GUNDAM WAR -Encounter of Fate-
PHASE-29「焔の扉」
次の戦闘準備に向けて全力を注いでいるジーザスとクサナギのメンバー。そのレーダーが、接近してくる小型艇を捉えた。
「こちらに向かってくる1機の小型艇を発見しました。」
クサナギの作戦室でのオペレーターの報告に、ユキノが真剣な面持ちを浮かべる。
「コードはどこのものですか?攻撃する意思は?」
「はいっ・・これは、シアーズの移動用小型艇です!」
「シアーズ!?」
「それなら心配ない。」
緊迫を覚えるユキノに、入ってきたナツキが微笑んで言いとがめる。
「あれは私たちの味方だ・・・」
当惑するユキノに笑みを向けると、ナツキは小型艇に向けて通信回線を開いた。
「キョウジ・ミルキーズ、キヨネ・レイラだな?」
“あ、ナツキさん。”
ナツキが呼びかけると、キヨネの声が返ってきた。
「近くの平地に着陸してくれ。ジーザス、クサナギはお前たちを歓迎する。」
“了解。支援、感謝いたします。”
ナツキの誘導にキヨネが感謝の言葉を返した。しかしユキノが安堵の微笑を浮かべている横で、オペレーターは不審を覚えていた。
「よろしいのですか?シアーズはライトサイド、オーブに敵対の意思を見せた国家ですよ。」
「だが、その中に私たちの味方がいたとしたら・・・」
オペレーターの抗議を耳にするが、ナツキはあくまでキョウジとキヨネを信じようとしていた。サエを信じていた大切な仲間として。
クサナギの誘導を受けながら、小型艇はゆっくりと地上に着陸した。ナツキとユキノの見つめる前で、小型艇のハッチが開き、そこからキョウジとキヨネが出てきた。
「待たせて悪かったね、ナツキさん。戦闘が終わるのを見計らってから発進しようと、キヨネさんに言われてしまって。」
「いや、賢明な判断だ。戦闘の真っ只中に飛び込んでしまっては危険だからな。」
苦笑を浮かべるキョウジにナツキが微笑んで答える。キヨネに視線を向けると、彼女は笑顔で頷いた。
「彼らは私たちの味方であり仲間だ。迎え入れてほしい。」
ナツキがジーザス、クサナギのメンバーたちに呼びかけると、ユキノとミドリが微笑んで頷いたのを皮切りに、全員が拍手を送り、キョウジとキヨネを迎え入れたのだった。
「それで、この状況は、ひとまずはダークサイドの撃退に成功したわけですか?」
キョウジがミドリとユキノに訊ねると、2人は小さく頷いた。
「マイちゃんのカグツチ、アリカちゃんのマイスター、ニナちゃんのパール、エルスティンちゃんのコーラル、そしてナツキちゃんのデュランの活躍で、何とか黒曜軍を追い返すことはできたわ。」
「でもジーザスもクサナギも、とても楽観視できる状態ではないことも事実です。今、それぞれの整備士が全力で艦内と武装、各機体の修復と調整を行っているのですが、どこまで回復できるかどうかも把握し切れません。」
ミドリが微笑んで答えた後、ユキノが深刻な面持ちで答える。
ライトサイド、オーブ両軍とダークサイドの黒曜軍。状況と勢力から優劣は五分と五分だと彼女たちは見解していた。
「とにかく、こっちの状態が完全に回復するまでは、こちらから仕掛けるのは避けたいところね。」
ミドリはしばし考え込み、いい案を練り上げようとする。そこへアカネが彼女に近寄り、言葉をかけた。
「1番の問題なのは、クサナギに指揮官がいないことだと思うよ、ミドリちゃん。シズルさんはオーブ首長を辞めてダークサイドに行ってしまった・・だから、正式に指揮官を決めておかないと・・・」
「そうね。シズルさんに代わる艦長を決めとかないと・・・」
さらなる問題を抱えて、ミドリはさらに考え込む。するとナツキが微笑み、同様に考え込んでいるユキノの肩に手を乗せる。
「それなら心配はない。新しい艦長は、ここにいる。」
「えっ・・・?」
彼女に声をかけられて、ユキノが戸惑いを見せる。
「オーブ党首、及びクサナギの指揮の任は、今からユキノ・ジェラードが引き継ぐ!」
「えっ!?」
ナツキの突然の宣言に、当人のユキノが驚きの表情を見せる。
「な、何を言ってるのですか、ナツキさん!?私なんかにシズルさんの代わりなんて・・・!」
完全に動揺してしまっているユキノに、ナツキは微笑みかける。
「ユキノ、シズルの気持ちを理解し、ハルカから勇気と強さをもらったお前なら、このオーブをまとめることはできる。そう思っているのは、私だけではない・・・」
ナツキが視線を移し、ユキノもそこへ眼を向けると、アリカ、ニナ、エルスティン、アカネ、イリーナ、多くのオーブの人たちが、ユキノの指揮を心待ちにしていた。
(ハルカちゃん、私にも、シズルさんやハルカちゃんのように頑張れるよね・・・)
全てを託して命を散らしたハルカのことを想い、ユキノは決意する。
「この私、ユキノ・ジェラードが、オーブとクサナギの統率を請け負います。みなさん、よろしくお願いいたします。」
「異議なし!ですよね、みなさん?」
ユキノの挨拶に同意したアリカが周囲にも同意を求める。口には出さなかったが、誰もが彼女の意見に賛同していた。
「それではクサナギクルーに申し渡します。整備士は引き続き武装と機体の整備を続けてください。パイロットは次の戦闘まで体調を整えてください。」
「了解です!」
ユキノの指示に、クサナギのクルーが返事をし、敬礼を送った。その中でアリカが笑みをこぼすと、ユキノも微笑を返した。
「よーし!ジーザスも同じ指示を与えておくわよ。少しでも万全の体勢で、黒曜軍を迎え撃つわよ!」
「はいっ!」
ミドリも同様の指示を送り、ジーザスのクルーも敬礼を送った。
体勢を立て直し、シディアがライトサイドに向けて発進した。エレメンタルガンダム、ザク、グフに加えて、新たな兵力として水陸両用MS「ズゴック・カオス」が導入されていた。
飛行はできないが、水陸戦闘においてはザクやグフを上回る性能を誇っている。今度の侵攻では、ジーザスとクサナギを下から狙い撃ちするために駆り出される手はずとなっていた。
しかしそれはあくまで気休め程度の戦力の投入で、本格的な侵攻はエレメンタルガンダムの攻撃に委ねる。それがレイトの目論見だった。
黒曜兵が続々とMSに乗り込んでいく。ミコト、シズル、サクヤもそれぞれ準備を行っていた。
「そろそろライトサイド、ヴィントブルムだ。城下町を襲撃すれば、必ずジーザスが駆けつける。そこを叩くぞ。」
「はい、兄上・・」
レイトの命令にミコトが淡々と頷き、シズル、サクヤが微笑を浮かべる。
「では出撃だ。この荒んだ愚かしき世界を、我々の理想郷に作り変えようぞ!」
「はっ!」
黒曜兵がレイトに敬礼する。兵士たちが発進準備を済ませる中、シズルはキヨヒメに、サクヤはツキヨミに、ミコトとレイトはミロクに乗り込んでいった。
(今度は高みの見物はせんぞ。私自ら引導を渡してやろう。)
レイトが不敵に笑い、ヴィントブルムを鋭く見据える。
「シズル・ヴィオーラ、キヨヒメ、行きますえ!」
「サクヤ・ミルキーズ、ツキヨミ、発進します!」
キヨヒメ、ツキヨミがそれぞれシディアから発進していった。
「レイト・バレル、ミロク、発進する!」
そしてレイト、ミコトを乗せたミロクも、ライトサイド攻略のために出撃した。
「ヴィントブルムより入電!王城、城下町付近にシディアが進行!」
「何ですって!?」
突然入った連絡を受けたアオイの報告に、ミドリが驚愕を覚える。
「全く、こんなときに私たちの地元に直接乗り込んでくるなんて。まどろっこしいっていうか忙しないっていうか・・」
半ば呆れてため息混じりに呟きながらも、ミドリは胸中で焦りを感じていた。
そこへマイ、ナツキ、ユウが、彼女たちのいる作戦室に入ってきた。
「ミドリちゃん、ヴィントブルムにダークサイドが来てるの!?」
マイが声を荒げると、ミドリは緊迫した面持ちで頷く。するとマイたちも緊張を覚える。
「ヤツらめ!私たちがオーブにいる間にヴィントブルムを攻め込むとは・・・!」
「今、王城の軍が迎撃態勢を取ってるけど、どこまで持つか見当がつかないわ。」
ナツキが舌打ちし、ミドリが再び深刻そうに告げる。
「アイツら、本格的に攻撃を仕掛けてきたってわけか・・・こっちも本気でケリつけるときがきたのかもしれない・・・」
「ユウ・・・」
ユウが真剣な面持ちでマイたちに言いかけ、マイが当惑を見せる。
「今度はお前たちの気持ちにケリをつけるときだな、マイ、ナツキ。」
「あぁ。私はシズルとサクヤ、マイはミコトとの気持ちに決着をつけないといけない・・・」
ユウの言葉にナツキが決意を口にして、マイも真剣な面持ちで頷く。
「そうよね・・あたしもミコトの本当の気持ちを理解しなくちゃいけない・・たとえ戦わなくちゃならなくなったとしても、それだけは確かめたい・・・」
「マイちゃん・・・分かったわ。これからヴィントブルムに戻るわよ。」
ミドリが頷き、マイたちに指示を送る。
「今、私たちの家が襲われている。私たちが行かないと、帰る家までなくなってしまうわ。」
「そうだ・・私はこれ以上、大切なものを失いたくはない。誰一人、何ひとつ欠けてもイヤだ・・・!」
ミドリに続いてナツキが心境を口にする。するとマイが彼女に向けて微笑む。
「いつも感情を表に出さないナツキがそんなことを言うなんてね。」
「う、うるさい!悪いか!」
マイがからかい半分で言葉をかけるとナツキがムッとなる。するとマイは笑みをこぼして、
「ううん。大歓迎だよ、あたしたちは。」
「なっ・・・そ、そうか。それならいい・・・」
意外な言葉を返されて、ナツキは少し気恥ずかしそうになる。それを見たミドリ、ユウ、アオイも笑みをこぼしていた。
「アオイちゃん、クサナギにも連絡入れといて。ジーザス、クサナギより先に向かわせたい機体があるのよ。」
「分かりました。でも、その機体はどれになるんですか?」
アオイが聞き返すと、ミドリがマイとナツキに振り向く。
「お願いしてもいいわね、マイちゃん、ナツキちゃん?」
「もちろんよ、ミドリちゃん。」
「任せておけ。」
先攻を託すミドリに、マイとナツキが頷く。
「それと、もう1人向かわせたい子がいるんだけど。」
ミドリはこの作戦室の窓から見えるクサナギを見つめて、不敵な笑みを浮かべた。
ジーザスからの連絡を受けたクサナギ。ユキノは休息を取っていたアリカを作戦室に呼び出した。
「何ですか、ユキノさん?」
アリカがきょとんとした面持ちで訊ねると、ユキノは微笑んで答える。
「ジーザスからの要請です。ヴィントブルムがダークサイドからの攻撃を受けています。」
「えっ!?ヴィントブルムが!?」
ユキノの言葉にアリカが驚きの声を上げる。
「ミドリさんはあなたに先攻を任せたいと言ってきてます。アリカさん、あなたはマイさん、ナツキさんと一緒に、すぐヴィントブルムに向かってください。」
「それなら私も・・!」
そこへ作戦室に入ってきたニナが割り込んできた。
「私とパールなら、マイさん、ナツキお姉様と一緒に先攻することが可能です!私にも行かせてください!」
二ナが真剣な面持ちで頼み込むが、ユキノは首を横に振る。
「ニナさん、あなたはアカネさん、エルスティンさんと一緒に、クサナギとジーザスの防衛をお願いします。」
「ユキノさん・・・」
「まだクサナギは万全の体勢とはいえません。ジーザスも同じでしょう。ヴィントブルムに向かう途中、襲撃を受けないとも限りません。そのときに対応するために、あなたとアカネさん、エルスティンさんはここで待機してください。」
「・・・分かりました。全力でクサナギとジーザスの守りに専念いたします。」
ニナは渋々この指示を受け入れる。そして作戦質を出ようとして足を止め、アリカに呼びかける。
「アリカ、私の代わりに、真っ先にヴィントブルムに向かいなさい。私たちもすぐに駆けつけるから・・」
「ニナちゃん・・うんっ!私、先に行ってるからね。」
アリカが自信ありげに頷くと、ニナは彼女に先攻を任せて作戦室を後にした。
「それじゃ、私も急ぎますね、ユキノさん。」
アリカも続いて自分の機体に向かって駆け出していった。
マイ、ナツキ、アリカはそれぞれカグツチ、デュラン、マイスターに乗り込み、発進準備を行っていた。
「いいか、マイ、アリカ。ひとまずダークサイドの進撃を食い止めることを考えるぞ。ヴィントブルムと人々を守ることを最優先にするんだ。」
「分かったわ、ナツキ。」
「分かりました。」
ナツキの指示に、マイとアリカがモニター越しに頷く。3人は開かれるハッチを見据え、発進に備える。
「ナツキ・クルーガー、デュラン、GO!」
「アリカ・ユメミヤ、マイスター、行きます!」
「マイ・エルスター、カグツチ、行きます!」
そしてマイたちは、ヴィントブルムに向けて発進した。エレメンタルチャージャーを備えた3機は、大気圏を突き抜けてヴィントブルムへと急行した。
ヴィントブルムはダークサイドのMSの襲撃を受けていた。街から火の手が上がり、人々も逃げ惑っていた。
「ひどい・・・!」
アリカがその惨劇に息をのむ。
「これ以上、みんなを傷つけさせるわけにいかない・・・タクミ!」
マイは歯がゆい気持ちを噛み締めて、黒曜軍の侵攻の真っ只中に飛び込んだ。ザク、グフの武装を双刀のビームサーベルでなぎ払っていく。
デュランも銃砲で黒曜軍の進撃を阻み、マイスターもビームライフルで武装を撃ち抜いていく。
3機の活躍はダークサイドの侵攻を極力押さえ込むことに成功した。次の敵機の接近に備えてレーダーに注意を向ける。
そのレーダーに、彼女たちに向かってくる3機の反応が映し出された。その方向に振り向くマイ、ナツキ、アリカの視線の先に、ミロク、キヨヒメ、ツキヨミの姿が飛び込んでくる。
(ミコト・・・!)
(シズル、サクヤ・・・!)
マイとナツキが当惑を覚える。
一寸の迷いもないわけではない。だが、覚悟を決めて戦いを挑まなくてはならない。
「行くよ、ナツキ、アリカちゃん!」
ナツキとアリカに呼びかけて、マイがミロクに向けて先攻する。双刀のビームサーベルを振りかざすカグツチに対し、ミロクが対艦刀を力強く叩きつけてくる。
2つの刃が激しく火花を散らし、光と闇が入り混じる。その反動で弾かれつつも、カグツチとミロクが距離を取る。
その一方でデュランがキヨヒメに向けて飛び込んでいた。エネルギーの銃砲が通用しないため、ナツキは打撃と接近戦に持ち込もうとしていた。しかしキヨヒメは一定の距離を保とうとして、なかなか攻撃に移ることができない。
「ナツキ、アンタがうちの相手をしてくれること・・・うちは嬉しい・・・」
「シズル、私は親友として、全力でお前を止める。たとえお前の命を絶つことになるとしても!」
シズルとナツキの想いが引き金となり、デュランとキヨヒメが身構える。長刀とビームサーベルが激突し反発する。その反動の最中で、キヨヒメの長刀の刀身が分割し、鞭のような動きでデュランの足を捕らえる。
「放しまへん、ナツキ!」
シズルの感情の赴くままに、キヨヒメがデュランを引き寄せる。その衝動がナツキを揺るがす。
たまらず銃砲を構えてキヨヒメを狙うが、カラーコーティングの前に無力であることを理解していたため、引き金を引くことができない。
想い続けていたナツキを掌握できる。そう実感したシズルは歓喜の笑みを浮かべた。
そのとき、一条の刃がキヨヒメの長刀を叩いた。突然のことに驚いたシズルが視線を向けると、マイスターがビームサーベルで攻撃を仕掛けてきていた。
「アリカ・・・!?」
「アリカさん・・・!?」
ナツキとシズルが同時に驚愕の声をもらす。一途な戸惑いを胸に秘めて、アリカが声を振り絞る。
「ナツキさん、ナツキさんの気持ちは私にも分かります。だけどここは、シズルさんは私に任せてくれませんでしょうか・・・!?」
「アリカ・・・」
突然のアリカの申し出にナツキが困惑する。
「私も確かめたいんです。シズルさんがどういう気持ちでオーブを抜けて、ダークサイドに加わったのか・・」
「アリカ・・・分かった。シズルはお前に任せる。ただし、死ぬんじゃないぞ・・・!」
「・・はいっ!」
アリカの強い信念を目の当たりにしたナツキは、彼女にシズルを任せ、もう1人の対峙すべき相手を見据えた。キョウジの妹、サクヤ・ミルキーズの駆るツキヨミを。
「うちとナツキの邪魔をして、ただで済む思うてはりますん、アリカさん?」
シズルがアリカに向けて冷淡に告げる。その心は憤りで満たされていた。
それでもアリカの決意は揺るがず、じっとキヨヒメを見据えていた。
次回予告
全ては一途の憧れから始まった。
憧れ、夢、信念があったからこそ、今も力強く生きていられる。
アリカの気持ちは今、ナツキへの想いに駆られているシズルの前に立ちはだかる。
想いと夢がぶつかり合うとき、2人の魂が交錯する。
燃え盛る大地、突き進め、ズゴック!