GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-27「静寂の翼」

 

 

 ナツキを傷つけたカグツチを倒すべく、戦場に乱入したシズル。そんな彼女を止めるべく、アリカのマイスターが割って入ってきた。

 キヨヒメが長刀を振り下ろすと、マイスターはエクスカリバーを振りかざして受け止める。力のある2機の武器が激突し、轟音を鳴り響かせる。

「シズルさん、私はあなたを止めます・・止めてみせます!」

 決意を見せるアリカの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 マイスターがエクスカリバーを振りかざし、キヨヒメの長刀を打ち払おうと迫る。しかしキヨヒメは悠然とかわしていった。

「行き当たりばったりなとこは、やっぱりアリカさんらしいわ。せやけど、そんなんじゃうちには勝てませんえ。」

 冷淡に告げるシズル。キヨヒメが長刀でマイスターのエクスカリバーを弾き飛ばす。

「あっ!」

 アリカが思わず声を荒げる、地上に落下していく大剣を追いかけてマイスターが降下するが、そこへキヨヒメが割って入ってきた。

 

 キヨヒメの注意がマイスターに向けられたため、カグツチはひとまずジーザスの防衛に向かおうとした。だが、マイとユウの前に、スサノオーを駆るシホが立ちはだかった。

「シホ!」

「シホちゃん!」

 ユウとマイが呼びかけるが、シホは鋭い眼つきをするばかりだった。

「お兄ちゃん・・どうしてカグツチに乗ってるの・・どうしてマイさんと一緒にいるの!?」

 シホが感情をむき出しにして、カグツチに飛びかかる。対艦刀を振りかざし、カグツチに攻撃を仕掛ける。

 カグツチはビームサーベルで振り下ろされた刃を受け止める。ところがスサノオーは強引にカグツチに力押しを迫る。

「シホちゃん、やめて!ユウのことを心から想ってるなら、戦うのをやめて!」

「お兄ちゃんをシホから奪っておいて、何言ってるのよ!全部アンタが悪いじゃない!シホの全てである、お兄ちゃんを、アンタが!」

 必死に説得しようとするマイだが、シホは全く聞こうとしない。

「シホの・・シホのお兄ちゃんを返せぇぇぇ!!!」

 いきり立つシホが、強引にカグツチを突き飛ばす。落下するものの、カグツチはすぐに体勢を立て直す。

「シホ、やめてくれ!お前とマイが戦うことを、オレはちっとも嬉しくない!」

「イヤよ、聞きたくない!お兄ちゃんは、シホのものなんだから!」

 ユウの声にも耳を貸さず、シホはカグツチを倒すことしか考えていなかった。

 

 シズルと対峙するアリカは、ニナやエルスティン、クサナギのみんなのことが気がかりになっていた。援護に向かおうと考えていたが、キヨヒメの猛攻によってそれは阻まれていた。

(いけない・・このままじゃクサナギが・・・でも、シズルさんも放っておけないし・・・)

 アリカは次第に焦りを感じてきていた。ハリーとコーラルが防衛に出ているものの、シディアとそのMSたちの攻撃にクサナギは追いつめられていた。

 ニナのパールもサクヤのツキヨミとの攻防で、クサナギの守りに加勢できないでいる。

(こうなったら、私がみんなを守らなくちゃ・・・!)

 クサナギの危機を覚えて、アリカはシズルの戦いを放棄してクサナギに向かう。しかし、それを見過ごすシズルではなかった。

 ドラグーンを駆使して、マイスターの前にエネルギーシールドを展開。マイスターの行く手をさえぎった。

「シズルさん!」

 アリカが背後のシズルに視線を向ける。キヨヒメが長刀の切っ先をマイスターに向けていた。

「逃がしまへん、アリカさん。アンタの相手はうちどす・・」

 微笑を浮かべるシズルと、歯がゆさを覚えるアリカ。キヨヒメがマイスターに長刀を突き出す。

 そのとき、飛び込んできた一条のビームが長刀の刀身を叩く。狙いを外されたキヨヒメの一撃は、マイスターから大きくそれる。

「えっ!?」

「何!?」

 アリカとシズルが驚きの表情を浮かべる。誰かがキヨヒメの攻撃を阻んだのだ。

 その2機に割って入ってきた青い機体。動きを止めていたキヨヒメと向かい合う形で静止する。

「これは・・デュラン・・・!?」

「ナツキ・・・!?」

 アリカとシズルがさらなる驚愕を覚える。そこにいるのはカグツチに倒されたはずのナツキのエレメンタルガンダム、デュランだった。

「ナツキさん・・ナツキさんなんですか・・・!?」

「アリカ、お前はニナたちと合流して、クサナギとジーザスを守れ。どちらも危うい状況にある。」

 デュランからナツキの声が伝わってくる。その声にアリカは心からの喜びを感じて笑みをこぼした。

「よかった・・無事だったんですね、ナツキさん・・・」

「アリカ、今は喜んでいる場合じゃない。早く行くんだ!」

「はいっ!」

 ナツキの指示を受けて、アリカはこの場を離れてクサナギの防衛に向かった。

「逃がしまへん!」

 シズルが追おうとしたところへ、デュランが完全と立ちはだかった。

(シズル、私は私の中にある、お前への想いを信じ抜く・・だから私は、ここでお前を止めてみせる!)

 決意を秘めるナツキがアクセルをかける。シズルもとっさに反応して後退し距離を取る。

 デュランがビームライフルを放ち攻撃を仕掛けるが、ミラーコーティングが施されているキヨヒメの装甲にビームははね返される。デュランはとっさに反応し、紙一重でかわす。

(くっ!やはりビーム系の攻撃は効かないか・・なら!)

 ナツキはキーボードを右手で叩き、銃砲の準備とレーダーの補足を行う。

 このデュランは、「マテリア」と呼ばれる特殊なエネルギーを銃砲を装てんする。しかも様々な種類のマテリアを、計4門ある銃砲にそれぞれ違う種類を装てんすることが可能である。

「チャージフラッシュマテリア!チャージクロームマテリア!」

 デュランが2門の銃砲に違う種類のマテリアを装てんする。それを時間差でキヨヒメに向けて発射する。

 まずキヨヒメの前方上空に閃光弾を発射。シズルの眼をくらませると同時に、キヨヒメのレーダーにかすかなジャミングを生じさせる。

 続けざまにマテリアを固体化させた弾丸がキヨヒメに向かって飛び込んでくる。いくらミラーコーティングでも、弾丸や物理攻撃までははね返すことはできない。

 シズルはとっさに回避行動を取る。弾丸をかわすことはできたが、そこへデュランが双刀のビームサーベルを振りかざして飛び込んできた。

 デュランが振りかざした光刃は、キヨヒメの右腕を切り裂き損傷させた。斬られた右腕が火花を散らしている。

 そのコックピット内で、シズルがナツキにここまで簡単に追い込まれたことに愕然となっていた。いや、ナツキが何の迷いもなく刃を向けてきたことが信じられなかったのだ。

「シズル、これが私の答えだ。私は私の中にある大切なものを守るため、ダークサイドに堕ちたお前を止めてみせる。」

「ナツキ・・・よかった・・これでまた戦えますね・・・」

 決意を告げるナツキに、シズルは安堵の笑みをこぼしていた。

「シズル・・!」

「今回は引き下がりますわ。せやけどナツキ、アンタは必ず、うちのもんにして見せます・・・」

 シズルはナツキに告げると、負傷したキヨヒメがデュランから離れていく。

「待て、シズル・・!」

 ナツキが呼び止めようとするが、シズルは止まらずにシディアに向けて帰還していった。ナツキは追撃することができず、彼女をこのまま見送るだけだった。

 星光軍、オーブ軍の援護に向かうべく、ナツキも次の行動を開始した。

 

 ツキヨミとの攻防に全力を注いでいたニナ。しかしクサナギのことが気がかりになるあまり、焦れば焦るほど戦いは長期になっていった。

「お兄ちゃんはオーブには置かせない。私がお兄ちゃんを守るのよ・・・!」

 次第に感情を見せるサクヤに、ニナはなぜか動揺を覚えていた。サクヤがキョウジを想う気持ちと、自分が養父であるセルゲイを想う気持ちが重なったように感じていた。

 ツキヨミが放つ誘導プラズマ砲「フレスベルグ」をかわすパール。2つのビームブーメランで反撃するも、ツキヨミは巨大鎌で弾き返す。

 お互い決定打を与えられず、2機の状態は平行線のままだった。

「ニナ!」

 そのとき、ニナに向けてかけられた声とともに、1機の青い機体が飛び込んできた。

「デュラン!?・・ナツキお姉様!」

 戸惑いと喜びを感じながら、ニナがナツキに呼びかける。

「ニナ、大丈夫か!?」

「お姉様、無事だったんですね・・・!?」

「あぁ。無事かと聞かれたら無事だが、お前のザクを・・・」

「お気になさらず。今の私にはこのパールがありますから・・」

 モニター越しに互いに笑みを見せあうナツキとニナ。突如乱入してきたデュランの姿を見て、サクヤが驚愕を覚えていた。

「どうして・・どうしてあなたが・・・!?」

「サクヤ・・・」

 ナツキがツキヨミの姿に気付いて、困惑の面持ちで視線を移す。

「どうしてデュランが、デュランのパイロットがここにいるの!?」

 サクヤは眼前の光景が信じられなかった。兄、キョウジとともに海に落としたはずのナツキが、新たなデュランに乗って現れたのだった。

 

 次第に追い込まれていく戦況に、レイトは笑みを消していた。そんな彼に、シディアのオペレーターが報告を入れてきた。

「ジーザス、クサナギが盛り返し、こちらの部隊の被害が増しています!本艦もトリスタン2番使用不能!損傷を受けています!」

「そうか・・・信号弾、発射。部隊徴収後、撤退する。」

 レイトは黒曜軍の撤退を命じた。マイスター、パールの参戦、そして倒されたはずのカグツチ、デュランの乱入による部隊の混乱を察し、彼はひとまず退く決断を下したのだった。

 

“全部隊に通達。シディアに帰還。撤退する。”

 信号弾の発射の直後、シディアから全MSにオペレーターからの通達が入る。

「えっ!?撤退!?」

 その連絡にサクヤが驚きの声を上げる。しかしこの指示には従わなくてはならないと思い、またパールとデュランを同時に相手するのは不利だと判断し、彼女はこの場を引くことにした。

「サクヤ、キョウジも無事だ。今は別の場所にいて、後からこっちに向かう。」

 ナツキがデュランの通信回線を開き、サクヤに呼びかける。一瞬戸惑いを感じるも、サクヤはナツキの気持ちを受け入れられないでいた。

「お兄ちゃんは絶対に渡さない。必ず私が取り戻すから・・・」

 サクヤはそう答えると、改めてシディアに帰還していった。ナツキもニナも固唾を呑んでツキヨミを見守った。

「深追いはしないほうがいい。今はクサナギとジーザスを守ることを優先しよう。」

「はい、お姉様。」

 ナツキの指示にニナは頷き、ひとまずジーザスとクサナギの防衛に向かった。

 

 撤退命令を受けて、次々と帰還していく黒曜軍のMSたち。しかしその中でシホのスサノオーだけは、カグツチと対峙したまま引き下がろうとしない。

「シホ、もうやめるんだ!これ以上やったって、お前らに勝ち目はねぇ!」

 ユウがシホに呼びかけるが、シホは聞き入れようとしない。

「イヤよ!シホはカグツチを倒すまでは、絶対に帰らないんだから!」

 シホは対艦刀を高らかと振り上げ、さらに装備している全てのドラグーンを展開して、カグツチを全力で倒そうと構える。

「シホちゃん、ユウのことを心から好きだって思うなら、これ以上ユウの気持ちを裏切らないで・・・」

 敵意を見せるシホとスサノオーを見つめて、マイが沈痛の面持ちで囁く。しかしスサノオーは攻撃をやめようとしない。

「もしも本気でユウを傷つけようというなら・・私は・・・!」

 シホを全力に止めにかかることを決意したマイの中で何かが弾ける。五感が研ぎ澄まされ、視界がクリアになる。

 その直後、スサノオーのドラグーンが一斉射撃を始める。それをカグツチは素早い動きでかわし、スサノオーに詰め寄る。

 スサノオーが対艦刀を全力で振り下ろすが、カグツチは出力を上げたビームサーベルでその刀身をはね返し、さらに柄を持った右腕を切り裂いた。

「キャアッ!」

 右腕を爆破され後退するスサノオーの両足を、カグツチはビームサーベルでなぎ払う。その光刃は兄を想う少女の狂気を完全に踏みとどまらせた。

「シホちゃん、ゴメン・・もうこれ以外に、シホちゃんを止める方法がなかったから・・・」

 マイは沈痛の面持ちで、落下するスサノオーを見下ろしていた。

「自分を責めるな、マイ・・お前はシホのために、あえてアイツの動きを止めたんだろ・・・シホもきっと分かってくれる・・・」

「ユウ・・・ありがとう・・・」

 ユウが必死に励ましの言葉を振り絞ると、マイは作り笑顔で小さく頷いた。

 

 勢力を取り戻したライトサイド、オーブ両軍に撤退した黒曜軍。ダークサイドのMSが次々とシディアに着艦していく。

 体勢を整えながらも再戦の機会を失ったミコトだが、少しも不満を感じてはいなかった。そんな彼女の前に、レイトがゆっくりと近づいてきた。

「気に病む必要はないよ、ミコト。戦う機会はまた巡ってくる。それまで体を休めておくんだ。」

「分かっています、兄上・・・」

 不敵な笑みを浮かべて励ますレイトに、ミコトは淡々と答える。しかし彼女は心のどこかで、マイのことが気がかりになっていた。

 レイトは気にした様子を見せずに、今度はため息をついているシズルに近寄った。

「ナツキさんが現れて、少し驚いてしまったかな?」

 レイトがからかい半分で声をかけると、シズルは微笑を浮かべて視線を向けてきた。

「愚問やねぇ。むしろ大歓迎どすな。うちの手でナツキをうちのもんにできると思うと・・」

「そうですか。では次もこの調子で頑張ってもらおうかな・・・」

「おおきに。」

 感謝の言葉を返すシズルに向けて笑みをこぼすと、レイトは振り返ってこの場を後にした。

 そんな彼の前に、1人の兵士が現状報告のために現れた。

「レイト様、現在の我らの状況を報告します。シディア、トリスタン2番使用不能。キヨヒメ負傷。スサノオーはカグツチの攻撃を受けて大破。シグナルをロストしています。」

「そうか・・武装、機体の修復と調整を急がせろ。体勢が整え次第、再び攻め込むぞ。」

「最低でも修復に5時間は要します。それまでレイト様もお休みになってください。あと、シホ・ユイットの捜索はいかがいたしましょう・・?」

「捨て置け。おそらくライトサイド、オーブのいずれかの保護下に置かれているはずだ。彼女はここまで十分に我らのために戦ってくれた。感謝しようではないか・・・」

 兵士の報告と申し出に、レイトは不敵に笑って淡々と答える。そこへ別の兵士が駆け込んできた。

「レイト様、セルゲイ様がこちらに向かわれるそうです。ナギ様も了承済みですが・・?」

「分かった。着艦する際に連絡を入れるよう伝えておけ。」

「はっ!」

 レイトの命令に兵士が一礼する。次の出撃に向けて、黒曜軍は準備を急がせていた。

 

 撤退していく黒曜軍を見送って、アカネとエルスティンがアンドの息をつく。結果、ジーザスとクサナギを守ることに成功した。

 マイスター、パールの導入、そしてコーラル、カグツチ、デュランの参入が、星光軍とオーブ軍に逆転の活路を開かせたのである。しかし被害のほうも軽視できる状況でもなかった。黒曜軍によって艦の武装は損傷し、ミロクの猛攻でガクテンオーは再起不能にまで大破してしまっていた。

 いつまたダークサイドが襲撃してくるかもしれない。2軍は少しでも早く体勢を立て直すべく、整備士やクルーたちが休む間を惜しんで全力を注ごうとしていた。

 その傍らで、戦いを終えて機体が次々と地上に着陸してきた。ナツキはニナの抱擁を受け、微笑むユキノの出迎えを受けた。

 自分を支えてくれる仲間の大切さを改めて噛み締めるナツキだが、彼女の眼に、向かい合い対峙する2人の少女の姿が映った。

 その一方の少女、アリカがメットを外した。沈痛の面持ちを浮かべた彼女の素顔が現れる。

「あなたは・・・アリカちゃん・・・!?」

 マイがアリカの姿に驚きの声を上げる。思わず彼女もメットを外し、素顔を明かす。

「えっ!?マイさん・・!?」

 アリカも同じように驚きを見せる。

 マイとアリカ。2人の少女が今ここで運命の対峙を果たすのだった。

 

 

次回予告

 

運命の再会。

それは2つの心を分け隔てる交わりの瞬間。

どんな悔やんでも願っても、失った命は帰らない。

交錯する思いを共有していくマイとアリカ。

戦いとすれ違いの傷を癒すのは、清楚なる歌声。

 

次回・「蒼と炎」

 

想いの歌、届けろ、コーラル!

 

 

作品集

 

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