GUNDAM WAR -Encounter of Fate-

PHASE-13「古代の遺産」

 

 

 左手で握手を交わすマイとアリカ。手を離し、再び互いの顔を見つめる。

「こちらこそよろしく。って言いたいところだけど、また会えるって保障はどこにもないし・・」

「ウフフ、会う機会がないなら、あたしたちで作っちゃえばいいのよ。」

「あ、それもそうですね。」

 再び笑顔を見せあう2人。

「マイー!」

 そこへミコトが満面の笑みを浮かべてマイに飛び込んできた。マイは反射的にこの突進を回避し、ミコトは廊下の壁に激突した。

「あたたたた!・・マイ、ひどいぞ、よけるなんて〜・・・」

「何言ってるのよ、ミコト!今までどこにいたのよ!」

 叱り付けるマイに、ミコトは顔に手を当てて押し黙ってしまう。2人の様子を目の当たりにしていたアリカが笑みをこぼす。

「ホント、私ビックリしちゃったよ、アハハ。それじゃ私はこれで。」

「あ、うん。じゃあね、アリカちゃん。」

 病院から去っていくアリカに、マイが手を振って見送った。

「さて、いい加減に戻らないとね、ミコト。」

「うんっ!」

 微笑むマイに頷くミコト。2人はタクミとユウのいる病室に戻っていった。

 

 エクリプスワンの作戦室。モニターに映し出されたカグツチの戦闘の映像を見ながら、アリッサとミユはカグツチを倒す秘策を練っていた。

「カグツチの戦闘能力は、エレメンタルガンダムの中でも指折りのものです。その点もさることながら、その脅威を開花させたパイロットの技量もまた脅威です。」

「それでミユ、アルテミスとの戦闘シュミレーションも計算して、カグツチとの戦闘の勝率は?」

「はい。アルテミスのエネルギーがフルレベルに達しているとしても、カグツチとの戦闘の勝率は、58.72%です。」

「それはいけませんね。その数値を、極力100%に引き上げなくては・・」

 アリッサの言葉を受けて、ミユが脳内のコンピューターを稼働して、カグツチ戦の打開策を練り直す。そしてコンピューターが1本の活路を見出した。

「カグツチのパイロット、マイ・エルスターの弟、タクミ・エルスターをこちらに引き込めれば、彼女は迂闊に攻撃することができなくなります。」

 その案を聞いてアリッサは考えあぐねた。いくら勝機を見出すものとはいえ、それは彼女自身の信念に反する卑劣な行為と感じていた。

「お気持ちは分かりますが、我々が負ければ、世界から確実に平和が消えることになります・・」

「・・そうですね、ミユ。私たちには、やらなければならない使命があるのです・・ここで負けるわけにはいきません・・・」

 世界を平和へと導く黄金の時代を迎えるためには、背に腹を代えている場合ではない。アリッサは困惑の面持ちで、その勝機にすがることにした。

 

 ヴィントブルム城に入り、マシロに真意を問いつめていたミドリ。彼女の深刻な面持ちを見せられても、マシロは全く顔色を変えていなかった。

「このことは城内のごく限られた人に内密にされていたことだったのですが・・全てを隠し通せるものではなかったようですね・・」

「そんなこと聞いてない!私が聞きたいのは、あなたが何者で、どんな形でこの世に生きてるかってこと!」

 独り言のように答えるマシロに、ミドリが声を荒げる。

「ホントのことを知ったからって、それを周りに言いふらすような悪知恵は持ち合わせていないわ。私の正義にも反することだしね。ただ、研究者の端くれとして、真実が知りたいだけ。」

 ついにミドリは上着の内ポケットから銃を取り出した。あくまで威嚇のつもりで出したものだったが、マシロはそれでも動じない。

「今はあなた方に、これ以上の真実を明かすことはできません。私には、世界全体の行く末を左右しかねないものが秘められているのですから・・・」

 その言葉にミドリは固唾を呑む。マシロ・ブラン・ド・ヴィントブルム。ライトサイドの水晶の姫である彼女には、世界の運命を左右する何かが秘められている。

 これ以上追求しても何も答えないし、何も分からない。ミドリはマシロに向けていた銃を下ろし、ひとつ吐息をついた。

「今回はここでやめておくわ。だけど、いつか必ず真実をしゃべってもらうわよ。私やあなた、この世界の全ての人たちのためにも・・・!」

 そう言い放ってミドリはきびすを返し、部屋を出て行った。

「よろしいのですか、マシロ様?ミドリさんも世界のために戦い、追い求めているのですよ・・」

 フミが沈痛の面持ちで訊ねると、マシロは微笑を浮かべて首を横に振る。

「今は事を荒立ててはなりません。私にはまだ、やらなければならないことがあるのです・・」

 決意と使命感にあふれた真剣なマシロの面持ちを見て、フミも微笑んで頷いた。

(長きに渡る光と闇の戦いに終止符を打つため、私のこの運命の連鎖を断ち切るために・・・)

 

 ようやくミコトを見つけ、タクミとユウの待つ病室に戻ってきたマイ。

「よう。ずい分と探し回ったみたいだなぁ。」

「まぁね。ゴメンね、タクミ、ユウ。」

 ぶっきらぼうに声をかけてきたユウに、マイが苦笑いを浮かべて答える。

「ところでマイ、さっきここに先生が来てな、お前に話しがあるってさ。」

「えっ?あたしに?」

「あぁ。すぐそこの診察室で待ってるみたいだから、早く行ったほうがいいぜ。」

 ユウの言葉にマイは頷き、病室を出ようとしてふと足を止める。

「あ、ユウ、ミコトをお願いね。出て行かないようにちゃんと見張ってて。」

「あぁ。任せといてくれ。」

 ユウが気さくに頷くのを見てから、マイは改めて病室を出た。彼の横でミコトが腑に落ちない面持ちを見せていた。

 

 診察室に入るなりひと言謝り、マイは椅子に腰を下ろした。すると医者は微笑んで話を持ちかける。

「マイ・エルスターさん、ようやくタクミくんのドナーの順番が回ってきましたよ。」

「えっ!?ホントですか!?」

 医者の言葉にマイが満面の喜びを浮かべる。

「ただ今請け負っている患者の具合にもよりますが、来週にこちらに来られるかと思いますので。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

 マイは歓喜を覚えながら、医者に感謝の一礼をした。

 

 つかの間の休息を利用し、心身を休めているクサナギのクルーたち。その中で、ニナは休憩室で1人、物思いにふけっていた。

 身寄りのなかった彼女には、拾って育ててくれた養父がいた。しかし現在どこで何をしているのか、周囲の人間も彼女自身も知らない。

 その養父に思いを馳せている彼女のいる休憩室に、イリーナが入り声をかけてきた。

「ニナ、さっきあなた宛に通信が入ってきたよ。」

「通信?誰から?」

「えっと、確か・・そう、おとうさんから。」

 イリーナのこの言葉に、ニナが眼を見開いて、腰かけていた椅子から立ち上がる。

「お養父様から・・私に・・・!?」

 戸惑いに心を揺らがせながら、ニナはこの休憩室から駆け出していった。

「4時にレンジャータウンの中央広場だってー!」

 イリーナが半ば慌て気味にニナに呼びかける。伝わったかどうか微妙な彼女だったが、ニナにはきちんと伝わっていた。

 

 シズルの許可を得て、ニナはクサナギの停泊している地点の近くにある街、レンジャータウンに来た。賑わいを見せているこの街の中央広場に辿り着き、その時計の下でしばらく待つことにした。

 そして約束の時間、4時の5分前になろうとしていた頃、彼女の前に少し逆立った茶髪の青年が現れた。

「お、お養父様・・・!」

「この様子だと、少し待たせてしまったようだな。すまないな、ニナ。」

 歓喜を覚え始めるニナに、苦笑をもらす青年、セルゲイ。彼こそが彼女を迎え入れた養父である。彼女がオーブ軍に志願する1年前から、2人は会っていない。

「お養父様、今までどこにいたのですか!?・・ウォン家にも戻らずに・・・」

 ニナが悲痛の面持ちで問いつめると、セルゲイは後ろめたい面持ちを見せる。

「オレは今までダークサイド、アルタイ王国にいた。殿下の側近としてな・・・」

 セルゲイの言葉にニナは固唾を呑んで言葉を返せなくなる。

 ウォン本家はオーブの領土内にある世界でも有数の王の血族であるが、分家は他国にいくつか点在している。セルゲイはその一部に身を置き、アルタイの大使館として尽くしていたのだ。

 あまりに突然な真実に、ニナはひどく動揺していた。

 

「タクミ、聞いて!あなたの手術の先生がやっと来てくれることになったのよー!」

 病室に戻ってくるなり、マイは唐突に満面に笑顔を振りまいて喜びをあらわにする。彼女の様子にタクミは笑みをこぼすが、ユウとミコトが唖然となる。

「その先生、世界でも有数の名医で、同じ病気を治してきた凄腕の人だって!よかったね、タクミ!」

 大喜びを見せるマイに、タクミの笑顔はかげりがこもっていた。

「ありがとう、お姉ちゃん。僕、すごく感謝してるよ。でも、この手術が終わったら、僕1人でリハビリをこなしていくよ。」

「えっ?・・タクミ・・・?」

 タクミの言葉の意味が分からず、微笑んだまま当惑するマイ。

「お姉ちゃん、病気の僕のために一生懸命に仕事して頑張って、僕の世話までしてくれて・・そのことは本当に感謝している・・だけどそろそろ、自分の力で歩きたいと思っている。ううん、お姉ちゃんのためにも、僕だけで歩いていかなくちゃいけないんだ・・」

「タクミ、でも・・・!」

 マイが困惑気味に呼びかけるが、タクミは首を横に振る。

「お姉ちゃん、お姉ちゃんは自分の道を進んで。お姉ちゃんが本当にしたこと、やりたいことをやって。僕のために犠牲にならないで・・」

 タクミのこの言葉に頭の中が真っ白になり、返す言葉を見失ってしまった。2人の様子をユウは固唾を呑んで見守り、ミコトはきょとんとした面持ちを浮かべていた。

 

 少し考える時間がほしいとタクミに言われ、マイたちはとりあえず病院を後にする。マイとユウの心は重く沈んでいた。

 タクミがマイに見せた自立の意思。喜ばしいことと感じられるが、弟思いのマイにはとても複雑な心境に陥らされていた。

 タクミが巣立っていくことが、自分から彼が離れてどこか遠くに行ってしまうように思えてならなかった。

「マイ、元気出せよ。喜ばしいことじゃねぇか。タクミの病気が治るんだからさ。」

 ユウが何とか元気付けようとするが、マイは困惑したままだった。そんな彼らの前に、ナツキが姿を現した。

「ナツキ・・・」

 マイがナツキに戸惑いのこもった声をかける。

「すまないとは思ったが・・お前たちのこと、聞かせてもらった・・・」

 沈痛の面持ちを見せるナツキに、マイはさらなる困惑を覚える。

「お前もその、あの・・いろいろと抱えていたんだな・・それなのに、お前を・・・」

 ナツキが何とか弁解しようとするが、その言葉に不器用さに混じっていた。

「いいよ・・悪気があって聞いたわけじゃないんでしょ?」

 マイの言葉にナツキは小さく頷いた。そして彼女とユウ、ミコトに微笑を向ける。

「少しいいか・・?」

 ナツキが振り返りながらマイたちに促す。マイたちは何も言わずに彼女についていく。

 そして彼女たちは湾岸沿いの遊歩道の真ん中で立ち止まり、ナツキがマイたちに視線を向ける。

「そういえばお前たち、両親がいないんだったな・・・?」

 ナツキの唐突な問いかけに、マイ、ユウは思いつめた面持ちを見せる。彼らは戦争や病状、様々な事情で両親を亡くしている。

「私にももう両親はいない・・・父親は私が幼いときに出て行き、女手1人で育ててくれた母も・・・」

 ナツキはいいかけて押し黙る。彼女は脳裏に自分の母親の姿を思い返していた。

 古代科学、エレメンタルテクノロジーの研究者である母は、ある日ある集団に追われ、彼女を海に落とすことで難から逃がそうとしてくれた。それ以後母がどうなったのか知らない。おそらく殺されている可能性が強かった。

「何者かは確証はないが、ダークサイドの仕業である可能性が強い。だから私は、ダークサイドを追いつめる。母を殺したヤツらへの復讐もあるが、この世界を平和にしたい気持ちも持ってる・・・」

 復讐色の悲しみを瞳に宿していたナツキだが、マイたちを見つめて安堵の微笑みを見せる。

「マイやユウ、ライトサイドのみんながいてくれたからかもしれない・・・私は、いいところに入ったみたいだ・・」

「ナツキ・・・」

 ナツキの言葉と笑みに励まされ、マイも笑顔を取り戻していた。

 誰もが重い何かを抱えている。それが表面化するのが光なのか闇なのか。同じ境遇にあっても心境が逆になりかねない。

 だが、マイとナツキは分かり合えたのかもしれない。ユウは2人を見てそう感じた。

 いつの日か、シホと再び分かり合えるときがやってくる。彼は兄妹の信頼を改めて信じることにした。

「ありゃ?お、おい、ミコトの姿が見えねぇぞ。」

「えっ?またあの子ったら、勝手に動き回って迷子になるんだから!これじゃ少しも眼を離せないわ!」

 姿を消したミコトに対し、憮然とした態度を見せてため息をつくマイ。

「あっ・・!」

「な?こ、今度は何だよ?」

 突然驚きの声を上げたマイに、ユウも驚きを見せる。

「病室にサイフ置いてきちゃったー。あー、ドジ踏んじゃったよー・・」

「マイ、お前は病院に戻れ。私とユウでミコトを探すから。」

 頭を抱えるマイに、ナツキが指示を出す。

「それじゃ、とりあえずここを集合場所にしよう。」

 ユウの指示にマイとナツキが頷く。3人はこの場所からそれぞれ別れていった。

 

 アルタイ王国王城の地下。その奥には鍵を持った王族でしか開けることができない扉があった。

 その先には、ダークサイドとアルタイ王国が厳重に封印してきたものがある。レイトとナギはその扉の前に来ていた。

「しばらく開けてないね。100年前の大戦以来だって聞かされてる。錆び付いてなきゃいいけど。」

「エレメンタルガンダムの基本素材は特殊合金だ。その心配は無用だ。問題は、この機体を操ることのできる人材が、現時点で確定していないことだ。」

 ナギの心配にレイトが淡々と答える。レイトは鋭い視線で、ナギに鍵を使って扉を開けるように促す。

「相変わらず人使い荒いなぁ。」

 ナギはため息をついて見せるが、それでも素直に扉を開けることを考える。普段から首から提げているペンダントを外し、扉のへこみに入れる。このペンダントが、封印の扉の鍵なのである。

 ペンダントに収められている認証データを読み取ると、重い扉は音を立ててゆっくりと開かれる。外の明かりを受けて、中の闇が徐々に消えていく。

 その部屋の中には数台の古びた機械と、巨大な姿の機体があった。その姿を見上げて、レイトが不敵な笑みを浮かべる。

「待っていたぞ・・いよいよお前の力を見せるときがきたぞ・・・」

 レイトは機体の前に歩み寄り、エレベーターを使ってコックピットに入り込む。キーボードやシステム、機体の全ての点において健在に起動していた。

「調子はどう?ちゃんと動かせそう?」

 ナギが下から呼びかけてくると、レイトは愚問とばかりに再び不敵に笑う。

「動かしてみせよう。そして証明してやろう。私に扱えない機体はないということを。」

 強気な言葉を呟きながら、レイトは機体のシステムを起動させる。全てのロックを解除し、機体が動き出す。

 同時に部屋の天井が開き、機体を外へと導く。外の明かりがさらに入り込み、機体の正体を明細にしていく。

「ナギ、私はヴィントブルムに赴く。だが全部隊には待機を命じておけ。」

「えっ?あなた1人でライトサイドに乗り込む気?」

 レイトの言葉にナギがきょとんとなる。ナギなりに驚いているようだ。

「戦いに行くわけではない。コイツの試運転を兼ねて、水晶の姫と直に話をしてくるだけだ。」

 レイトがそういうと、ナギは納得して一礼し、部屋から離れていく。そしてレイトは虚空を見上げ、三度笑みを浮かべる。

(さぁ、終止符を打とうではないか、マシロ。長きに渡る光と闇の戦いに。)

「レイト・バレル、ミロク、発進する!」

 レイトがアクセルをかけると、機体は空に向けて飛翔する。灰色に彩られたエレメンタルガンダム、ミロクがその姿を虚空にさらしたのだった。

 

 日が落ち始めてきた時刻。マイたちと入れ違う形で、アキラが病院を訪れていた。

 病気のタクミを勇気付けるべく、アキラは見舞いを続けていた。この日も外出の許可をミドリから得て、見舞いに来ていたのだ。

 いつもの通りに受付に挨拶をして、いつものように病室を訪れる。そしていつも空元気を見せてくるはずだった。

 しかし病室の中は、いつもとは違った光景が広がっていた。

 病室の中は荒れていて、ベットも散らかっている。窓ガラスも割れて破片が中に入ってきている。吹き荒む風でアキラが視線を移すと、窓の前に人影があった。

 水色の髪の無表情の少女と、金髪の幼い少女。水色の髪の少女は、この病室で療養している少年を抱えていた。

「タクミ!」

 アキラが驚愕を覚えながら、常備しているナイフを取り出して身構える。しかし少女たち、ミユとアリッサは顔色を変えない。

「星光軍MSパイロット、アキラ・オクザキですね。マイ・エルスターの弟、タクミ・エルスターを預からせてもらいます。」

「何!?」

 ミユが淡々と声をかけると、アキラが声を荒げる。

「どういうつもりだ!?お前ら、いったい何者だ!?」

 アキラが問いつめると、アリッサは微笑んで答える。

「私はシアーズ王女、アリッサ・シアーズです。ライトサイド攻略のため、この子をこちら側に引き込ませてもらいます。」

 本格的に侵攻を進めてきたシアーズ。その矛先がタクミに向けられていたのだった。

 

 

次回予告

 

タクミをシアーズにさらわれたマイ。

姉弟のすれ違いの直後の決別に、彼女の心は揺れる。

その傍らで対峙する黒曜の君と水晶の姫。

光と闇の交錯が、さらなる拍車をかける。

 

次回・「遥かなる時の中で」

 

疾風となって駆け抜けろ、アストレイ!

 

 

作品集

 

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