GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-06「レジスト」
地球連合とリードによる戦争。その戦火から、オレたちは必死に逃げていた。
「急ぐんだ!でないと流れ弾にやられる!」
「分かってる!・・分かってるけど・・!」
オレはミナに呼びかけて、必死にシェルターを目指した。だがシェルターを目前にして、ミナが転んでしまう。
「あっ!待って!」
「何やってんだよ!?シェルターはすぐそこだ!」
起き上がろうとするミナに呼びかけるオレ。そこでシェルター前で誘導している兵士たちがやってきた。
「何をやっているんだ!?」
「早く中に入るんだ!」
兵士たちはオレだけをシェルターに入れようとする。
「待て!アイツを助けないと!」
「次は君だ!急いで・・!」
オレはミナを連れてこうとする。兵士もミナに向かおうとする。
だが飛び込んできたビームにミナが巻き込まれた。爆発でオレも兵士もシェルターの入り口に押し込まれた。
体を起こしたオレは、煙の中にいるはずのミナを探した。そしてオレは、ミナがかけていたロザリオを踏んだ。
「まさか・・・!?」
オレは不安を感じながら、ミナを探した。だがオレが見つけたミナは、血まみれになって倒れて動かなくなっていた。
あまりに目を疑うことを見て、オレは言葉も出なくなっていた。
「おい、何をやっている!?早くシェルターに入れ!」
兵士のこの無神経な言葉を耳にした瞬間、オレは怒りを抑えることができなくなった。
「お前・・何で先に助けなかった!?何で見捨てた!?」
オレは兵士につかみかかった。ミナを助けなかったばかりか、アイツの無残を気にも留めないコイツらの態度が許せなくなった。
「先にアイツを助けられたはずだ!それなのにお前たちは!」
「貴様!我々に何をするつもりだ!?」
だがオレは兵士に殴り飛ばされて倒れた。この行為にも怒りを覚えたオレだが、意識を保つことができずに気絶してしまった。
それからオレが目を覚ましたのは、取調室だった。オレは暴行罪と公務執行妨害で捕まっていた。
「何だよ・・オレが何で・・・!?」
「何で?我々への邪魔と暴行を働いたヤツが、何をとぼけている?」
記憶がはっきりしていないオレに声をかけてきたのは、ミナを見殺しにした兵士の1人だった。
「お前・・お前のせいで、ミナが・・・!」
「こっちの指示にグズグズしてるから、命を落とすことになったんだ。おかげでこっちは始末書を書かされることになった・・」
睨みつけたオレに、兵士は詫びるどころか文句を言ってきた。ミナを殺した罪を詫びようともしないコイツの態度が、オレは我慢ならなかった。
「コイツ!ミナを見殺しにしておいて、ふざけたことを!」
オレは兵士につかみかかろうとするが、オレは椅子ごと縛られていたため、思うように動くことができなかった。
「ふざけているのはお前のほうだろうが!あれだけの暴挙を働いて、まだ暴れるか!」
「許さない!自分のことを棚に上げて、オレを悪者にして!」
あくまでオレが完全に悪いと決めつける兵士に、オレは怒りを爆発させていた。自分でもこれだけ怒ったことはないと思えるくらいだった。
「こっちの職務を妨害したばかりか、反省の色も全くない・・これでは刑罰は確定的だな・・」
「何が刑罰だ!お前たちのような身勝手なヤツがいないほうが、世界のためだっていうのに!」
「その世界のために動いているのが政治家や上層部だ。それなのに、それに刃向かうとは・・」
自分の間違いを変えようとしない兵士。オレは力任せに飛びかかろうとしたが、思うように動くことができなかった。
捕まってから1週間近くになっただろうか。オレはひどく暴れるということで、独房に入れられるだけでなく、手足も体も完全に拘束されていた。
オレのいる牢屋の前に、2人の兵士がやってきていた。
「コイツか、例の暴れん坊は・・」
「何でも、恋人を殺されたことを、シェルターの警備員を逆恨みしたとか・・それで公務執行妨害・・」
兵士の1人がオレについて話していた。
「取り調べようとしても反発して、それから怒りをぶちまけて、獣のように襲いかかろうとする始末・・今も怒りのままに暴れて、腕や足に、拘束具を強引に引きちぎろうとした傷が・・・」
「なるほど・・それで鎮静剤で沈めてるわけか・・ここまで来たら射殺されても文句は言えないっていうのに・・・」
「上の指示ですから・・とはいえ、私もなぜこのまま拘置しているのか、疑問がありますが・・・」
勝手なことまで話してくる兵士。この話を耳にしていたオレは、また我慢がならなくなった。
いつまでもこんなところにいるつもりはない。ましてやここで死ぬつもりもない。
そんな気持ちさえも怒りになって、オレの体を突き動かしていた。
「おいおい、また暴れ始めた・・」
「早く鎮静剤打ってやれよ・・これじゃ騒々しくなる・・」
呆れ気味に兵士がオレに鎮静剤を打とうとしてきた。その前にオレは無理矢理にでも牢屋から出ようとした。
そのとき、突然牢屋の通路が爆発に包まれた。その爆発に巻き込まれて、兵士たちが吹き飛ばされた。
何が起こったのか、オレにも分からなかった。何かの事故ではないかと思うしかなかった。
爆発は1度じゃなかった。立て続けに起こる爆発のひとつに、オレは巻き込まれた。
次に気がついたとき、オレは別の部屋にいた。牢屋でも取調室でもなく、どこかの休憩室のようだった。
「ここは、どこだ?・・・牢屋じゃない・・・!?」
部屋の中を見回してみるが、全く見覚えのないところだった。
「目が覚めたようね、ジン・シマバラくん・・」
そこへ声がかかり、オレは振り返った。声色から女だと分かった。
「誰だ!?オレの前に姿を見せろ!」
「威勢のいいことだ。そんなに呼ばなくてもすぐに行く・・」
オレが怒鳴ると部屋のドアが開く。部屋に入ってきたのは長く白い髪をなびかせている女だった。顔つきだけなら若く見えるが、白髪のせいで老けて見えていた。
「まずは自己紹介をしておこう。私はレイア・バルキー。ヴァルキリーを統治する者だ。」
「ヴァルキリー?何なんだ、それは・・?」
女、レイアの言ってきたことが分からず、オレは疑問を覚える。
「ヴァルキリーは、世界の愚かさを排除し、そのあり方を正しい形へと導く武装組織だ。分かりやすく言えば、武力をもって武力を含めた世界の汚点を排除するのが主な目的だ。」
「世界の汚点?何を言っているのか、余計に分からなくなってくる・・」
「世界の汚点・・たとえば、お前の恋人を見殺しにした地球軍・・」
「何で・・何でそのことを知って・・・!?」
レイアが口にした言葉を聞いて、オレは驚きを隠せなくなった。レイアはオレとミナのことを知っているようだった。
「君のことはいろいろと調べさせてもらった。君にとっては不愉快なことだろうが、今後君が本当に不愉快にならないためにしたほうがいいと判断した・・」
「何を企んでいる?・・オレをどうするつもりだ・・・!?」
「君のように真っ直ぐな人間には単刀直入に言うべきだろう・・ジンくん、君も我々と一緒に戦ってほしい。お前の運命を狂わせたような世界の汚点を排除するために・・」
レイアはオレに戦うように言ってきた。何か企んでいるのではないかと思い、オレはアイツへの警戒を消さなかった。
「ホントに何を企んでいる・・お前の部下にでもなれとでもいうのか・・・!?」
「そうなりたいというならそうしてもいいが、それで納得しないことは君自身が1番分かっていると思うが?」
「じゃ何だっていうんだ!?オレをどうしようというんだ!?」
「それは君自身が選ぶといい。私は自分がやるべきと思うことを実行するためのきっかけを与えるだけだ。もっとも、MSの操縦経験のない君には、相応の訓練が必要になってくるが・・」
「MS・・それがオレがすることのきっかけなのか・・・!?」
「君は君自身がすべきと思っていることを見出している。ただそれを実行するだけの力がない・・力を得られれば戦える・・そういうことだ・・」
オレに協力的なレイア。オレはアイツの言葉に次第に心を許すようになっていった。
「本当に信用していいのか?・・お前たちは、オレを利用するつもりはないのか・・・?」
「私たちが利用してきていると感じたなら、与えられた力で叩き潰せばいいだけのことだろう?」
オレが投げかけた疑念も、レイアは平然と答えた。コイツはオレの反逆も見越して、この話を持ちかけてきていた。
「・・いいだろう・・オレの戦いのため、オレはお前たちの話に乗ってやる・・・」
オレはレイアの誘いを受けることにした。
「だが、オレはオレの思うようにやらせてもらう・・言いなりになるのは我慢がならないからな・・・」
「いいだろう・・お前と行動をともにする者にも、その旨を伝えておこう・・全ては世界を正すために・・・」
オレの答えを聞いて、レイアが笑みを見せてきた。
自分勝手に振舞っている連中が、全てを動かしているなんて絶対に認めない。そんな腐った連中は、オレが徹底的に叩き潰してやる。
こうして戦える瞬間を迎えたことで、この気持ちがさらに強くなった。
オレがレイアに案内されたのは、1隻の戦艦。そこでオレはレイアから、ある男を紹介された。
「ジャッカル・イカロス。このヴァルキリアの艦長だ。」
「君が新しくヴァルキリアに乗るパイロットか・・話はミス・レイアから聞いている・・」
レイアに紹介されたジャッカルという男が、オレに手を差し出してきた。
「オレは部下になって従うつもりはない。オレの戦いをするだけだ・・」
「話に聞いた通り、人の話を聞かなそうなヤツだ・・」
オレが口にした言葉にも、ジャッカルは焦りも怒りも見せることはなかった。
「戦う場所と時間はこちらに従ってもらう。どう戦うかは好きにしていいが、こっちに報告はしてもらいたい。混乱して同士討ちになるのは、お互い勘弁だからな・・」
「いいだろう。オレは敵を倒せるなら文句はない・・それで、オレが受け取ることになっているMSは?」
「早速そう来たか・・説明を聞かせるばかりでは納得しそうもないからな。まずは見てもらう・・」
ジャッカルがオレを呼びつけて、ドックの中の奥に連れてきた。アイツはそのドアを開いた。
「ここだ・・」
ドアが開いた先にいたものに、オレは息をのんだ。1機のMSがドアの先で待機していた。
「ブレイズ、地球連合、リードの科学技術を元にヴァルキリーが開発した新型MS。量産型のスナイパーと比べて能力面は高いが、その分高い操縦技術を要求される・・」
ジャッカルがMS、ブレイズについて説明してくる。
「我々が本格的に行動を起こすのは約1ヶ月後だ。それまでにブレイズを乗りこなすことができるか?」
「できるか?やる以外に道はない。オレがオレであるためにな・・」
オレは答えてすぐにブレイズのコックピットに乗り込んだ。
かじりかけではあったが、メカニックの知識はあった。ブレイズがどういう性能や武装を備えているかは把握できたが、動かすことは理解することとはわけが違っていた。
「やるしかねぇ・・オレはコイツを使って、ミナの心を救ってやる・・・!」
オレは決めた。このブレイズを使いこなし、ミナを殺した軍事力を全てなぎ払うことを。
ブレイズの操縦に必要な技術は、簡単に得られるものではなかった。
何度も操縦訓練や戦闘シュミレーションをやってきたが、失敗の数のほうが圧倒的に多かった。
それさえもオレには不愉快だった。
オレは負けるわけにはいかなかった。負ければミナが犬死にになってしまう。
絶対に強くなってやる。必ずヤツらをオレの手で叩きのめしてやる。
それ以外に、今のオレの生きる理由はない。
その怒りと憎しみが、オレの心を突き動かしていた。
そしてオレがヴァルキリアに来てから1ヶ月近くがたとうとしていた。
最初は失敗続きだった戦闘シュミレーションも、好成績を叩きだすほどになっていた。
だがオレはこの間、訓練と実践は違うと言われたことがあった。
訓練も実践もオレには関係ない。同じことだ。
オレはオレの全てを壊した敵を倒す。ただそれだけだ。
そしてオレは、ヴァルキリーは世界への挑戦に乗り出すこととなった。
地球連合、リードの新たに開発された武力を次々に破壊。自分の敵を叩き潰していることに、オレは今まで感じたことのない喜びと達成感を感じていた。
だがミナを見殺しにしたあの軍人を見つけても、倒すことができなかった。
またオレは怒りを感じていた。心から倒したかった相手を、オレは倒すことができなかった。
許せるものか。こんなこと、オレは絶対に許してはならない。
ヤツをこのまま野放しにすれば、ミナが何のために命を落としたのか分からなくなってしまう。
オレは戦う。アイツだけは絶対に地獄に叩き落としてやる。
オレの戦いは終わっていない。むしろ始まったばかりだ。
自分の部屋のベッドに横たわり、ジンがロザリオを手にして見つめていた。彼はミナとの思い出とこれまでの戦いと怒りを思い返していた。
「軍隊なんてものがあるから、オレもミナも・・・!」
自身に湧き上がる憤りを抑えきれず、ジンがロザリオを握りしめる。
「今度は絶対にやられない・・アイツだけじゃない・・自分が正義だと思い上がっている連中を、徹底的に叩き潰してやる・・・!」
声を振り絞るジンが、ベッドから飛び起きる。
「ヤツらを倒すまで、オレに休みなんてない・・・」
自分に言い聞かせて、ジンは部屋を出る。彼は次の戦いに備えて、戦闘シュミレーションを行うのだった。
ヴァルキリーの強襲に、リードの各部隊も防衛策を練り上げていた。EU第6基地に駐在しているカルラ隊もそのひとつである。
カルラ隊ではリードの最新鋭の機体を戦力に加えようとしていた。
「ドム・ドライブ」。これまでリードが開発してきた量産型MSの中で高い性能を備えているが、まだ量産しているとはいえず、限られたパイロットのみの搭乗に留まっている。
「こちらの部隊にリードの新しい機体が来るとは・・グフ・グレイスと併せて、その性能を直に確かめさせてもらおうか・・」
カルラ隊の隊長、カルラがドムの雄姿を見つめて満足げに頷く。
「お待たせしました、カルラ隊長。」
軍服に身を包んだ3人の女性が、カルラの前に現れた。グフ・ドライブのパイロットとして選出されたリアン・カルロス、ネオン・フリーズ、カノン・ソナタである。
「本日付であなたの指揮下に入ることとなりました。ヴァルキリーなどという破壊者の好きにはさせません。」
「勇ましいことだ。他の部隊は慎重になりすぎている節があるが、ヤツらの暴挙は断固として食い止めなければならない。そのためにも、お前たちの力、頼りにしているぞ。」
敬礼を送るリアンに、カルラが笑みを見せる。
「ありがたきお言葉・・全身全霊をもって、任務に当たらせていただきます。」
ネオンも続けてカルラに言葉をかける。
「よし・・これより我々は、ヴァルキリー討伐に向けて出撃する。」
「了解!」
カルラの命令を受けて、リアンたちが敬礼を送る。カルラ隊が本格的にヴァルキリーへの攻撃を行おうとしていた。
次回予告
世界を動かしている者。
それは本当に世界のために動いているのだろうか?
愚か者の勝手には従わない。
自分の生き方は自分で決める。
その決意が、青年を突き動かしていく。