GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-38「揺るぎない願い」

 

 

 様々な想いを守るため、キョウジはツキヨミを自爆させ、サクヤとともにその命を散らした。ナツキへの想いを深く心に刻みつけて。

「キョウジ・・・どうして・・どうして・・・」

 デュランのコックピット内で、ナツキが悲痛にさいなまれる。

「全員、生きて帰るって言ったじゃないか・・・キョウジ・・・!」

 心身からあふれ出る感情を抑えきれず、眼から涙をこぼすナツキ。自分を大切に想ってくれていた人の死に、彼女は胸を締め付けられるような感覚に陥り、それを留めることができないでいた。

「キョウジ、サクヤ・・・お前たちの想いと心、絶対に守ってみせるから・・・」

 こぼれる涙を拭って、ナツキは戦いに戻ることを決める。ここでじっとしていたら、キョウジやサエたちの想いを踏みにじることになってしまう。

「行こう、デュラン・・みんなを守るんだ・・・」

 デュランに言い聞かせながら、ナツキはこの宙域を後にした。

 

 ミーアの操る機体、ホムラと激しい攻防を繰り広げるアリカとマイスター。しかし遠距離攻撃に長けて距離を保とうとするホムラに、マイスターは飛び込むことができないでいた。

「いけない・・これじゃ全然近づけないよ・・・」

 アリカが焦りを覚えながらも、打開の糸口を必死に探していた。

 ホムラは様々な銃撃、砲撃を得意としている機体で、その多彩な遠距離攻撃にアリカは苦戦していた。

「どうしたニャン?もうちょっと私を楽しませてくれニャイと♪」

 ミーアが上機嫌で独り言を口にしている。それとは対称的に、アリカに余裕はうかがえなかった。

「こうなったら、ひたすら撃って隙を作って、一気に飛び込むしかない・・!」

 アリカは思い立つと、マイスターがビームライフルを手にして、ホムラに攻撃を仕掛ける。

「そんな攻撃じゃ、私とホムラには効かないニャン♪」

 満面の笑みを崩さないミーア。ホムラが両腰、両肩に装備されているレール砲を発射する。

 マイスターの攻撃は、ホムラの放たれた閃光にことごとくかき消される。これでは一気に間合いを詰めるのは無謀すぎる。

 アリカはホムラのビームを回避しながら、レイの銃口を向ける。マイスターのレイが、ホムラ目がけて解き放たれる。

 これに対し、ホムラもレール砲を1門構え、発射。互いの閃光がぶつかり合い、激しい輝きを放って相殺する。

「く〜っ!やっぱ戦いはこうでニャイと♪」

 ミーアが再び満面の笑みを浮かべて歓喜に湧く。彼女は戦いや戦争、命のやり取りでさえも楽しんでいた。

(このままじゃダメだよ・・私がここで負けたら、みんなが・・・)

 アリカの脳裏に、マイやナツキ、ニナ、エルスティン、シズル、たくさんの人々の笑顔が蘇る。

「私は絶対に世界を、みんなを守るんだぁぁーーー!!!」

 決意を叫ぶアリカの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

「それが私の夢だから!」

 戦意を見せるアリカ。マイスターがエクスカリバーを高らかと振り上げると、両翼が光り輝きながら広がる。

「へぇ〜。一気に飛び込んでくるのかニャン?だけどそうはいかないニャン♪」

 機体に胸を躍らせるミーアが、向かってくるマイスターを見据える。ホムラがレール砲を構え、1門ずつ発射していく。

 ホムラのレール砲はそれぞれ単一の砲撃を可能とし、ビームの時間差砲撃ができるのだ。

 4本の閃光が逃げ場を狭めながらマイスターを狙う。しかしマイスターは素早い身のこなしでかいくぐって、ホムラとの距離を詰める。

「速いニャン!」

「取った!」

 驚きを見せるミーアと、攻撃の命中を確信するアリカ。エクスカリバーを振りかざし、ホムラを狙う。

「ニャンてね♪」

 そのとき、ホムラの胸部から強烈なエネルギーが発せられる。その反応をレーダーを通じて察知していたアリカが回避行動を取っていた。

 寸でのところでビーム砲をかわし、マイスターは上空へと飛翔し、再び距離を取る。

「危なかったよー・・ちょっと遅かったら直撃だったよー・・」

 アリカが胸に手を当てて安堵する。そしてすぐにホムラを見据えて戦いに備える。

「だけど私も同じ手は食わないよー!」

 アリカは笑みを浮かべて、ホムラへの迎撃に備えた。

 

 マイたちに遅れて、ダークサイドに踏み込んだジーザスとクサナギ。彼らはこの宙域に姿を見せたシディアと対峙しようとしていた。

「いい加減、白黒付けとかないとね・・・」

 決着をつけようと心に決めていたミドリが不敵な笑みを浮かべる。

「第一級戦闘配備!クサナギと協力して、シディアを迎え撃つわよ!」

「了解!」

 ミドリの指示にチエ、アオイを初めとするジーザスのクルーたちが答える。

「私たちもシディアへの迎撃を開始します。ジーザスを援護して、アリカさんたちを守るのです。」

「はいっ!」

 ユキノの指示を受けて、クサナギクルーも答える。

「ゴットフリート、バリアント、発射!」

 ユキノの指示にイリーナが答え、クサナギの銃砲をシディアに向けて解き放つ。

「トリスタン、ってぇ!」

 シディアもこれに対してエネルギー砲を放ち、クサナギの砲撃を相殺する。

(やるわね、ユキノちゃんたち・・こっちも負けてられないわ・・!)

 その活躍に触発されたかのように、ミドリもシディアを見据える。

「こっちもゴットフリート、ってぇ!」

 ミドリの指示でチエがパネルを操作。ジーザスもエネルギー砲を発射する。しかしこれもシディアはエネルギー砲で迎え撃った。

 ジーザス、クサナギ、シディア。2対1の戦艦の合戦は、激しい攻防を見せていた。

(戦艦の戦力はこっちは有利。だけど相手はシディア。決して油断はできないわ・・)

 ミドリは固唾を呑みながら、迫り来るシディアを見据えていた。

 

 ヤマトに悪戦苦闘していたパールに加勢するコーラル。エルスティンもニナとともに眼前の機体を見据えていた。

「オーブのかつての主力、コーラルの登場ですか。いいでしょう。パールと一緒に相手をして差し上げましょう。そのほうがさらに楽しめますから・・」

 マリーがあえてパールとコーラルを同時に相手しようと考える。

「気をつけて、エルス。あのMS、このパール以上に接近戦に強いわ。」

「分かったよ、ニナちゃん。」

 二ナの注意にエルスティンが頷く。その直後、ヤマトがビームサーベルを振りかざして、コーラルに向かって飛びかかってきた。

 コーラルもとっさにビームサーベルを振りかざす。2つの光刃が激突し火花を散らすが、ヤマトの力に押されてコーラルが弾き返される。

「うっ・・!」

 その衝動にうめくエルスティン。衝撃からなかなか体勢を立て直すことができないでいる。

「エルス!」

 そこへニナが叫び、パールがヤマトに向けてビームブーメランを投げつける。しかしその動きに気付いていたマリーも、振り返り様にビームブーメランを放って、2つの刃が衝突して弾き返される。

 ニナはすかさずビームサーベルを引き抜いて、ヤマトに向かって飛び込む。ヤマトはパールが振り下ろした光刃を、右腕のビームブレイドで受け止める。

 そしてそこから、ビームブレイドを解放している右足でパールを一蹴しようとする。しかしパールも同時に、ビームブレイドを発動した右足を繰り出す。2つの光刃の激しい衝突は閃光と火花を散らし、2機はその反動で弾き飛ばされる。

(なかなかやりますね。あなたも仲間の危機に力を発揮するタイプのようですね。)

(いつまでも守ってももらうわけにはいかない・・お養父様のため、みんなのために、私は・・!)

 互いの相手を見据えながら、マリーとニナが胸中で言葉を巡らせていた。自身の鼓舞に歓喜を覚えるマリーに対し、ニナは一途な想いと決意を思い返していた。

 そしてパールとヤマトがそれぞれビームサーベルを手にして身構える。同時に飛び出し、光刃を振り下ろし交わらせる。

「さぁ、もっと本気を出しなさい!あなたの力が強いほど、私も強く高まるのです!」

「これ以上あなたたちに、世界や人々を脅かせるわけにはいかないのよ!」

 それぞれ歓喜と決意を言い放つマリーとニナ。ヤマトとパールは拮抗した力比べを展開していた。

 そのとき、ヤマトの持つビームサーベルの刀身を、一条のビームが叩いた。その反動で、パールの光刃を押していたヤマトの力が鈍る。

「えっ・・!?」

 その衝動にマリーが驚きを見せる。ヤマトに攻撃を加えてきたのは、コーラルのビームライフルだった。

「私たちは、みんなに傷ついてほしくない・・!」

 エルスティンも平和と安らぎを言い放つ。

 彼女の攻撃に力の作用を崩されたヤマトに対して、ニナが力押しを仕掛ける。パールが光刃を弾き返すと、ヤマトは体勢を崩される。

「しまった・・!」

 マリーの表情から笑みが消える。そこへパールがビームサーベルを振り上げる。

(ありがとう、エルス。ここからは私の力で・・!)

 エルスティンに支えられて、ニナはこの攻撃に全てを賭けた。その渾身の一撃が、ヤマトの右腕ごとビームサーベルをなぎ払う。

「キャッ!」

 悲鳴を上げるマリー。落下していくヤマトを、パールがビームブレイドをまとった右手で殴りつける。

 その一撃がヤマトの左脇に命中。えぐられた胴体から爆発が起こる。

(このまま敗れるわけにはいきません・・あの方の、タクミ様のために・・・!)

 それでも退こうとしないマリーが、最後の力を振り絞ってパネルを叩く。ヤマトが2つのビームブーメランをパール目がけて投げ放つ。

「ニナちゃん!」

 それをエルスティンの駆るコーラルのビームライフルが撃ち抜き、パールへの攻撃を阻んだ。

 二ナはすかさず迎撃を行い、ビームサーベルをヤマトに投げつける。その光刃がヤマトの胴体に突き刺さる。

「タ・・タクミ様・・私のマスター・・・」

 主人への忠義を胸に秘めながら、微笑むマリーが爆発するヤマトの中で命を散らした。

「ニナちゃん、大丈夫・・・?」

 エルスティンがニナに心配の声をかける。するとニナはモニター越しに笑顔を見せて頷く。

「エルス、あなたはアリカの援護に向かって。あの子も苦戦してるみたいだから。」

「分かったよ。ニナちゃんはどうするの?」

「私はアルタイ城に向かう。できるなら、アルタイの人たちも守ってあげたいから・・」

「気をつけてね、ニナちゃん。私もアリカちゃんたちを連れてすぐ行くから・・」

 互いに頷き合うニナとエルスティン。パールはアルタイに向けて、コーラルはアリカたちの援護のため、それぞれその場を駆け出した。

 

 ナツキのデュランにやられ、思うように動かなくなっていたオロチ。放浪するように移動していたシズルは、ホムラと交戦しているマイスターを発見する。

 マイスターは機敏な動きでホムラの攻撃をかわしていった。しかしその砲撃の連続でなかなか間合いを詰められず、決定打を与えられないでいた。

「アリカ・・あなたも真っ直ぐやね・・・まるでナツキを想ううちみたいどす・・・」

 決死の思いで戦いに集中しているアリカを見て、シズルが思わず笑みをこぼす。

「そうや・・あなたはいつも、夢や憧れに真っ直ぐやった・・・せやけど、それはあなただけじゃない・・うちもナツキのことを想って、真っ直ぐな気持ちで戦ってきた・・・」

 純粋な気持ちのままに立ち向かう少女の姿に、シズルは共感していた。自分も彼女のように想いや夢に向かって走ってきたのだ。

「ナツキ、堪忍な・・アンタとずっと一緒にいたかった・・うちのもんにしたかった・・・」

 ナツキのことを想い、シズルはアリカとミーアの戦いの真っ只中に向かっていった。

 

 湾曲ビーム砲やビームライフルで連続攻撃を繰り出すホムラに対し、アリカは接近戦に持ち込もうとしていた。しかしホムラの多彩な砲撃の前に間合いを詰められないでいた。

「もう!あくまで遠くから撃ち抜こうってわけね。」

 距離を取り続けるホムラに対しムッとするアリカ。その眼前で、焦るマイスターを見て無邪気に笑っているミーア。

「さーて、そろそろ終わりにしとかニャイと♪」

 ミーアは決着をつけようと、4文のレール砲を構える。確実に相手を倒すべく、通常よりもエネルギーを注ぎ込んでいた。

(来るなら来なさい!これだけのエネルギーの攻撃を仕掛けてくるんだ。撃った後にしばらくは攻撃ができないはず・・!)

 アリカはホムラの砲撃に備え身構える。最大の攻撃の後の最大の好機を見据えて。

 4門の砲門にエネルギーが集中する。

「来る・・!」

 緊迫を覚えるアリカ。

 だがそのとき、ホムラの胸部の砲門からビーム砲が放たれる。

「えっ!?」

 意表を突かれたアリカがとっさに回避行動を取る。湾曲ビーム砲を間一髪のところでかわす。

「かかったニャン♪」

 しかしこれはミーアの目論見だった。回避したマイスターに向けて、ホムラが今度こそレール砲を発射する。

「しまった・・!」

 危機感を覚えるアリカがとっさに回避行動を取ろうとする。

「ダメ!間に合わない・・!」

 しかしマイスターはホムラの閃光を回避しきれないでいた。

 そのとき、そんなマイスターの前に傷ついた機影が割り込んできた。シズルが操るMS、オロチである。

「シズルさん・・・!?」

 アリカがシズルの乱入に驚きを見せる。彼女の前で、シズルが彼女に視線を向けて微笑を浮かべた。

「アリカさん、ナツキのこと、守ってやって・・・」

 視線を前に向けたシズルを、閃光の輝きが包み込む。

(ナツキ・・うちはいつまでも、ナツキのことを愛してます・・・)

 ナツキのことを心の底から想いながら、シズルは満面の笑みをこぼす。彼女の姿が、閃光の白に消える。

 マイスターの代わりにレール砲の直撃を受けたオロチ。その装甲からその光線をはね返していくが、損傷した部分から閃光が入り込み、内側から爆発を引き起こす。

 アリカの眼前で、シズルがオロチとともに爆発の中に消えた。同時にはね返した閃光が、意表を突かれたホムラのレール砲のうちの3門を破壊する。

「シ、シズルさん・・シズルさん!」

 アリカが消え行く爆煙を見つめて、悲痛の叫びを上げる。夢見る少女を守って、シズルはその命を散らした。

(シズルさん、私たちのこと、見捨てていなかったんだ・・ホントはダークサイドに堕ちてはいなかったんだよ・・・)

 こみ上げてくる涙を拭いながら、アリカは作り笑顔を浮かべていた。自分が憧れていたシズルも、自分に対して思いやりをもっていたことが嬉しく、同時に悲しかった。

「ありがとう、シズルさん・・シズルさんと出会えたから、今の私があるんです・・・」

 シズルに対する感謝を口にするアリカ。その喜びを激情に変えて、彼女はホムラを見据える。

「やあぁぁーーー!!!」

 叫びを上げるアリカ。マイスターが高らかとエクスカリバーを振り上げ、光を帯びた両翼を広げる。

 そしてマイスターはエクスカリバーを振りかざし、ホムラに向かって突っ込んでいく。

「ニャッ!?ニャッ!こんなところで負けるわけにはいかないニャン!」

 焦るミーアが残ったレール砲を構えてマイスター目がけて放つ。その一条の光をマイスターは素早くかわす。

 アリカの高まる感情を込めて、マイスターがエクスカリバーを突き立てる。その刀身がホムラの胴体を貫いた。

「こんな・・こんなことないニャン・・・マスター・・・」

 悲痛のあふれた笑みを浮かべるミーアを飲み込んで、エクスカリバーの刀身から突き放されたホムラが爆発を引き起こした。その輝く炎を見つめて、アリカは悲痛と決意を感じていた。

(シズルさん、見ていてください。私の戦いを、私の夢を・・・)

 アリカはシズルのことを強く想って、アルタイの地上を見下ろした。あふれ出る涙を振り払って、マイスターはアルタイ王城を目指して降下していった。

 シズルの死、アリカの激情。その光景を、デュランを駆るナツキも見つめていた。その横には、キョウジを追って駆けつけ、ナツキと合流していたアカネのハリーの姿があった。

(シズル、すまない・・そして、ありがとう・・・)

「シズルさん・・・」

 アカネもシズルの死と思いに悲しみを感じていた。シズルは完全に闇には堕ちていなかったのだ。

 信頼が確信となったことが、ナツキやアカネ、アリカにとって何よりも嬉しかった。

「ナツキさん、アカネさん!」

 そこへコーラルを操るエルスティンが駆けつけてきた。

「エルスティンさん、ニナさんは?」

「敵MSを倒した後、アルタイへと降りていきました。マイさんを助けに行ったんだと・・」

 アカネの声にエルスティンが答える。ナツキも迷いを振り切って、アルタイへと視線を向ける。

「アカネ、エルスティン、私たちもアルタイに向かうぞ。」

「了解!」

「はいっ!」

 ナツキの言葉にアカネとエルスティンが答える。デュラン、ハリー、コーラルの3機も、アルタイに向けて降下していった。

 

 

次回予告

 

全ては自分の中にあった確かなる想いから始まった。

タクミのため、ナツキのため、アリカのため。

そしてユウのため。

みんながいるこの場所が、本当に望んでいた世界。

少女は今、想いの先にある世界に向かって飛翔する。

 

次回・「マイ」

 

かけがえのない想いへ、飛び立て、カグツチ!

 

 

作品集

 

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