・そのパイロットは、こちらが手足のように動かしていくことになるがな・・」

 敵を打ち倒し、自分たちの力を世界に知らしめす。レックスの野心が今、本格的に進行しようとしていた。

 

 久しぶりにクレストに乗艦したソワレとマリア。2人はガルとともに、艦内の整備ドックに足を運んだ。

「量産型は数機しか乗せていないが、お前たちのMSは健在だ。できれば、あまりそれらで暴れてほしくないものだが・・」

 ソワレとマリアに向けてガルが言いかける。2人は彼の言葉を耳に入れながらも、自分の搭乗機を探して視線を巡らせていた。

 そして彼らは、黒い機体と赤い機体を発見した。

「あった・・・」

「本当に、これを使うことがないように願うばかりです・・・」

 マリアとソワレが自分たちの搭乗機、ルナとゼロを見つめていた。ヴァルキリーからの防衛のため、この2機が再び表に出る可能性が出てきていた。

 

 

次回予告

 

ヴァルキリーせん滅のため、調整を続けるパイロット特別育成班。

人工的に手掛けられたパイロットが握るのは、全てをなぎ払う巨大な剣だった。

ジンの駆るブレイズの行く手をさえぎる、破壊の化身。

 

次回・「ファントム」

 

 

作品集

 

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