GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-39「マイ」
シディアとの攻防を繰り広げていたジーザスとクサナギ。2対1の優勢の中、ミドリがユキノに向けて通信を送る。
「ユキノちゃん、クサナギは今からアルタイに降りてちょうだい。」
「えっ・・!?」
突然のミドリの指示にユキノが驚きを見せる。
「ナツキちゃんもアリカちゃんもみんな、マイちゃんを追ってアルタイに向かっていったわ。でもコーラルはそろそろエネルギーが切れそうだと思うわ。だから先に行ってマイちゃんたちを援護して。」
「でも、それではジーザスが・・!」
「大丈夫よ。あっちは大分追い込まれてるみたいだから。」
心配の面持ちになるユキノに対し、ミドリは自信のある笑みを浮かべる。
「分かりました・・シディアはジーザス、あなた方にお任せします。ただし、必ず無事に帰ってきてください。」
ユキノはミドリに信頼を込めて忠告を送る。それを受けてミドリは笑みを崩さずに頷く。
「そうしないとマイちゃんたちが困っちゃうわよ。」
そう答えると、ユキノも満面の笑顔を見せた。
「本艦はこれより、アリカさんたちの援護のため、アルタイに向かいます。」
「了解!」
ユキノの指示を受けて、イリーナを初めとしたクサナギクルーが答える。そしてシディアをジーザスに任せ、クサナギはアルタイへと向かった。
「おのれ!このまま我が王城に下ろさせてたまるか!」
憤慨したシディア艦長。砲撃の狙いをクサナギに向ける。そこへジーザスからのエネルギー砲が飛び込み、シディアの進撃を阻む。
「あなたたちの相手はうちらだよ。」
不敵に笑ってみせるミドリ。シディアの狙いがジーザスへと向けられた。
(ミドリさん、みなさん、どうか無事でいてください・・・)
ユキノがミドリたちの安否を心配しながら、アルタイの地上を見据えていた。
先行してアルタイ王城に辿り着いたマイとユウは、オメガの発射をひとまずは食い止めた。しかしオメガの銃砲を完全には破壊するに至っておらず、またダークサイドの黒い機体、ヴェスティージの猛攻の前に悪戦苦闘していた。
ヴェスティージはその強大な戦闘力やエレメンタルチャージャーによるエネルギーだけでなく、ダークサイド、シアーズに属していた全てのエレメンタルガンダムの性能や武装を備えている。その脅威にカグツチも苦戦を強いられていたのだ。
「なかなかやるじゃないか。さすがカグツチといったところか。」
ヴェスティージを駆るハイネが不敵な笑みを浮かべる。
「だがな、コイツのほうが上なんだよ。パワーも性能も。」
その笑みを強めたハイネがカグツチを見据える。ビームサーベルを振りかざして飛びかかる。
振り下ろされた黒い光刃を、カグツチは双刀のビームサーベルで受け止める。白と黒の刃の衝突で火花が散り、そしてその反動で2機は弾かれる。
「ちっ!このぉっ!」
ハイネが舌打ちをして再びカグツチに飛びかかる。ヴェスティージの左の手のひらからビームが放たれ、電撃鞭となって襲いかかる。
「ちくしょう!今度はジュリアの武装かよ!」
ユウが毒づく中で、マイがヴェスティージを見据える。振りかざした電撃鞭を弾き返し、反撃に転ずる。
そこへヴェスティージが胸部からエネルギー砲を放射する。マイはとっさにこれをかわすが、そこへドラグーンによる砲撃が飛び込んでくる。
カグツチはこれも素早い身のこなしでかいくぐっていく。そこへヴェスティージが対艦刀を振りかざして飛び込んできた。
「もらったぁ!」
「し、しまっ・・!」
勝ち誇った笑みを浮かべるハイネ。決定打を受けると覚悟するユウ。
そこへビームブーメランが飛び込み、カグツチとヴェスティージの間に割って入ってきた。
「何っ!?」
「この武器は・・パール・・ニナちゃん!」
マイが上空を見上げると、ビームサーベルを構えたパールが降下してきた。
「マイさん、ユウさん、大丈夫ですか?」
「ニナちゃん、ありがとう・・・」
ニナの声にマイが笑顔で頷く。
「マイ!」
それに続いてナツキの声がかかり、デュラン、マイスター、コーラル、ハリーが到着した。
「マイさん、大丈夫ですか!?」
「オメガはどうなりました!?」
アリカとエルスティンが続けざまにマイに呼びかける。
「アリカちゃん、エルスティンさん、あたしは大丈夫だけど・・」
「まだオメガを完全には破壊してねぇ。それにあの黒い機体、けっこうやるぜ。カグツチでも油断してたらヤバいぜ。」
マイに続いてユウも困惑の面持ちで答える。
「とにかく、あの機体の攻撃を潜り抜けて、オメガを破壊することを考えないとな。」
ユウの言葉にマイたち全員が頷く。彼女たちのやるべきと思うことは同じだった。
「マイ、ユウ、アリカ、お前たちと私であの機体を食い止める。ニナたちはオメガを破壊するんだ。」
「うん。」
「了解!」
「分かりました、お姉様。」
ナツキの指示にマイ、アリカ、ニナが答える。
「戦う理由はそれぞれだけど、今こうして来ている理由は同じなはずだよ。みんな、頑張ろう!」
アリカの呼びかけに呼応するように、マイたちはそれぞれ機体を突き動かす。カグツチ、デュランがヴェスティージの横をすり抜け、マイスターがビームライフルを撃ち込む。ヴェスティージはこれを飛翔してかわすが、これでハイネを牽制してニナたちの進行が可能となったとマイたちは確信していた。
だが、パール、コーラル、ハリーはアルタイ王城に入り込めていなかった。城の前に飛び込んできた黒いドラグーンの砲撃に阻まれて、ニナたちは立ち往生していた。
「くっ!ドラグーンでニナたちを進ませないようにして、オメガを守っている・・!」
これを見たナツキが毒づく。マイたちの相手をしながらドラグーンで城やオメガさえも防衛しているヴェスティージに脅威すら感じていたほどだった。
「悪いがここからお前たち全員、通すわけにはいかない。オレがまとめて相手をしてやるよ。」
ハイネが不敵な笑みを浮かべながら、マイたちに言い放つ。完全と立ちふさがるヴェスティージに、マイたちは固唾を呑む。
「やるしかないということね・・・」
二ナがヴェスティージを見据えて歯がゆさを見せる。マイたちもヴェスティージとの戦いに全力を注ぐ。
そんな中で密かな決意を巡らせていたユウが、唐突に言葉をかけた。
「マイ、みんな、オレを城に下ろしてくれ。」
「ユウ・・!?」
その声にマイが驚きの声を上げる。
「あの機体をかいくぐって城に近づくには、MSのデカさじゃすぐにバレちまう。だからオレが行って、オメガを破壊してくる。」
「でも、ユウだけじゃ危険だよ!城にはダークサイドの黒曜兵が、オメガを守ろうと集まっているはずだから!」
マイが心配の声を上げると、ユウは不敵な笑みを浮かべる。
「オレはムチャで無鉄砲なんだよ。それに、オレの剣の腕は、他の連中には負けねぇぜ。」
「ユウ・・・」
自信を見せるユウに対し、始めは戸惑いを見せていたマイだったが、彼への信頼を胸に秘めて笑みを浮かべる。
「ナツキ、アリカちゃん、みんな、ちょっとだけ時間をちょうだい。その間にユウを降ろすから。」
「マイ・・」
マイの言葉にナツキだけでなく、アリカたちも驚きを見せる。
「ユウ、絶対に戻ってきて。そして、タクミを助けてあげて。」
「マイ・・任せろ。オレがオメガを破壊して、タクミを必ず連れて帰ってきてやる。」
互いに頷き合うユウとマイ。カグツチがゆっくりと後退してデュランたちの後ろに回る。
「このまま逃げられると思っているのか?」
しかしそれを見逃すハイネではなかった。ヴェスティージが対艦刀を振りかざし、カグツチを狙って飛びかかる。
そこへデュランの銃砲の砲撃とマイスターのレイのビーム砲が、進行するヴェスティージを阻んだ。
「ちっ!」
舌打ちしながら視線をデュランに向けるハイネ。ヴェスティージの前に、デュラン、マイスター、パール、コーラル、ハリーが立ちはだかった。
「マイ、早くユウを降ろすんだ。」
「・・ありがとう、ナツキ、みんな・・・」
ナツキたちに感謝の言葉を送ったマイは、カグツチを降下させる。コックピットのハッチを開くと同時に、アルタイ王城の前に着地する。
間髪置かずにユウはカグツチから飛び出し、その腕を伝って城の展望台に足を踏み入れた。そこへ黒曜兵が続々と駆けつけてきた。
「早速ぞろぞろ出てきやがったか・・マイ、行ってくれ!」
カグツチを見上げてユウがマイに呼びかける。彼の右手には、光刃を発動させたビームサーベルが握られていた。
マイはユウを見送ってからカグツチを発進させ、ヴェスティージへの戦いに向かった。
「ワリィけど、ここは通させてもらうぜ!」
ユウは叫びながら剣や銃を構える黒曜兵たちの真っ只中に飛び込む。兵士の武器をビームサーベルでなぎ払い、城の中へと突き進んでいった。
(タクミ、待っててくれ・・オレがお前を姉ちゃんのところに連れ帰る・・・!)
ヴェスティージが放つ湾曲ビームをデュランたちがかわす。牽制を繰り返す中、クサナギがアルタイ王城の上空に姿を現した。
「ユキノさん、ジーザスはどうしたんですか!?」
ハリーを駆るアカネの呼びかけにユキノが答える。
「ジーザスはシディアと交戦中です。エルスティンさん、コーラルのエネルギー供給を行います。」
「分かりました、ユキノさん。デュートリオンビームをお願いします。」
ユキノの指示にエルスティンが答える。クサナギから一条の光が放射され、コーラルにエネルギーを送り込む。
その間にも、ナツキ、アリカ、ニナはヴェスティージとの攻防を繰り広げていた。
「どいつもこいつもやるじゃないか。だけど、あんまりグズグズもしてられないんでな。そろそろ終わりにさせてもらうぜ。」
ハイネがいきり立ち、狙いをマイスターに絞る。湾曲ビーム砲で牽制すると、すかさず対艦刀を振りかざして飛び込む。
「アリカ!」
二ナが叫ぶ前で、アリカの駆るマイスターがエクスカリバーを振りかざし、振り下ろされた対艦刀を受け止める。重量のある刀身の衝突が激しい反動を生み、ヴェスティージとマイスターを弾き飛ばす。
「う、うわっ!」
「ちっ!このぉっ!」
アリカが慌てふためき、ハイネが舌打ちをする。ヴェスティージがマイスター目がけてレール砲を発射する。
「負けられない!」
アリカもとっさにレイを発射して反撃に出る。2つの砲撃が衝突し、荒々しい閃光となる。
だがヴェスティージのもうひとつのレール砲が放たれ、マイスターに向けて飛んでいく。迎撃に手一杯のアリカが、回避に間に合わない。
そこへ一条の閃光が飛び込み、ヴェスティージの砲撃を相殺する。アリカとハイネが視線を移すと、その先にはレール砲を一斉発射したカグツチの姿があった。
「マイさん!」
「アリカちゃん、みんな、待たせてゴメン!」
マイがアリカたちに呼びかけながら、ヴェスティージを見据える。
「戻ってきたか。逃げずにいたのは誉めてやるよ。」
ハイネがカグツチを見据えて不敵な笑みを浮かべる。
(あたしは戦う。タクミのため、ユウのため、みんなのため、あたしの望む世界のために!)
マイの決意を受けて、カグツチが双刀のビームサーベルを振りかざし、ヴェスティージに向かって飛び込む。ヴェスティージも武器をビームサーベルに持ち替え、これを迎え撃つ。
2度3度と光刃の打ち合いを繰り広げる2機のMS。戦いでしか感じられない高揚感と揺るぎない決意が、刀身に込められて火花を散らす。
しかしヴェスティージは接近戦一辺倒にはならず、距離を取ってビームライフルやレール砲による遠距離攻撃も取り入れていた。
その成果が如実に現れ、マイとカグツチを追いつめつつあった。
「マイ!」
たまらずナツキがマイの援護に向かう。
「チャージフラッシュマテリア!」
構えた銃砲から閃光弾が放たれ、ハイネの視界をさえぎる。しかし本来ならレーダーのジャミングをも引き起こすデュランの閃光弾だが、ヴェスティージにはその効果が現れなかった。
「そんなものでこのヴェスティージは止められないんだよ!」
ハイネが叫び、ヴェスティージが一直線にデュランに向かって飛び込む。2機が各々のビームサーベルを振りかざすが、デュランがヴェスティージの突進に押されて突き飛ばされる。
「ぐっ!」
ナツキがうめきながら何とか体勢を立て直す。追撃を加えようとするヴェスティージに対し、エネルギーを回復させたコーラルが飛び込んできた。
しかしハイネはこれに気付き、コーラルが振り下ろしたビームサーベルをかわす。
「甘いんだよ!」
言い放つハイネ。ヴェスティージがビームサーベルとビームブレイドでコーラルのビームサーベルを弾き飛ばし。左腕を切り裂く。
「キャッ!」
強烈な衝撃を受けて、エルスティンが悲鳴を上げる。
「エルス!」
ニナが何とか体勢を整えたエルスティンに向けて叫ぶ。とっさにパール、マイスター、ハリーがヴェスティージに飛びかかる。
しかしヴェスティージの展開したドラグーンの砲撃の前に、マイスターは回避することができたが、パールとハリーは被弾。ハリーは損傷を被ってしまった。
「ニナちゃん!アカネさん!」
二ナたちに呼びかけるアリカだが、対艦刀を振りかざしたヴェスティージが飛びかかってくる。マイスターがエクスカリバーで迎え撃つが、ドラグーンの連携に襲われて体勢を崩される。
そこへヴェスティージの対艦刀が飛び込んできた。その衝撃でマイスターは地上にまで叩き落され、エクスカリバーを手放してしまう。
「し、しまった・・」
その強烈な衝撃にうめくアリカ。彼女の見つめる先で、カグツチとヴェスティージが再び光線を繰り広げていた。
ヴェスティージの攻撃を受けて、エルスティンとコーラルは満身創痍に陥っていた。それでも戦わなくてはならない、アリカたちを助けなければならないと、必死に自分に言い聞かせていた。
「守らなくちゃ・・アリカちゃんやニナちゃん・・みんなを・・・」
揺らぐ意識を保ちながら、エルスティンは戦況を見据えていた。アリカとマイスターの危機を目の当たりにして、残された力を振り絞る。
(アリカちゃんは本当にすごいよ・・私に足りなかったものを持ってただけじゃなく、私にそれを与えてくれた。アリカちゃんがいなかったら、今の私はなかった・・・!)
エルスティンはアリカへの想いを脳裏に浮かべていた。彼女の笑顔と勇気があったからこそ、自分はこうして立っていられるのだ。
残された力を振り絞り、交戦するヴェスティージとカグツチ、マイスターに向かって飛翔した。
ヴェスティージが放ったドラグーンの砲撃にさいなまれるカグツチ。その間にハイネは、狙いをマイスターに向けていた。
「そいつが油断や手負いをしてるなら、そいつを狙って好機を逃さない手はないぜ。」
不敵に笑うハイネ。ヴェスティージが対艦刀を振りかざし、マイスターに向けて降下していく。
その行動にアリカは気付いていた。しかしまだマイスターは迎撃に備えられないでいた。
(ダメ・・このままあの機体の攻撃をかわしきれない・・エクスカリバーがあったなら・・・)
アリカが横目で、地上に突き刺さっているエクスカリバーを見つめた。ヴェスティージが攻撃するまでに剣を取って迎え撃つことは、時間が足りない。
「もらったぁ!」
(間に合わない!)
勝ち誇るハイネ。覚悟を決めるアリカ。
「アリカちゃん!」
そこへエルスティンの声がかかり、アリカが視線を移す。その直後、アリカの視界に移ったコーラルが、マイスターを突き飛ばした。
「エ、エルスちゃん・・!?」
突然のことで驚きをあらわにするアリカ。するとコーラルから通信が入り、エルスティンがモニター越しに微笑みかける。
“ありがとう、アリカちゃん・・・”
「エルスちゃん・・・?」
満面の笑みを浮かべるエルスティンの言葉に、アリカは一瞬呆然となっていた。
そのとき、飛び込んできたヴェスティージの対艦刀が、コーラルの胴体を貫いた。アリカがその眼前の光景に眼を見開いた。
穿たれたエンジンが爆発を引き起こし、エルスティンの笑顔が閃光の中に消える。
「エルスちゃん・・・!?」
か細く囁かれたアリカの言葉。マイスターをかばってヴェスティージの攻撃を受けたコーラルが、アルタイの王城で爆発した。
「エルスちゃん!」
アリカが燃え上がる炎を見つめて、悲痛の叫びを上げていた。アリカの心のよりどころにしていたエルスティン・ホーは、平和のためにその命を散らした。
次回予告
大切なものを見つけたナツキ。
夢を追い続けたアリカ。
本当の気持ちに気付いたマイ。
それぞれの心のまま、少女たちは平和への道を進む。
長きに渡る光と闇の戦いに、ついに終幕が下りる。
輝ける未来へ、飛べ、ガンダム!