GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-36「想い」
ダークサイドの防衛線を崩し、マイたちはアルタイへと進みつつあった。
「ナツキ、アリカちゃん、ニナちゃん、大丈夫!?」
「マイ、私なら大丈夫だ!」
「私も行けます、マイさん!」
マイの声にナツキ、アリカが答える。そのとき、ニナの操るパールのレーダーが、巨大なエネルギーを感知した。
「アルタイから発進したエネルギーを感知したわ!これは・・・シディア・・!」
「えっ・・!?」
二ナの通信にマイたちが驚きを見せる。同時にカグツチ、デュラン、マイスターのレーダーもシディアのエネルギーを感知した。
4機が振り返った先には、アルタイから発進したシディアの姿があった。
「シズル・ヴィオーラ、オロチ、行きますえ!」
「サクヤ・ミルキーズ、ツキヨミ、発進します!」
シディアからオロチとツキヨミ、そしてマリーの駆るヤマト、ミーアの駆るホムラが出撃してきた。
「来るぞ、マイ!」
「うん!行こう、ナツキ、みんな!」
ナツキの声にマイが答える。カグツチたちがダークサイドの新たなる勢力に向かっていく。
「マイ、ユウ、お前たちはアルタイに向かえ!お前たちがオメガの発射を食い止めるんだ!」
「ここは私たちが押さえます!」
「マイさんたちは早く行ってください!」
ナツキ、ニナ、アリカがマイとユウに呼びかける。
「ナツキ、二ナちゃん、アリカちゃん・・・ありがとう!」
マイは感謝の言葉をかけて、カグツチを先行させる。向かってきたオロチたちを通り過ぎ、アルタイへと直進する。
「カグツチ、アルタイに乗り込むつもりですか。」
「そうはさせないニャン!」
それを見逃さなかったマリーとミーア。カグツチを追おうとするヤマトとホムラだが、割り込んできたマイスターとパールに阻まれる。
「ここは通しません!」
「あなたたちの相手は私たちだよ!」
ニナとアリカがヤマト、ホムラに向けて言い放つ。ヤマト、ホムラが分かれてカグツチを追撃しようとするが、パール、マイスターも分かれてそれを食い止める。
そしてナツキの駆るデュランは、オロチとツキヨミと対峙していた。その中でナツキは、キョウジと自分自身の心を思い返していた。
オメガ発射を食い止めるべく出撃しようとしていたとき、ナツキはデュランに乗る前に、クサナギに向かおうとしていたキョウジに会っていた。
「キョウジ、行ってくる。」
「ナツキ・・・オレも、クサナギに乗って後から駆けつけるよ。」
恥ずかしそうになりながら言葉をかけるナツキに、キョウジは戸惑いを見せながら答える。
「ダークサイドに向かうんだ・・シズルや、サクヤとも戦うことになるかもしれない・・・」
ナツキはサクヤとシズルに対して困惑を抱いていた。今度こそ彼女たちを手にかけてしまうかもしれないと覚悟を感じていたのだ。
「だけど、私は私の大切なものを守るために戦う。たとえその相手が、私自身の大切なものだったとしても・・・」
「ナツキ・・・」
「私の大切なものの中に、キョウジ、お前が入っている・・・」
ナツキは瞳を閉じて微笑み、自分の胸に手を当てて自分の気持ちを確かめる。彼女の想いに、キョウジは一瞬動揺を見せる。
「ナツキ、オレもお前のことを大切なものとしたい。始めはサエさんの娘だからとか、サエさんが信じ抜く人だからとかいう理由だったけど、今は違う・・」
キョウジは告白すると、ナツキの体を強く抱きしめた。突然の抱擁を受けて、ナツキは頬を赤らめる。
「お前だから、オレはお前を大切にしたい・・・」
キョウジは自分の気持ちを素直に伝えた。ナツキはその言葉に今までにない喜びを感じたが、気恥ずかしさのあまりにムッとなる。
「バ、バカ!私よりも、もっといい女がいるはずだろう!」
その言葉に一瞬憮然となるも、キョウジはナツキが本心では喜びを感じていることを理解して微笑んだ。
「キョウジ、私はもう誰も死なせたくない。失いたくないんだ・・だから死なないでくれ。私も生きて戻ってくるから・・」
「うん。約束する。ナツキとオレと、サクヤと一緒に、楽しい時間を過ごそう。」
キョウジの言葉にナツキは頷いた。そして彼女は振り返り、デュランに向かおうとする。
「必ず!必ず、帰ってきてくれ、ナツキ・・・!」
「あぁ・・・」
キョウジの呼びかけに、ナツキは振り返らずに答え、そのまま歩き出した。
アリカもダークサイドへの出撃のため、マイスターに向かおうとしていた。ところがその途中、彼女はセルゲイに心配そうにしているニナの姿を発見する。
「お養父様は病院で休んでいてください。私たちがダークサイドに向かいます。」
「ニナ・・・」
深刻に告げるニナに、セルゲイは困惑の面持ちを見せる。
「ダークサイドで起こっている暗躍、オメガの発射は、私たちが止めてみせます。」
「ニナ・・・すまないが、オレもクサナギに同乗させてくれ。これからアルタイが、世界がどうなっていくのかを、この眼で確かめたい・・・」
「お養父様・・・」
「心配するな。思うように動かない体だ。ムチャはしたくてもできないよ。」
「やっぱり病院で休んでたほうがいいよ!」
そこへアリカがセルゲイとニナの会話に割って入ってきた。
「アリカ・・!?」
アリカの登場にニナが同様の色を見せる。
「セルゲイはニナちゃんのお父さんなんでしょ?だから二ナちゃんに心配かけちゃダメだよ。」
「・・・そうか・・そうだな・・・だが、オレはこの戦いの行く末を見ておかなくてはならないんだ。それがニナの父親でありながら、そばを離れてばかりでいたオレの最低限の義務だ・・」
「お養父様・・・」
あくまで世界を見据えて行動しようとしているセルゲイに、アリカだけでなくニナも当惑する。セルゲイは笑みをこぼして、アリカに呼びかける。
「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう、ニナ、アリンコ。」
「んもうっ!私はアリカだよ!全く、心配した私がバカだったよ!」
ふくれっ面になるアリカに、セルゲイは苦笑を浮かべた。しかし彼女の率直な言葉に、彼は素直に喜んでいた。
「アリカ、そろそろ行きましょう。私たちがオメガの発射を止めるのよ。」
「そうだね。頑張ろう、ニナちゃん。」
お互いに呼びかけあい、ニナとアリカはそれぞれの機体へと向かっていった。
「ニナ・・アリカ・・・」
飛び立とうとしている2人を見送って、セルゲイは2人を思っていた。
マイもカグツチ発進に向けて準備を整えていた。その白い機体を見つめていたミドリ、チエ、アオイ。
彼女たちにユウが駆けつけ、ミドリに真剣な面持ちを見せる。
「どうしたの、ユウ?何だか怖い顔しちゃってるけど・・」
ミドリが一瞬気おされるも、ユウに真剣に問いかける。するとユウが気持ちを整えてから答える。
「艦長、オレも一緒に行かせてください・・!」
「えっ・・!?」
ユウの突然の申し出に、ミドリだけでなくチエもアオイも驚く。
「正直、今までオレはずっと空回りしていた。マイやナツキ、他の連中のすごさに驚かされて、シホ1人救えなかった。考えれば考えるほど、どんどんカッコワリィことをやらかして・・・だけど、やっと分かった気がする。こんなオレにも、オレにしかできない、オレがしなくちゃなんないことがあるって・・」
「ユウくん・・・」
決意をあらわにしたユウに、ミドリは困惑を見せる。しかしその決意に応えるべく、彼女も決意する。
「分かったわ、ユウくん。カグツチに乗って、マイちゃんやみんなの力になってあげて・・」
「艦長・・・ありがとうございます!」
マイたちと世界の命運をミドリから託され、ユウは大きく一礼した。そしてエレベーターを使って、マイのいるカグツチのコックピットに乗り込んだ。
「ユウ!?なんでアンタが!?」
突然乗り込んできたユウに気付き、マイが驚きの声を上げる。
「ワリィな、マイ。オレも行かせてもらうぜ。」
「でもユウ、シホちゃんを見てあげないと・・!」
不敵に笑ってみせるユウに、マイが心配の声をかける。しかしユウの決意は変わらない。
「確かにそうなんだけどな・・お前、ライトサイドや世界だけじゃなく、タクミも助けたいと思ってるんだろ?」
「えっ?・・うん・・」
ユウの気さくな態度の問いかけにマイはおぼろげに答える。
「弟や妹が危なっかしい眼にあってるなら、そいつを助けてやるのが兄ちゃん姉ちゃんってもんだろ?」
「ユウ・・・」
「お前がタクミを助けたいなら、四の五の言わずに助けに行く。なるようになるってな。」
戸惑いを浮かべるマイに、ユウは気さくに笑ってみせる。今までのユウではない、まるで生まれ変わったようなユウがそこにいた。
「ありがとう、ユウ・・あたし、ユウのことが好きだからね。」
「オレもだ、マイ・・・」
マイはユウに寄り添い、彼と口付けを交わした。突然の接吻に動揺を覚えるが、ユウは優しくマイを抱きしめた。
唇を離し、マイとユウが互いを見つめ合う。
「それじゃ、行こうか、マイ・・」
「みんな全速力で行くから、怖がったりしないでよ。」
マイとユウは座席につき、カグツチの発進準備を進めた。
襲い来るオロチとツキヨミに対し、ナツキはなかなか反撃に転ずることができないでいた。2対1の不利な状況に対し、彼女は活路を見出そうとしていた。
彼女はシズルやサクヤに対する迷いがないわけではなかった。しかし、その迷いに囚われることなく、臨戦態勢を保っていた。
「ナツキ、アンタは誰にも渡しまへん。たとえうちの仲間やとしても、うちとナツキの邪魔はさせまへん・・」
シズルがナツキの想いに駆られる。大型ビームサーベルを振り上げて、オロチがデュランに飛びかかる。
「お兄ちゃんを私から奪ったデュラン・・私は絶対に許さない!」
同時にいきり立ったサクヤのツキヨミが、巨大鎌を振りかざしてデュランを狙う。
2機の接近に気付いていたナツキは、とっさに回避行動を取る。上空に飛翔するデュラン。オロチの剣とツキヨミの鎌が空を切り、互いの刃がぶつかった。
「邪魔をしないで、シズルさん!」
「下がりおし。ナツキの相手はうちがします。」
共通の相手を求めるあまり、口論を展開してしまうサクヤとシズル。
「お前たちは私が止めてみせる!誰も殺させず、私の大切なもの全てを守ってみせる!」
ナツキはそんな2人に言い放ち、デュランが2つの銃身の銃口をそれぞれオロチとツキヨミに向ける。
「チャージシルバーマテリア!チャージゴールドマテリア!」
デュランがその銃身から、それぞれ氷の刃と稲妻の閃光を放つ。ところがオロチはビーム砲を最大出力で放ち、氷の刃を蒸発させる。そしてツキヨミも誘導プラズマ砲「フレスベルグ」で稲妻を相殺させる。
砲撃をはね返され、ナツキが眼を見開く。
「うちに同じ手は通じまへんえ。」
「そんなんじゃ私とお兄ちゃんは止められないよ。」
シズルもサクヤも内に秘めた想いと決意を抱えていた。
「いいだろう・・お前たちの想い、私が受け止めてやる!」
ナツキがそれに呼応し、自分の全てを賭けて戦うことを心に決めた。守り、そして生きるために。
立ちはだかったヤマトに向けて、ビームサーベルを振りかざすパール。マリーの忠誠心とニナの心が交錯する。
(お養父様も必死に戦っていらしたのです・・私も、この世界を守るために全力を注ぐ!)
決意を秘めたニナが、マリーの駆るヤマトを見据える。2機が放ったビームブーメランが相殺し、2機の剣の刃が衝突する。
ニナもマリーも互いに引こうとはしない。自身の持つ心のまま、相手を退けることだけを考えていた。
マイスターとホムラも、虚空で激しい戦いを繰り広げていた。互いの放つビームライフルと砲撃で、閃光と火花が散る。
「なかなか一筋縄ではいかないニャン。でも、勝てない相手じゃなさそうだニャン♪」
ミーアが1人で余裕を口にする。その一方で、アリカは感情を見せようとはせず、冷静にホムラの動きをうかがっていた。
(ここで私たちが頑張らないと、世界中のみんなが悲しむことになっちゃう・・だから私は世界を守る。それが私の夢でもあるから!)
「行くよ!」
アリカは決意と夢を秘めて、マイスターを向かわせる。エクスカリバーを高らかを振り上げ、両翼を輝かせながらホムラに向かっていった。
オメガの発射を止めるべく、マイとユウはダークサイド、アルタイ王国の領空に差しかかろうとしていた。
「やっぱりアイツ、マリーたちの砲撃を潜り抜けて、こっちまでやってきたぜ。」
ヴェスティージの発進準備を終えたハイネがタクミに言いつける。
「お姉ちゃんたちには悪いけど、ここで邪魔されるわけにはいかない。世界の再構築のために、僕たちは世界を撃ち抜く。」
タクミは淡々と答え、この整備ドックから立ち去ろうとする。そこへ2人の会話を聞いていたナギが口を挟む。
「本当にいいのかい?最悪の場合、あなたのお姉ちゃんの命を奪うことになっちゃうかも。」
「・・それでも僕は構わない・・この乱れた世界を作り変えるためなら・・・」
ナギの言葉を気に留めず、タクミは王城に戻っていった。しかしその口調に感情がこもっていたことを、ナギは気付いていた。
「それじゃオレも行くぜ。ナギ殿下も離れていてくれ。」
「りょーかい。せいぜい死なないように気をつけてちょうだいね。」
ナギがからかうつもりで言ってのけると、ハイネは不敵な笑みを浮かべてコックピットのハッチを閉める。そして開かれた天井に向けて、ハイネは発進に備える。
「ハイネ・ヴェステンフルス、ヴェスティージ、行くぜ!」
ハイネの駆るヴェスティージが飛び上がり、向かってくるカグツチに狙いを定める。
「今までのMSだと、今までのオレだと思うな!」
ハイネが言い放ち、ヴェスティージがビームサーベルを引き抜く。カグツチはこの黒い光刃を、双刀のビームサーベルで受け止める。
「黒いビームサーベル・・!?」
マイとユウはヴェスティージが振りかざす黒い光刃に驚きを覚える。胴体、眼光、光刃。全てが黒く染め上げられているヴェスティージは、まさに破壊の痕跡を刻み付ける機体として完成されていた。
カグツチはヴェスティージの光刃を弾き返すと、ドラグーンを展開して砲撃を繰り出す。それに対してヴェスティージもドラグーンを展開して迎撃する。
2つの閃光の群れがぶつかり合い、相殺してまばゆい光となる。その輝きに照らされながら、カグツチとヴェスティージがにらみ合う。
「マイ、急げ!城の中でエネルギーが膨らんできてるぜ!」
レーダーを確認したユウがマイに呼びかける。レーダーはアルタイ王城の中で数値を上昇させているエネルギーを察知していた。
一方、アルタイ王城の王室では、オメガのエネルギーチャージと発射準備が着々と進んでいた。そしてついに、オメガの狙いが改めてライトサイドに向けられた。
「オメガ、エネルギー充填完了!発射準備完了!」
オメガ専属のオペレーターが、玉座についていたタクミに報告を入れる。タクミは立ち上がり、指示を送る。
「ライトサイドに向けて、オメガ、発射。」
「発射!」
オペレーターがオメガの発射スイッチを入れた。
「この光が、世界に新たな希望となるだろう・・・」
ハイネのヴェスティージと一進一退の攻防を繰り広げるマイとユウ。しかしオメガの発射が刻一刻と近づき、次第に焦りを募らせていく。
「マイ、早くしねぇと、オメガが発射されちまう!」
「分かってる!でも・・!」
ユウに急かされるも、マイは打開の糸口を見つけられず、焦りの色を浮かべていた。
(何とかしないと・・みんなが・・・!)
そのとき、苦悩するマイの眼に巨大な銃砲と、その銃口に収束されていくエネルギーが飛び込んできた。
「オメガ!?」
オメガ発射を危険視したマイは、両腰両肩のレール砲をオメガに向ける。
「そうはさせるか!」
そこへヴェスティージがビームサーベルを振りかざし、カグツチに向かって飛び込んでくる。マイはそれに構わずに、オメガに向けてレール砲を発射する。
同時にヴェスティージの光刃がカグツチの右肩を捉え、また同時にオメガが轟音を轟かせながら閃光を解き放った。
次回予告
孤独を打ち消した友がいる。
心を癒した家族がいる。
未来へと導く想いがいる。
様々な人に支えられて、今の自分がいる。
ナツキが今、全てを賭けた戦いに挑む。
想いの欠片、守り抜け、デュラン!