GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-09「殺意」
アイロスとの交戦を経て撤退を余儀なくされたヴァルキリア。次の戦闘に備えて、パイロットや整備士は調整やチェックを急いでいた。
その中、カナは密かに決心を強めていた。
(頑張らないと・・いつまでもジンばかりに頼っていられないよね・・・)
「どうした、カナ・・?」
考え込んでいたカナに、ゼビルが声をかけてきた。
「ゼビル・・私たち、連合やリードと戦って追い詰めてきたけど、ジンとブレイズの活躍があったからあそこまでやれたんだと思う・・でもいつまでもジンを頼るのはよくないと思うから・・・」
「だったら気にするだけムダだ。ジンは自分の戦いをしている。オレたちを頼りにしているかどうかは確信できない・・」
自分の心境を率直に告げるカナに、ゼビルは淡々と答える。
「だが負けられないということにはオレも同意する。今のままで全ての敵機を打破できるとは言い切れないからな・・」
話を続ける中、ゼビルがおもむろに笑みを見せる。
「MSの性能だけが力のすべてではない。的確な戦法、作戦をもたらせば、最高位の機体を倒すことも不可能ではない・・」
「最高位の機体って・・たとえば前の戦争で出てきたリードの・・」
カナが言葉を投げかけると、ゼビルが小さく頷いた。
「フューチャーとゼロ・・リードの開発したMSで、交戦し激闘を繰り広げた上位レベルの2機・・・」
ゼビルが口にした言葉を聞いて、カナが緊迫を覚える。
「遅かれ早かれ、あの2機が出てくることになる・・オレたちは、そのときにも備えておかないといけない・・」
「うん・・2機が手を組んでくる可能性が少ないのが、せめてもの救いかな・・・」
一抹の不安を口にしていくゼビルとカナ。
「いくらブレイズでも、1対1で敵う相手ではない・・性能、戦闘力が明らかに違う・・」
「それでもジンは、敵と見なしたら向かっていく・・相手がどんなのでも・・・」
「そうなりそうだが・・最悪の事態にならなければいいが・・・」
ブレイズの撃墜はヴァルキリアの敗北につながる。その事態を、ゼビルもカナも軽視できなかった。
その頃、ユウは整備の合間を縫って、操縦訓練をしていた。自分もヴァルキリアの戦力になりたいという一心だった。
訓練に集中しているユウの後ろを、ジンが通りがかった。
「お前も戦うつもりでいるのか?」
「あ、ジン・・僕もヴァルキリーや世界のために戦いたいと思っているから・・・」
ジンに声をかけられて、ユウが手を止めて返事をする。
「でも僕には、ジンやみんなみたいなすごい力がない・・だから少しでも力を付けて、僕自身の手で本当の平和を導きたいんだ・・」
「オレもまだ、どの敵よりも上だという実感を持っていない・・」
自分の気持ちを正直に語っていくユウに、ジンが憮然とした態度を見せる。
「それでもオレは戦う・・オレの時間を狂わせた敵を滅ぼさなければ、オレは死んでいるのと同じだ・・」
「でもジン、君はこのヴァルキリアに乗っている・・だから君も僕たちの仲間だよ・・」
「オレはオレのために戦っている。お前たちを仲間だとは思っていない・・それはこれからも変わらない・・」
ユウの呼びかけを気に留めず、ジンは立ち去っていった。
「ジン・・・」
孤独の戦いを続けるジンに、ユウは困惑を感じるばかりだった。
アイロスから逃れたヴァルキリアは、海岸沿いに進行していた。回り道をしてリードと地球連合のレーダー網をかいくぐろうとしていた。
「ここを切り抜ければひと段落だが、そこまですんなり行けるとは思えないな・・」
ジャッカルがヴァルキリアの位置を見て呟いていく。彼の悪い予感はよく当たると、アンは不安を感じていた。
「どちらにしても、最後まで気を抜かないことに変わりはない。全員、十分に注意してくれ。」
「了解。」
ジャッカルの指示にクルーたちが答える。周囲への強めたまま、ヴァルキリアは海岸沿いを進んでいった。
だがしばらく進んだところで、事態は慌ただしくなった。
「こちらに接近してくる熱源あり!アイロスです!」
「くっ!こちらの進路を読んで先回りしてきたか・・!」
アイナの報告にジャッカルが毒づく。
「パイロットは発進準備!いつでも出られるようにしておくんだ!」
ジャッカルがクルーたちに指示を送る。彼はアイロスの出方をうかがい、すぐに迎撃できるように策を練っていた。
ヴァルキリアの動きを予測し、先回りすることに成功したアイロス。ここで決着をつけようと、カルラは先手を狙っていた。
「今度は出し惜しみの姿勢はなしだ。全員出動!ヤツらのMSを全て叩き落とせ!」
「はっ!」
カルラの命令にパイロットたちが答え、各々のMSに乗り込んでいった。
「ネオン、カノン、行くぞ。」
「いつでもいいよ、リアン。」
「私もいいよ・・・」
リアンの呼びかけにネオンとカノンが答える。MS隊の先陣をドム3機が切るのだった。
ドムたちの機影を確認していたジンは、苛立ちを募らせていた。
「ヤツら・・今度は必ず叩き潰してやる・・・!」
ブレイズの出撃準備を整え、ジンが前を鋭く見据える。
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
ジンの乗るブレイズがヴァルキリアから発進する。
「ジン、いつも先走るんだから・・」
「ムダ口は戦いの後だ・・」
呆れるカナに、ゼビルが淡々と声をかける。2人は気持ちを引き締めて、発進に備える。
「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」
「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」
2人の乗るスナイパーも続けて発進する。3機の前にドムたちが前進してくる。
「今度こそ・・今度こそ叩き潰してやる!」
ジンがいきり立ち、ブレイズが戦闘機型から人型に変形し、ビームライフルを発砲する。この射撃を、ドムは横に動いて回避する。
「今回も真っ向から攻めてくるなんてな・・」
不敵な笑みを浮かべるネオン。彼女の乗るドムが、ブレイズに向けてビームバズーカを発射する。
ブレイズが機敏な動きを見せて、ドムの砲撃をかわす。
「何度も攻撃されると思うな!」
ジンが叫び、ブレイズがビームサーベルを引き抜いてドムに飛びかかる。この一閃をドムが素早く動いてかわす。
地上に降りたブレイズを、3機のドムが取り囲んできた。
「ジン!」
カナの乗るスナイパーがブレイズに駆け寄ろうとするが、ザクやグフたちに行く手を阻まれる。
「ネオン、カノン、一気に攻めるぞ。」
「待っていたよ、リアン!」
「うん・・早く終わらせよう・・・」
リアンの呼びかけにネオンとカノンが答える。ドム3機から紅い熱風が発せられる。
「ジェットストリームアタック!」
ドムが加速してブレイズに向けてビームライフルを発射する。ブレイズも素早く回避していくが、ドムの射撃がブレイズの盾や胴体に衝撃を与えていく。
「くそっ!」
毒づくジン。反撃に出ようとするブレイズだが、ドムが振りかざすビームサーベルに突き飛ばされるばかりとなっていた。
(オレは・・オレはこんなところでやられるわけには・・・!)
それでも反撃を考えるジン。だがそのとき、ドムのビームサーベルがブレイズの手にしていた盾を切り裂いた。
「ぐあっ!」
ブレイズが突き飛ばされ、ジンが絶叫を上げる。怯んだブレイズに3機のドムが迫る。
スナイパーたちはザク、グフたちとの攻防のため、ブレイズの援護に向かえない。
(オレは負けない・・負けるわけにはいかない・・・!)
窮地に立たされたジンの脳裏に、自分が体感してきた悲劇が蘇ってくる。
ミナの死。軍人の理不尽さと、それが正当化されている現実。それを受け入れること、自分の存在を否定すること。ジンはそう言い聞かせて、今まで生きてきた。
(ヤツらの勝手を、これ以上受け入れるものか!)
そのとき、体勢を崩していたはずのブレイズが一気に加速し、ネオンが振りかざしてきたビームサーベルを、持っていた右腕ごと切り裂いた。
「えっ・・・?」
突然の反撃にカノンがきょとんとなる。ブレイズのこの加速に、リアンもネオンも緊張を募らせていた。
「殺してやる・・敵は全員、オレが殺してやる!」
ジンが鋭く高らかに叫ぶ。見開いている彼の眼は、血のように紅く染まっていた。
「ぐ・・偶然だ・・今までこっちがヤツを押してたんだ・・ここに来て逆転なんてありえない・・・!」
緊張を振り払おうと作り笑顔を浮かべるネオン。
「うろたえることはない。体勢を立て直してとどめを刺す。私とネオンでかく乱させる。カノンは隙を突いて撃て。」
リアンがネオンとカノンに指示を送り、ブレイズを注視する。2機のドムが紅い旋風を発しながら、ブレイズに迫る。
そのネオンのドムに向かって、ブレイズが飛びかかってきた。
「来たか!だがジェットストリームアタックを1機で破れるものか!」
言い放つネオン。ブレイズが振り下ろしてきたビームサーベルが、ドムの発する熱気に防がれる。
「殺してやる、殺してやる!切り裂けっていうんだ!」
怒号を放つジンが、操縦する両手に力を込める。ブレイズのビームサーベルが強引にドムの熱風に食い込んだ。
「何っ!?」
ドムのエネルギードライブによる加速を押し切ってきたことに驚愕するネオン。ブレイズのビームサーベルで胴体を切り裂かれたドムが爆発を起こす。
「リアン!カノン!うわあっ!」
コックピットも爆発に巻き込まれ、ネオンが閃光に包まれた。ブレイズが離れたところで、ドムが爆発して吹き飛んだ。
「ネオン!」
リアンが叫び、カノンが困惑する。ブレイズがリアンのドムに振り向き、素早く飛び込んでくる。
とっさにリアンが回避しようとするが、後退しようとしたドムがブレイズに左腕をつかまれる。
「誰が逃げていいと言った!?」
ジンが言い放ち、ブレイズがビームサーベルをドムの頭部に突き立てた。
「ぐっ!」
コックピットの衝撃が走り、リアンがうめく。衝撃に耐えられず、ブレイズがつかんでいたドムの左腕がちぎれる。
「早く消え失せろ、この世界から!」
ジンが激昂し、ブレイズがドムにとどめを刺そうとする。だがその瞬間、リアンのドムをカノンのドムが横から突き飛ばした。
「カノン・・・!?」
目を疑うリアンに向けて、カノンが微笑みかけてきた。
ブレイズのビームサーベルが、カノンの乗るドムの胴体に突き刺さった。
「カノン!」
悲痛の叫びを上げるリアン。ブレイズがビームサーベルを引き抜いて離れたところで、カノンのドムが爆発を引き起こした。
同時にリアンのドムはブレイズからかなり距離を離していた。
「逃げるな!」
ジンが叫び、ブレイズがドムに向かっていく。その間にザク、グフたちが割って入る。
「すぐにアイロスに戻れ!」
「邪魔するな!」
リアンに呼びかけるザクのパイロットと、さらに怒りを膨らませるジン。ブレイズがビームサーベルを振りかざしてMSをなぎ払い、強引に前進しようとする。
だがリアンはこのときには、アイロスへの帰艦に入ろうとしていた。
「だから逃げていいとは言っていないだろうが!」
ジンがブレイズを加速させるが、ドムは収容され、アイロスも撤退を行っていた。
「ジン、戦闘は終わりだ。オレたちも引き上げるぞ。」
ゼビルが通信を送るが、怒りに駆り立てられているジンは、アイロスへ追撃しようとする。
「ジン、やめろ・・これ以上攻撃しても意味はない・・!」
「逃がすものか!オレは敵を全て倒す!」
さらに呼びかけるゼビルに、ジンが怒号を放つ。
「邪魔するなら、誰だろうと・・!」
ジンがアイロスを追おうとしたとき、突然意識を失った。活動しなくなって落下していくブレイズ。
「ジン!」
そのブレイズをカナのスナイパーが受け止めた。ブレイズはスナイパーに抱えられて、ヴァルキリアに向かっていく。
「ジン、しっかりして!ジン!」
カナが呼びかけるが、ジンからは反応がない。スナイパーがブレイズを連れてヴァルキリアに戻ると、ジンはカナたちによって医務室に連れ込まれた。
ブレイズの反撃と爆発的な戦闘力に、アイロスは撤退を余儀なくされた。ネオンとカノンを失ったリアンの悲痛さも小さくなかった。
「まさかヴァルキリーのMSが、あそこまで力を発揮してくるとは・・・!」
カルラもブレイズの発揮した戦闘力に驚愕していた。
「ネオン、カノン・・私のために・・お前たちを・・・!」
ネオンとカノンを死に追いやってしまったことを、リアンは深く悔んでいた。
「いつか必ず・・必ずヴァルキリーを・・・!」
「さすがのお前も、今回は感情が表に出るか・・・」
ブレイズ打倒を強く誓う彼女に、カルラが声をかけてきた。
「す、すみません、艦長・・私としたことが・・・」
「いや、いい・・お前たちには申し訳ないことをした・・すまなかった・・・」
「いえ、私たちの至らなさゆえです・・艦長に非はありません・・・」
謝意を示すカルラにリアンが弁解する。
「しばらく休息を取れ。我々も陣形を立て直さなければ戦闘ができない・・」
「了解しました・・・ありがとうございます・・・」
カルラの言葉を受けて、リアンは感謝の言葉を返した。
爆発的な戦闘力を発揮し、ドム2機をはじめとした多くのMSを撃破したジン。だが彼は意識を失い、カナにヴァルキリアに運ばれることになった。
医務室にて療養することになったジン。外傷はなく、命にも別状はなかった。
ベッドに横たわるジンを、医務室の前の廊下からカナとアンが見つめていた。
「ジン、大丈夫かな・・・?」
眠り続けているジンを見て、カナが不安を口にする。
「そ・・それにしてもすごかったですね、ジンさん・・今まで攻撃が通用しなかったあの3機を、ものすごい勢いで撃退してしまいましたね・・」
アンが話を切り出すと、カナが小さく頷いた。するとアンが笑みを消して表情を曇らせる。
「でも、怖くもありました・・モニターで見ただけでしたが、私も殺されてしまうと思ってしまいました・・まるで殺人鬼です・・・」
「殺人鬼・・・」
アンが口にした言葉を聞いて、カナがさらに不安を膨らませる。
(ジン・・あなたは本当に何のために戦っているの?・・このまま敵を倒すだけになるの・・・?)
ジンに対する疑問と心配を投げかけるカナ。耐えられなくなった彼女は、医務室の前から逃げるように離れていった。
(ミナ・・・お前を死なせた敵を、オレは倒す・・・)
無意識の中で、ジンはミナへの思いと、ギルドを含めた敵の打倒を考えていた。
決して分かり合うことはない。分かろうとしたところで何の意味もない。倒す以外に、世界から消し去る以外に心を休ませる方法はない。
敵を倒すために戦うことが、ジンの全てになっていた。
次回予告
ブレイズの飛躍は、世界への衝撃を招いた。
世界の全てが敵にまわろうと、ジンの決意は変わらない。
リード、地球連合、ヴァルキリー。
本当の平和を導くのは誰か?