GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-05「激情の刃」
恋人、ミナの死。軍の身勝手な対応。
それらがジンの全てを壊した。
ミナを見殺しにした軍人にも、ジンは憎しみを向けていた。
その矛先にいたのは、かつて中尉だったギルドだった。
幸せな日常を壊した敵の1人、ギルドが目の前に現れたことに、ジンは怒りを膨らませた。激昂した彼に駆られて、ブレイズがソルディンに飛びかかる。
だが、ソルディンは飛翔してブレイズのビームサーベルをかわした。
「まさかヤツらの仲間になっていたとはな、小僧!だがMSに乗っても、がむしゃらに突っ込んでくるところは変わっていないようだな!」
「黙れ!お前たちのふざけた態度で、オレの日常は無茶苦茶になったんだ!」
あざけるギルドにジンが憤慨する。
「私は任務に忠実だっただけだ!私に八つ当たりするとは、まさにガキの考えだな!」
「何が任務だ!そのふざけた態度で、ミナが・・ミナが!」
さらにあざ笑ってくるギルドに、ジンが怒りを爆発させる。ミナの死を頭に焼き付けたまま、ジンがブレイズを駆り、ギルドの乗るソルディンを追撃する。
「絶対に許さない!お前は、ここで叩き潰してやる!」
「好き勝手に振舞う小僧が、何を言う!?」
「好き勝手なのはお前たちだろうが!」
ジンが怒りのままにブレイズを動かし、嘲笑するギルドのソルディンに向かっていく。だがブレイズのビームサーベルは、ことごとくソルディンにかわされていく。
「逃げるな!」
「逃げるとよけるの区別もつかないとはな!」
叫ぶジンに高らかに言い返すギルド。
「逃げるなと言っている!オレの攻撃を食らって死ぬ以外を、オレは許さない!」
「フン!もはや死ななければ理解できないか!もっとも、お前は死んでも理解できないだろうがな!」
怒りのままに攻撃を仕掛けていくジンと、さらに嘲笑と挑発を繰り返すギルド。ブレイズが振りかざすビームサーベルは、ことごとくソルディンにかわされていく。
(この前は不意を突かれてやられたが、オレは同じ相手に2度もやられるものか!)
胸中でブレイズに対する敵意を募らせていくギルド。ソルディンがビームライフルを発砲し、ブレイズをけん制していく。
さらに一気にブレイズに詰め寄り、ソルディンがビームライフルの銃口を胴体に突き付けてきた。
「全ての武装を解除し、こちらの言うとおりにすれば命だけは助けてやる。それ以外は全く保証しないがな。」
「誰がお前の言うとおりになるか!」
ギルドの忠告をジンが一蹴する。ブレイズがビームサーベルを振りかざしてソルディンを引き離す。すかさずソルディンがビームライフルを発砲するが、ブレイズがビームサーベルを振りかざしてビームを弾く。
「お前たちの言いなりになった時点で、オレはオレでなくなる!」
「強情なヤツだ!ならばここで消えるか!」
不敵に言い放つギルドに、ジンがさらに憤慨する。ブレイズがソルディンに向かってさらに攻撃を仕掛けていくのだった。
ブレイズの参戦で激化する戦況。ジャッカルが指揮するヴァルキリアは、敵艦の行方を追っていた。
「連合の艦が近くにいるはずだ。小さな異変も見逃すな。」
「はい!」
ジャッカルの呼びかけにアンが答える。しかしモニターからもレーダーからも、チェスターの行方をつかむことができずにいた。
「ソルディン十数機が出てきているんだ・・戦艦が1隻もいないということはまずない・・・」
ジャッカルは思考を巡らせて、敵艦の行方を模索していく。
「発見しました、艦長!距離2000!岩陰に隠れています!」
そのとき、アンがチェスター発見の報告をしてきた。ヴァルキリアのレーダーも、チェスターの位置を捉えていた。
「よし。ギリギリまで接近し、砲撃を仕掛ける。艦体に風穴をあけるぞ。」
「了解!ヒルド、スクルド、発射準備完了!」
ジャッカルの指示を受けて、アンが武装をチェックして、ヴァルキリアを操縦する。チェスターに気付かれないように、ヴァルキリアがゆっくりと前進する。
だがしばらく進んだところで、チェスターがヴァルキリアに気付いた。
「マアム艦長、敵艦です!」
オペレーターからの報告を受けて、マアムが緊張感を覚える。
「ここまで近づいてくるとは・・ソルディン隊に通達。挟み撃ちにしなさい。」
「はっ!」
マアムの指示を受けてオペレーターがパイロットたちに通達する。不意打ちを狙っていたヴァルキリアをチェスターとソルディンが狙い撃ちにしようとしていた。
ヴァルキリアの背後に回り、ビームライフルを構えるソルディン。そのとき、1機のソルディンがビームを受けて撃墜された。
「やられた!?彼らの機体ですか!?」
声を荒げるマアム。ヴァルキリアの後方から現れたのは、カナの乗るスナイパーだった。
「ありがとうね、ウォーティー。みんなの危険を知らせてくれて・・」
「ウォーティー、キケン、カンジタ♪キケン、カンジタ♪」
感謝の言葉をかけるカナに、ウォーティーが上機嫌に声を上げる。
“すまない、カナ。このままヴァルキリアの護衛をしつつ、敵艦を撃墜してほしい。やれるか・・?”
そのスナイパーのコックピットに、ジャッカルの声が飛び込んできた。
「難しい命令ですが、やるしかないでしょ。」
愚痴をこぼしながらも、カナがヴァルキリアの護衛とチェスターへの攻撃を受け持つ。
「ウォーティー、敵MSの位置情報、よろしくね。」
“リョーカイ、リョーカイ♪”
カナの呼びかけを受けてウォーティーが答える。チェスターへの攻撃を狙う一方、彼女は自分を狙ってくるソルディンの動きにも注意を払った。
ギルドに対する怒りを膨らませていくジン。果敢に攻め立てるブレイズだが、ソルディンの機敏な動きの前にことごとく攻撃をかわされていく。
「お前はあのときと何も変わっていない!自分たちの都合のことしか考えていない!自分が安全なら、他のヤツがどうなろうと知ったことではない!」
ジンがギルドへの怒りを口にする。しかしギルドはジンの怒りをあざ笑う。
「それはお前のことだろう!自分のことしか考えず、世界のために尽力している我々に不当に牙を向ける!小僧の浅はかさだな!」
「自分の傲慢を棚に上げて、他人にそれを押しつける・・どこまで思い上がっているんだ、お前は!?」
さらなる怒りを見せつけるジン。ブレイズが力任せに突進し、ギルドのソルディンに組みついた。
「逃がさない!ここで切り裂いてやる!」
ジンが言い放ち、ブレイズがソルディンに向けてビームサーベルを振り下ろそうとした。
「まだ甘いぞ、小僧・・・!」
だがソルディンがゼロ距離でビームライフルを発砲してきた。放たれたビームがブレイズの右のわき腹に直撃する。
「ぐっ!」
衝撃に襲われてうめくジン。間近での直撃のダメージは大きく、ブレイズは損傷を余儀なくされた。
「回避ができないのはお互い様だ!これで勝った気になるとは、やはりガキだな!」
ソルディンから離れていくブレイズ。ギルドがあざ笑い、ジンが屈辱を覚える。
「今度こそ終わりだ!死んでしまえばもうオレと会うことはない!」
損傷しているブレイズにとどめを刺そうと、ソルディンがビームライフルを構えた。だがそのビームライフルが別のビームに撃ち抜かれて爆発を起こした。
「何っ!?」
声を荒げるギルド。ブレイズとソルディンの間に、ゼビルの乗るスナイパーがビームライフルで射撃し、ブレイズの危機を救ったのである。
「どうした?これでは余計なことをするなとは言えないぞ。」
「うるさい・・オレは、こんなところで死ぬわけにはいかない・・・!」
声をかけてくるガゼルに、ジンが不満を言い返す。
「死にたくなければ1度ヴァルキリアに戻れ。ブレイズを補修してから出直せ。」
「くっ・・・!」
ゼビルの言葉に反論することができず、ジンはやむなくヴァルキリアへ帰還していくのだった。
「このまま逃がすものか!」
ギルドがジンのブレイズを追撃しようとするが、ガゼルのスナイパーに行く手を阻まれる。
「お前の相手はオレだ!」
「そんなにオレに倒されたいなら、望み通りにしてやるぞ!」
言い放つガゼルとギルド。スナイパーとソルディンが激しい銃撃戦を繰り広げていった。
ギルドのソルディンの攻撃で負傷し、撤退を余儀なくされたジンのソルディン。彼が戻ろうとしたヴァルキリアは、カナのスナイパーとともにチェスターやソルディンたちと交戦していた。
「くそっ!これじゃ戻れないじゃないか!」
この戦況にいら立つジン。ブレイズがビームライフルを放って、ソルディンを射撃する。
「ジン!」
「1度戻る!もう1度出たら今度こそ叩き潰してやる!」
声を上げるカナに、ジンが言い放つ。開かれたハッチから、ブレイズがヴァルキリアに帰還していった。
「ジン、大丈夫・・・!?」
ブレイズから降りてきたジンに1人の少年が駆け寄ってくる。
ユウ・フォクシー。ヴァルキリアにて整備の手伝いをしている少年である。ジンやガゼルのようなMSパイロットを目指して、日々訓練を続けている。
「オレは平気だ・・それよりもすぐにブレイズを!」
ジンが言葉を返し、慌ただしく動いているマートンを睨みつける。
「ムチャな注文を突き付けてくるヤツだ!・・ユウ、手伝え!」
「は、はいっ!」
マートンに呼ばれてユウがジンから離れる。ギルドのソルディンの攻撃で苦汁をなめることになり、ジンは苛立って壁を殴りつける。
(アイツ・・絶対に許さない・・必ずオレが叩き潰してやる・・・!)
ギルドへの怒りを募らせていくジン。彼の心は嵐のように激しく揺れ動いていた。
ヴァルキリアとともにソルディン、チェスターと交戦するカナのスナイパー。だがソルディンの連携攻撃に苦戦を強いられていた。
(ジンやガゼルのようにうまくいかない・・いくらウォーティーが的確に敵の位置や攻撃を感知してくれても、あたしの反応が遅れる・・・!)
「カナ、ウシロ!ウシロ!」
思考を巡らせるカナに、ウォーティーが呼びかけてくる。ソルディンがビームライフルで発砲し、スナイパーのシールドを叩く。
「うわっ!」
カナが悲鳴を上げ、スナイパーが体勢を崩す。ソルディンが追撃しようとビームライフルを構える。
そのとき、ヴァルキリアのビーム砲「ブラスト」がソルディンを撃ち抜いた。撃たれたソルディンが爆発を起こしながら墜落していく。
“カナ、大丈夫か!?”
カナに向けてジャッカルの声が飛び込んでくる。
「艦長・・はいっ!あたしは大丈夫です!」
“そうか・・ジンがまた出ることになりそうだ。それまで持たせてくれ・・”
答えるカナにジャッカルが指示を出す。カナが気持ちを引き締め、スナイパーが再びソルディンに向かっていった。
ブレイズの修復を待つこととなったジンだが、徐々に苛立ちを膨らませてきていた。
「おい、まだなのか!?このままじゃアイツに逃げられる!」
「ムチャ言うなって!いくらオレでもそんなすぐに修理できるか!魔法使いじゃねぇんだから!」
怒鳴るジンにマートンが不満を返す。だがジンは我慢の限界を迎えていた。
「もういい!治ってなくてもオレは行く!すぐにハッチを開けろ!」
「バカ!そんなに死にたいのか!?まともに動かすことができずに撃墜されるぞ!」
マートンの呼び止めも聞かずに、ジンがブレイズに乗り込む。
「ブレイズ、出るぞ!」
修理が完了していないブレイズを発進させるジン。ヴァルキリアから飛び出したブレイズが、ガゼルのスナイパーと交戦しているギルドのソルディンに向かっていく。
「ガゼル、どけ!そのMSはオレがやる!」
ジンがガゼルに呼びかけ、ブレイズがビームサーベルでソルディンに攻撃を仕掛ける。果敢に攻め立ててくるブレイズの攻撃を、ソルディンが盾で防ぐ。
「またお前か!性懲りもなくやられに来たか!」
「違う!お前を叩き潰しに来たんだ!」
高らかに言い放つギルドに、ジンが言い返す。ソルディンにビームサーベルを防がれるブレイズが、左手を後ろに回す。
「バカめ!ビームライフルで攻撃しようとしてくることは分かって・・!」
ギルドが勝気に言い放つ。だがブレイズが手にしてきたのは、もう1本のビームサーベルだった。
「何っ!?」
虚を突かれたギルド。盾を持ったソルディンの左腕が、ブレイズのビームサーベルで薙ぎ払われた。
「お前はオレが叩き潰す!この世界から消してやる!」
ジンが怒りのままに叫び、ブレイズが右手のビームサーベルを突き出す。頭部を切り裂かれたものの、ソルディンは回避してブレイズとの距離を取る。
「次から次へと小賢しいマネを・・・!」
“ギルド少佐、ここは撤退します。帰還しなさい。”
ジンへの敵意を強めていたギルドに向けて、マアムからの通信が入ってきた。
「しかしマアム大佐、このままやられたままおめおめと・・!」
“戦況はこちらに不利です。これ以上の戦闘継続は全滅につながるだけです。”
抗議の声を上げるギルドだが、マアムに言いとがめられて、渋々聞き入れることにした。
「・・・了解しました・・・」
歯がゆさを抱えたまま、ギルドはチェスターに戻っていった。
「逃げるなと言っているだろ!」
「そんなにオレに倒されたいなら、次の機会に確実に仕留めてやる!」
叫ぶジンに言い返し、ギルドは撤退した。チェスターも続いてヴァルキリアの前から去っていった。
ギルドを追おうとしたジン。だが修復が完全でなかったブレイズが機敏に動けなくなり、落下を始める。
「ジン!」
そこへカナのスナイパーが駆けつけ、ブレイズを受け止める。ブレイズとスナイパーたちはヴァルキリアへと帰還していった。
ヴァルキリアを仕留め損なったことで、チェスターの艦内は未だに騒然となっていた。ギルドもジンのブレイズにソルディンを負傷されたことに、強い苛立ちを感じていた。
「おのれ!・・オレが、おめおめとやられて引き下がるとは・・・!」
込み上げてくる感情を抑え切れず、そばの壁を殴りつけるギルド。
「気持ちを落ち着けなさい、ギルド少佐。隊長であるあなたがそれでは、部下に示しがつかないですよ。」
そこへマアムが声をかけてきた。苛立ちが治まらないギルドだが、何とか気分を落ち着かせていく。
「あの機体や艦を撃つ機会はまだあります。それまでに敵のデータを洗い直し、シュミレーションしておくように・・」
「マアム大佐・・・分かりました・・・」
マアムの指示に答え、ギルドが敬礼を送る。チェスターはヴァルキリアとの次の戦闘に備えて、修復を急ぐのだった。
同じ頃、ジンもギルドを仕留め損なったことに強い怒りを感じていた。
「くそっ!アイツ、自分が不利になると逃げだして!」
怒りを抑え切れず、ジンがそばの壁を殴りつける。だが駆けつけたユウとマークに止められる。
「落ち着いて、ジン!」
「そんなに殴ったら凹んじゃうって!」
2人に呼びかけられて、ジンがようやく落ち着きを取り戻した。込み上げてくる怒りを胸に秘めたまま、ジンは整備ドックを去っていった。
「ジン・・・」
ジンの後ろ姿を見つめて、カナは困惑を感じていた。
怒りが治まらないまま、ジンは自分の部屋に戻った。ベッドに横たわった彼は、手にしたロザリオを見つめていた。
「ミナ・・すまない・・お前の仇、討てなかった・・・」
ジンがロザリオを握りしめて、ミナのことを想っていた。
「この世界を歪めてるヤツらが、お前を殺してしまった・・ミナを・・・!」
怒りとともに悲しみを膨らませていくジン。彼の目からは大粒の涙があふれてきていた。
次回予告
戦いの始まり。
それは軍人の理不尽だった。
身勝手が蔓延し、地獄へと突き落とされていく現状。
激しい怒りが、戦いへの引き金を引いた。