GUNDAM WAR Horrible Wishes-

PHASE-03「ヴァルキリー」

 

 

 ガルナへの攻撃を開始したヴァルキリア。ジンの乗るブレイズを、リードのグフ・グレイスが包囲してきた。

「どんなに強力なMSだろうと、数はこちらのほうが上!」

「連携して1機ずつ潰していくぞ!」

 グフに乗るパイロットたちが声を掛け合い、ブレイズを狙う。グフがヒートロッドを振りかざし、ブレイズを捕まえようとする。

 だがブレイズは素早く動き、ヒートロッドをかわしていく。

「そんなものに捕まるかよ!」

 ジンが叫び、ブレイズが飛びかかってビームサーベルを振りかざす。光刃はグフのヒートロッドを切り裂き、武力を奪っていく。

 だがヒートロッドがブレイズの両腕を縛りつけてきた。

「くそっ!こんなもの・・ぐあっ!」

 声を上げるジンが電撃に襲われる。ヒートロッドを伝う電撃が、ブレイズに衝撃を与えていた。

 そこへスナイパーが飛びかかり、ビームサーベルでヒートロッドを切り裂いた。自由を取り戻したブレイズが、飛翔して安全圏まで距離を取った。

「ジン、あんまり突っ走らないでよね・・」

「うるさい!あんなのはオレだけで十分だ!」

 呼びかけるカナだが、ジンは怒鳴り返すだけである。

「そう。だったらもう助けてやらないんだから・・」

「好きにしろ。オレはオレでやる・・!」

「いい加減にしろ、2人とも。」

 そこへゼビルが呼びかけ、ジンとカナに注意を向ける。

「今は戦闘中だ。集中しないと撃墜されるぞ。」

「分かってるって!ちゃんとやってるって!」

 ゼビルの注意にカナが不満の声を上げる。ブレイズとスナイパーが、グフ・グレイスに対して迎撃態勢を取った。

「お前たちのような、自分たちの思い通りになると思い込んでいるヤツら・・そんなヤツらがいるから、世界が壊れるんだ・・・!」

 ジンが軍人に対する怒りを膨らませていく。

「お前たちのようなヤツらは、この世界から消えろ!」

 ジンが怒号を放ち、ブレイズがさらにスピードを上げる。ブレイズが振りかざすビームサーベルが、グフの頭部や胴体を切り裂いていく。

「くそっ!何という力だ!」

「グフ・グレイスが歯が立たないとは・・・!」

「こうなれば、ザクも出して一気に畳みかけるぞ!」

 リードのパイロットが声を掛け合う。グフだけでなく、遅れて出撃したザク・スマッシュ、ザク・スラッシュもブレイズたちを取り囲み、ザク・ブラストも後方から狙い撃ちを図っていた。

「どこから狙ってきても、オレはお前たちを倒す!」

 ジンが言い放ち、ブレイズが戦闘機へと変形して、ザク・ブラストに向かっていく。

「こっちの始末は私たちがやるのね・・」

「どちらにしても全滅させるのが目的だ。まずは周囲のMSを叩く。」

 ため息をつくカナと、淡々と呼びかけるゼビル。ジンの駆るブレイズの射撃で、ザク・ブラストは次々と返り討ちにされていった。

“この辺でいいだろう。他の部隊が増援に来る前にひとまず撤退するぞ。”

 そこへジャッカルからの通信が入ってきた。しかしジンは攻撃をやめようとしない。

「ふざけるな!ここの連中を叩き潰さずに、のこのこと帰れるか!」

“そんなムキにならなくても、ヤツらは壊滅したも同然だ。そんなに攻撃がしたいなら、1度出直してからだ。”

「くっ!・・だったらこれだけでも!」

 ジャッカルの指示を渋々受け入れたジンが、ガルナの管制塔に狙いを向ける。MS形態へと変形したブレイズが、管制塔に向けてビームライフルを発砲する。

 ビームを撃ち込まれた管制塔が爆発を起こす。レーダー網をも狂わされたガルナから、ブレイズは飛翔して離れていった。

 ヴァルキリアの襲撃によって、ガゼルは壊滅的な被害を被ることとなった。ブレイズ、スナイパーを収容して、ヴァルキリアはガゼルから撤退していった。

 

 ガゼル襲撃の知らせは、ソワレとマリアの耳にも入っていた。

「ジースを攻撃したMSが、ガゼルを攻撃してくるとは・・・!」

「地球軍を攻撃したから、私たちの味方・・という考えは甘いということね・・もっとも、得体が知れないから味方とは思っていなかったけど・・・」

 ソワレが毒づき、マリアが肩を落とす。

「本当に何者なのかしらね?・・地球軍もリードも敵に回して・・全てを滅ぼすなんて馬鹿げたことを考えているのではないでしょうね・・・」

「言えることは、あの部隊の介入で、世界がまた混乱に陥るのが確か、ということです・・旧人類とオメガ、今まで分断されていた情勢が、彼らを含めた三つ巴となり、戦争は激しさを増す・・・」

「でもまだ迂闊には出ていけないわ。こちらに手を出させて、戦力を不安定にさせるのが狙いなのかもしれないし・・・」

「それに、こっちの機体はまだ調整とチェックが済んでいませんし・・・1年前の対戦での損傷の修復は完了しましたが、それだけでも時間がかかっていますし・・」

「いろいろな理由で、手も足も出ない・・・」

「まさに八方ふさがりですね・・・」

 打つ手が見出せず、悩みを膨らませるマリアとソワレ。彼らを含めた部隊の出した結論は、相手の出方をうかがうという後手の手段だった。

 

 ムーンレイクでのひとときを過ごしていたスバルとフィーア。彼らのいる街の街頭テレビから、ガルナ襲撃のニュースが流れた。

「ウソ・・こんなことがまた起きるなんて・・・!?

「どうしてまたこんなこと・・・停戦状態だったとはいえ、ようやく世界が落ち着きを見せてきたっていうのに・・・!」

 驚愕の声を上げるフィーアと、歯がゆさを浮かべるスバル。

「確かスバルは、軍の訓練を受けたことがあったんだよね・・・?」

 フィーアが問いかけると、スバルが小さく頷いた。

 スバルは両親の計らいで軍人の訓練を経験していた。MSパイロットのライセンスも所有している。だが戦場の悲惨さを目の当たりにした彼は、戦いへの拒絶を強め、軍人への道を放棄した。

 一般人としての時間を過ごすことを、スバルは心に誓っていた。戦いからは悲劇しか招かないものと、彼は思っていた。

「たとえフィーの言うことでも、戦うのはイヤだよ・・戦うことに、いいことなんてないんだから・・・」

「スバル・・・」

「弱虫でも意気地なしでもいい・・戦うくらいなら・・・」

 込み上げてくる辛さを抑えきれず、スバルが体を震わせる。そんな彼を見かねて、フィーアが声をかけた。

「はいはい、戦わなくていいから、あたしの手伝いをちゃんとしてよね。」

 フィーアがスバルに荷物を持たせてきた。

「うわっ!・・こういう手荒い仕事も、戦いよりはいいかな・・・」

 慌てて荷物を受け止めるスバルが、苦笑いを浮かべる。フィーアも笑顔を見せて、軽い足取りで駆けだしていった。

「スバル、急がないと置いてくよ〜♪」

「待ってって!こんなに荷物を持ってたらちゃんと走れないって!」

 呼びかけるフィーアを、スバルが慌てて追いかけていった。

 

 ガゼルへの攻撃を終えて、航行を再開したヴァルキリア。攻め切れなかったと感じて、ジンは苛立ちを浮かべていた。

「もう少しで完全に叩き潰せたのに・・・!」

「そういうな、ジン。あのままやり続けたら、援軍に攻め込まれてハチの巣にされていたぞ・・」

 不満を口にするジンを、ジャッカルがなだめる。

「地球連合とリード、双方の軍への宣戦布告が完了した。時期にオレたちへの攻撃が本格化する。そうなればジン、お前も徹底的に戦えるだろう・・」

「勘違いするな。オレは戦いを望んでいるんではない。自分たちが偉いと思い上がっているヤツらの打倒だ・・」

 呼びかけるジャッカルに、ジンが鋭く言いかける。彼は苛立ちを見せたまま、ドックを後にした。

「もう、ジンはホントにしょうがないんだから・・これでよくヴァルキリアに乗れたものだよ・・」

 ジンの素行の悪さにカナが肩を落とす。

「仕方ないさ。ジンは許せないヤツの言い分を聞き入れるのが我慢ならない性格だからな。聞き入れるくらいなら、死んだほうがマシなくらいに・・」

「それにヴァルキリアに乗った理由がすごいんだからね・・頭が上がらなくなりそう・・・」

 ゼビルが語りかけると、カナが再び肩を落とす。ジンが去っていったほうに振り向いて、彼女が困惑を浮かべる。

「性格はともかく、成果は着々と上げている。それによる周りの反応で、ジンがどう変わるか・・・」

「何も変わんないんじゃないの?ジン、そういうことに鈍感、というか無頓着だから・・・」

 ジンについて会話を繰り広げるゼビルとカナ。

 そんな2人に向かって、ひとつの水色の球体が飛び跳ねながらやってきた。カナはその球体を受け止める。

「もう、ウォーティーったら。部屋で大人しくしててって言ってたのに・・」

「カナ、オカエリ♪カナ、オカエリ♪」

 肩を落とすカナに、球体が上機嫌に挨拶をしてくる。

 球体ロボット「ハロ」。元々はメカニックの修理や情報整理のために開発されたものだったが、球状と愛らしいデザインが女性で人気となり、今ではマスコットキャラクターとしても有名となっている。

 カナが持つハロは水色をしていることから「ウォーティー」と名付けたのである。

「ハロのしつけはちゃんとしておけ。何なら戦闘のサポート役にしろ。」

「サポート役・・そうだったね。ハロの開発目的は元々そうだったよね・・」

 ゼビルの言葉でカナが笑みをこぼす。彼女はハロがパイロットやエンジニアのサポートを行えることを、しばらく忘れていた。

「ウォーティー、今度は一緒に出撃するよ。だからシュミレーション演習、付き合ってちょうだいね。」

「ハロハロ♪ウォーティー、ガンバル♪」

 カナが呼びかけると、ウォーティーが上機嫌のまま答える。

「オレも付き合う。オレのほうがパイロット歴が長いから、多少はアドバイスできるだろう・・」

「ありがとう、ゼビル。助かるよ〜・・」

 助力するゼビルに感謝するカナ。2人も慌ただしさの残るドックを後にした。

 

 情報収集と艦の指揮を続けているジャッカル。ひと息つこうとしていた彼の前に、ジンがやってきた。

「どうした、ジン?悪いが今は不満を聞いてやる余裕はないのだが・・」

「この後の進路の途中にムーンレイクがあっただろ・・・?」

 ジンが投げかけてきた疑問に、ジャッカルが眉をひそめる。

「そこに下ろしてくれ。そこで用事ができた・・」

「まったく、お前というヤツは・・」

 ジンが申し出た言葉を聞いて、ジャッカルがため息をつく。

「・・丁度ムーンレイクで物資補給をすることになっている・・その間なら許可してやる・・」

「そうか・・分かった・・・」

 ジャッカルの答えを聞くと、ジンはきびすを返して去っていった。

「やれやれ。どこまでも勝手なヤツだ、アイツは・・」

 ジンの態度に手を焼かされ、ジャッカルは肩を落としていた。

 

 ムーンレイク付近の海で潜航を行ったヴァルキリア。直接入港できないヴァルキリアは近海に潜み、小型艇で上陸することとなった。

 ジャッカルの指揮で補給作業が進められる中、ジンは市街に出ていた。だが彼のそばにはカナがついていた。

「何でお前がついてくるんだ、カナ・・・?」

「私も街に行きたいからよ。買い物もしたいし♪」

 憮然とした態度を見せるジンに、カナが上機嫌に答えてくる。

「勝手にしろ。荷物持ちはしないぞ・・」

「分かってるって。自分の荷物は自分でちゃんと持つわよ。」

 邪険にしてくるジンに、カナも突っ張った態度で言葉を返す。彼女を背にして、ジンは街の中央広場に向かった。

(ここで待ち合わせってことだが・・早く来すぎたのか・・・?)

 広場の時計に目を向けるジン。既に待ち合わせの時間になっていた。

(ま、アイツは何気にドタバタしてるからな。時間通りに来たことは、オレの知る限りほとんどなかった・・)

 昔のことを思い返していくジン。彼は思わず笑みをこぼしていた。

「ゴメン、ジン・・遅くなってしまった・・・」

 そこへ声をかけられ、ジンがため息混じりに振り返る。彼の前に駆け込んできたのは、たくさんの荷物を持ったスバルだった。

 ジンとスバルは幼馴染みだった。しばらく会うことも連絡することもなかったが、2人は久方ぶりの再会を果たしたのだった。

 

 ガゼル襲撃で、地球連合も騒然さを募らせていた。そんな中、とあるニュースを聞きつけ、ギルドが連合軍所属戦艦「チェスター」のブリッジに駆け込んできた。

「どういうことですか、大佐!?連中からのメッセージとは・・!?

「静かにしなさい、ギルド少佐。またメッセージの途中です・・」

 声を張り上げるギルドを、マアムが静かにさせる。ブリッジのモニターから、ニュースを通じてのメッセージが流れていた。声は女性のものだった。

“我々はこの世界のあり方を認めない。旧人類とオメガ、地球連合とリード、2色に分かれたこの対立によって、戦いに巻き込まれて悲劇に見舞われた者は少なくない。このような悲劇をもたらしたのは、武力や権力に酔いしれた愚か者に他ならない。”

「愚か者だと・・いきなり攻撃を仕掛けた貴様たちが何を言う・・・!?

 メッセージの内容に、ギルドが苛立ちを浮かべる。

“だから我々は強固なる鉄槌をもって、愚かしき武力や権力を滅ぼす。矛盾と呼べる行為だが、同じく矛盾を繰り返している愚か者たちに、この行為を否定する権利はない。我々の揺るぎない信念と怒りの下、真の平和を導く。”

 この発言を受けて、チェスターのブリッジに戦慄が湧き上がった。このメッセージは、旧人類、オメガ問わず、世界全体に対する宣戦布告となっていた。

「何を考えているのです・・・これは紛れもなく、我々だけでなく、世界の全てを敵に回すということではないですか・・・!」

 驚愕のあまり、マアムも声を荒げる。クルーたちもメッセージの意図が分からず、反応することにも困っていた。

“我々は聖戦士!真の平和は、我々ヴァルキリーがもたらす!”

(あの連中・・我々地球連合だけでなく、リードも含めた世界全てを攻撃対象としているのか・・・何をたわけたことを・・・!)

 メッセージを告げる女性に対し、ギルドが怒りを募らせていた。

 

 ヴァルキリーと名乗った女性のメッセージは、リードにも、ソワレとマリアの耳にも入っていた。

「これは・・大変なことになるぞ・・・!」

「ヴァルキリーの言ったことは、完全に間違いであるとは言いきれないわね・・私たちが繰り広げてきたリードと地球連合の戦いは、戦いを望まない人にとっては迷惑以外の何事でもない・・」

 緊張を膨らませるソワレと、冷静を装うマリア。

「これを機に、そんな人たちがヴァルキリーを支持するようになるかもしれない・・・でも、だからといって、一方的に攻撃してくるやり方は好ましくないわ・・」

「防衛線を立てないといけない・・僕も作業に当たって、少しでも早く戦いに出られるようにしないと・・・」

 ヴァルキリー攻撃に備えて、マリアとソワレも行動を本格化させるのだった。

 

 

次回予告

 

敵は旧人類か、それともオメガか?

いや、敵は武力そのもの。

矛盾に矛盾をぶつける聖戦。

その果てに平和は訪れるのか?

その平和を、ジンは望んでいた・・・

 

次回・「世界への挑戦」

 

 

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