GUNDAM WAR –Horrible Wishes-

PHASE-01「平和への反逆」

 

 

人類は新たなる進化体「オメガ」を生み出していた。

オメガは人類が長年の研究の果てに生み出された種族で、身体能力、知能、あらゆる面で旧人類を上回っていた。

 

 

だがその高い潜在能力が逆に自分たちの存在を脅かされかねないと考えた旧人類は、オメガの壊滅を企て、攻撃を開始した。

その突然の襲撃に反感を覚えたオメガも、培ってきた技術を結集させた武装を持って、旧人類の軍勢を脅かした。

 

その混乱と抗戦が増長し、ついに戦争に発展するに至ってしまった。

 

世界は未だ、血塗られた激情に駆り立てられていた・・・

 

 

 日に日に激化していく旧人類とオメガ、地球連合とオメガ軍「リード」。リードの攻撃の手が、連合本部にも伸びてきていた。

 そのそばの通りを逃げる青年と少女がいた。リードの襲撃による危険から逃れようと、2人は地下シェルターの入り口を目指していた。

「急ぐんだ!でないと流れ弾にやられる!」

「分かってる!・・分かってるけど・・!」

 青年の呼びかけに少女が返事をする。死と隣り合わせなっている恐怖にさいなまれながらも、2人はシェルターの入り口の目前というところまできた。

 そのとき、少女が足をつまずいて転んでしまう。同時に彼女の手が青年から離れてしまう。

「あっ!待って!」

「何やってんだよ!?シェルターはすぐそこだ!」

 声を上げる少女に、青年が叫ぶ。そこへシェルターを護衛している軍人たちが駆け込んできた。

「何をやっているんだ!?

「早く中に入るんだ!」

 軍人たちが青年をシェルターへと引っ張っていく。

「待て!アイツを助けないと!」

 青年が少女を助けようとするが、軍人たちはシェルターに彼を引き入れようとするばかりだった。少女が立ち上がったときには、青年はシェルターに入れられていた。

「次は君だ!急いで・・!」

 軍人たちが続けて少女を助けようとしたときだった。連合軍とリードの交戦の最中に発せられたビームが飛び込んできた。

 眼前で爆発が起こり、青年が軍人たちとともにシェルターの中に押し込まれてしまった。

「ぐあっ!・・お、おい・・・!」

 倒れていた青年が起き上がり、煙が上がる外に飛び出す。彼は周囲を見回して、少女の行方を追う。

 そのとき、青年は何を踏んだのを感じた。それは少女が首から提げていたロザリオだった。

「まさか・・・!?

 不安を覚える青年が目にしたのは、少女の悲惨な姿だった。彼女はMS(モビルスーツ)のビームの爆発で、血まみれになって動かなくなっていた。

 変わり果てた姿の少女を目の当たりにして、青年は絶望した。自分に分からない気分に襲われて、彼は体を震わせていた。

「おい、何をやっている!?早くシェルターに入れ!」

 軍人が再び青年を呼ぶ。だがその呼び声が、青年の感情を逆撫でにした。

「お前・・何で先に助けなかった!?何で見捨てた!?

 怒りを爆発させた青年が、軍人に飛びかかってきた。シェルターの中になだれ込んだ2人。青年が怒りを膨らませて、軍人をつかみ上げる。

「先にアイツを助けられたはずだ!それなのにお前たちは!」

「貴様!我々に何をするつもりだ!?

 もう1人の軍人が青年を殴りつけた。横に突き飛ばされた青年が怒りを膨らませるが、意識を保てなくなり、立ち上がろうとしてすぐにまた倒れた。

「ミナ・・・」

 恋人、ミナ・メルミンの名を口にして、青年、ジン・シマバラは意識を失った。

 

 地球連合とリードの血塗られた戦いは、双方の戦力と指導者の喪失により、停戦を余儀なくされた。戦争終結にも見えたこの停戦の中、人々はこのつかの間のひと時を平和と誤認していた。

 停戦から1年近くがたとうとしていた。

 「プラネットG」。オメガの科学をつぎ込んだ小惑星である。構造上は機械的であるが、木々、草花などの自然の培養も充実しており、生活面での不自由は解消されている。

 そのプラネットGに点在するリード基地「ガール」。そこで部隊の指揮を執る2人の男女がいた。

 ソワレ・ホークスとマリア・スカイローズ。2人ともリードの精鋭と呼ばれるにふさわしい力を備えたMSのパイロットである。先の大戦での実績を認められて、2人とも大尉に昇格したのである。

「リードの戦力が着々と向上しているわね。新しい量産型も開発されているし・・」

「でもその兵器の全てが、平和を壊しかねないものであることも事実・・そのことをみんなが自覚できるかどうか・・・」

 淡々と言いかけるマリアに、ソワレが不安を口にする。

「そういうことを教え込もうとしても、単なる押しつけになる可能性があるわね・・みんなそれぞれ願いや信念が違っているわけだし・・・」

「・・そんなことを言ったら、彼はどうなる・・・?」

 マリアに返事をしてきたソワレ。その言葉を耳にして、マリアが思い出して当惑を浮かべる。

「今でも僕は彼の行動を許せるものではないと思っている・・彼の考えが正当化されれば、世界の平和が壊れたままになってしまう・・」

「今が平和であるのも疑問があるけど・・・」

 深刻な面持ちで言いかけるソワレに、マリアが肩を落とす。

「今の世界は停戦しているだけで戦争終結にはなっていない。停戦が長いから、みんな終結したものだと思い込んでいるのかもしれない・・」

「・・・本当はそれだけじゃなく、そうあってほしいと願っているから・・・」

 答えの出ない話題に、マリアとソワレは困惑していた。誰もが平和を望んでいる。平和を取り戻すためには、平和を脅かす敵を倒すしかない。だがそのための戦いが戦火を広げ、悲しみや憎しみを膨らませている。

 その不条理な現状に、ソワレもマリアも苦悩の色を隠せなかった。

「とにかく、私たちが今しなければならないのは、オメガに及ぶ脅威に立ち向かわなければならない・・地球連合が、いつ攻撃を仕掛けてくるか分からないし・・」

「それ以外に手が打てないというのも、参ってしまいますが・・・」

 マリアの言葉に対して、ソワレは頭が上がらなくなる。その反応を見て、マリアが不満を覚える。

「シャキッとしなさいよね・・あなたはもう部隊を指揮する人間なんだから、他の人たちに示しがつかないようなことは避けてもらいたいわ・・」

「そうだった・・・よしっ!」

 マリアからの檄を受けて、ソワレは自分の顔を叩いて喝を入れる。

「行きますよ、マリアさん。こちらも態勢に整えないと・・」

 ソワレは言いかけて、マリアとともに歩き出していった。かつて自分たちが乗艦していた戦艦「クレスト」が着艦しているドックへ。

 

 地球連合第9基地「ジース」。リードによって武力の大半を破壊された連合軍は、逆襲の機会をうかがっていた。

 そのジースに駐在している小隊の指揮を執る1人の男がいた。

 ギルド・バイザー。地球連合少佐で、若くして少佐にまで上り詰めた実力者である。自信家としての一面もあり、自身のプライドのために腕を磨くことも怠らない。

 ギルドは部下の隊員たちを集め、檄を飛ばそうとしていた。

「いいか、お前たち?先の大戦、我らはオメガの攻撃で壊滅的な被害を被った。この敗北に屈辱を覚えた者も少なくない・・」

 ギルドが呼びかけながら、隊員たちを見回していく。隊員たちは真剣に彼の言葉を聞いていた。

「だが我らの本当の決起はこれからだ!オメガを根絶やしにし、最後に勝利を手にするのは我らだ!人工的に強化されたまがいものの種族が、世界を動かすことなど許されない!」

「はっ!」

「今の我らは、敗北を味わった弱かった我らではない!自信を持て!やれば必ず勝てると言い聞かせろ!」

「はいっ!」

 ギルドの呼びかけを受けて、隊員たちが返事をする。彼はそれを見て頷くと、背後に立ち並ぶ機体に目を向ける。

 「ソルディン02」。地球連合の量産型MS「ソルディン」の改良型である。ビームライフル、ビームサーベルといった標準装備は同じだが、装備、性能ともに初代を上回っている。

「ソルディンも日々改良されている・・それでも性能の面で上回るMSが存在している・・だがそれでも我らが勝つことは十分にできる・・」

 不敵な笑みを見せるギルド。立ち並ぶソルディン02の中に1機だけ、黒い体色が点在している。彼の専用機である。

「その気になれば、あのゼロやフューチャーを倒すことも不可能ではないかもしれない・・・!」

 強気な態度を崩さないギルド。その姿勢に部下たちの気迫を呼び起こしていた。

「失礼します!早急にご報告することが!」

 そこへ1人の兵士が駆け付け、ギルドに声をかけてきた。

「何だ?」

「こちらに接近する熱源を感知しました!MA(モビルアーマー)のようですが、連合所属の信号ではありません!」

「連合所属でない?もしやリードが攻めてきたか・・・」

 兵士の報告を受けて、ギルドが眉をひそめる。

「念のため戦闘準備をしておけ!ソルディンの発進準備もだ!オレが相手に呼びかける!」

「了解!」

 ギルドの指示を受けて隊員たちが答える。彼は連合軍所属戦艦「サイロン」に向かい、指令室のモニターで接近する機影を確かめる。

「確かに近づいてきているな・・」

「呼びかけているのですが、全く応答がなく、さらに進行してきています・・」

 オペレーターの言葉を聞くと、ギルドが開かれた通信回線から、接近する機体に向けて呼びかけた。

「私は地球連合所属、ギルド・バイザーだ。名前と所属、目的を告げろ。私のこの連絡に応じず、なおもこちらへの進行を行うならば、迎撃、撃墜を行う。」

 だが機影は退かず、さらにジースに接近してきていた。モニターに移される機体の姿が明確になってきた。白を基調としたボディ、紅い両翼をした戦闘機だった。

「理解力のないヤツめ・・構わん!迎撃し、撃ち落とせ!」

 ギルドが隊員たちに指示を出したときだった。戦闘機が突如ビームを発し、ジースを攻撃してきた。

「ぎっ!」

 奇襲を受けたことに苛立ちを覚える。この攻撃により、ジースの格納庫の2ブロック、ドック3ブロックが爆発、炎上していた。

「全員直ちに出撃!あの敵に好きに攻撃させるな!撃墜しても構わん!私も出る!」

 ギルドは隊員たちに呼びかけ、彼自身も戦闘機の迎撃に向かった。

“少佐、MAが変形していきます!”

 ギルドがソルディンに乗り込んだところで、オペレーターからの連絡が入ってきた。ジースに向かってくる戦闘機が変形し、人型となっていく。

 MSとなった機体は、ビームライフルを手にしてジースへの攻撃を続ける。ソルディンが迎撃に出るが、MSに撃たれて返り討ちにされてしまう。

「私がヤツを止める!他の者はその間に態勢を整えろ!」

 ギルドが隊員たちに呼びかけ、発進準備を整える。

「ギルド・バイザー、ソルディン、発進する!」

 ギルドのかけ声とともに、黒のソルディンが発進する。飛翔したソルディンに気付いて、機体が攻撃の矛先を変える。

「何を企んでいるのか知らないが・・このようなマネをしてただで済むと思うな・・・!」

 怒りをあらわにするギルド。機体が放ってきたビームライフルの射撃をかわし、ソルディンもビームライフルで応戦する。

 ソルディンの射撃は的確に機体のビームライフルを撃ち抜いた。機体が手放したビームライフルが爆発を起こす。

「性能は高いようだが、操縦の腕はこちらのほうが上のようだな・・!」

 不敵な笑みを浮かべるギルド。ソルディンが機体に向けて、さらにビームライフルを放つ。

 機体は素早い動きでビームを回避していき、ビームサーベルを手にしてソルディンに向かっていく。

「接近戦で来るか・・いいだろう!」

 いきり立つギルド。ソルディンもビームサーベルを引き抜いて、機体に迎え撃つ。

 2本の光の刃がぶつかり合い、激しく火花を散らす。その反動でソルディンと機体が後退する。

「接近戦も粗すぎる!それで私を倒せると思うな!」

 ギルドが言い放ち、ソルディンが再びビームサーベルを振りかざす。だが機体はソルディンの一閃をかわし、即座に反撃に転ずる。

「おのれ!」

 ビームサーベルを右腕ごとなぎ払われるソルディン。ギルドが毒づく中、ソルディンがとっさに右足を突き出して、機体を突き飛ばした。

 拮抗した2体のMSの交戦。そこへ態勢を立て直した他のソルディン駆け付けてきた。

「お待たせしました、少佐!」

「ここは我らが押さえます!少佐はそのうちに!」

 隊員たちがギルドに呼びかけ、ソルディンたちが機体に追い打ちを仕掛けていく。態勢を整えた機体が、向かってくるソルディンに向けてビームサーベルを振りかざす。

 だがビームライフルによる射撃を重視した攻撃を行うソルディンに、機体は劣勢を強いられていく。

「こんなマネをしたことを後悔するがいい!」

 追い込まれた機体に向けて、ソルディンがビームライフルを構える。

 だがそのソルディンが、別方向から飛んできたビームに貫かれ、爆発を引き起こす。

「何っ!?

 驚愕を覚えるギルド。ビームが飛んできたほうには、別の機体がやってきていた。

「新手・・もう少しというところで・・・!」

 敵の援軍の出現に、ギルドが毒づく。援軍はさらに現れ、機体の離脱を支援しようとしていた。

「逃がすな!このままヤツらを逃がせば恥だぞ!」

 ギルドが隊員にたちに呼びかける。攻め立てるソルディンたちだが、機体の連携攻撃によって攻めきれなくなっていた。

 ソルディンたちの攻撃もむなしく、機体は全機撤退していった。

「おのれ!」

 手も足も出ずに攻撃も逃亡も許したことに、ギルドが憤慨してコックピットの壁を叩く。この戦闘で、彼の自信とプライドは完膚なきまでに打ち砕かれていた。

 

 ジースに対して単独で先攻してきた機体「ブレイズ」。人型MSと戦闘機型MAの2つの形態を取ることが可能となっている。

 だがその2種の形態を持っているのはブレイズだけではない。ブレイズを援護してきた機体「スナイパー」もそうである。

 量産型MSであるスナイパー。性能はブレイズに劣るも、量産型故の連携は上位のMSの性能にも劣らない。

 スナイパーたちの援護を受けて、ブレイズは損傷することなくジースから撤退することができた。

「もう、1人で勝手に飛び出すんだから・・まだ発進準備ができてなかったのに・・・」

 青いスナイパーに搭乗しているパイロット、カナ・カーティアが不満を口にする。

 スナイパーは通常、白い体色に黄土色のラインであるが、中には色の違う専用機が存在する。カナのスナイパーは黄土色ではなく青のラインが施されていた。

「これはオレの戦いだ。お前たちには関係のないことだろ・・」

「口を慎め。オレたちは一蓮托生だ。お前の戦いも命も、お前だけのものではないぞ・・」

 憮然とした反応に、黒いスナイパーのパイロット、ゼビル・クローズが苦言を呈す。

「勝手なことを言うな。オレはオレで勝手にやるだけだ・・」

「ジン・・お前というヤツは・・・」

 ブレイズのパイロット、ジンにゼビルは呆れ果てた。彼らは母艦「ヴァルキリア」に帰還していくのだった。

 恋人をリードに殺され、地球連合にも怒りをぶつけた青年は今、ブレイズのパイロットとなっていた。

 

 

次回予告

 

つかの間の安息は破られた。

偽りの平和に敵意を示す、新たなる力。

どちらが平和への道なのか?

その答えを知る者はいるのか?

 

次回・「復讐の炎」

 

 

作品集

 

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