GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-37「大切なもの」

 

 

 マイたちから遅れて、ジーザス、クサナギもダークサイドの宙域に入り込んでいた。暗黒の企みを阻止するべく、星光軍とオーブ軍は全速力で急行し、全力を注ごうとしていた。

「前方から高エネルギー反応を感知!オメガの砲撃です!」

「回避!」

 そのとき、レーダー監視を務めていたアオイとキヨネが同時に声をかけ、ミドリとユキノが回避命令を出す。2隻の戦艦は二手に分かれると、その間を縫って激しい火花を帯びた閃光が飛び込んできた。

「危なかったよー。回避が少し遅れてたら一瞬で木っ端微塵だったよー。」

 クサナギの回避行動を行ったイリーナが安堵の吐息をつく。

「オメガは!?オメガの砲撃は!?」

 オメガの砲撃の行方に、キョウジが声を荒げる。キヨネがレーダーの範囲を広め、砲撃の行方を追う。

「オメガ、ライトサイドから大きく外れました!」

 その報告にキョウジは安堵する。

「でも、どうして・・・オメガの狙いは正確だと聞いているのに・・・!?」

 喜びを見せるクサナギクルーの中で、ユキノが疑問を覚える。

「マイちゃんたちがやってくれたのよ・・・」

 ジーザスにて、ミドリがマイたちのオメガ発射の妨害に成功したことを確信し、笑みをこぼしていた。

 

 アルタイ王国で起きた激しい戦いと閃光の中、カグツチがレール砲を放った。そのカグツチにヴェスティージがビームサーベルを振り下ろし、同時にオメガがライトサイドに向けて発射した。

 しかしその瞬間、カグツチの放った光線がアルタイ王城の展望台を直撃した。その反動でオメガの軌道がずれ、結果標的としていたライトサイドから大きく外れた。

「ど、どうなったの・・・!?」

 マイが現状を気にして当惑する。ユウがカグツチのレーダーを探り、オメガの砲撃の行方を追った。

「・・大丈夫だ。ライトサイドからオメガの攻撃は外れてる。」

 ユウの報告にマイは安堵の笑みを浮かべる。

「けど安心はできねぇ。オメガ自体はまだ無事だし、また攻撃される危険もある。それに・・・」

 ユウは安心できない面持ちで続ける。

「あの黒い機体に、右肩をやられちまってる。戦うにはそれほど危険じゃねぇけど、そこを集中攻撃されたら、けっこうヤバいぜ・・」

 ユウの忠告にマイは息をのむ。オメガに気が向くあまりに無防備となっていたものの、このカグツチに傷を負わせるほど、ヴェスティージの力はそれほどまでに脅威だった。

「戦えるっていうなら、まだ大丈夫よ・・!」

 マイは笑みをこぼして、ヴェスティージを見据えて戦いに備える。

「一筋縄じゃいかないか・・だがオレとヴェスティージの力はこんなものではない!」

 ハイネの叫びとともに、ヴェスティージが胸部にエネルギーを集中させる。

「これは・・!?」

 このエネルギーにマイが驚愕する。その直後、ヴェステージが強力なエネルギー砲を発射した。

 カグツチはとっさに回避行動を取り、荒々しい砲撃をかわす。砲撃は虚空で弾け、まばゆい閃光をまき散らす。

「あれは・・黄金の雷・・・!?」

 マイはこの砲撃に驚愕していた。ヴェスティージが放った砲撃は、シアーズのMS、アルテミスの黄金の雷そのままだった。

 

 カグツチの砲撃を受け王城に軽い損傷が生じたものの、城内にいた兵士たち、そしてオメガも無事だった。しかし砲撃の衝動でオメガの軌道がずれ、ライトサイドを撃ち抜くことができなかった。

「陛下、ご無事ですか!?」

「うん。僕は大丈夫だよ・・」

 兵士の心配にタクミが笑みをこぼして答える。

「それで、ライトサイドは?」

「オメガ、ライトサイドを大きく外れています!カグツチの攻撃で、軌道をずらされた模様です!」

 オペレーターの報告にタクミは眉をひそめるが、すぐに笑みを取り戻して王城の上空を見上げる。そこではカグツチとヴェスティージが対峙していた。

(ヴェスティージはダークサイドが新たに開発した最大最強のMS。ダークサイド、シアーズに属していたエレメンタルガンダムの性能を全て取り込んでいるそして・・・)

 タクミの笑みが次第に冷淡なものに変わる。

(・・核エネルギーを超えるエレメンタルチャージャーも、新たに開発してヴェスティージに取り込んでいるんだよ・・・)

 

 標的を外したオメガの砲撃を見送って、ナツキ、シズル、サクヤは動きを止めていた。

(マイ、やったのか・・・)

 ナツキはマイとユウの活躍を信じ、一瞬だけ安堵の笑みをこぼす。そして再びオロチ、ツキヨミを見据える。

「シズル、サクヤ・・私やたくさんの人のために、お前たちを止める!」

 ナツキはシズルとサクヤに対して敵意を見せる。2人に対する想い、そしてキョウジへの想いがあればこそだった。

「ならうちも、アンタをうちのもんにするために・・戦う!」

 シズルもナツキと戦うことを心に決める。デュランとオロチがビームサーベルを引き抜き振りかざす。2つの光刃が衝突し、激しく火花を散らす。

 その衝動で弾かれるも、すぐに体勢を整える2機。そこへデュランがオロチに向けてビーム砲を放つが、オロチにはミラーコーティングが施されており、ビームをはね返してしまう。

(くっ!やはりビームは通じないか・・!)

 ナツキが毒づきながらも、オロチに対する打開の糸口を探ろうとしていた。

(相手はシズルだ。物理攻撃を中心に狙うことは予測しているし、同じ手は食わない。どうすれば・・・!)

「ナツキ、アンタの攻撃はもううちには通じまへんえ。」

 苦悩する彼女に向けて、シズルが攻撃態勢を取る。大型ビームサーベルを振り上げ、デュランに向けて飛びかかる。

 その刃をかわして、デュランが銃砲を構える。

「チャージシルバーマテリア!」

 その銃口からエネルギー体が放たれ、無数の氷の刃に拡散してオロチに向かう。しかし半エネルギー体である氷の刃は、オロチの装甲にことごとく弾き返される。

「まだだ、シズル!私は引くわけにはいかない!」

 諦めないナツキの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

「チャージシルバーマテリア!」

 そしてさらに氷の刃をオロチに向けて解き放つ。これが通用しないことは、彼女も分かっていることだった。

「何度やってもムダどす。」

 シズルが悠然とデュランの攻撃を見据えている。

 その氷の刃の群れの中から、デュランが扱っている双刀のビームサーベルが飛び込んできた。シルバーマテリアは陽動で、打撃を与えるための布石にすぎなかった。

 シズルはとっさに回避行動を取り、ビームサーベルをかわす。そこへデュランがオロチの背後に密着し、銃砲の銃口を突きつける。

「もう終わりだ、シズル。できるなら、私はお前を倒したくはない。」

 ナツキが通信回線を開き、シズルに呼びかける。しかしシズルは妖しい笑みを浮かべている。

「甘いどす。」

 そのとき、オロチの両翼に装備されていたドラグーンが砲撃を開始。ビームがデュランの両腕、両足、両肩、両脇をかすめる。

「ぐっ!」

 その衝撃に揺さぶられてうめくナツキ。痛烈な砲撃を受けて、デュランがオロチから離れる。

「形勢逆転ってヤツやね。ナツキ、これで終わりどす・・」

 シズルが冷淡に告げると、オロチがビームサーベルの切っ先をデュランに向ける。

「うちはアンタが好きなんどす。せやから、できるならうちはナツキを傷つけとうない・・・」

 そんな彼女の顔に悲痛さがあふれる。モニター越しに移された彼女の表情に、ナツキは動揺を感じていた。

「シズル、私もシズルのことが好きだ。だからこそ、私はお前をここで止めなくちゃいけないんだ・・」

「せやったらなんで!?・・ナツキ、アンタ、ほんまはうちが嫌い・・・!?」

「そうじゃない・・私は私の中にある大切なものを守りたい。シズル、お前もその中に入っているだが、その大切なものは、お前の私への想いとは違う・・・」

 激情するシズルに対し、決意を強めるナツキ。満身創痍のデュランが、4つ全ての銃砲を構える。

(私は守りたい。私の大切なものを全て・・・母さん、キョウジ、デュラン、私に力を貸してくれ・・・!)

「チャージダイヤモンドマテリア!」

 氷、炎、雷、光、4種のマテリアがそれぞれの銃砲から放たれ、融合する。まばゆくきらめくマテリアの結晶は、拡散する閃光となって解き放たれる。

「お兄ちゃんは、絶対に渡さない!」

 そこへサクヤのツキヨミが、巨大鎌を振りかざして飛び込んできた。しかし飛び散る閃光は、ツキヨミの鎌や手足を貫いて行動不能に陥らせる。

「キャアッ!」

 激しい衝撃にさいなまれて、サクヤが悲鳴を上げる。

 シズルも閃光に対して回避を試みる。しかし閃光の速度は速く、大型ビームサーベルを破壊され、オロチは右腕と左腕を射抜かれる。

(ナ・・ナツキ・・・)

 落下していくオロチの中で、シズルが呆然とナツキとデュランを見つめて微笑んでいた。

 

 様々な攻防を繰り広げているダークサイドの宙域に、ようやくジーザスとクサナギが到着した。そこでクサナギの作戦室にて、キョウジがデュランとオロチ、ツキヨミの戦いを目撃していた。

「ナツキ・・・サクヤ・・・!?」

 キョウジはデュランとの戦闘で傷ついたツキヨミを見て驚愕する。それでもツキヨミはデュランと対峙しようとしていた。

「ユキノさん、残ってる機体を1機貸してくれ!」

「えっ!?」

 キョウジの申し出に、ユキノを初めとしたクサナギクルーたちが驚愕を見せる。

「サクヤはナツキに攻撃しようとしている。ツキヨミが傷ついてるっていうのに、それでもデュランを狙っている・・・」

「でも、キョウジさん、あなたをこのまま行かせるわけには・・・」

 今にも飛び出していきそうなキョウジを、ユキノが呼び止める。

「このまま死なせることはオレにはできない・・サクヤも、ナツキも!」

 キョウジは言い放って、作戦室を飛び出していった。

「キョウジさん!」

「マイスターとパールの反応を確認!パール、苦戦しています!」

 彼を呼び止めようとしたユキノに向けて、キヨネが報告を入れる。モニターに、ヤマトに対して悪戦苦闘しているパールの姿が飛び込んできた。

「アカネさんはキョウジさんを追ってください!エルスティンさんはニナさんの援護を!」

「了解!」

 ユキノが指示を送り、アカネとエルスティンが答え、作戦室を駆け出した。

 

「ハッチを開けてくれ!」

 整備ドックに駆け込んできたキョウジは、ザクに乗り込むとイリーナとカズヤに呼びかけた。しかしすぐに答えないので、キョウジは焦りを見せる。

「早く!」

「あ、はいっ!」

 キョウジの呼びかけにイリーナはとっさにハッチを開いた。その直後、キョウジはザクを駆り、虚空へと飛び出した。

「カズくん!イリーナちゃん!」

 そこへアカネとエルスティンが慌てて駆け込んできた。

「アカネちゃん、今、キョウジさんが・・!」

 カズヤが声をかけると、アカネは困惑を浮かべる。

「カズくん、ハリーの発進準備を。イリーナちゃんもコーラルを。」

「わ、分かりました!」

 アカネに指示されてイリーナが動き出す。アカネとエルスティンがそれぞれ自分の機体へと乗り込んでいく。

「エルスティンさん、アリカちゃんとニナちゃんをお願い・・」

「分かりました、アカネさん。」

 アカネの言葉にエルスティンが頷く。ハッチが開かれ、2人は発進に備える。

「アカネ・ソワール、ハリー、出ます!」

「エルスティン・ホー、コーラル、発進します!」

 ハリー、そしてウィングフォーマーを装備したコーラルが、クサナギから発進していった。

 

 デュランのエネルギー砲を受け、ツキヨミは満身創痍に陥っていた。しかしサクヤはナツキに対する敵意を消していなかった。

「サクヤももうやめろ!これ以上戦えば無事ではすまないし、私はお前を傷つけたくはない!」

 ナツキが悲痛の心境で呼びかけるが、サクヤは聞き入れようとしない。

「イヤだよ・・お兄ちゃんは私が守るの・・あなたからお兄ちゃんを取り戻すんだから!」

 サクヤが悲痛の叫びを上げながら、デュランに向けて進撃を開始する。

「やめろ、サクヤ、ナツキ!」

 そのとき、ザクに乗って駆けつけてきたキョウジが、サクヤとナツキに呼びかけてきた。

「サクヤ、やめるんだ!オレはお前が誰かを傷つけてほしくないし、お前も傷ついてほしくもない!」

「でもお兄ちゃん、私はお兄ちゃんを守りたいだけなの!」

 キョウジの呼びかけにも、サクヤは悲痛さを返す。

「私はお兄ちゃんを守りたい!お兄ちゃんを傷つけるものは、みんな私が倒さないといけないの!」

「違う!ナツキはお前やオレを傷つける人じゃない!オレたちの心の支えになってくれる!絶対にだ!」

「キョウジ・・・」

 サクヤに自分の正直な気持ちを伝えるキョウジに、ナツキも困惑をかくせなかった。

「サクヤ、もしこれ以上ナツキやみんなを傷つけるなら、それはオレのためなんかじゃない・・・」

 キョウジが想いを伝えるも、サクヤはナツキへの敵意を消さず、ツキヨミをデュランに進ませる。

「サクヤ、それがお前の答えなのか・・・」

 兄妹の絆が薄らいでいると実感するキョウジ。ザクを走らせ、傷ついたツキヨミをつかむ。

「お、お兄ちゃん!?」

「キョウジ・・!?」

 キョウジの行為にサクヤとナツキが驚愕する。2人の困惑の中、キョウジは密かに覚悟を決めていた。

 

 一方、マリーの駆るヤマトの打撃に追い込まれていくニナ。そこへコーラルの駆るエルスティンが駆けつけた。

「ニナちゃん、大丈夫!?」

「エルス!?」

 エルスティンの呼びかけにニナが答える。そしてすぐにヤマトを2機が見据える。

「気をつけて、エルス。あのMS、このパール以上に接近戦に長けているわ。」

 二ナの忠告にエルスティンが息をのむ。ヤマトを操るマリーが悩ましい笑みを浮かべていた。

 

 ツキヨミにしがみつき、キョウジはザクのコックピットを開いた。そしてツキヨミのコックピット前まで浮遊して留まる。

「サクヤ、ツキヨミのハッチを開けてくれ。」

「お、お兄ちゃん・・・!?」

 優しく微笑むキョウジの言葉にサクヤは戸惑う。不安を抱えながらも、彼女はツキヨミのコックピットを開く。

 怯えすら見せる彼女の眼に、優しい笑顔を見せる兄の姿が映った。

「お兄ちゃん・・・」

「・・・やっと捕まえたよ、サクヤ・・・」

 キョウジの満面の笑顔を見て、サクヤは安堵を覚えていく。

「ちょっといいかな・・・?」

 キョウジが言いつけると、サクヤは無言で頷いた。彼女の表情は、兄を純粋に慕う妹のものだった。

 キョウジはツキヨミのコックピットに入ると、サクヤを優しく抱きとめた。その抱擁に彼女は頬を赤らめる。

「サクヤ、もう大丈夫だ。オレはここにいる・・お前と一緒だ・・・」

「お兄ちゃん・・・私・・私・・・!」

 サクヤはキョウジにすがりつき、涙をこぼした。純粋になっている彼女の頭を、彼は優しく撫でた。

「サクヤ、オレの気持ちが分かるかい?・・オレは、もう誰にも辛い思いをしてほしくないんだ・・・」

「うん・・・」

「だからサクヤ・・オレの想いを・・大切なものを分かってほしい・・・」

「お兄ちゃん・・・!」

 キョウジとサクヤ。兄妹が想いを分かち合い、体を寄せ合う。今の彼女に、ナツキに対する敵意は消えていた。

 キョウジはツキヨミの通信回線を開き、ナツキへ通信を送る。

「ナツキ、ゴメン・・できることなら、君と一緒に帰りたかった・・・」

「キョウジ・・・!?」

 キョウジの言葉にナツキが不安の色を見せる。

「キョウジ、まさか・・・!?」

 声を荒げるナツキの見つめるモニターには、心からの喜びを見せるキョウジとサクヤの姿が映っていた。

(お兄ちゃん、ずっと一緒だからね・・・)

(そうだね・・サクヤ・・・)

 兄妹の心の疎通の中、キョウジはツキヨミのスイッチに手をかける。

(ナツキ、君と会えてよかったよ・・・ありがとう・・・)

 キョウジがナツキを想いながら、そのスイッチを押した。それはツキヨミの自爆スイッチだった。

「キョウジ!サクヤ!」

 ナツキがたまらずツキヨミに手を伸ばす。その眼前で、切られた核エンジンの自爆でツキヨミが弾け飛んだ。

「キョウジ!!!」

 ナツキが眼を見開き、宇宙に輝いた爆発に向かって叫んだ。キョウジはナツキを深く愛し、サクヤとともにその命を散らした。

 

 

次回予告

 

世界の平和。

人々の幸せ。

それがアリカが思い描いていた夢の形だった。

様々な経験を積み、たくさんの仲間に支えられて飛び立つアリカ。

その心は、決して揺らぐことはない。

 

次回・「揺るぎない願い」

 

果てしなき夢を、掴み取れ、マイスター!

 

 

作品集

 

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