GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-30「想い越える瞬間(とき)」

 

 

 ナツキに代わってキヨヒメと対峙するアリカ。アリカには、シズルに対してどうしても決着を付けたかったのである。

 オーブ首長の任をかなぐり捨て、キヨヒメを奪い、そのままダークサイドにその身を投じた。その理由をアリカは確かめたかったのだ。

「シズルさん、ここまで来たら、もうあなたに“帰ってきてください”って言いません。でもこれだけは聞かせてください。なぜオーブを抜けてダークサイドになったのか・・・?」

 アリカが沈痛の面持ちでシズルに問いかけた。するとシズルはモニター越しに物悲しい笑みを見せてきた。

「うちはナツキを愛してます。せやから、ナツキを傷つけたライトサイドを、うちは許すことができまへんやった・・・」

「愛してる・・・!?」

 シズルの言葉にアリカが動揺を覚える。

「邪な想いとは分かってる。せやけど、うちはこの想いを止めることができまへん・・・」

「シズルさん・・・」

「うちはナツキがほしい・・たとえみんなに、ナツキに恨まれても・・なつきは必ず、うちのもんにして見せます・・・」

 シズルの笑みが次第に冷淡なものに変わっていく。その変貌を目の当たりにして、アリカは心を揺さぶられる。

「そんなの、シズルさんじゃない・・・私たちの知ってるホントのシズルさんじゃないですよ!」

「アリカさん・・・これがホントのうちなんどす・・ハルカさんの言うとおり、もうオーブにうちの居場所はない・・・」

 悲痛の声を上げるアリカだが、シズルの心は変わらなかった。

「ナツキを傷つけるもん、うちとナツキの邪魔をするもんは、うちが全部倒したるさかい・・・アリカさん、それがあなたでも!」

 シズルの想いに呼応するように、キヨヒメが長刀を構えてマイスターに襲いかかる。アリカはとっさに回避行動を取って、キヨヒメとの距離を取る。

「みんなの気持ちを裏切って、ナツキさんまで自分のいいようにする・・・そんなの、そんなのあなたの勝手な押し付けじゃないですか!」

 アリカはついにシズルに対して憤りをあらわにする。今まで信じて慕ってきた人に対して怒ることに、アリカは心のどこかで後ろめたさを感じていた。

「自分の想いのためだけにライトサイドとオーブを攻撃して、ハルカさんまで・・・!」

「ずい分と奇麗事いうのがうまくなりましたね、アリカさん。あなたかて、みんな同じ穴のムジナちゃいますん?」

「なっ・・・!?」

 意外な返答をされて、アリカが再び驚愕を見せる。

「みんな自分のしたいようにしてますさかい。それがアリカさんのように夢やったり、うちのように誰かを好きになったりしてるだけ・・・」

「だから、自分がしてることが許されないって言いたいんですか・・・!?」

「そうや・・大切なものを守るためやったら何をやっても許される。そうは思いませんか・・・?」

 次第に苛立ちを募らせていくアリカだが、シズルは悪びれる様子を全く見せない。

「確かにみんな、大切なもののために戦います。私だって夢のために戦ってますし、ナツキさんだって、あなたやみんなのために戦ってます。だけどそのために、誰かを傷つけちゃいけないですよ!傷つけて守ったものに、誰も喜んでくれませんよ!」

「それでも構いまへん。ナツキは誰にも渡しまへん!」

 アリカの言葉を振り切って、シズルがキヨヒメを駆る。振り下ろされた長刀を、マイスターのビームシールドが受け止める。

「そこまで言うのなら、私はあなたの代わりになる・・みんなの平和のため、私の夢のため、私は戦う!」

 言い放ったアリカの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 ビームシールドで受け止めている長刀を、キヨヒメごと押し返す。そして間髪置かずにビームサーベルを引き抜き振り下ろすが、キヨヒメは距離を取って回避する。

 キヨヒメが長刀の刀身を分割させて、鞭のように放つ。刀身はマイスターの持つビームサーベルの光刃を絡めとリ、マイスターを引き寄せる。

 それをマイスターはキヨヒメに接近する瞬間にビームサーベルを放す。体勢を崩されたキヨヒメを、マイスターは左足を振り上げて一蹴する。

 続けてレイの銃砲を構えて、踏みとどまったキヨヒメに向けて発射する。

「血迷いましたん?キヨヒメにビームは効きまへんえ。」

 シズルが悠然と向かってくる一条の光線を見つめた。彼女の思惑通り、レイの砲撃はキヨヒメのミラーコーティングに反射され、マイスターを直撃する。

 シズルが悠然とした笑みを浮かべて、きらめく閃光を見つめる。そこから突如、マイスターがエクスカリバーを握り締めて飛び出してきた。

「なっ!?」

 シズルがマイスターの姿に驚愕する。

 アリカのとっさの判断で、マイスターはビームシールドを手放した。反射されたレイが直撃したのは、この盾だったのだ。

 ビームシールドを文字通り盾にして、マイスターはキヨヒメとの間合いを一気に詰める。そしてエクスカリバーを振りかざし、長刀を構えるキヨヒメの右腕をなぎ払い、さらに両足を両断する。

 体勢を保てなくなり、キヨヒメがヴィントブルム郊外の地表に落下する。起動不能に陥って動けなくなった紫の機体を見つめて、アリカは強く胸を締め付けられるような感覚を感じていた。

「ゴメンなさい、シズルさん・・私は真っ直ぐに夢を追いかけます・・そして私が戦争を止めて、終わらせてみせます・・・!」

 涙ながらに決意を告げて、アリカは他の戦況を見据えた。

 

 一方、ナツキはサクヤと対峙していた。兄を奪われたと思っているサクヤが苛立ちを感じ、ナツキはキョウジのことを思って困惑を感じていた。

「お兄ちゃんを返して・・お兄ちゃんを守るためなら、私は何だってするから・・・!」

 サクヤの想いに呼応して、ツキヨミが巨大鎌を構える。

「サクヤ、私もキョウジも、お前を突き放そうとは思っていない。もしも本当に兄を想っているなら、こっちに戻ってくるんだ。」

 ナツキがそんな彼女に必死に呼びかける。今のナツキにとって、サクヤも大切な人の1人だと思っていた。

「ダメだよ!オーブもライトサイドも、私とお兄ちゃんを助けてくれなかった・・シアーズが滅びた今、私はもうダークサイドに行くしかないんだよ・・・!」

“そんなことはない!”

 サクヤが悲痛の声を上げたそのとき、デュランとツキヨミに向けて通信が入ってきた。

「この声は・・・」

「お兄ちゃん・・・!」

 ナツキとサクヤが驚きの声を上げる。2人が振り向いた先には、ヴィントブルム救出のために、ジーザス、クサナギが駆けつけてきた。

 今の通信は、クサナギに搭乗しているキョウジからだった。

“おまた〜。ここから私らの反撃開始よー。”

 気さくな態度のミドリの声がナツキの耳に届いてくる。一瞬和むような笑みを浮かべるが、ナツキはすぐにキョウジからの通信に耳を傾ける。

“オーブもライトサイドも変わってきている!今の彼らはお前が考えているような人たちじゃない!”

「でもお兄ちゃん・・!」

 必死に説得の言葉を呼びかけるキョウジに、サクヤがさらに悲痛さをあらわにする。それでもキョウジは諦めない。

“信じるんだ、サクヤ!オーブとライトサイドが、オレたちを快く迎えてくれることを!どうしても信じられないって言うなら、彼らを信じているオレを、お前を信じているオレを信じてほしい・・・!”

 想いを込めたキョウジの言葉に、サクヤはひどく動揺していた。どうしたらいいのか分からなくなり、心の落ち着きを保てなくなった彼女は、ナツキの駆るデュランに敵意を見せる。

 鎌を振りかざしてきたツキヨミに対し、ナツキはとっさに狙いを定める。構えた銃砲からビームが放たれ、ツキヨミの進行を阻む。

「サクヤ、お前は私の手で止めてみせる・・キョウジがお前を、そして私を信じているから・・・!」

 キョウジとサクヤの想いを汲み取ったナツキの中で何かが弾けた。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

「チャージクリムゾンマテリア!」

 デュランの銃砲の1つにエネルギー体「マテリア」が装てんされる。そしてツキヨミに向けて炎の弾を発射する。

 ツキヨミは鎌で炎の弾を切り裂く。同時にデュランが別の銃砲に別種のマテリアを装てんする。

「チャージシルバーマテリア!」

 銃砲に水晶の弾丸を装てんし、ツキヨミに向けて発射する。銀の弾丸は途中で弾け、無数の氷の刃となって解き放たれる。

 ツキヨミはこれも鎌で弾き返していく。

 そのとき、ツキヨミの持つ鎌の刃に亀裂が入った。

「えっ・・!?」

 サクヤがひび割れた鎌に驚きを覚える。ツキヨミの巨大鎌「ニーズへグ」は、ビーム兵器ではないものの、エレメンタルガンダムでさえも両断することが可能の威力と強度を誇っている。生半可な攻撃ではひび割れることさえない。

「そんな・・ツキヨミの鎌が・・どうして・・・!?」

「いかなる強度のものでも、一気に加熱した直後に冷却すれば、その強度は一気にもろくなる。デュランのビームかクロームマテリアを与えれば、その刃は砕け散る。」

 動揺を覚えるサクヤに、ナツキが淡々と告げる。

「もう終わりだ。キョウジのところに帰るんだ・・・」

 ナツキは沈痛の面持ちで、満身創痍のサクヤに呼びかけた。

 

 マイたちに続いて、ヴィントブルムの襲撃を食い止めるべく駆けつけたジーザスとクサナギ。バスターフォーマーを武装したコーラル、ハリー、パールも出撃して、ダークサイドの魔手を迎え撃っていた。

「黒曜軍の進撃、徐々に減退しています!」

 新たにクサナギのオペレーターの任に就いたキヨネが報告を告げる。

 その直後、彼女の監視するレーダーに新たな機体の反応が飛び込んできた。

「新たな機体の接近を確認!」

「どこからですか!?」

 キヨネの声にユキノが声を返す。

「本艦の真下!真下の地上です!数は8!」

「えっ!?」

 キヨネの言葉にユキノをはじめ、クサナギのクルーたちが驚きを覚える。クサナギの真下の地上に、ダークサイドの機体「ズゴックカオス」が狙いを定めていた。

「回避!」

 ユキノがとっさに回避命令を出すが、ズゴックのミサイルの何発かがクサナギに命中する。

 攻撃を受けた衝撃がクサナギを揺るがす。ふらつきながらも体勢を保って、クサナギのクルーたちは的の行方を追う。

 ズゴックはそのもてる機動性を発揮し、別陣形を立ててクサナギをかく乱させようとする。

「いけない・・これでは振り回されて、狙い撃ちされる・・・!」

 毒づくユキノを前に、ズゴックは新たな陣形を組んで、両手をかぎ爪を広げる。黒曜軍の新たな戦力として導入されたこのズゴックカオスには、ミサイル、クロー、レーザーといった武装が施されている他に、両腕をワイヤー式に発射して遠隔攻撃を可能としている。しかもその両腕は、切り離している状態でもレーザーは放射することができる。

 ズゴックの数体が両腕を飛ばし、クサナギの艦体をつかむ。

「いけない!」

 キヨネが攻撃されることを覚悟する。ズゴックたちが手のひらからレーザーを放とうと構えている。

 そのとき、ズゴックの両腕をつなげているワイヤーを、飛び込んできたパールのビームブレイドで切断してきた。体勢を崩されたズゴックたちが仰向けに倒れる。

「パール・・ニナちゃん!」

 パールの登場にイリーナが笑みをこぼす。

「大丈夫ですか、ユキノさん!?」

「うん・・ありがとう、ニナさん。」

 ニナの言葉にユキノは微笑んで応答する。2人は眼下のズゴックを見下ろして、迎撃のため身構える。

「エルス、アカネさん、この敵機を退けますよ!」

「はいっ!」

「任せて!」

 ニナの指示にエルスティンとアカネが答える。パール、コーラル、ハリーが、体勢を立て直して再び攻めにかかるズゴックたちを迎撃する。

 次々と放ってくるレーザーをかいくぐり、パールがビームブーメランでズゴックの足を両断し、動きを止める。コーラルがランチャーミサイルで、ズゴックのミサイルを撃ち抜いていく。

 そしてハリーもクローとアイアンロッドを駆使して、迫り来るズゴックたちを押し返していく。

 3体の脅威の機体の前に、ズゴックはなす術なく撤退を余儀なくされてしまった。

「ふぅ・・終わったみたいだね・・・」

「いいえ、まだジーザスを攻撃している敵機がいるはずよ。」

 安堵するエルスティンに対し、ニナは気を緩めない。残りのズゴックとザクが、ジーザスに向けて攻撃を行っていた。

「ニナちゃん、エルスちゃん、クサナギは私が守るから、あなたたちはジーザスをお願い。」

「分かりました、アカネさん。行くわよ、エルス。」

「はいっ!」

 アカネにクサナギを任せ、ニナとエルスティンは攻撃を受けているジーザスに向けて急行した。

 

 レイト、ミコトの駆るミロクと対峙するマイのカグツチ。マイはミコトに対して戸惑いを隠せないでいた。

 兄、レイトの言うがままに行動するだけとなっていたミコトも、マイに対する対応に困惑していた。ただ戦うだけの存在になっているはずなのに、なぜマイにこんな迷いや思いを抱いてしまうのか、ミコト自身分からなかった。

「ミコト、あなたが黒曜の君に、お兄さんについていくっていうなら、あたしは止められない。だけどこれだけは聞いて・・・!」

 マイが切実な面持ちでミコトに呼びかける。たとえ伝わらないとしても、どうしても言っておきたい。

「あたしはあたしが心から望む世界のために戦う。そう決めたの。タクミがいなくなって、あたしは初めてタクミをどれほど大切にしていたか分かったの。だからナツキやアリカ、ユウ、みんなのいるこの世界を大切にしたいって思ったの。」

(・・・マイ・・・)

「あたしは、あたしを信じて支えてくれる人たちを守るために戦う。ミコト、あなたはどうしたいの・・・?」

 マイの問いかけにミコトは戸惑いを見せる。しかしレイトは彼女の言葉をあざ笑っていた。

「戯言を・・そんな世界は永遠には続くことはない。」

 レイトの言葉にマイは笑みを消す。

「私はマシロとともに、長きに渡る光と闇の戦いを見続けてきた。そして分かったのだ。この世界はもうダメだと。」

「黒曜の君・・・」

「人は力の前に完全に屈する。強い力、新たな力に心を奪われ、己の私欲のためだけにその力を振るう。始めはそのつもりがなくとも、次第にその力に心を奪われていくのだ。」

 レイトがマイに不敵な笑みを向ける。彼の言葉に眉をひそめるも、マイはまだ反論しない。

「私はこの長い年月の中、人がエレメンタルテクノロジーという力に見入られていくのを何度も見てきた。知性と理性を失い、力を使うことを制御できない人に未来などあると思うのか?」

 レイトはマイに対していざないの手を差し伸べる。

「さぁ、マイ・エルスター、私とともに新しい世界を創り上げよう・・・」

 黒曜の君のいざないに、マイはじっとミロクを見据えたままだった。

 

 アルタイ王国王城。ヴィントブルムの襲撃の知らせを受けたセルゲイは、自分も戦場に向かおうと準備を行っていた。

 その途中、彼はニナのことを思っていた。1人でもしっかりと生きていけると信じてはいるが、どうしても気がかりにならずにはいられなかった。

(どちらにしろ、ヴィントブルムに行くことに変わりはない。今は向かうことだけを考えなくては・・・)

 セルゲイは迷いを振り切り、ヴィントブルムに向かおうとしていた。

 飛行艇に乗り込む途中の廊下で、セルゲイはひとまずナギへの挨拶をしておこうと王室の前で立ち止まった。そこで彼は室内からの聞き慣れない声に眉をひそめた。

「レイト・バレル、結構がんばってるみたいニャン。」

「うん。そのほうが私たちにとっては好都合だからいいんだけどね。」

 気さくな少女と落ち着きのある少年の話し声が聞こえてくる。

(誰だ?・・こんな声の人物、アルタイの王族にはいないはずだ・・・!)

 セルゲイは2人の声に眉をひそめる。ひとまずナギか近くの兵に連絡を促そうとその場を離れようとする。

「盗み聞きとは感心しないな、セルゲイさん。」

 そのとき、背後から声がかかり、セルゲイが驚きを感じながら振り返る。その直後、銃声とともにセルゲイは左腕に激痛を覚える。

「ぐっ!」

 セルゲイは左腕を押さえて、たまらずこの場を駆け出した。一発の銃弾が彼の左腕を捉えていたのだ。

 逃走する彼を、発砲した青年は追おうとはしなかった。銃声を聞いてか、王室から少女と少年が、廊下の置くから別の少女が顔を出してきた。

「これでいい。セルゲイのことは捨て置け。彼の力で、私たちが止められることはないからね。」

 少年は微笑んで、あえてセルゲイを逃がした。青年も2人の少女も彼の言葉に同意した。

 

 

次回予告

 

自分が本当に望んでいた世界。

自分が本当に大切にしていた人。

兄への忠義をも超える本当の想い。

理屈やまやかしでは覆らない本当の心。

2人の少女の心のすれ違いに今、終止符が打たれる。

 

次回・「在るべき場所」

 

無垢なる心のまま、突き進め、ツキヨミ!

 

 

作品集

 

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