GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-25「受け継がれる魂」

 

 

 ダークサイドの拠点、アルタイ王国の王城。その展望地にナギは出ていた。

 彼はそこでこのダークサイドに来るある人物を待っていた。全てを見透かすような不敵な笑みを浮かべて待っていると、紫に彩られた機体が彼の前に降り立った。

「まさかあなたのような誠実な人が、ダークサイドに移ってくるとはね・・」

 淡々と呟くナギが見つめる中で、機体から1人の女性が降りてきた。オーブ党首だったシズル・ヴィオーラである。

「待っていましたよ、シズルさん。と、ゆっくりお話をしたいところだったけど、またすぐに出ることになっちゃったんだけど。」

 ナギがすまなそうにシズルに言いつける。このとき既に、レイトは黒曜軍に出撃命令を下し、その準備を行っていたのである。

 しかしシズルはその言葉が愚問のように思えて思わず笑みをこぼす。

「別にかましまへん。うちも戦いに出させてくれはるやろか?」

「えっ?いいの?シズルさんがやりにくい相手だと思うんだけどなぁ。」

 ナギが何かを企むようにシズルに言いつける。しかしシズルは顔色を変えない。

「相手はオーブだよ・・・」

 

 必死に臨戦態勢を整えようとしているオーブ旗艦、クサナギのクルーたち。その中でユキノは、ブレイズザクファントムの反応の消失に困惑を覚えていた。

 それを知らされたアリカとニナも、動揺を隠せずに落ち着かない様子を見せていた。

「そんな・・ナツキさんが乗っていたザクがやられるなんて・・・」

「バカなこと言わないで、アリカ!ナツキお姉さまが、そう簡単にやられるわけないわ!」

 アリカが口にした不安を必死に否定するニナ。うつむくアリカを見て、ニナは後ろめたい気持ちに襲われる。

「ゴ、ゴメンなさい。あなたを責めるつもりはなかったのに・・・」

「ううん。私が悪かったよ、ニナちゃん。私、どうかしちゃってた・・シズルさんがダークサイドに行ってしまったことが、とても信じられなくて・・・」

 互いに謝罪の言葉を掛け合うニナとアリカ。気持ちを落ち着けようと、2人はひとまず休憩室に立ち寄った。

「あ、アリカちゃん、ニナちゃん。」

 そこにいたエルスティンとイリーナが振り向き声をかけてきた。

「イリーナ、クサナギの状態はどうなっている?」

 ニナの問いかけに、イリーナは困った顔を見せる。

「とても悪い状態だよ。クサナギ自体はほとんど無傷なんだけど、今使える機体がほとんどない。最大戦力が、アカネさんのハリーぐらい・・・」

 クサナギの悪化する事態に、アリカたちはとても楽観視していられなかった。この状況下でもしも攻撃を受ければひとたまりもない。

「それじゃ何とかして、新しい機体を一応は入れておかないと・・」

「そのことなんだけど、これをシズルさんの部屋で見つけて・・」

 慌てる素振りを見せるアリカに、エルスティンは1枚の手紙を渡す。アリカとニナが眼を通すと思わず息をのんだ。

「私とニナちゃん、アリカちゃん当てのシズルさんの手紙だよ・・・」

 エルスティンの戸惑いを込めた言葉に、アリカとニナも困惑を覚える。その気持ちの中で、2人は手紙を黙読する。

 

“アリカさん、ニナさん、エルスティンさん、この手紙があなたたちに渡ってる頃には、うちはもうオーブにはいないと思います。オーブは平和と中立を理念としている国家。せやけど、その首長であるうちも、何が正しくて何が間違いなのか分からなくなるときがあります。多分、うちはオーブを最後まで導いていくことができないと思いやす。せやさかい、うちはうちに代われる人を探してきました。真っ直ぐに自分の気持ちを貫ける人を。それがアリカさん、ニナさん、エルスティンさんやと、うちは信じます。せやけど、その気持ちを最後まで貫こう思うたら、それに見合うだけの力が必要やさかい。その力を、あなたたちに託したいと思いやす。これからオーブはどうあってほしいんか。それはあなたたち自身で見つけていかなあかんことどす。ニナさん、エルスティンさん、そしてアリカさん、あなたたちは、あなたたちの信じるオーブを作っていってください。”

 

「シズルさん・・・シズルさん・・・」

 その手紙の内容に、アリカは思わず涙をこぼしていた。ニナも必死にこらえてはいるが、眼には涙がうかがえた。

「これからのオーブを担っていくのは、私たちが慕っていたシズルさんではない。シズルさんを慕っていた、私たち自身ということなのね・・・」

 ニナもこれからのオーブに関して考え、覚悟と決意を口にする。

「だけど、シズルさんのいう力とはいったい・・・?」

「ユキノさんもこの手紙のことは知ってるよ。今、その力のあるところに向かってるってわけ。」

 疑問を投げかけるニナにイリーナが答える。答えが未だに見えてこないでいるニナとアリカに、エルスティンも微笑みかけた。

 そのとき、クサナギ艦内に警告音が鳴り響いた。赤ランプがアリカたちのいる休憩室をも照らし出す。

「ニナちゃん、エルスちゃん!」

 アリカが涙をぬぐって呼びかけると、ニナとエルスティンも真剣な面持ちで頷く。飛び出した3人を追って、イリーナも休憩室を駆け出した。

 作戦室に駆けつけてきた4人の耳に、オペレーターの声が聞こえてきた。

「本艦に接近する機体、及び戦艦あり!戦艦の認識コード・・シディア!ダークサイドです!」

「ダークサイド!?」

 オペレーターの現状報告に驚きの声を上げるニナ。恐れていた事態が現実に起ころうとしていた。

 クサナギのモニターが眼前の機体を映し出す。巨大な戦艦と、それを取り巻くように飛行しているザクたちがいた。

 ダークサイドの主力旗艦「シディア」。ありとあらゆる強力な武装と銃砲を装備した、クサナギやジーザスに勝るとも劣らない戦力を備えている。

「んもう。もう少しでオーブ工場に辿り着けるって言うのに。」

「オーブ工場?オーブ軍の機体や武器を作ってるところだよね?」

 アリカが訊ねると、イリーナは頷いた。オーブ軍の戦力の生成の源となっているオーブ工場にクサナギは向かっていたのだが、その前にシディアが接近してきてしまっていたのだ。

「私がハリーでクサナギを食い止めるわ!クサナギはその間に急いで!」

「えっ!?アカネさん!?」

 アカネの申し出にアリカが驚きの声を上げる。

「いけません、アカネさん!ダークサイドにはあのシディアだけじゃなく、エレメンタルガンダムもいるんですよ!」

 そこへエルスティンが切羽詰った面持ちでアカネを呼び止める。

「それに、もしもシズルさんとキヨヒメがこの戦いに出てきたら・・・!」

 彼女の口にした言葉に、クサナギのクルー全員が息をのむ。シズルの技量とキヨヒメの性能は、彼女たちの誰もが分かっていたことだった。

「覚悟はできてるわ。だけど、このままやられるわけにもいかないの・・・」

「アカネさん・・・」

 決意を見せるアカネと、彼女に困惑するエルスティン。

「それじゃユキノさん、私、行きますから・・」

「ありがとう、アカネさん・・絶対に帰ってきてくださいね・・・」

 作戦室を出て行くアカネを、ユキノは一途な気持ちを胸に秘めながら見送った。これ以上、ハルカのように死んでほしくはないことが今の彼女の切実な気持ちだった。

「あの、ユキノさん、移動用の小型艇を貸してもらえませんか?」

 突然のニナの呼びかけにユキノが呆然となる。

「クサナギがオーブ工場に向かうのが、シズルさんの言った力を手にするためなのでしょう?なら、その力を手にする人だけを向かわせれば、ダークサイドに極力こちらの動向を悟られずに済むと思います。」

「ニナさん・・・」

 ニナの挙げた案にユキノは考えあぐねた。この大きな戦艦でわざわざ向かわなければならない必要はない。

 しばらく思考を巡らせた後、ユキノはアリカ、ニナ、エルスティンの顔を見つめた。3人は決意を秘めて揺るがなかった。

「分かりました・・アリカ・ユメミヤ、ニナ・ウォン、エルスティン・ホー、あなたたちはすぐにオーブ工場に行ってください。クサナギも、あなたたちを援護します。」

「ユキノさん・・・」

 ユキノの指示を受けて、アリカたちが笑みをこぼす。シズルやハルカでも、このようにアリカたちを導くだろう。それがユキノの見解だった。

「了解しました。すぐに向かいます。」

 ニナの応答とともに、アリカたち3人が敬礼する。そして間髪置かずに作戦室を飛び出し、イリーナも彼女たちに続いた。

「カズヤさん、小型艇1機の発進準備をしてください。アリカさんたちが向かいます。」

“了解です。”

 ユキノは整備ドックに連絡を取り、カズヤがそれに答える。

 オーブのために最善を尽くす。オーブの未来を占うであろう少女たちの援護に全力を注ぐ。それがユキノを初めとしたオーブ軍の信念だった。

 

 黒曜軍旗艦「シディア」。クサナギを落とすべく出撃したシディアの作戦室では、レイトがMSパイロットたちの前に立つ。

「いよいよだ。我々ダークサイドが、この乱れきった世界に取って代わる。特に中立などと戯言を振りかざしているオーブは目障りな存在となった。」

 レイトの言葉に黒曜兵たちが固唾を呑む。彼の横にはミコト、シホ、そしてナツキを撃ち落したサクヤと、オーブを離反してきたシズルの姿があった。

「これより、我々はオーブ軍、及びクサナギの迎撃に向かう。総員、攻撃態勢に入れ。」

「はっ!」

 レイトの命令に黒曜兵たちが敬礼を送る。それを見て笑みを浮かべたレイトが、困惑気味の様子のミコトに眼を向ける。

「ミコト、私はお前を信じている。ミロクとお前の手で、この世界を作り変える。やれるね?」

「はい、兄上。」

 レイトの言葉にミコトは淡々と答える。そして彼女は無言でドックに向かう。

 もはや彼女は無邪気なミコトではなかった。黒曜の君に従うだけの妹、ミコト・バレルとなっていた。

 

「アカネ・ソワール、ハリー、出ます!」

 準備を整えたアカネがクサナギから発進する。それを見送ったカズヤが、駆けつけてきたアリカたち気付いて振り返る。

「ユキノさんから連絡は受けている。小型艇の発進準備は万端だよ。」

「ありがとうございます、カズヤさん。」

 微笑みかけるカズヤに一礼するアリカたち。

「さぁ。早く乗って。このクサナギも、もうすぐ君たちのバックアップのために戦闘配備になるから。」

「感謝します、カズヤさん。」

 再び感謝の言葉をかけたニナ。3人はカズヤの用意した小型艇に乗り込み、イリーナがハッチを開放する。

「準備完了。いつでも出られるよ。」

“分かった・・行くわよ!”

 イリーナに向けて答え、ニナは小型艇を発進させた。それを確認したユキノは、シディアを見据えた。

「こちらも敵戦艦の迎撃に向かいます!戦闘配備を!」

 ユキノの指示に全員が同意する。彼女たちの気持ちは、オーブを守り抜くこと。ただそれだけだった。

 クサナギ、そしてアカネの駆るハリーの前に、シディアから続々と出撃してくるMSたちが立ちはだかった。

 

 クサナギ同様、迎撃態勢を整えていたジーザス。彼らもすぐに体勢を整えようと必死になっていた。

 そんなジーザスのレーダーが、オーブとダークサイドの衝突を捉えた。

「艦長、オーブが・・!」

 アオイの声にミドリは緊迫を覚える。ジーザスとて自分たちを防衛することだけで手一杯の状態だった。

 しかしそれはクサナギとて同じである。同じ状況下にある同士をこのまま放っておくこともできない。ミドリは覚悟を秘めながら決意する。

「苦しいのは分かってる。だけど、ここでオーブがやられたら、もっと苦しい状況になるわ。」

 ミドリが念を押し、クルーたちが無言で頷く。

「第一級戦闘配備!本艦はクサナギの防衛のため、黒曜軍への攻撃を開始します!なお、敵軍の分散とエレメンタルガンダムの相手は・・私がするわ。」

「か、艦長!?」

 ミドリのこの指示にクルーたちが動揺を見せる。しかしミドリは顔色を変えない。

「今、ジーザスの最大戦力は私のガクテンオーよ。私もいい加減に意地を見せとかないとね。艦長を任された人の意地をね。」

 真面目を取り繕うとしながらも、最後で照れ笑いを浮かべてしまうミドリ。それがクルーたちの緊張をほぐす結果をもたらしていた。

 ミドリは半ば安心したような心境になりつつ、真剣な面持ちに戻って前を見据えた。

「ジーザス、発進!ガクテンオーの発進準備も始めて!」

 

 クサナギの援護を受けながら、アリカ、ニナ、エルスティンはオーブ工場に到着した。その第7工場の前で、彼女たちは工場長の歓迎を受けた。

「お待ちしていました、クサナギのパイロットの皆様。連絡は受けています。さぁ、こちらへ。」

 工場長の案内を受けて、アリカたちは工場内に入っていく。工場でよく見かけるような整備ドックを抜けると、あまり人の立ち寄らないような雰囲気を放っている廊下を進んでいた。

 そしてその先にある扉の前で彼らは足を止めた。工場長がアリカたちに振り向いた。

「ここが例の機体のある部屋です。最後にここをあけたのが、機体の最終チェックを終えた5年前になります。」

「5年前!?そんなに置いといたら錆び付いてるんじゃないんですか!?」

 工場長の言葉にアリカが驚きの声を上げる。すると工場長は苦笑いを浮かべながら、

「大丈夫ですよ。ここにあるのはエレメンタルガンダムの性能や装甲など、あらゆる点を取り入れた機体なのです。錆び付くことはありませんよ。」

「そ、そうですか。それはよかった・・・」

 アリカは安心して胸を撫で下ろす。彼女の反応にニナは呆れ、エルスティンは苦笑を浮かべていた。

「それではカードキーをこちらへ。」

「はい。」

 工場長の指示を受けて、エルスティンは1枚のカードキーを提示した。そしてそれを扉の横のソリッドに差し込んだ。

 シズルからの手紙とともに発見されたもので、この扉を開く鍵だということも知らされていた。シズルはオーブの危機に備えてこの鍵を所持し、そしてアリカたちに託したのだった。

 閉ざされていた扉が開かれ、暗黒に包まれていた扉の先に光が差し込む。その先には、部屋の中に収容されている3体の機体が立ち並んでいた。

「こ、これは・・・!」

「エ、エレメンタルガンダム・・・!?」

 その機体の姿にニナとアリカが驚きを隠せなくなる。

「これは正式にはエレメンタルガンダムではありませんが、エレメンタルガンダムといっても過言ではない性能を秘めています。」

 彼女たちに向けて工場長が微笑んで説明を始める。

「その最高峰とされるのが、中央の機体、マイスター。アリカさん、あなたが使用していたコーラルの3種のコーラルフォーマーの性能を1つにまとめ、さらにそれ以上の能力に仕上がっています。」

「マイスター・・・」

 アリカがマイスターを見上げて呆然となる。

「そして右の機体、パール。ライフル、サーベル、手足のビームブレイドなど、多彩の武装と戦法を備えています。このパールにはエレメンタルガンダムの本来の動力源である核エネルギー“ニュートロンジャマー”が、そしてマイスターにはそれを凌駕するとされている“エレメンタルチャージャー”が搭載されています。」

「えっ!?それじゃ、エレメンタルガンダムとほとんど変わりないじゃないですか!マイスターなんか、エレメンタルガンダムを超えちゃってますよ!」

 再びアリカが驚きの声を上げる。それを気にしながらも、工場長はさらに続ける。

「そして残る1体は、アリカさん、あなたのご存知の通りのコーラルです。マイスター、パールのサポートとなるよう、ここに1機収納させておいたのです。」

「マイスター、パール、そしてもう1機のコーラルかぁ・・何だかすごくてドキドキしちゃうよぅ。」

 アリカは今度は落ち着かなくなってそわそわし始める。

「よしっ!私はコーラルでオーブを守るんだから!」

「いいえ。アリカさん、あなたが搭乗するのはこのマイスターです。」

「えっ?私が?」

 意気込んでいたところに工場長に言われ、アリカはきょとんとする。

「シズル様はあなた方3人をこの3機のパイロットに推薦した際、最も見合うパイロットと機体の組み合わせを選んでくださいました。必ずやこれらの機体をうまく使いこなせるはずです。」

 アリカ、ニナ、エルスティンがそれぞれマイスター、パール、コーラルを見つめる。決意を秘めるアリカとニナだが、エルスティンは不安の面持ちを見せていた。

「どうしたの、エルスちゃん?」

「私、コーラルをうまく動かせるのかな・・・アリカちゃんは思うように動かせてたけど・・・」

 アリカが心配になって聞くと、エルスティンはその心境を話した。彼女は訓練時のシュミレーションで、エレメンタルガンダムを動かせるレベルではないという判定を受けたのだった。

「大丈夫だよ、エルスちゃん。エルスちゃんは私よりずっとMSを動かすのがうまいし、絶対にうまくコーラルを動かせるって。」

「そ、そうかな・・・」

「私も大丈夫だと思う。エルスはこれまで誰よりも努力してきたから、コーラルの力を十二分に引き出せるはずよ。」

 アリカに続いてエルスに励ましの言葉をかけるニナ。2人に励まされて、エルスティンは次第に自信を取り戻していく。

「ありがとう、アリカちゃん、ニナちゃん・・私、頑張ってみるよ。」

 決意を確かめ合って、アリカたちは各々の機体に乗り込んだ。

 システムチェックを行うアリカは、マイスターのシステムの壮大さに驚きを感じていた。

(これがマイスター・・エレメンタルチャージャーを取り入れた機体・・・)

 その性能と力を感じながら、アリカは心地よい高揚感を覚えていた。しかしすぐに気持ちを切り替え、開くハッチの先の空を見据える。

「アリカ・ユメミヤ、マイスター、行きます!」

 アリカがアクセルをかけると、マイスターは高らかと飛翔した。

「ニナ・ウォン、パール、発進する!」

「エルスティン・ホー、コーラル、発進します!」

 二ナのパール、エルスティンのコーラルが後に続く。

 3機のモニターに、クサナギとそれを防衛しているハリーの姿が映し出される。オーブ軍は防戦を余儀なくされていた。

「行くよ、ニナちゃん、エルスちゃん!」

「えぇ!」

「うんっ!」

 アリカが先行し、ニナとエルスティンも黒曜軍への迎撃を開始する。

 パールがビームライフル、ビームサーベル、ビームブレイドを駆使して、ダークサイドのMSの攻撃の術を断ち切る。

 ウィングフォーマーを装備したコーラルも、機敏な動きとビームライフルを使って敵機の動きを止める。

 そしていち早くクサナギの前に到着したマイスターは、数多いダークサイドのMSに悪戦苦闘しているハリーに助力を注ぐ。

「大丈夫ですか、アカネさん!?」

「アリカちゃん!?・・それが、シズルさんの言ってた力なんだね?」

 アカネの返答に、アリカはモニター越しに頷く。そして黒曜軍を見据えて、再び攻撃態勢に入る。

 マイスターが大型ビームブレード「エクスカリバー」を高らかと振り上げる。同時にビームを帯びた翼がまばゆいばかりの輝きを放ちながら広がる。その姿は神か天使と見間違えるほどだった。

 ハリーを攻撃していたMSたちが標的をマイスターに変える。ビームや銃砲で攻撃を仕掛けるも、マイスターのエクスカリバーがそれらを打ち払ってしまう。

「な、何なんだ、あの機体は!?」

「ビームや弾丸を剣で弾き返しただと!?」

 マイスターの脅威を目の当たりにした黒曜兵が驚愕をあらわにする。その間にもマイスターはエクスカリバーを振りかざして、ダークサイドのMSの武装をなぎ払っていく。そして高エネルギービーム砲「レイ」を発射し、相手の陣形を崩していく。

 アリカはそこで攻撃の手を休め、相手の出方をうかがう。その間にクサナギも体勢を整えようとしていた。

 

 その頃、シホとサクヤ、ミコトがそれぞれの機体を前にしていた。そこでサクヤがシホに声をかけてきた。

「お兄ちゃんのことが心配なのかな、シホちゃん?」

「えっ・・・?」

 突然のサクヤの問いかけに、シホは顔を赤らめて呆然となってしまう。それを見てサクヤは笑みをこぼす。

「シホちゃんのお兄ちゃんはジーザスにいるんでしょ?オーブを攻撃してれば、きっとジーザスもやってくると思うから。そのときには、じっくりとお兄ちゃんと話し合ってみるといいよ。」

「そ、そうですね、サクヤさん・・・」

 サクヤに励まされるも、作り笑顔で答えるしかなかったシホ、シホは未だに兄であるユウへの気持ちの整理がついていなかった。

 しかしその問題は遅かれ早かれ答えを出さなくてはいけなくなる。そのときには答えが出ているはず。今は自分の戦いをすべき。シホはそう心に決める。

「ミコトちゃんも、大好きなお兄ちゃんのために頑張ろう。」

「あ・・あぁ、そうだな・・・」

 サクヤの呼びかけに、ミコトも空元気を見せるばかりだった。サクヤ自身も兄、キョウジの安否が気がかりでたまらなかったのだ。

 それでも今は戦わなくてはならない。自分が選んだ道。自分がそうすると決めたのだから。

「サクヤ・ミルキーズ、ツキヨミ、発進します!」

「シホ・ユイット、スサノオー、行くよ!」

 サクヤのツキヨミ、シホのスサノオー、そしてミコトの駆るミロクがシディアの発射口から出撃していった。

 

 

次回予告

 

自分が本当に望む世界のために。

誰もが歩み進んでいる夢のために。

少女たちはそれぞれの思いと決意を秘めて戦いに臨む。

そして、母の想いと意思を受け継いだ少女も、大切なもののために立ち上がる。

 

次回・「ナツキ」

 

広がる暗黒、切り裂け、パール!

 

 

作品集

 

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