GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-08超高速戦法(ジェットストリームアタック)

 

 

「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」

 ジンのかけ声とともに、ブレイズがヴァルキリアから発進した。

「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」

「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」

 スナイパーも続々とヴァルキリアから発進していく。ジンたちがアイロスから出てくるザク、グフの機影を目撃する。

「ザクにグフ・・いや、それだけではないな・・・」

 目を凝らすゼビルが他の機影を目撃する。MS隊の中に紛れて、3体のドム・ドライブが前進してきていた。

「新型か・・データにない機体だ・・」

「関係ない。敵は何だろうと倒すだけだ・・」

 ゼビルの言葉を聞き入れようとせず、ジンは敵の打倒のみに意識を傾ける。ブレイズとスナイパーがザク、グフとの距離を縮めていく。

 ブレイズが戦闘機型から人型に変形し、ビームライフルで攻撃を仕掛ける。素早い射撃を受けて、ザクとグフが撃ち抜かれていく。

「何て速さだ、あのMSは・・!」

「数で取り囲めば仕留められない相手ではない!」

 声を荒げるリードのパイロットたち。グフが散開してブレイズを取り囲み、ヒートロッドを伸ばして捕まえようとした。

 だがブレイズは即座にビームサーベルを手にして、ヒートロッドをなぎ払ってきた。

「バカな!?こんなすぐに切り返して・・!」

 驚愕の声を上げるパイロット。その直後、彼の乗っていたグフが、ブレイズのビームサーベルに切り裂かれて爆発を起こした。

 力と速さをリードに見せつけていくブレイズ。スナイパーにも攻め立てられ、カルラ隊は追い込まれていた。

 

 ヴァルキリーの戦力にカルラも危機感を感じていた。だが同時に、新たなる戦力、ドム・ドライブがどのように対抗するかという期待も感じていた。

「リアンたちを鼓舞してやれ。あのMSを、得意の地上戦で相手してやれと。」

 リアン、ネオン、カノンに発破をかけるカルラ。ヴァルキリーの出方をうかがいながら、反撃の機会を狙っていた。

 

「あのMSを地上に追い込んでください。私たちが相手をします。」

 ドムに搭乗しているリアンが、他のMSパイロットたちに呼びかける。

「いいだろう。その自信のほどを見せてもらおうか、新入り。」

 パイロットの1人がリアンに答える。

「ネオン、カノン、ヤツがヴァルキリーに勢いをもたらしている。叩けば形勢を逆転させるのは難しくない・・」

「分かったわ、リアン。カノン、ちゃんとついてきてよ・・」

「うん・・カノン、リアンとネオンを手伝うよ・・・」

 リアンの呼びかけにネオンとカノンが答える。ザクがビームライフルでけん制して、ブレイズを地上に追い込もうとする。

「くそっ!小賢しい攻め方を!」

 リードのMSの攻め方にジンが苛立ちを募らせる。近づいて攻撃しようとするブレイズだが、ザクは距離を離して射撃を続ける。

 追撃と回避を繰り返していくうちに、ブレイズはいつしか地上へと降下していた。そこには3機のドム・ドライブが待ち構えていた。

「そこのMS、お前の相手は私たちだ!」

 リアンがブレイズに向けて呼びかけて取り囲む。

「お前たちがいるから・・世界はいつまでも腐ったままなんだよ!」

 ジンが言い放ち、ブレイズがビームライフルで射撃する。だがドムは素早く動いて、ビームを回避する。

「お前ほどではないが、このドムも速さでは負けてはいない!勢い任せに攻めても、我々は倒せないぞ!」

 攻めあぐねるブレイズに向けて、リアンが言い放つ。

「くそっ!だったら捕まえて、直接叩き潰す!」

 ジンがさらにいきり立ち、ブレイズがビームサーベルに持ち替える。素早く飛び込んでビームサーベルを振り下ろすブレイズだが、ドムもビームサーベルで一閃を防ぐ。

「リアンばかりに気を取られてるとケガするよ!」

 そこへネオンの乗るドムが飛び込み、ビームサーベルを振り抜いてきた。ジンが気付き、ブレイズがリアンのドムを飛び越える形で、ネオンのドムの一閃をかわした。

「よけた・・・本当に速いね・・アレ・・・」

 機敏な動きを見せるブレイズに、カノンが呟くように言いかける。

「だが、私たちが慌てるほどではない。私たちが力を合わせれば、十分に倒すことができる・・」

「まさかもうやるつもりなのか?もう少しアイツのペースを乱してからにしようよ、リアン・・」

 自信の言葉を口にするリアンに、ネオンが苦言を呈する。

「あのMS・・動きが勢い任せ・・だからやりやすいと思う・・・」

 カノンが感情のない口調で言いかける。3機のドムが連携を保ち、ブレイズを取り囲む。

「どんな戦いをしてきても・・オレはお前たちを倒すだけだ!」

 ジンが言い放ち、ブレイズが果敢に攻め込む。だがパワーだけでなくスピードもあるドムの動きを捉えきれず、攻撃をよけられていく。

「逃げるな!やるだけやって逃げるのがお前たちのやり方か!」

 苛立ちを膨らませていくジン。だがドム3機は的確に回避と反撃を繰り返していった。

「私たちは地獄ともいえる訓練を重ねてきた部隊から選ばれた。姑息と言われようが、これが最善の戦術であることを知っている・・」

 冷静にブレイズの動きを見定めていくリアン。ネオンもカノンも落ち着いた対処を保っていた。

 ジンの焦りと苛立ちが膨らみ、ブレイズの動きの機敏さが鈍り始めた。

「そろそろ頃合いだろう・・ネオン、カノン、やるぞ。」

「やるの、リアン?このままいたぶっていっても勝てると思うけどな・・」

「カノン、やる・・みんなと一緒に・・アレを倒す・・・」

 リアンの呼びかけにネオンとカノンが答える。3機のドムがブレイズへの射撃、砲撃でのけん制をしながら距離を離していく。

「どこまで逃げてれば気が済むんだ!?・・こうなれば1機ずつ狙って叩き潰す!」

 さらに憤るジンが、ドムの撃破に固執する。距離を取って岩場の陰に隠れていたドムが、ブレイズの前に姿を見せてきた。

 ブレイズのカメラとジンの視界では、ドムの機影は1つに見えた。

「都合よく1機で突っ込んできたか・・だったら1発で!」

 ジンがいきり立ち、ブレイズが真っ向からドムに向かっていく。だが1機に見えたドムは、3機が縦に並んで進行しており、1機に見えるような配置を取っていた。

「やっぱり来た・・・」

「だったら望み通りに叩き落としてやるさ!」

「ネオン、カノン、行くぞ!」

 声を上げるカノンとネオンに、リアンが呼びかける。3機のドムに赤い熱風があふれ出てきた。

「ジェットストリームアタック!」

 ドム3機が機動力を上げていく。ドムには一時的に性能を上げる「エネルギードライブ」が搭載されている。その高い機動力により、加速の風が熱を帯びて赤くなっているのである。

「スピードが上がった・・これはどういうことだ・・!?

 加速するドムたちにジンが驚愕する。1機目のドムが、ブレイズに向けてビームバズーカを発射してきた。

 素早く動いて砲撃をかわすブレイズだが、残り2機のドムが高速のままビームサーベルを振りかざしてきた。

 パワーとスピードを兼ね備えたドムの光刃。ブレイズがシールドで防ぐも、ドムのビームサーベルによる重い攻撃に押されて突き飛ばされる。

「ぐっ!」

 強い衝撃に襲われて、ジンがうめく。怯むブレイズに向けて、ドムが休みなくスピーディな攻撃を加えていく。

 その猛攻がブレイズの盾を、さらに左腕を切り裂いた。

「これで終わりだ、ヴァルキリーのMS!」

 リアンが言い放ち、ドムたちがブレイズにとどめを刺そうと迫る。

「ジン!」

 そこへカナのスナイパーが飛び込み、負傷したブレイズを抱えて飛翔した。さらにゼビルのスナイパーも駆け付け、ビームライフルの射撃で地面に爆発を起こし、砂煙を巻き上げた。

「くっ!ヴァルキリー、小賢しいマネを!」

「これじゃ・・見えない・・・」

 毒づくネオンと、呟きかけるカノン。ネオンの乗るドムがビームライフルを構える。

「やめなさい、ネオン!当てにくいばかりか、こちらの居場所を突き止められるわよ!」

 だがリアンに呼び止められ、ネオンは射撃を思いとどまる。

 砂煙が治まったときには、ブレイズとスナイパーの姿はなかった。態勢を整えるため、3機のドムも移動するのだった。

 

 ヴァルキリアに対して攻めきれずにいたカルラ隊。これ以上の戦闘は消耗戦にしかならないと、カルラは判断した。

「ここは撤退だ。全機、アイロスに帰艦せよ。」

「よ、よろしいのですか?優勢ではありませんが、劣勢でもありません。相手の出方次第で、こちらに勝機が出るかと・・」

 カルラの命令にオペレーターが言葉を返す。

「そういう戦況だからこそ、下手な手は打てない。功を焦れば逆に手痛いしっぺ返しを受けることになる・・」

 カルラの言葉を聞いて、オペレーターは改めて撤退の指示をパイロットたちに告げた。アイロスから信号弾が撃ち出され、ザク、グフ、ドムが引き下がっていく。

「だが次は必ず勝機を見いだせる。そのときに一気に攻め立てるぞ・・」

 ヴァルキリーに向けて、カルラはさらなる挑戦を口にするのだった。

 

 アイロスの撤退により、ヴァルキリアは危機を脱することができた。だがドム3機に窮地に追い込まれたことに、ジンは怒りを抑えきれなくなっていた。

「くそっ!・・アイツら、絶対にこのままにはしておかない・・必ず叩き潰してやる・・・!」

 ジンが怒りのあまりにそばの壁を殴りつける。

「焦るな、ジン。あの機体3機の連携は卓越している。動きを読めるようにならなければ、今回の二の舞だぞ・・」

 ゼビルがジンに向けて注意を促すが、ジンは聞き入れようとしない。

「どんなことをしてきても、オレは敵を倒す・・絶対に見逃しはしない!」

 ジンは言い放つと、苛立ちを膨らませながら立ち去っていった。通りがかったカナは、ジンに声をかけることができなかった。

「ジン、辛いよね・・地球連合のあのMSに続いて、今回も・・・」

「自分で挑んで、返り討ちになった結果だ。気遣いも無用としているなら、もはやヤツにかける言葉はない・・」

 沈痛さを込めた言葉を口にするカナに、ゼビルは表情を変えずに返事をする。

「ジンが自分で何とかするしかない。ヤツが自分で自分を望んだのだから・・たとえそのために、自業自得で死ぬことになっても・・」

「そんな・・どうしてそこまでジンは・・・」

「怒りや憎しみに駆り立てられている者は、その矛先の敵を倒さないと気が済まない。理屈ではないのだ・・」

 ゼビルの言葉を聞いて、カナが困惑を募らせるばかりになっていた。

「たとえ死ぬしかない、報われない末路が待っていようと、やりとおさねばならないことがある・・少なくともジンにはそれがある・・」

「それって・・すごく辛いね・・・」

 顔色を変えないゼビルと対照的に、カナは物悲しい笑みを浮かべていた。

 

 憤りを抑えられないまま、自分の部屋に戻ったジン。部屋の中でも彼は冷静になれないでいた。

「オレは・・オレは世界の敵を倒すことができないのか・・・!?

 ドムに対して刃が立たなかったことを悔しがるジン。

「オレは敵を倒さないといけない・・でなければミナが浮かばれない・・アイツの身勝手を認めることになる・・・!」

 ジンの脳裏にミナとギルドの姿がよぎってくる。軍人の身勝手な態度がなければ、ミナは死なずに済んだ。

 自分たちの日常を壊した敵の存在を認めることは、自分を否定することになる。その気持ちが、ジンの背中を押していた。

「絶対に野放しにはしない・・ヤツもあの3機も、オレが倒す・・・!」

 さらに憎悪を募らせて、ジンは次の戦いに備える。今の彼を動かしているのは、自分から全てを奪った敵への憎悪だけだった。

 

 ジンの乗るブレイズを追い詰めながらも撃墜し損ねたリアンたちのドム。一時退却となったアイロスだが、カルラもリアン、ネオン、カノンも自信を揺るがしていなかった。

「申し訳ありません・・ブレイズを撃てませんでした・・」

「気にしなくていい。ヴァルキリーが高いレベルの敵であることを直接確認することができたからな・・」

 頭を下げるリアンにカルラが弁解を入れる。

「次はヴァルキリーをせん滅させる。お前たちも次はあの機体を仕留めることだ。」

「分かっています。他のMS共々、私たちが仕留めてみせます。」

 カルラの言葉に答え、リアンが敬礼を送る。カルラはリアンに頷いてみせると、レーダーに視線を移す。

「連中の動きはどうなっている?」

「北北東に向かって進行中。我々から逃げるつもりのようです。」

 カルラの問いかけにオペレーターが答える。

「海岸沿いに進んでいくつもりか・・ならば先回りしてやればいいだけ・・・」

 ヴァルキリアの進行方向を予測して、カルラが不敵な笑みを見せる。

「こちらも移動する!次の戦闘に備えて十分休養し、整備を急げ!」

「了解!」

 カルラの呼びかけにクルーたちが答える。

「ネオン、カノン、私たちもドムのチェックをしておくぞ。」

 リアンが呼びかけると。ネオンとカノンが頷く。

「今回戦ったあのMSは高い戦闘力を発揮した。いくらこちらが優勢だったとはいえ、ドムが全くの無傷と過信するわけにはいかない・・」

「分かっているよ、リアン。どんなときだって、自分の乗る機体のチェックは欠かさないよ。」

「カノン・・どんな敵にも負けない・・・」

 自信を見せる2人に、リアンが笑みを見せて頷いた。

「では行くぞ、2人とも・・」

 リアンはネオン、カノンとともにドムの整備に向かうのだった。

 

 カルラ隊とヴァルキリーの戦闘は、チェスターにも伝わってきていた。

「まさか、リードがヴァルキリーを追い詰めるとは・・・!」

 この戦闘の内容を知って、ギルドが驚愕を覚える。

「ヴァルキリーにもリードにも、このまま好きにさせてたまるか・・オレが引導を・・!」

「私たちが慌てて出ていく必要はないですよ、ギルド少佐。」

 いきり立つギルドをマアムが呼び止める。

「しかし大佐、このままヤツらの勝手にさせるわけには・・!」

「まだリードとヴァルキリーの交戦が中断したとは言えません。迂闊に戦闘に参加すれば、逆に私たちが格好の標的にされかねません。」

 ギルドの抗議にマアムは態度を変えずに言葉を返す。反論できなくなり、ギルドは押し黙るしかなかった。

「それにギルド少佐、あなたは感情で任務にあたろうとしています。常に状況に応じた的確な行動を求められる軍人にあるまじきことですよ。」

 マアムにさらにとがめられて、ギルドは息詰まるような気分を覚える。彼は内心、ジンへの因縁を募らせていた。

「慌てなくても私たちが戦う機会は必ず訪れます。それまで大人しくしていてください・・」

「・・分かりました・・戦闘準備を整えて待機します・・・」

 込み上げてくる感情を押し殺して、ギルドはマアムの指示を受け入れることにした。

(このままにはしておかないぞ、小僧・・貴様が何をしようとオレを超えられず、刃向かうことすら滑稽であることを思い知らせてやる・・・!)

 だがギルドの心の中では、ジンに対する憎悪と敵意が強く燃え上がっていた。

 

 

次回予告

 

カルラ隊の追撃の前に、退路を断たれたヴァルキリア。

ブレイズに迫る3機のドムの特攻。

反撃すら許さない高速攻撃の連携。

そのとき、ジンの怒りと憎しみが、かつてない暴走を起こす。

 

次回・「殺意」

 

 

作品集

 

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