GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-04「世界への挑戦」
幼いころのスバルはいじめられっ子だった。いじめっ子のいじめにいつも泣かされていた。
だがある日、スバルはジンと出会った。
いじめに来るいじめっ子たちを、ジンは怒りのままに撃退した。その後大人に叱られることとなったジンだが、自分は間違ったことはしていないの一点張りだった。
自分を貫き通すジンに、スバルは次第に勇気づけられていった。2人はいつしか無二の親友になっていた。
だが、数年前からジンとスバルは離れ離れとなってしまった。それから会っていなかった2人は、久方ぶりの再会を果たしたのだった。
「ジン、ゴメン、遅くなっちゃって・・・」
「気にしてはいない・・お前は昔も慌ただしかったからな・・・」
息を荒げながら謝るスバルに、ジンは憮然とした態度を見せる。
「こうしてまた君に会えて嬉しかった・・ご両親も亡くなって・・・」
「昔のことだ。気にしてはいない・・それに、2人とも自業自得だったし・・・」
沈痛の面持ちを見せるスバルに、ジンが憮然とした態度を取る。
ジンは軍人の父と研究員の母を持っていた。だが2人とも敵軍の攻撃に巻き込まれて死亡している。
ジンは両親をよく思っていなかった。2人とも家族よりも自分のことを優先させていたからだった。両親が死んだとき、ジンは大声で笑ってひんしゅくを買ったこともあった。
「よくご両親とケンカしていたよね、ジンは・・そういう性格だから、簡単に想像できるけど・・」
「2人とも身勝手だったからな・・もう親とも思っちゃいなかった・・親がいなくてさびしい思いをしている子供はたくさんいるが、オレはさびしいとは思わなかった・・・」
思いつめるスバルと違い、ジンは憮然とした態度を崩さない。ジンは親への愛情、家族の安らぎを感じたことがなかった。
「スバルー♪ここにいたんだねー♪」
そこへフィーアが走り込んできた。明るいふるまいを見せるフィーアに、ジンが眉をひそめる。
「この人だね、スバルの幼馴染みっていうのは♪」
「うん。ジン・シマバラ。ジン、彼女はフィーア・クリムゾン。僕もみんなもフィーって呼んでる・・」
声をかけるフィーアとジンを互いに紹介するスバル。
「ねぇねぇ、スバル♪この服、この街の1番人気なんだって♪絶対似合うよね?」
フィーアが買ってきた服のひとつをスバルに見せてきた。
「フィーなら何だって似合っちゃうよ。今までだってそうだったじゃない・・」
「それって他の服と大して変わんないってこと?」
「いや、そういうわけじゃ・・」
「じゃ、どういうことなの!?」
フィーアに睨まれてスバルが気まずくなる。だがそのとき、フィーアが突然ジンに殴られた。
「いったーい!・・何すんのよ、いきなり!?」
「お前・・いったい何様のつもりだ・・・!?」
声を張り上げるフィーアに、ジンが怒りをあらわにする。
「自分の思い通りにならないのがそんなに不満か!?そんなに自分が正しいと思い込んでいるのか!?」
「それのどこが悪いの!?女性の気分を悪くする男なんて最低よ!」
「思い上がるな!男だろうが女だろうが、自分のためなら他のヤツを平気で苦しめるヤツなんかクズだ!」
「ひどい!そんなことを言う人、大っ嫌い!」
「やめてって、2人とも!」
怒鳴り合うジンとフィーアを、スバルが仲裁に入る。ジンの態度に我慢がならなかったフィーアが、涙ながらに駆けだしていった。
「フィー!・・ゴメン、ジン!ここで待っていて・・!」
スバルが慌ててフィーアを追いかけていく。憤りを抱えながらも、ジンはその場に留まることにした。
ヴァルキリーに関する情報を細大漏らさず収集しようと尽力していた地球連合。そんな中、チェスターにヴァルキリーに属する艦、ヴァルキリアの居場所をつかんだという情報が伝わった。
「ヤツら、ムーンレイクにいるのですか・・・!?」
「そうです。おそらく仲間と何らかのやり取りを行っているのでしょう・・」
問いかけてくるギルドに、マアムが冷静に答える。
「彼らがどれほどの規模なのかはまだ分かっていません。ですがこれは彼らの戦力を削ぐ好機であるのも確かです・・」
「ヤツらを一網打尽にするチャンスです・・マアム大佐、急行しましょう!」
ギルドが呼びかけると、マアムが真剣な面持ちを見せて頷く。
「これよりチェスターは、ヴァルキリー討伐のため、ムーンレイクに向かいます。ただし敵に気付かれぬよう、慎重な航行を優先させます。」
「了解!」
マアムの指示にギルドやチェスターのクルーたちが答える。ヴァルキリー打倒のため、彼らは本格的に動き出そうとしていた。
市街の中の裏路地で、泣き続けていたフィーア。ジンに殴られた頬を押さえていた彼女は、涙をあふれさせていた。
そこへ彼女を追いかけてきたスバルが駆け込んできた。
「フィー・・ゴメン・・こんなことになって・・・」
「何で・・何であたしが殴られなきゃいけないの!?あの人最低!女の子を殴る男なんて最低よ!」
謝るスバルにフィーアが不満の声を上げる。
「確かに、ジンは最低な性格かもしれない・・でもそれは、戦争を強く憎んでいるから・・・」
「えっ・・・?」
スバルが投げかけた言葉に、フィーアが当惑を浮かべる。
「ジンの両親は2人とも軍や戦争に関わる仕事をしていた。家族の時間が取れず、ジンはひとりぼっちになってた・・さらにジンは、恋人を戦争で亡くしているんだ・・・」
「そんな・・・でもそれで、何であたしが殴られなきゃいけないの!?」
「・・軍の人に身勝手な振る舞いをされて・・それで、身勝手な行為が我慢ならなくなってて・・・今も変わってなかったんだ・・・」
「あたしがいつ身勝手なことしたの!?・・・みんなと同じ、普通のことをしただけなのに!」
「それはそうだけど・・・ジンには、身勝手に見えたんだよ・・多分、僕やフィーが文句を言っても、逆効果にしかならないと思う・・・」
さらに不満を言い放つフィーアに対し、スバルが歯がゆさを浮かべて体を震わせる。
「そこまで戦争が、ジンを追いこんでしまったんだ・・僕が、軍や戦争に身を置くのを嫌がったように・・・」
「スバル・・・」
声を振り絞るスバルに、フィーアがさらに困惑する。
スバルは戦争に嫌悪して軍を抜けている。身近だった軍の人間から腰抜け呼ばわりされたが、スバルはこの決断をしたことを後悔していなかった。
「ゴメン、フィー・・・すぐに戻るから、この辺りでじっとしていて・・・」
スバルはフィーアに言いかけてから、ジンのところに戻っていった。フィーアはしばらくその場で泣き続けていた。
苛立ちを胸に秘めたまま、広場で待っていたジン。そこへスバルが慌ただしく駆け戻ってきた。
「ジン・・やっぱり変わっていなかったんだね・・君のそういうところは・・・」
「それがオレ自身だ。そこが変わってしまったら、それはもうオレではない・・」
声を振り絞るスバルに、ジンが憮然とした態度で答える。
「オレはあんなヤツは気に入らない。自分のためなら他のヤツがイヤな思いをしても構わないっていう考えは、クズ以外の何物でもない・・」
「それは・・軍からあんな仕打ちをされれば、我慢がならないのは分かるよ・・でもフィーは君が考えるような・・」
「いいや、あの女はクズだ!自分のことしか考えていない!自分をよく言わせようとしている!」
スバルが説得しようとするが、ジンは聞き入れようとしない。軍人から受けた仕打ちへの怒りが、戦いとは無関係の場でも湧き上がっていたのである。
「オレは認めない・・あんなふざけたヤツがのさばっているのは・・・!」
「でも、どんな理由や感情があったとしても、暴力や兵器で分からせようとするやり方はよくない・・」
怒りを見せるジンに、スバルが反論してきた。スバルは戦争、戦いの悲惨さを知り、辛さや虚しさしかもたらさないことを理解していた。
「スバルもそういうところは相変わらずのようだな・・戦争も軍も、争いごとも嫌い・・・」
「うん・・戦争がイヤだっていうのは、唯一の共通点だね・・・」
憮然とした態度で言いかけるジンに、スバルが物悲しい笑みを見せる。
「だけど・・逃げてばかりなのも、結局は何も変わらない・・・」
憤りを募らせて、ジンは歩き出す。
「ジン・・・」
「しばらくしたらまた連絡する・・またどこかで会えればいいな・・・」
当惑を見せるスバルに言いかけて、ジンは広場を後にした。
(僕もまた会えればと思っているよ・・でも、不安を感じてならないんだ・・・)
一抹の不安を抱えたまま、スバルはフィーアのところに戻っていった。
ヴァルキリー討伐のために航行を開始したチェスター。そのレーダーは、ヴァルキリアの位置を捉えていた。
「まず1機先陣を切ってもらいます。その役目はギルド少佐、あなたにやってもらいます・・」
「ありがとうございます。この役目、必ず果たしてみせます。」
マアムの推薦を受けて、ギルドが敬礼を送る。
「志はよろしいでしょう。ですが再三申しあげておきますが、私情を挟むのは厳禁ですよ。」
「分かっています。混乱を排除するために、連中を鎮圧いたします。」
マアムの忠告を受けて、ギルドがドックへと向かっていく。彼は自身のソルディン02へと乗り込んでいった。
「システム、オールグリーン。発進準備完了。」
機体をチェックするギルド。彼の乗るソルディンの先のハッチが開放される。
「ギルド・バイザー、ソルディン、発進する!」
ギルドのかけ声とともに、ソルディンがチェスターから発進した。ヴァルキリアに察知されないよう、ギルドはソルディンの出力を抑えて前進していった。
ムーンレイクに差し掛かったとき、ソルディンのレーダーがヴァルキリアの熱源を捉えた。
「あんなところに隠れていたか・・お前たちの勝手で世界が動くと思うなよ・・・!」
いきり立ったギルド。ビームライフルを構えたソルディンが、ヴァルキリア目がけて発砲した。
ビームライフルから放たれたビームは、ヴァルキリアの艦体をわずかに外れ、そばの岩場に命中した。
「くっ!・・うまい具合に岩の陰に隠れている・・・!」
射撃を外したことに毒づくギルド。この射撃で、ソルディンはヴァルキリアに探知されることになった。
「ビームが飛んできた!?」
補給作業の最中に襲撃を受けたことに、ジャッカルが緊張感を覚える。
「何者だ!?戦力と数は!?」
「熱源はソルディン!地球連合です!」
ジャッカルの問いかけにヴァルキリアのオペレーター、アン・アリシアが答える。
(声明が出されたのだから、奇襲を受けることも躁的できたはず・・油断していたということか・・・!)
「迎撃態勢に入る!ジンとカナを呼び戻せ!」
ジャッカルの指示を受けて、アンが連絡を出した。
ヴァルキリアに戻ろうとしていたジンに、買い物を終えたカナが駆け寄ってきた。
「ここでジンに会えるなんて、ビックリしちゃったよ〜♪」
「いちいち騒ぐな。馴れ馴れしくもするな・・」
上機嫌のカナに対し、ジンが憮然とした態度を見せる。
「もう、つれないんだから・・今回はそれなりの収穫だったよ♪」
「だから馴れ馴れしくするな・・あんまりオレを怒らせるな・・・!」
笑顔を振りまくカナに、ジンが苛立ちを見せる。
「怒んないでって・・冗談が通じないんだから、ジンは・・」
ジンの態度と性格にカナは参っていた。
そのとき、2人の持つ通信機が振動を発した。2人は通信機を取り出して、アンからの連絡を受ける。
“ヴァルキリアがソルディンの攻撃を受けています!すぐに帰還してください!”
「ソルディン・・地球連合が攻撃してきたっていうの・・・!?」
緊迫を覚えるカナ。ジンが憤りをあらわにして、ヴァルキリアが着艦している岩場に向かった。
「ちょっと!待って、ジン!」
カナも買い物袋を手にしたまま、ジンを追うように走っていった。
「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」
ゼビルの乗る黒のスナイパーが、ヴァルキリアから発進する。黒のスナイパーは、後退して他のソルディンと合流しようとしていたギルドのソルディンを捉えた。
「奇襲を仕掛けて、このまま逃げられると思っているのか・・・!?」
戦闘機形態のスナイパーが、ソルディンを追跡。追いついて回り込んだところでMS形態へと変形する。
「お前たちのような、どこの馬の骨とも分からないヤツらが、好き勝手にできると思うな!」
ギルドが言い放ち、ソルディンがビームサーベルを引き抜く。スナイパーもビームサーベルを手にして、ソルディンを迎え撃つ。
「同じセリフを返しておく・・お前たちが世界をいいようにできる時代は終わる・・・!」
ゼビルが言い返し、スナイパーがソルディンを突き放す。すかさずスナイパーが左手でビームライフルを手にして、ソルディンを狙撃する。
ソルディンがビームサーベルを掲げてスナイパーの射撃を弾く。そこへスナイパーが間髪置かずに距離を詰め、ビームサーベルを振りかざそうとした。
そこへビームが飛び込み、スナイパーがとっさに回避する。チェスターから出撃したソルディンが、ギルドの援護に回ってきた。
「大丈夫ですか、ギルド少佐!?」
「すまん、狙撃に失敗した・・・!」
呼びかけるパイロットに、ギルドが謝意を見せる。
「こうなれば、このMSだけでも落とす!お前たち、包囲しろ!」
「了解!」
ギルドの呼びかけにパイロットたちが答える。ソルディンたちの包囲網に、ゼビルは緊張感を膨らませていた。
アンからの連絡を受けて、ジンとカナがヴァルキリアに戻ってきた。
「遅くなりました!」
カナが声を張り上げて、私服のままスナイパーに乗り込む。ジンも続いてブレイズに乗り込む。
「自分が1番と思いこんで、敵意を見せるオレたちまで叩き潰そうとする・・どこまで思い上がっているんだ、アイツらは・・・!?」
軍人に対する怒りをむき出しにするジン。ブレイズの先のハッチが開放されていく。
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
ジンのかけ声とともに、ブレイズがヴァルキリアから発進していく。
「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」
カナの乗るスナイパーも続けて発進する。2機がゼビルのスナイパーを包囲するソルディンたちに向かっていく。
ブレイズがMS形態に変形して、手にしたビームライフルを発砲する。ソルディン数機がこの射撃を受けて落下し、残りが回避していゼビルのスナイパーから離れる。
「助けたつもりはないのだろうが、これでオレは助かった・・すまない・・・」
「その通り、オレはお前を助けたつもりはない・・・」
声をかけるゼビルに、ジンが憮然とした口調で返す。ブレイズやスナイパーをソルディンたちが再び取り囲んできた。
「自分勝手にするだけでは飽き足りず、刃向かうヤツらを徹底的に叩き潰す・・どこまで腐っているんだ、お前たちは!?」
激昂するジン。ブレイズがビームサーベルを引き抜き、向かってくるソルディンを斬りつけていく。
そこへギルドの乗るソルディンが飛び込み、ブレイズに向けてブームサーベルを振り下ろす。ブレイズもとっさにビームサーベルを掲げて、ソルディンの攻撃を受け止める。
その瞬間、ビームサーベルの衝突で発せられた火花がつなげるように、ジンとギルドの心がシンクロした。
「これは!?」
「まさか!?」
このシンクロで、2人は互いに相手のMSに乗っているパイロットの正体を感じ取った。
「あのときの反抗的な小僧・・そのMSに乗っているのはお前か!?」
「アイツ・・オレが心から憎んでいたヤツ・・・!」
声を荒げるギルドと、怒りを膨らませていくジン。
「まさかお前が、そんなものに乗っているとはな、小僧!」
「また好き勝手にやっているのか、お前は!?」
言い放つギルドと、激昂するジン。ジンの怒りを背に受けて、ブレイズがソルディンに向かっていった。
次回予告
悲劇の始まり。
その相手が再び目の前に現れた。
その男がいたから、平和が壊れた。
絶対なる自信と、軍への激しい怒り。
2人の魂が、戦場で激しくきらめく。