GUNDAM WAR –Horrible Wishes-
PHASE-02「復讐の炎」
地球連合基地、ジースの接近を聞かされたジン。連合軍に憎悪を抱いていた彼は、指示をあおることなく出撃に向かったのである。
「お、おい!何やってやがる!?」
整備士のマートン・カルロスが怒号を上げるが、ジンはブレイズに乗り込み、発進態勢に入る。
「ハッチを開けろ!でないとぶち破る!」
「ええい、危なっかしいガキだ!」
怒鳴りかかるジンに、マートンが不満を口にする。ブレイズの前方のハッチが開かれていく。
(このまま野放しにするものか・・必ず叩き潰してやる・・連合も、リードも・・・!)
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
憎悪を膨らませて、ジンがブレイズに乗って発進していった。恋人の死を意に介さなかった地球連合に復讐するために。
突然のジース襲撃の知らせは、ソワレとマリアの耳にも入ってきていた。
「ジースは地球連合の重要基地のひとつ・・そこが簡単に襲撃を受けるなんてね・・」
「リード所属のMSではない・・何者なのでしょう・・・?」
「そのMSの情報、徹底的に調べる必要があるわね・・」
「連合を攻撃したからといって、僕たちの味方であるとは限らないからね・・・」
慎重な判断を崩さないマリアとソワレ。
「彼らの可能性は・・・?」
「彼らの機体の1機はリードが開発したものよ。それならリードで判別できるはずよ・・」
ソワレが投げかけた疑問に、マリアが淡々と答える。脳裏によぎった不安が思いすごしであると、ソワレは思った。
謎のMSからの襲撃を受けたジース。迎撃もままならなかったことに、ギルドは腹を立てていた。
「おのれ!ヤツら、このままでは済まさんぞ!」
苛立ちを抑えることができず、そばの壁を横殴りするギルド。そこへ1人の女性が現れ、ギルドに声をかけてきた。
「少しは落ち着いたらどうです、ギルド少佐・・」
「こ、これはマアム・スカーレット大佐・・お見苦しいところをお見せていたしました・・・」
ギルドが落ち着きを取り戻して、マアムに敬礼を送る。
「そんなに不満を見せつけなくても、ヤツらを追うことができますよ・・」
「どういうことですか、大佐・・・?」
「ジースを襲撃したMSの討伐を目的とした部隊が編成され、その指揮官に私が選ばれました。そしてギルド少佐、あなたにも部隊に同行していただこうと考えています・・」
「私もよろしいのですか!?・・喜ばしいことです・・・!」
マアムの言葉を聞いて、ギルドが笑みを見せる。ブレイズにやられた雪辱を晴らすチャンスを得たことを、彼は素直に喜んでいた。
「くれぐれも私情をはさむことのないようにお願いしますよ。功を焦ると早死にしますよ・・」
「分かっています。適切な判断と行動の下、必ず連中の正体を暴き、撃退してみせます。」
マアムの注意を受けて、ギルドが敬礼を送る。
「チェスターに集合。10分後に発進します。」
「了解!」
マアムの呼びかけに答え、ギルドはこの場を去っていった。
(勇猛果敢であるが、私情をはさむことも多いですから・・注意を払わなければ、自分の首を絞めかねませんよ・・)
彼の安否への不安を胸に秘めるマアム。彼女も発進に備えて準備へと移った。
ジースへの独断専行を行ったジンのブレイズが、スナイパーたちに連れられてヴァルキリアに帰艦した。ブレイズのコックピットから出てきた彼に、マートンが怒鳴りかかってきた。
「自分勝手もいい加減にしろ、ジン!ブレイズはオレたちの主力だ!お前の勝手で壊されたんじゃたまんないって!」
「あそこに地球連合のヤツらがいたんだ!あのまま指をくわえて見逃すつもりはオレにはない!」
しかしジンも怒りのままに怒鳴り返す。
「あのなぁ・・オレたちは一応チームなんだ。勝手なことされると、他の連中がいいように動けなくなるんだよ・・」
「オレに仲間なんていらない・・オレは他のヤツと馴れ合うつもりはない!」
苦言を呈するマートンだが、ジンは自分の考えを曲げない。
「よさないか、お前たち。」
そこへ声がかかり、ジンたちが振り向く。彼らの視線の先には、軍服をまとった1人の男がいた。
ジャッカル・イカロス。ヴァルキリアの艦長である。
「マートン、ジンは連合やリードを倒すために行動している。その志はくみ取ってやらんとな。」
ジャッカルの言葉に対し、マートンが憮然とした態度を見せる。
「それとジン、出るときには一言声をかけろ。出撃の度にヴァルキリアに風穴をあけられてはたまらんからな・・」
「フン。」
続けてかけたジャッカルの言葉に苛立ちを見せると、ジンはそそくさにこの場を離れていった。
「もう、ジンはホントにしょうがないんだから・・」
ジンの態度にカナが呆れて肩を落とす。
「アイツは仕方がない。連合やリードに強い憎しみを抱いている。度が過ぎるとはいえ、今の行動も納得できないものでもない・・」
ゼビルもジンの態度に対して意見を述べる。ジンの感情を察して、カナも困惑を浮かべる。
「そうよね・・ここにいる人たちは、連合にもリードにも不満を持っている人ばかりだもんね・・私だって・・・」
カナも思いつめた面持ちを見せる。
このヴァルキリアに乗艦している人間は、何らかの理由で地球連合とリード、あるいは軍隊そのものに怒りや憎しみを向けている。特にジンはその憎悪が非常に強く、仲間内でも手を焼かされるほどだった。
「ジンのことは後だ。今は次の戦闘に備えることが先決だ。」
「そうね。今度はジンに先を越されないようにしないと・・」
ゼビルの呼びかけを受けて、カナが意気込みを見せた。
「それで、次に向かうのは・・?」
「リード地球施設、ガルナだ・・」
不機嫌のまま自室に戻っていったジン。私服に着替えた途端、彼はベットに横になってふて寝してしまった。
ジンは今も怒りと憎しみを膨らませていた。自分のよりどころをリードと連合に奪われたことで、彼は激情に打ち震えていた。
「連合もリードも好き勝手にして・・アイツらの姿や顔を見るだけで気分が悪くなってくる・・・」
苛立ちの言葉を口にするジン。彼に手にはひとつのロザリオが握られていた。
「ミナ・・・どうしてこんなことに・・・」
かつての恋人の名を口にして、ジンは涙していた。
地球上に存在しているリード軍事施設「ガルナ」。そこではリードの新たなる量産型兵器が開発されようとしていた。
「グフ・グレイス」。リードの計算上では標準量産型MSである「ザク・スマッシュ」においてあらゆる性能を上回っている。右手からは電磁鞭「ヒートロッド」、左手からはビームマシンガンと電磁剣「ヒートサーベル」が射出される。
ザクとは違うMSを目指して開発されたグフは、リードの新たなる戦力として加わろうとしていた。
「後は実践訓練で、パイロットたちに性能と操作を慣らさせるだけか・・」
ガルナの管理者、マーク・マルティスが呟きかける。
「くれぐれも気を抜かずにやれと言っておけ。お前たちが扱っているのは、リードの未来のかかった代物であることを忘れるな。」
パイロットやオペレーターに檄を飛ばすマーク。そこへ熱源補足を知らせる連絡が入ってきた。
“こちらに接近する熱源あり!アンノウンです!”
「アンノウン!?連合のヤツらではないのか・・!?」
“違います!連合の信号ではありません!”
マークが報告を受けて緊迫を覚える。
(もしや、先ほど連合を襲った謎のMSか・・こちらの進展を阻むためにやってきたのかもしれない・・・!)
「警戒態勢に入る!警告を促し、聞き入れない場合は攻撃を許可する!」
接近する熱源を警戒して、マークが命令を下した。
にぎわいの絶やさない市街「ムーンレイク」。その街道を歩く2人の男女がいた。
スバル・アカボシ。温和で心優しい性格をしている。冷静沈着である一方、思い切りのよさもある。
フィーア・クリムゾン。スバルと同じ大学に通う少女。マイペースな性格で、スバルを引っ張り回している。
この日、スバルとフィーアは買い物に来ていた。たくさんの買い物を持たされて、スバルは参っていた。
「まだ買い物するつもり?もう持ち切れないって・・」
「だって今日は入荷した服が多いんだもん。チェックしないわけにいかないんだから♪」
弱音を口にするスバルだが、フィーアは聞かずに次の店に向かっていく。彼が休憩を取れたのは、それから十数分後のことだった。
「ふぅ・・持って帰るのが大変だよ、この量は・・・」
「何言ってんのよ。だから車で来たんじゃない♪」
頭の上がらないスバルに、フィーアが上機嫌に上機嫌に答える。ため息混じりに自分の携帯電話を取り出すと、スバルは着信があったことに気付く。
「あ、メールが来てた・・アイツじゃないか・・」
「えっ?スバル、誰からのメール?」
声を上げるスバルに、フィーアが訊ねてくる。
「幼馴染だよ。ここしばらく連絡が取れなかったんだけど・・まさか向こうから連絡を出してくるなんて・・そんなの全然なかったのに・・・」
「ふぅん・・スバルにも悪い友達がいるんだね・・」
「でも悪いのは態度や性格だけだよ。心から許せないことにはいつも突っかかっていく・・大抵はみんなのためにやってることだけど、ほとんどが裏目に出て、先生にいつも叱られてた・・」
スバルがその親友のことを思い返し、微笑みかける。だがすぐに彼の顔から笑みが消える。
「今頃どうしているのかな・・・?」
「それで、何てメールだったの?」
そこへフィーアが声をかけ、スバルがメールの内容を確かめる。
「時間が取れそうだから、近いうちに会おうって・・」
「なるほどねぇ・・だったらあたしにも会わせてよ♪」
フィーアが持ちかけた言葉に、スバルが困惑を見せる。
「ちょっとしたことですぐに突っかかってくるよ・・下手に会わないほうが・・」
「いいじゃない、いいじゃない♪どういう人なのか、あたしも気になるし♪」
忠告するスバルだが、フィーアは上機嫌になったまま聞いていなかった。かける言葉が分からなくなり、スバルは気落ちしていた。
ガルナへの移動を続けていたヴァルキリア。ヴァルキリアのレーダーが、艦が捕捉されたことを感知した。
「ガルナがこちらの接近に気付いたようです。MSの発進を確認しました。」
ヴァルキリアのオペレーター、アイナ・ルーシーが報告する。
「ジースへの攻撃で、リードも警戒していたようだな・・・」
ジャッカルが状況を見据えて頷きかける。
「第一級戦闘配備!ブレイズ、スナイパー、発進!」
「了解!」
ジャッカルの呼びかけにクルーたちが答えた。
「それとジンに落ち着けと言っておけ。ムダとは思うが・・・」
ヴァルキリアの戦闘配備の警報が鳴り響く。いつしか眠りについていたジンは、警報を耳にして目を覚ます。
「戦闘になるのか・・・」
ジンは呟きかけると、自分の頬を叩いて意識を覚醒させる。
「叩きのめしてやる・・連合だろうとリードだろうと、ヤツらはオレの敵だ・・・!」
心の奥に押し込めていた憎悪を湧き上がらせて、ジンが右手を強く握りしめる。その手を振りほどくことなく、彼は自分の部屋を出た。
パイロットスーツに身を包んだジンは、ドックに足を運んだ。そんな彼のそばにカナとゼビルが歩み寄ってきた。
「ジン、もう大丈夫?少し休んでいたほうが・・」
「いや、オレはやる・・ヤツらを叩きのめすまでは、休もうとしても全然休んだ気にならない・・」
カナが心配の声をかけるが、ジンは聞き入れることなくブレイズに乗り込んでいった。
「ジンはああいうヤツだ。無理矢理止めようとしたら逆に叩きのめされる・・」
「そうなんだよね・・その気になったら、女でも子供でも平気でつかみかかるから・・」
ゼビルが呼びかけると、カナが肩を落とす。
「オレたちも行くぞ。こんなところで油を売っている場合ではないぞ。」
「分かってる。私たちも急がないと・・」
改めて自分たちの搭乗機に乗り込んでいったゼビルとカナ。ジンは既に発進準備を完了させていた。
“ジン、ムチャしないでよ。ブレイズの修理と整備、大変なんだから・・”
整備士としてヴァルキリアに乗艦している少年、マーク・グリッドが呼びかける。
「知るか。オレは敵を倒すだけだ。」
“そんな、ジン・・”
突っ張った態度で言葉を返すジンに、マークは肩を落とす。
(そうだ・・オレは敵を倒す・・連合もリードも、自分勝手な軍隊はオレが叩き潰してやる・・・!)
改めて怒りと憎しみを噛みしめていくジン。やがて彼の乗るブレイズの前方のハッチが開かれる。
「ジン・シマバラ、ブレイズ、出るぞ!」
ジンのかけ声とともに、ブレイズがヴァルキリアから発進していった。
「カナ・カーティア、スナイパー、ゴー!」
「ゼビル・クローズ、スナイパー、発進する!」
カナ、ゼビルもスナイパーに乗り、ヴァルキリアから発進していった。
「基地に配備されている武装やMSを攻撃する。どこからビームが飛んでくるか分からない。注意しろ。ジン、いいな?」
「そんなことオレには関係ない。敵を倒すだけだ。」
呼びかけるゼビルだが、ジンは突っ張った態度を見せるばかりだった。
「だったらジン、先陣切ってよ。私たちに活路を見せてちょうだい。」
「言われるまでもない。あんなもの、目に入れるだけでも気分が悪くなる・・・!」
カナに促される形で、ジンが先陣を切る。戦闘機形態のブレイズの前方部に搭載されているビーム砲からビームが放たれる。
ビームはガルナに搭載されているMSや武装を撃ち抜いた。基地では爆発が起こり、騒然さを増していた。
突然の襲撃を受けたガルナから、ザク・スマッシュやグフ・グレイスが出撃していく。
「いきなりこんなマネをして!」
「ただで帰れると思うな!」
憤慨するリードのパイロットたち。さらに近距離戦闘型の「ザク・スラッシュ」、遠距離戦闘型の「ザク・ブラスト」も出撃していく。
「自分が偉いと思い上がっている軍人など、オレが!」
怒りをあらわにしたジン。MS形態へと変形したブレイズが、ビームサーベルを引き抜いてザク、グフを迎え撃つ。
ザク・スマッシュが振りかざしてきた戦斧「ヒートホーク」を、ブレイズがビームサーベルで受け止める。すかさずブレイズが右足を突き出し、ザクを蹴り飛ばす。
そのブレイズを、出撃してきたグフ・グレイスたちが取り囲んできた。
「次から次へと出てきて・・・!」
立ちはだかるMSを目にして、ジンがいら立つ。
「お前たち全員、オレが叩き潰してやるぞ!」
怒りを爆発させたジン。彼の駆るブレイズが、グフ・グレイス部隊に立ち向かっていった。
次回予告
地球連合、リード。
双方を敵と見なすヴァルキリアの攻撃。
世界と敵対する彼らの目的は?
拡大していく戦況の中、ジンの目にするものとは?