GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-07「本当の正義」

 

 

 世界の武力を根絶するべく、ヴァルキリアは航行を続けていた。その間にも世界の情報は、クルーの耳にも入ってきていた。

「僕たちの活躍で、世界が大きく揺れ動いているね・・」

 マークが世界のニュースを見ながら、ユウに声をかける。

「それだけ僕たちの戦いが重要かってことさ。僕もいつかジンたちのようなパイロットに・・」

「あんまり気張りすぎないでよ、ユウ・・ユウに何かあったら・・・」

 意気込みをユウに、マークが不安を浮かべる。

「僕もこの世界のための力になりたいんだ・・自分の力で、少しでも世界を平和に導きたい・・」

「世界平和も大事だけど、自分のことも大事にしてよ・・心配で心配で・・」

「もう、マークは心配性なんだから・・でもありがとう、心配してくれて・・」

 マークの心配を受けて、ユウが笑顔を見せる。

「でも、世界平和って、そう単純なものでもないみたいだ・・」

 ユウがTVニュースを見て、ため息混じりに言いかける。

「ジンはこういう政治とかのニュースは興味ないみたいだね・・」

「興味ないどころか、嫌悪丸出しだよ。タカ派の話を聞いただけでどんな攻撃手段に出るか分かんないって・・」

 マークが口にした言葉に、ユウが緊張を込めて言いかける。

「多分、今の世界のあり方を強く憎んでいるのは、ジンかもしれない・・・」

 マークも冷や冷やした様子で答えていく。2人は落ち着かない気分のまま、食事を続けるのだった。

 

 ヴァルキリーに対する人々の反応は賛否両論だった。軍隊や戦争を快く思わない人からは称賛が、世界平和を重んじる人からは避難や疑念が湧き上がってきていた。

 その反応の分裂は各国の政府も同じだった。

 世界の混乱の火種となっているヴァルキリーを賛美することは、国の威信に関わることになる。だが政治家の中にもヴァルキリーの賛美という本音をもらして、厳しい批判を被る者もいた。

 そして批判を表明する者の中には、自分の考えが頑なな者もいる。

「ヤツらは世界の平和を脅かす破壊者でしかない!この暴挙をいいと思っているヤツも馬鹿げている!」

 記者会見でのとある政治家の発言と態度。それが世界をも震撼させる波紋へと発展していくこととなった。

 

 この政治家の会見のニュースは、ジンの耳にも入った。この発言と態度に、彼は抑えきれない憤怒を覚えた。

「アイツ・・どこまでもどこまでも思い上がったことを・・・!」

 我慢がならなくなったジンが飛び出し、ドックに向かっていく。

「どうしたの、ジン・・?」

「やばいよ、カナ!ジン、あの会見中継を聞いちゃって・・!」

 走り抜けていくジンを見て疑問を覚えるカナに、ユウが慌ただしく声をかけてきた。

「あちゃー・・こうなったらもうジンは止めらんないよ・・」

「のん気なこと言ってないで止めてよ!大変なことになるって!」

 頭に手を当てて気まずくなるカナと、絶望感にさいなまれるユウ。ジンはブレイズに乗り込み、通信回線を開いた。

「アン、会見してたヤツの居場所はどこだ!?

“えっ!?でも、ジン・・

 ジンの呼びかけにアンの困惑の声が帰ってくる。

「早くしろ!早くしないとヴァルキリアを攻撃するぞ!」

“分かった!分かったからちょっと待ってって!”

 ジンに怒鳴られて、アンが慌ててコンピューターを操作する。ブレイズの発進準備が整ったところで、政治家の居場所を記したデータが送られてきた。

「そんなに遠くないか・・絶対に逃がさないぞ・・・!」

 込み上げてくる憎悪を宿したまま、ジンはブレイズで発進する。ジンはブレイズを一気に加速させて、データが示した場所へと向かう。

 進んだ先の首都の空で、ブレイズが戦闘機形態から人型へと変形する。そのカメラが、会見をした政治家の姿を捉えた。

「アイツ・・・!」

 目つきを鋭くしたジン。降下してきたブレイズに、街にいる人々さえも緊張を隠せなくなっていた。

 ボディガードを伴う政治家の前に現れ、ブレイズがビームライフルを構える。

「その機体・・ヴァルキリーとかいうバカどもか・・・!」

 ブレイズの出現に政治家が苛立ちを見せる。

「お前たちのような破壊者がいるから、世界がいつまでもよくならないのだ。頭を冷やして、何が必要なことかよく考えろ!」

 銃口を向けられても、政治家は態度も考えも変えない。その態度がジンの感情をさらに逆撫でしていく。

「それで私を脅しても、私は断固たる姿勢を変えない!お前たちを決して認めない!」

「うるさい・・・!」

「お前たちのしていることは、悪行以外の何事でもない!自分の首を絞めることにしかならないというのに!」

「うるさい・・・!」

「もう少し考える力をつけたらどうなんだ、バカ者が!」

「うるさいぞ、このゴミクズ野郎が!」

 政治家の言葉と態度にジンが激昂し、ブレイズがビームライフルを発砲する。一条の光線が政治家とボディガードを巻き込み、吹き飛ばした。

 この射撃と爆発で、街の中にいる人々が緊迫を覚える。騒然となる街中で、ジンが憤りを募らせていた。

「もうしゃべるな・・お前の顔を見るだけで、お前の声を聞くだけで、気分が悪くなってくる・・・お前が存在するだけで、世界が腐っていくんだ・・・!」

 憎んでいた相手を手にかけたにもかかわらず、憤りを消せずにいるジン。

 ブレイズが降下したところで、街にいた人々が怒鳴り声をかけてきた。彼らがジンに対して抱いていたのは、賛美ではなく怒り。政治家の姿勢に賛同していた人ばかりだった。

「何で・・何であんなクズに賛同しているんだ・・・!?

 ジンが再び怒りを膨らませていく。

「あんなヤツの言うことを聞いても、世界を壊すだけだというのに・・・お前たちも世界を狂わせたいのか!?

 ジンが激昂し、ブレイズが人々に向けてビームライフルを発砲する。憎悪を込めた閃光が、戦争や情勢に直接関わっていない人々さえも飲み込んだ。

 

 ブレイズによる政治家や民間人への攻撃は、またたく間に世界に衝撃を走らせた。

 悲劇と武力の排除を掲げていたヴァルキリーの、人命を奪う行為に、世界は騒然となる。ヴァルキリーに対する見解、賛否がさらに激しくなっていった。

 このニュースを、スバルとフィーアも耳にしていた。

「まさか、ヴァルキリーが民間人にまで攻撃を加えるなんて・・・」

 スバルがこのニュースに不安と困惑を募らせていく。

「でもあたし、この政治家大嫌い・・人の話を全然聞かないんだもん・・」

 フィーアが政治家に対する不満を口にしてきた。

「確かにあの人はタカ派の中のタカ派って感じだよ。僕もあの態度はどうかと思うよ・・ただ、今回のヴァルキリーのしたこともどうかと思う。いくらなんでも、あれは受け入れられない・・」

「それもそうかも・・あたしたちまで危なくなるってことだよね・・・」

 スバルの苦言にフィーアが頷きかける。だが彼女はすぐに活気を取り戻す。

「でもまだまだこっちは安全なんだから、深く気にすることでもないよ♪」

「本当にお気楽なんだから、フィーは・・」

「ちょっとスバル、それってどういう意味よ〜!?

 肩を落とすスバルに、フィーアが詰め寄ってくる。緊迫を深める世界の中で、2人は緊張感のない時間を過ごしていた。

 

 政治家や民間人への射撃を行ったジン。彼の乗るブレイズがヴァルキリアに帰艦した。

 その彼にマートンが詰め寄ってきた。

「おいっ!自分が何をしたのか分かってるのか!?人間に手を上げるなんて!」

「アイツは自分のことしか考えていない!自分が正しいと思い上がって、他の話をまるで聞かないじゃないか!」

 怒りをあらわにするマートンに、ジンも激昂を見せる。

「あんなクズがいるから、世界はいつまでたっても狂ったままなんだ!地獄に突き落とさなければ、世界は永遠に平和は来ない!」

「オレたちヴァルキリーがしていることは、武力の排除だ!ただの人殺しをしているわけではない!」

「ならクズは野放しにしたままでいいのか!?アイツらがいる限り、馬鹿げた兵器や軍隊が増え続けるんだ!」

「そのために、自分やオレたちの首を絞めてもいいというのか!?

 互いに怒りをぶつけ合うジンとマートン。ジンの態度に耐えかねたマートンが殴りかかろうとした。

「よさんか、お前たち!」

 そこへジャッカルが現れ、ジンとマートンを呼び止める。マートンが振り上げていた右手をとっさに止める。

「ジン、今回のことは軽率だ。お前が乗っているブレイズは、元々はヴァルキリーが開発したものだということを頭に入れておけ・・」

「関係ない。オレはこの力で、世界を狂わせる敵を倒すだけだ・・・!」

 呼びかけるジャッカルだが、ジンは怒りを胸に宿したまま立ち去っていった。

「ジン、まだ話は・・!」

「やめろ、マートン!ジンに殺されたいのか・・!?

 ジンを追おうとするマートンをジャッカルが止める。

「もしも殴っていたなら、ジンはお前を完全に敵と見なして、ブレイズで攻撃してくるぞ・・・!」

 ジャッカルに言いとがめられて、マートンはやむなく思いとどまった。

「どういうことなの・・?」

 ユウがジンの素性に対して疑問を投げかける。するとカナが沈痛の面持ちを浮かべてきた。

「ジンは前に、ヴァルキリーに所属していたパイロットを攻撃したことがあったの・・・」

「ジンが・・確かに、いつもあんな感じのジンだ・・やってもおかしくないかも・・・」

 カナの話を聞いて、ユウが納得の様子を見せた。

「先輩や上官だからって偉そうにしてた・・その態度に腹を立てたジンが、ブレイズでその人の乗っていたスナイパーを撃ち落としたの・・」

「ホントなの、それ・・・!?

「仲間殺しは最大の裏切り・・でもジンは私たちのことを仲間とは思っていない・・自分の戦いをするだけ・・・」

 カナの語ったことに、ユウは困惑する。

 ジンは自分の敵を倒すために戦っている。その考えはヴァルキリーに所属しても変えていない。敵と見なしたなら、その相手がヴァルキリーの人間であっても倒す。それが彼の戦い方である。

「そんな物騒なのに、艦長やみんなは何の手も打たないんだろう・・・?」

「下手に手を打てばヴァルキリアが落とされる・・殺そうとしても敵を落とすまで攻撃を加えようとしてくる・・そういう人だって分かってるから、艦長はジンを自由にさせてるんだと思う・・・」

 不安を口にするユウに、カナがさらに話を続けていく。

「ジンを動かしているのは、敵に対する怒り・・敵を倒すためなら、どんなこともしてくる・・罪を犯すことも、世界を敵に回しても・・・」

 ジンを案じるカナが沈痛さを募らせる。怒りのままに戦ってジンが破滅しないか、カナは不安を抱えていた。

 

 敵を倒すことをとがめられて、ジンは苛立ちを膨らませていた。感情を抑えきれなくなっていた彼は、自分の私室に閉じこもってしまった。

(オレは世界を狂わせるクズを始末しただけだ・・あのクズに賛同するヤツらもまたクズ・・それなのに、なぜオレが叱責されなければならない・・・!)

 心の中で怒りの声を上げるジン。間違いを正したのになぜ責められなければならないのか、彼は納得できなかった。

(あんなヤツらは死なないと理解しない・・誰もやろうとしないからオレがやった・・それを全くの間違いで、正しさなんかわずかもないなんて、絶対に言わせない・・・!)

 いら立っていくジンが、ミナの形見のロザリオを手にする。

(そうしないとミナ、お前が何のために命を落としてしまったのか、分からなくなってしまうじゃないか・・・!)

 ミナの死を認めようとせず、ジンは軍隊や今の世界を動かしている存在を強く憎んでいた。

(オレはクズを許さない・・世界の裏にいようと、この手で必ず葬ってやる・・・!)

 ミナへの想いと世界の理不尽への憎悪を強めて、ジンは次の戦いに備えるのだった。

 

 ヴァルキリーの行方を追っていたリード。その中、カルラ隊がヴァルキリアの動きを捉えた。

「ヤツらめ、とうとう見つけたぞ・・」

 カルラがヴァルキリーの位置の感知に、不敵な笑みを浮かべる。

「北地区のの平地を飛行している・・こちらにとっては好都合。ドム・ドライブの性能を試す絶好の機会・・」

 呟きかけてから、カルラが整列しているリアン、ネオン、カノンに振り返る。

「これより我々はヴァルキリーへの攻撃を開始する。敵のMSが出てきたら、お前たちは出撃して先陣を切れ。」

「了解。地上戦に持ち込み、1機ずつせん滅していきます。」

 カルラの指示にリアンが答える。

「サンブレイカー、起動。標準、敵戦艦。」

「はっ!」

 カルラの指示に操縦士が答える。彼らの乗る戦艦「アイロス」が、陽電子砲「サンブレイカー」の発射態勢に入った。

「サンブレイカー、発射!」

 カルラの指示により、アイロスから砲撃が放たれた。伸びていく閃光が、ヴァルキリーの上を通り過ぎていった。

「気付かれたか・・すぐに切り替えて回避してみせるとは・・」

 砲撃をよけられたことに毒づくカルラ。だが彼はすぐに気持ちを切り替える。

「MS隊、発進!ドムに先陣を切らせる!」

 カルラが続けて命令を下し、アイロスからMSが発進していった。

 

「こちらに接近する戦艦1隻!こちらをロックしてきました!」

「陽電子砲、発射態勢に入っています!」

 アンとアイナが状況を報告していく。ヴァルキリアのレーダーはアイロスの位置を補足していた。

「回避しろ!直撃は絶対に避けろ!」

 ジャッカルの指示が飛び、ヴァルキリアが回避行動を取る。これにより、アイロスが放った閃光はヴァルキリアの上を通り過ぎていった。

「ふぅ・・いきなりあんな攻撃が来るなんて・・・」

「気を抜くな!この1発で終わるはずがない!」

 アイナが安堵を浮かべると、ジャッカルがクルーを鼓舞してきた。

「スナイパー、ブレイズ、発進準備!敵艦の分析も急げ!」

「了解!」

 ジャッカルの指示にアンが答える。彼女の呼びかけで、スナイパーとブレイズの発進準備が進められた。

 この戦闘配備の知らせに、ジンも抑えていた怒りを膨らませていた。

「また敵か・・敵は何だろうと、オレの手で倒す・・・!」

 自分の部屋を飛び出したジンが、整備ドックに向かい、ブレイズに乗り込む。発進準備を進める彼に向けて、ゼビルからの通信が入る。

“今度の敵はリードだ。地球連合だけでなく、リードもオレたちの打倒に力を入れてきたようだ。”

「関係ない。何者だろうと敵は倒す・・世界を狂わせる敵は、全てオレが倒す・・・!」

“今度は無鉄砲に飛び出すのは控えたほうがいい。せめてこっちの矛先に出ないようにな・・”

「関係ないと言っている。世界の敵を倒すだけだ・・・」

 ゼビルの注意を受けても態度を変えないジン。ブレイズの先のハッチが開き、発進準備が整った。

「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」

 ジンのかけ声とともに、ブレイズがヴァルキリアから発進していった。

 

 

次回予告

 

ヴァルキリーに迫る新たなる脅威。

ブレイズに戦いを挑む戦力、ドム・ドライブ。

3機のドムの怒涛の猛攻に追いこまれるジン。

絶体絶命の危機に、ジンは・・?

 

次回・「超高速戦法(ジェットストリームアタック)

 

 

作品集

 

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